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#コラム・レポート#機関誌「ASSEMBLY」#2021年度

『ASSEMBLY』WEB版ステートメント

生きることの切実さと3つの主題について

文:ASSEMBLY編集部
2021.7.1 UP

『ASSEMBLY』のこれまで

『ASSEMBLY』は、2017年に創刊したロームシアター京都の機関誌である。ロームシアター京都のふたつの自主事業「リサーチプログラム」「「いま」を考えるトークシリーズ」と連動し、劇場のコンセプト「新しい「劇場文化」をつくる」を実現するためのメディアとしてスタートした。その視点を、創刊号では次のように示している。

「いま」の時間、そして「ここ」の場所において、劇場が、みんなの「集会場(アセンブリー)」になっていく未来を考えます。

第2号からは特集を設け内容を拡充し、2021年3月までに第7号まで発行してきた。

ASSEMBLY Vol.2「集まりの現在」
ASSEMBLY Vol.3「子ども/子供/コドモを考える」
ASSEMBLY Vol.4「古典のダイナミズム」
ASSEMBLY Vol.5「芸術と観光」
ASSEMBLY Vol.6「記録、記憶、アーカイヴ」
ASSEMBLY Vol.7「芸術とお金」

2021年6月、ロームシアター京都は「もうひとつのロームシアター京都を見つけるWEBマガジン」として、オウンドメディア『SPIN-OFF』を創刊。『ASSEMBLY』も同じくWEBマガジンとして、『SPIN-OFF』内にリニューアルすることとなった。

これまで『ASSEMBLY』では、「いま」の時間、「ここ」の場所において、劇場が「集会場(アセンブリー)」になる未来を考えてきた。しかし、コロナ禍を経た(あるいはいまだその渦中にある)2021年、「いま」も「ここ」も、「劇場」でさえも、その定義が変容しようとしている。WEBマガジンとして再スタートするにあたって、あらためて「ASSEMBLYとはなにか?」と自問してみよう。

『ASSEMBLY』を再定義する

ASSEMBLY [名]
集める[集まる]こと,集まり;集まった人[もの][*1]

「いま」とはいつか?

『ASSEMBLY』が考える「いま」は、単に過去と未来の中間にある現在を指さない。人びとはそれぞれが固有の「いま」を生きている。それは単一のものではありえないし、1本の時間軸の切断面でもない。「いま」とは、変化しつづけ、偏在する時間そのものである。

「ここ」とはどこか?

『ASSEMBLY』はロームシアター京都の機関誌である。そのため、これまで「ここ」とはロームシアター京都という劇場(に集うこと)を指していた。しかし、それでは劇場の外側にもあるはずの論点をとらえられないし、なによりWEBマガジンとして発信するには狭すぎる。『ASSEMBLY』は劇場の中にいながら「ここ」の概念を自らアップデートし、開かれた場とする必要がある。「ここ」とは、ロームシアター京都を劇場たらしめる要素すべてが集積する場所である。

私たちは『ASSEMBLY』を、さまざまな人が継続して議論や思考をつづけ、劇場にかかわるすべての人たちそれぞれのあたらしい創造へつながる場にしたい。これらの考えを統合し、WEB版をあらたに始めるにあたって、次のようにあらためて『ASSEMBLY』のコンセプトを定義する。

ASSEMBLYは、
劇場内外の境界上にある議論をひろく集め、蓄積し
あらたな表現と創造へ展開するための
漸進的実践である

このコンセプトを実現し、WEBマガジンとして活動するための手段として、次の方法を指針とする。

・ASSEMBLY WEB版は、ロームシアター京都のウェブオウンドメディア「SPIN-OFF」のプラットフォーム上で運営する

・ASSEMBLYは、多角的な視点から議論を集積・展開するために、あらかじめ議論の基軸となる主題(subjects)を複数設定し、主題に基づく記事を作成、公開する

・ASSEMBLYは、固定化した議論に終始することを避けるため、劇場や作品に直接的な関わりのあるイシューのみならず、より大きなテーマを主題とする

なぜこのような手段を指針とするか、理由を次に示す。主に現在のメディア状況についての考察となるため、『ASSEMBLY』自体について興味をもたれているかたは、ひとつ見出しを飛ばして、その次の文章「『ASSEMBLY』の3つの主題(subjects)」から読まれたい。

WEBマガジンとしての「ASSEMBLY」を考える

メディアがWEBに公開されることのメリットはたくさんある。インターネットとSNSが普及したいま、WEBメディアはより多くの人たちの目に触れる機会に恵まれているし、ハイパーリンクによってさまざまな情報と結びつけることもできる。また、ひとつのプラットフォーム内に記事が蓄積されることで、過去の記事との関連性が可視化され、そのアーカイヴの価値も高まるだろう。

他方で、WEBメディアにはデメリットも少なくない。基本的にWEBの記事にはそれぞれに単一のURLが振られているため、SNSなどで記事が単体で流通し、消費される。どういった主体が発信しているかなど、記事やメディアの背景にある文脈が捨象されてしまい、表層的な解釈にとどまってしまうことが増えた。WEBメディアはその文脈が読まれにくい。

こうしたWEBマガジンの課題を乗り越えつつ、メディアがWEBにあることのメリットを最大化するにはどうすればいいか。あらたに歩みを進める『ASSEMBLY』WEB版は、変化しつづける「いま」とともに、境界を悠々と行き来する「ここ」で、インターネットと消費の海に流されず、継続して議論を深めていくために、あらかじめ議論の基軸となる「主題(subjects)」を設定し公開する。

ここでいう「主題(subjects)」とは、『ASSEMBLY』の記事があつかうテーマのようなもので、しばらくのあいだ変わらない。いまのところ、このあと紹介する3つの主題を2年間継続することになっている。あるタイミングで一括してトピックを切り取り編纂する「特集」の時間軸を継続性のあるものとし、ひとつの主題について時間をかけて議論しつづけるモデルを想定してもらうとわかりやすいかもしれない。

たとえば主題Aに関する記事aを公開したとする。記事aを読んだべつの著者が、記事aからインスピレーションを受けながら記事a’を書く、という状況がありうる。結果として、主題Aは継続的に議論が深められていくことになる。このことは、ひとつの主題について「ゆっくり」考えることでしか起こりえないのではないか。そして同時に、WEBマガジンの大きな価値であるアーカイヴが、より重要な役割を担っていくはずだ。

『ASSEMBLY』の3つの主題(subjects)

今回、ASSEMBLY WEB版の創刊にあたって、次の3つの主題をかかげる。

それぞれの主題について、現時点での『ASSEMBLY』編集部の考えを以下に示す。

主題1:ひとり

サブテーマ:孤独、孤立、ケア、社会、信じること、分断、集まり、集団、家族

近年、社会課題として孤独や孤立が取りざたされることが増えた。イギリスでは、900万人以上の成人が孤独を感じ、ロンドン市民の半数以上が孤独・孤立をいちばんの社会課題と考えているといった調査を受け、あたらしく「孤独担当大臣」を2018年に設けた[*2]。日本も2021年、内閣官房に孤独・孤立対策担当室を設置している[*3]。

移民やマイノリティとされる人びとは、社会構造に由来する孤独を感じる傾向が高いといわれている[*4]。また、新型コロナウイルス感染症拡大にともなう緊急事態宣言により、社会的不安を感じる人びとが増え、自殺者数も増加傾向にある。孤独が社会課題として認識され、そのケアやメンタルヘルスを十分に考えることが世界的に求められている[*5]。

他方で、いわゆる「みんな」を包摂し、集まりを強化しようとするとき、その連帯を好まない人も存在することを忘れていはいけない。孤独すなわち悪ではないし、孤独のポジティブな側面に着目した議論もおこなわれている[*6]。

劇場のような人の集まりを前提とした場所での、あるいは個々人における創作の現場について考えてみよう。たとえば舞台芸術は、多くの人びととの協働によってつくられている。劇作家が戯曲を書き、演出家が演出し、俳優がそれを演じる。照明、音響、衣装、舞台美術、制作……さまざまな人たちが関わっている。複数の人びとの仕事が相互に影響しあって、ひとつの制作がおこなわれる。しかし一方で、実際に手を動かし、なにかをつくるとき、本来的にはほとんどの場合「ひとり」でそれがおこなわれる。創作の視点に立ったとき、集団によるクリエイティビティと「ひとり」であることのクリエイティビティは併存し、互いに影響を与えあう。こうした観点からの議論も時間をかけておこなわれるべきだろう。

「ひとり」を主題としたとき、孤独のような社会構造に起因する課題、いまだ深くなっていくばかりの分断、「ひとり」であることのクリエイティビティ、あるいは身近な社会としての家族のとらえかたなど、さまざまなトピックが浮上するはずだ。ひいては、「ひとり」からより広く「社会」について考える機会が得られることを期待している。

主題2:ふつう

サブテーマ:共感、多い/少ない、選択、民族、伝える、残す、専門性、いいね、評価

コロナ禍に「ニューノーマル」ということばが使われるようになり、素朴に「ふつうとはなにか?」と考えることが増えた。辞書には「特に変わりがない・平均的・一般的」といった意味が書かれている[*7]。ここで「ふつう」であることがそのほかのものとの比較によって定義されていることに注目しよう。

特に変わりがない、一般的であることは、それ以外に特異と考えられるものが存在することによって意味づけられている。平均を出すには、複数のものの統計として計算される必要がある。「ふつう」とは相対的なものである。

「ふつうとはなにか?」を問うには、ふつうでないことを問う必要がある。ふつうでない=特異である、とは限らない。みずからの「ふつう」が、他者にとって「ふつう」でないことは枚挙にいとまがない。健康な人と持病をもつ人、生と死、選べる人と選べない人、あるいは民族のちがいなど、「ふつう」の位置はつねに入れ替えられる。

つまり、この主題は『ASSEMBLY』において「ふつう」を強化するために掲げられたのではない。「ふつう」の強化は、それ以外を排除する方向へ思考が傾いていく[*8]。みんなから「いいね」が得られること以外に意味が与えられない思想は、排外主義につながりかねないし、昨今の専門家軽視につながっているかもしれない。「ふつうとはなにか?」と問うことをとおして、「ふつう」を宙づりにし、「いま」「ここ」にいる私たち自身を問い直したいと考えている。

主題3:知らない

サブテーマ:学び、教育、感情、遊び、身体、感覚、環境、見る、聞く、触れる

私たちはつねになにかを「知らない」。まずはこの前提に立って考えてみよう。

たとえば舞台芸術の観客は、これから舞台のうえでおこなわれることの多くを知らない。なにかをつくる、表現することは、いまだ人びとが知りえないなにかを生みだすことにほかならない。既存のイシューから離れあらたな表現を模索するためには、「知らない」ことへのアプローチが求められるはずだ。「知らない」ことと出会うには、見る、聞く、触れるといった、身体との関わりが欠かせない。劇場のメディアとして、身体からはじまる知へのアプローチをさまざまに考えたい。

また、近年の社会課題の多くは「知らない」ことに起因していると考えることもできる。他者への想像力の欠如による排除や分断は、他者を「知らない」ことから生じる。あるいは、私たちは私たち自身を「知らない」からこそ、私自身が変わることをとおして、学ぶことができる。「知らない」ことそのものに触れ、私たち自身が変化しつづけることで、思考や議論の硬直を防ぎたいと考えている。

他方で、『ASSEMBLY』が「ふつう」を強化しないことと同じように、「知らない」ことを批判することで「知っている」ことを優位としているのではない。私たちはつねになにかを「知らない」。わたしは、そしてあなたは他者のすべてを知ることはできない。その前提のうえで、「「知らない」こと自体を知る」必要があるはずだ。

生きることの切実さについて

『ASSEMBLY』は、「ひとり」「ふつう」「知らない」この3つの主題を、2年間にわたって議論しつづける。これらの主題は相互に関係しているので、ひとつの記事が複数の主題について触れることもあるかもしれない。継続して議論を深めることで、それぞれの主題があつかうテーマが明確になるか、よりあいまいになるか、いまのところわからない。ただ、これらの主題について、答えを求めるわけでないことは理解いただきたい。対話と議論をとおして、あらたな表現と創造のための種を届けたいと考えている。

今回の3つの主題は、「生きることの切実さ」という、ひとつの大きな視座から設定された。記事も、それぞれの主題について切実に取り組まれている方々に依頼することになるだろう。私たちが生きている、その内面から切実にあふれるトピックについて、ていねいに、ゆっくりと、ともに考えたい。

ASSEMBLY編集部
2021年7月1日

*1 「assembly」プログレッシブ英和中辞典(小学館)
*2 高杉友「孤立が生み出す社会課題・健康リスク──日英の事例」(SOMPOリスクマネジメント、2018)
*3 孤独・孤立対策|内閣官房(最終閲覧:2021年6月23日)
*4 高藤真作・岡本祐子「同性愛者のアイデンティティ発達に関する研究の動向と展望―内在化された同性愛嫌悪・カミングアウトに着目して―」『広島大学心理学研究』第17号(2017)ほか(PDF
*5 How to manage post-pandemic social anxiety(The 19th、2021)
*6 吉田加代子「青年期におけるひとりでいられる能力 Capacity to be alone の獲得と内的対象像との関連」『青年心理学研究』第26巻 第1号(2014)ほか(PDF
*7 「普通」デジタル大辞林(小学館)
*8 金明秀「日本における排外主義の規定要因──社会意識論のフレームを用いて」『フォーラム現代社会学』14巻(関西社会学会、2015)ほか(PDF

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