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#機関誌「ASSEMBLY」#2022年度

[ASSEMBLY | ひとり・ふつう・知らない]

ASSEMBLY ‘21–22を振り返る——3つの主題はなにを生むか?

構成:春口滉平
2023.4.2 UP

『ASSEMBLY』は、ロームシアター京都のオウンドメディア『Spin-Off』内に設けている、新しい「劇場文化」をつくるための機関誌(WEBマガジン)です。劇場内外の多角的な視点を提供し、継続した議論を実現するために、2年間継続して3つの主題をかかげ、主題に基づく記事を公開します。

2021−22年度の『ASSEMBLY』は、「ひとり」「ふつう」「知らない」の3つを主題とし、劇場や舞台芸術作品に直接的な関わりのある課題だけでない、さまざまな観点をお届けすることで、あたらしい表現と創造への寄与を目指します。

 

ASSEMBLYは、2021年のWEB版への移行にともない、3つの主題「ひとり」「ふつう」「知らない」を設定し、少なくなくとも2年間、継続して議論することを目指してきた。

2年間の発信を終え、次のステップに進むため、ASSEMBLYはなにを考え、発信するべきか。編集部[春口滉平、中塚大貴、小倉由佳子・松本花音(ロームシアター京都)] による編集会議を公開する。

 

 

ウェブメディアの利点と課題


春口
|まずは、この2年間のASSEMBLYの取り組みについて振り返りたいと思います。ロームシアター京都の機関誌であるASSEMBLYは、もともと印刷して配布していた紙のメディアでしたが、2021年からウェブに移行しました。おそらく、読者も、読者の感想も変わったんじゃないかと想像できますが、発信に対する反応に変化は感じていますか?

松本|ウェブへの移行前は、ロームシアター京都の関係者や、おつきあいのあるアーティストや批評家、文化施設等に冊子を直接お届けしていたのですが、直接お話するタイミングがあれば感想を伝えていただくケースはあるものの、反応を知る機会はあまりありませんでした。ウェブに移行して、記事をSNSで拡散すると、そこにリプライなどでコメントを書いてくださる方がいて、反応が見えるようになった気がします。

中塚|記事ごとに配信している分、その単体の記事に対する反応がよく見えるようになりましたね。

松本|もちろん良し悪しがありますが、記事単位で流通することで、ロームシアター京都に興味のない人にも届いているように思いますね。これまで舞台芸術にひっかかりがなかった人とASSEMBLYが出会っているのは確かで、それは紙のメディアでは限界のあることだったのかなと。

春口|インタビューした方や執筆者ご本人が自身で発信されていたりすると、より読まれている感覚がありますね。あと、たとえば生田さんの記事は、時間が経っても反応してくれる人がいたりして、そういういろんな読まれ方をするのはウェブのいいところなのかなと思ったりします。

小倉|一方で、紙メディアのときは毎号ひとつの特集を組んでいて、複数の記事をまとめて読むことで伝わる部分もあったと思いますが、ウェブ移行後は1本ずつ徐々に公開していったので、記事と記事の関係性が伝わりきっていないような気もします。

春口|記事単位で流通することは、ASSEMBLYとしての文脈まで届けられていないという反省にもつながっていますね。議論の前提となっている文脈をどのように記事の内容と合わせて伝えられるかは、記事のつくり方というよりも、記事同士の関係性を示すとか、ウェブページの見せ方として工夫できることがある気がします。

松本|ASSEMBLYとしてのランディングページ(検索結果などを経由して訪問者が最初にアクセスするページ)のようなページがあってもいいかもしれませんね。

小倉|ASSEMBLYの3つの主題にもとづいた記事なんだとか、ロームシアター京都という劇場の取り組みなんだというようなことを、事前にわかったうえで読んでもらえると、より深くまで理解してもらえるような気がします。

春口|各記事の冒頭に説明文を追加するとか、いまからでも方法を考えてみます……!

* 編集会議終了後、本記事の冒頭に記載したものと同じリード文を各記事に追記しました。

 

ウェブメディアが伝えるもの


松本
|そもそも、なにかを言おうとしているというか、しっかりとメッセージ性のあるテーマをもったウェブメディアっていまどれくらいあるんですかね? PR記事を中心に構成されているメディアが多いからかもしれませんが、たとえば話題のニュースを集めるとか、ライターの興味に応じて取材に行く、みたいなメディアの編集・運営方針はあっても、なにかの主張があって、その主張を伝えるために運営されているウェブメディアって、なかなかないような気が。そういう思いが先に来るようなメディアって、結構いまだに紙メディアなのかなって。やっぱり紙とウェブって編集者やライターに求められるスキルがぜんぜん別物なんじゃないかってよく思うんです。

中塚|そうしたウェブメディアも、多くはありませんが存在していて、見えにくくなっているだけなのかなという気もします。とくに、強い主張を訴えかけるようなものではなく、答えが明確でないものを探求するようなメディアは最近増えている印象がありますね。

春口|すごくわかる気がします。こういう視点もあるよねって、メディアと読者が一緒に考えるような。

中塚|たとえば、Panasonicさんが『q&d』というウェブメディアを運営されていますが、編集部がPanasonicの社員さんで、個性ってなんだっけとか、ジェンダーってなんだっけ、というような「問い」を11個整理して、それぞれの視点から対話をしながらともに考える、という方針で記事を発信されています。ほかにも、LIVESENSEさんの企業ブログ『Q by LIVESENSE』も社員の方が感じている迷いや問いを考えつづけるような記事をつくっていて、こういうまだわからないものを探索するようなメディアは、結構読まれているというか、人気があるなという印象があります。

小倉|すごく読みたくなりました。

松本|考え方や運営方針はASSEMBLYともすごく近いかもしれませんね。考えるプロセスを共有するような。

春口|ASSEMBLYはぼくの編集方針のせいで人文っぽすぎるというか、固くなりすぎているので(笑)、読まれやすさという意味ではポップさも重要なんだなと、このふたつのメディアを見ると感じました。

松本|さっきの各記事の冒頭に説明文を追加するのもそうですが、なぜロームシアター京都がこういうことをしているのか、ということがもっと伝わればいいんでしょうね。

 

ASSEMBLYと舞台芸術制作の関係性


春口
|そもそもASSEMBLY WEB版のコンセプトとしては(やはり固いですが)「劇場内外の境界上にある議論をひろく集め、蓄積し、あらたな表現と創造へ展開するための漸進的実践である」と設定しています。そのうえで、劇場や舞台芸術とは直接関わっていないような内容の記事を公開してきました。視野を広げるような効果はあったと思いますが、なぜ劇場であるロームシアター京都がこうした記事をつくっているのかは、やはり伝わりにくいだろうなとも感じています。

中塚|同じような内容でも、たとえば舞台芸術に携わる方と一緒に考えながら記事をつくっているような見せ方ができると、もうすこしわかりやすいのかもしれませんね。

松本|「あらたな表現と創造へ展開するための」という意味では、たとえば劇作家の方は執筆のためにリサーチをして、その内容を咀嚼して表現に変えていくといったこともしていると思うのですが、そのプロセスには「考える」ということとはべつのエンジンも必要なはずですよね。なにかを調べたり学んだりしたあと、作品にする/なるには、その作品にする/なる必然性というか、創作者のなかに、それをしなくてはいけないと思わせるなにかがあって、それがすごく大事なんだろうなと。でもその部分は、観客=読者としての私たちからは見えにくいんですよね。

春口|社会で起きていることに対して作家が作品をとおしてどう応答するか、というお話だと思いますが、その逆の回路をASSEMBLYはつくろうとしているんだな、と思いました。

松本|だからこそ、なにかを一緒に考えたり、探索したりするようなことが、結果としてうまれている芸術作品とどのように関わっているかということは、読者(観客)からするとあまりピンと来ないのかもしれないですよね。そこを紐解くようなアプローチができるといいのかもしれない。

小倉|舞台芸術に携わる方と一緒に記事をつくるという中塚さんの提案は、そのアプローチになっているんじゃないですか? 作品のつくり手がなにを考えているかが見えるようになるというか。

中塚|そうですね。ロームシアター京都の強みって、やっぱり舞台芸術に関わる人たちのコミュニティだと思うんです。だから、そのコミュニティと一緒に考えながらメディアをつくれるとすごくいいですよね。それが結果的に、いろんな人が共感できるトピックを、舞台芸術の人たちはこういう切り口で考えているんだ、という気づきにつながるかもしれない。

小倉|研究者とアーティストが対話するロームシアター京都の「“いま”を考えるトークシリーズ」は、そうした思いから企画をしています。同じような構造をASSEMBLYでも実践してみてもいいかもしれませんね。

 

2年間の実践を経て、いま編集部が思うこと


春口
|ASSEMBLY WEB版では、ここまで話してきたようなコンセプトのうえで、3つの主題「ひとり」「ふつう」「知らない」をあらかじめ設定して、すこしずつ記事を公開することで、時間をかけて議論する場をつくろうとしてきました。それぞれの記事を依頼するときに、このメディアとしての建て付けに共感してくださる方が多かったのが印象的です。

中塚|企画していた当初から各主題で考えようとしていたことは、継続できているような気がします。

春口|そうですね。加えていえば、さきほど話題に出た「“いま”を考えるトークシリーズ」の座組は、3つの主題を横断するかたちで人選しようとしていて、そのことがASSEMBLYの記事全体を通してみたときの新しい展開になっているようにも思います。ぼくが執筆した岡野八代さんと山口茜さんのトークのレポートは、その展開を感じてもらえるような内容だと思っています。

春口|「“いま”を考えるトークシリーズ」もそうですが、対談やインタビューの記事も「対話」からはじまっていて、対話によって「ひとり」では生みだせない部分、ふだん考えていること以上の「知らない」ことにまで踏み込んだ内容を記事にできている実感がありました。千葉雅也さんと亜鶴さんの対談や、能條桃子さんへのインタビューが典型的です。能條さんは、ふだんされない質問ばかりだから、インタビューが終わると「めっちゃ疲れました」っておっしゃっていて申し訳なかったです(笑)。

松本|能條さんへのインタビュー記事は、ふだん原稿を確認する劇場の上司からも、いい記事ですねって言ってもらいましたよ。すっと受け入れられる誠実さがあったというか。

春口|なんとなく理解しているけれどどうしていいかわからない、というようなことについて、能條さんとぼくが一緒に考えていった構成になっているので、受け入れていただきやすかったのかなと思います。

松本|自分たちで言うのもなんですけど、ASSEMBLYっていい記事が多いんですよね(笑)。だけど、メディアとしての意図が立体的に伝わるのはやっぱり時間がかかるんでしょうね。

春口|繰り返しになりますが、やはり記事の内容の伝え方の工夫を検討する必要がありそうですね。

 

3つの主題で達成できたことと課題


春口
|最後に、3つの主題についても話しておきたいと思います。今回は「ひとり」「ふつう」「知らない」の3つの主題を、少なくとも2年間は継続して議論しましょうと決めて記事をつくってきました。個人的には、「ふつう」と「知らない」の主題については、企画していたときに考えないといけないと思っていた論点みたいなものをある程度提示できたのかなと感じているのですが、「ひとり」については、解釈がいくつもある主題だったからか、まだ議論すべきことが残っているような印象をもっています。

松本|あらためて見ると、「ひとり」は家族やコミュニティにからめて考える記事群になっているように思いますが、もうすこしその常識から疑うというか、ひとりってなんだっけ、みたいな俯瞰したアプローチの記事があってもいいかもしれませんね。

春口|「ひとり」の主題について考えていたときに思っていたのは、ぼくはどちらかというと陽キャではなく陰キャというか、コミュ障っぽい気質なんですが、コミュ障からするといわゆる家族や身近なコミュニティの集まりですら参加しにくいんですね。コミュニティとして集まってなにかが起こっている状況に対して、自分はなかなかそうはできないな、みたいなところがあって。でも集まることへの憧れがあったり、逆にひとりだからこそできることもあるぞと思ったり、そのアンビバレントな状況自体を主題にできないかと思ったんです。そういう意味では、今回「ひとり」の原稿を、コミュ障の人には依頼していないかもしれない(笑)。

中塚|たしかに、クローズドな感じはあまりしませんね。

春口|小桧山さんのレシピの原稿は、事前の打ち合わせで孤独に料理することも創作のひとつとして捉えられるよね、というような話をしていて、孤独に料理に向き合っているようでいて食材たちと戯れているようなレシピがうまれたわけですが、とはいえコミュ障感はないですもんね。

 

次年度以降ASSEMBLYで考えたいこと


小倉
|次年度は「ひとり」でスポットが当たらなかった部分をさらに掘り下げるような企画に取り組んでもいいかもしれませんね。

松本|そうですね。次年度以降の主題の扱いについて、まるっきり変える必要はないと思いますが、どうすべきかを考えたいですね。

春口|いまここで決めるのは大変だと思いますので、最近気になっているテーマとか、こういう人の話を聞いてみたい、というようなことがあれば紹介してもらいたいです。

小倉|さっきのコミュニティの話題と近いかもしれませんが、最近は職場にいる時間が長く、働き方や組織に興味があります。組織で働くのか独立するのかという働き方の形態の話でもありますし、生活の優先順位、家族や趣味などを含めた生活のなかに働くことがどのように位置づけられるのかを、なんとなく日々考えています。

春口|ASSEMBLYの主題をつらぬくテーマとして「生きることの切実さ」を掲げていたので、そうした意味でも重要な視点だと思います。作品制作にも直結する話題ですしね。

松本|仕事と生きることの切実さをひもづけてみて思うのは、たとえばハラスメント加害をしたと疑われた人がいて、その人とふたたび関わったり、一緒に仕事をするかどうかって、人や組織によって判断が違いますよね。そうしたことに対してふだん価値観を共有しているような友だちとのあいだでも意見がちがったりして、結局なにを正義と捉えているかは人それぞれとしか言いようがないなと。私はどちらかというと時には清濁併せ呑んで物事を進める必要もあると考えるタイプの人間なので、第三者からは立証が難しい疑惑のある人に対して一方的に厳しく断罪したり批判しかしないタイプの方に対して、どうふるまえばいいかわからないこともあります。

中塚|仮に過ちを犯してしまったとして、それがどう許されるか、というのもむずかしいですよね。過去の自分の無知が起こしてしまった過ちを、そのまま何十年も引きずって生きなければいけないのかというか。

春口|被害者からの被害性についての言及はたくさんあったり広まったりしやすいですが、加害性についてはあまり議論されないというか、むずかしいですもんね。

松本|そういったことも含めた「正義」は、混乱してしまうことも多いので、いまあらためて考えてみたいです。

春口|最近は「宗教2世」が話題になったりしますが、宗教もまたなにを信じるかという意味で正義をめぐる問題でもあると思います。もうすこし考えてみたいですね。

ぼくはもっとストレートに「つくる」を主題として考えてみてもいいかなと思っていました。今日お話した内容とも重なりますし、まだうまく言えないのですが、つくることがケアにつながっていたり、生活することに影響していたりして、いわゆるものづくりに関わっていない人でもなにかをつくっているんだという視点からいろんなことを考えられると、翻って作品をつくることにつながるんじゃないかというか。

中塚|なにかをつくることで、その状況に合わせて想像力を発揮するというような考え方は、社会学や認知心理学、人類学などの知識や実践がある程度社会に普及したことで、あらためて注目されているような気もします。そうした分野の研究者たちの目線というか、知識の引き出しが「つくる」につながったとして、なにを考えられるかは議論する価値がありそうです。

松本|最近見た「あいち2022」でも、クラフト的なものに着目した展示が多かった印象があります。いまお話いただいたようなことも意識しているんじゃないかな。

小倉|舞台芸術でもそういう流れはありますね。お祭りのような地域に根差した文化に注目したり。

春口|なるほど。そうやって舞台芸術に接続しやすいテーマでもありますし、もうすこし整理したうえであらためて企画を進めてみます。

今日は、これまでの取り組みについてあまり間違えていなかったんだなと思えましたし、次にやらなくちゃいけない課題とかもお話できたので、ASSEMBLYをよりよい方向へ進めるための第1歩になったと思います。この内容を読者の方がどんな思いで読むのか想像するのがむずかしいですが(笑)、ぜひこれからもASSEMBLYをとおしてぼくたちと一緒に考えるという実験にお付き合いいただけるとうれしいです。ではまたASSEMBLYでお会いしましょう!

 

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  • 松本花音 Kanon Matsumoto

    横浜市出身、京都市拠点。広報・PRプロデューサー、アートプロデューサー。
    早稲田大学第二文学部卒業後、株式会社リクルートメディアコミュニケーションズにて広告制作や業務設計に従事。2011-13年国際舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」制作・広報チーフ、株式会社precogを経て2015-23年ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)所属。劇場の広報統括と事業企画担当として劇場・公共空間やメディアを活かす企画のプロデュース・運営統括を多数手がけた。主な企画に「プレイ!シアター in Summer」(2017-22年)、空間現代×三重野龍「ZOU」、岩瀬諒子「石ころの庭」、VOUとの共同企画「GOU/郷」、「Sound Around 003」(日野浩志郎、古舘健ほか)、WEBマガジン「Spin-Off」など。
    2024年よりブランディング支援、PRコンサルティング等を行う株式会社マガザン所属・SHUTL広報担当。舞台芸術制作者コレクティブ一般社団法人ベンチメンバー。
    Instagram @kanon_works

  • 春口滉平(山をおりる)
    春口滉平(山をおりる) Kouhei Haruguchi

    1991年生まれ。編集者。エディトリアル・コレクティヴ「山をおりる」メンバー。建築、都市、デザインを中心に、企画、執筆、リサーチなど編集を軸にした活動を脱領域的に展開している。2019年よりロームシアター京都の機関誌『ASSEMBLY』の編集を担当。

  • 中塚大貴(山をおりる) Daiki Nakatsuka

    空間デザイナー、リサーチャー。エディトリアル・コレクティヴ「山をおりる」メンバー。株式会社ツクルバにて空間デザインと不動産事業企画に携わる傍ら、webメディアでの企画や執筆を行う。デザインのなかの無意識、デザインの外側の可能性に興味があります。

  • 小倉由佳子(ロームシアター京都)
    小倉由佳子(ロームシアター京都) Yukako Ogura

    ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)事業課長、プログラムディレクター。AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)でディレクターを務めた後、2016 年より現職。

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