ロームシアター京都では6月23日(金)に公演を行う、アルディッティ弦楽四重奏団の今回の来日に関するインタビュー内容が届きました!(※京都公演以外の内容も含まれています)
「オーセンティック」であり続けること~アルディッティ弦楽四重奏団今を語る
アルディッティ弦楽四重奏団(以下Q)が「現代音楽を専門とするアンサンブル」なのは、音楽ファンの誰もがご存知だろう。だが、結成から43年を経て創設メンバーが現役の長壽団体であり、多様化し選択肢が増えた21世紀の弦楽四重奏界にあって「どうしても招聘せねばならない唯一無二の団体」であり続ける事実は、案外、気付かれていないかも。作曲家イサン・ユン生誕地でのフェスティバルにメインゲストとして招聘され、2回の演奏のためにヨーロッパからシベリアを横断しソウルに到着、文字通りの「国際的な活躍」真っ最中のアルディッティQが、今を語る。
アーヴィン・アルディッティ (第1ヴァイオリン)
アショット・サルキシャン (第2ヴァイオリン)
ラルフ・エーラース (ヴィオラ)
ルーカス・フェルス (チェロ)
◆コラボレーションについて
――アルディッティQは、これまで世界中で作曲家、演奏家、舞踏家らとコラボレーションをなさってきたわけです。6月の来日でも、大規模なコラボレーション作業がありますね。オーケストラとのコラボレーションは、今回が2度目ですか。
アルディッティ:ええ、2014年にデュサパンの協奏曲をサントリーホールで演奏しました。今回は日本人作品、友人の細川俊夫の協奏曲を演奏します。(注1:東京オペラシティ 6月30日(金)19:00東京都交響楽団 第835回 定期演奏会、細川俊夫《フルス(河)》日本初演)
――弦楽四重奏団というグループとしてオーケストラと共演する際の難しさは。
アルディッティ:最も難しいのは、オーケストラの音が大きく鳴りすぎることです。もうちょっと音を押さえてくれないか、頼むことがしばしばです。
――つまり、皆さんが指揮者になるということですか。
アルディティ:いいえ、それはありません。指揮者にアドヴァイスします。
サルキシャン:そこが指揮者との仕事の難しいところです。普通はオーケストラとの仕事は指揮者という存在がありますからね。そのために、ちょっとトリッキーなことにもなります。
――指揮者とのコラボレーションは難しいですか。
アルディッティ:いいえ。今回は指揮者がとても良いですから。ですから、問題があるとすれば、オーケストラが大きくなってしまう可能性だけです。
――この細川作品では、オーケストラと弦楽四重奏のコラボレーションはどのようになっているのでしょうか。コンチェルト・グロッソのようなものなのですか。
アルディッティ:そうではありません。モダンな協奏曲で、対話です。この作品は、波を意図しています。オーケストラが浮かび上がり、私たちが浮かび上がる、組織だったコラボレーションです。
エーラース:弦楽四重奏がオーケストラの中から膨れあがり、また戻って行きます。河がそれぞれに混じり合うように。
アルディッティ:そうして、オーケストラと私たちで波となる。とても巧妙になされています。
――完全に「オーケストラと弦楽四重奏のための協奏曲」ですね。
アルディッティ:その通り。
――なるほど。今回の来日では、作曲家とのコラボレーションも用意されていますね。ラッヘンマンさんが水戸の演奏会のためにわざわざいらっしゃるという。(注2:水戸芸術館6月17日(土)ラッヘンマンの肖像、神奈川サルビアホール6月26日(月)サルビアホール・クァルテット・シリーズ)作曲家がそこにいるのといないのでは、何か違いがあるものなのでしょうか。
アルディッティ:現実問題として、違いはありません。私たちは一緒に仕事をするほぼ全ての作曲家と、とても親密な関係を築いていますから。私たちとすれば、ラッヘンマンは最も親密な共演者のひとりです。彼とは頻繁に定期的に一緒に仕事をしています。彼がその場に居て私たちを聴いてくれて、ときにコメントをくれるのは、とても喜ばしいことです。彼の音楽は良く知っていますし。
フェルス:彼が自分が演奏する五重奏を書いてくれればいいんですが、そういうわけにはいきませんしね(笑)。
アルディッティ:今度の日本で演奏する、西村朗(注3:大阪いずみホール6月18日(日)弦楽四重奏のフロンティア、東京文化会館小ホール6月24日(土)18:00)と細川俊夫(注4:東京文化会館小ホール6月24日(土)18:00、ロームシアター京都サウスホール6月23日(金)19:00)というふたりの日本の友人も同じです。私たちは彼らをとても良く知っていて、本人らがいてもいなくても、あちこちで演奏しています。彼らが演奏会で聴いてくれて、リハーサルでもいろいろ言ってくれるのは、無論、歓迎しています。
――そこにいる作曲家が、突然、楽譜を書き換え始めたりはしないのですか。
アルディッティ:ありますよ。珍しいことではありません。でも、それはそれでOKです。私たちは忍耐強いですから(笑)。
――リゲティさんはどうだったのでしょうか。
アルディッティ:リゲティとは何度もリハーサルをしましたが、彼は常にテキストに厳密であることを要求してきました。ですが、リゲティの作品は私たちではなく他の団体のために書かれているので、最初はどうだったんでしょうかね。
サルキシャン:私たちとの練習のときに、リゲティは第1弦楽四重奏のある箇所でテンポの変更をしましたね。
アルディッティ:ああ、そうそう、テンポの変更をしました。というのも、第1弦楽四重奏の冠する限り、リゲティは私たちに出会う前には弦楽四重奏と一緒に仕事をしたことがありませんでしたから。
――そのテンポ指定は、今、世に出ている楽譜に反映されているのですか。
アルディッティ:今は彼の校訂で新しい版になってます。リゲティはドイツに移ったときにこの作品を一度撤回しているのだけど、後にこの曲の演奏も喜んで許すようになりました。私たちは2作品とも演奏し始めました。ですから、私たちは第1弦楽四重奏に意見しているわけですね。今回の日本公演で演奏する第2弦楽四重奏(注5:大阪 いずみホール、6月18日(日)15:00、ロームシアター京都サウスホール6月23日(金)19:00)はとても巧みに書かれていて、彼とリハーサルしても、書かれている通りに演奏するよう求められました。ですが第1弦楽四重奏については、彼はテンポをどんどん上げたがった。もっともっと、って(笑)。
◆現代のオーセンティック
――ところで、皆さんは今日はたいへんな移動の真っ最中なわけですが、アルディッティQはホントにたいへんな職場ですね(笑)。
サルキシャン:でも、私たちはもう12年一緒にこんな風にやっていますよ。
――このメンバーになって、もうそんなになるのですね。いままでで一番長いんじゃないかしら。
サルキシャン:ええ、最長です。
――アルディッティさんがこの弦楽四重奏を始めたのは、所謂ポスト前衛時代で、その頃は音にするだけでも一苦労な超絶技巧型の作品が多かったように思えます。
アルディッティ:そうですね。
――21世紀の今は、ミニマリズムや、新ロマン主義とか、はたまた、所謂「オーセンティック」な奏法を要求する新作とか、本当に多彩になっています。ある意味、アルディッティQとは最も遠い場所にありそうな所謂「オーセンティック」演奏と呼ばれる奏法など、アルディッティQの在り方に影響を与えているものなのでしょうか。
エーラース:興味深い質問ですね。そもそも「オーセンティック演奏」という考えは、作曲家の生きていた時代にその作品がどう演奏されるか、というところから始まっています。それこそ正に、私たちがやっていることです。私たちは作曲家が生きている時代に、そのやり方で演奏している。
アルディッティ:そう、オリジナル楽器、ですよ(笑)。
エーラース:ですから、もう最初から「オーセンティック」なのです。
アルディッティ:勿論、所謂「オーセンティック」な意味ではありませんけど(笑)。ですが、私たちがこの仕事を40数年前に始めたのは、作曲家と一緒に作業するためでした。
エーラース:私たちはホントにいろいろな作曲家と一緒に仕事をし、それぞれの作曲家のスタイルに最も適切な演奏をすることが出来ます。
アルディッティ:それはとても重要です。私たちはそれぞれの作曲家のスタイルを探求しようとしています。多くの作曲家で、まるで違うものなのです。
――つまり、皆さんは「オーセンティック」な演奏家である、と。
エーラース:そう。
(2017年4月7日ソウル金浦空港にて/インタビュアー:渡辺 和)
「アルディッティ弦楽四重奏団(音楽)×白井剛(ダンス)」
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