Column & Archivesコラム&アーカイヴ

#演劇#レパートリーの創造#2022年度

レパートリーの創造 松田正隆 海辺の町 二部作 「文化センターの危機」〈新作〉/ 「シーサイドタウン」〈再演〉

稽古場記録 (第四期:2023年1月7日~8日)

記録:福井裕孝
2023.2.22 UP

※第五期分は以下のページよりご覧ください。
https://rohmtheatrekyoto.jp/archives/report_matsuda_2022keikoba_5/

ロームシアター京都の「レパートリーの創造」では、創作過程をいかに記録するかというアーカイヴの視点を持ちながら作品製作に取り組んでおり、作品ごとに異なる方法で記録を残しています。
2020年度のレパートリー作品『シーサイドタウン』(作・演出:松田正隆)の創作過程では、演出家・映像作家の村川拓也ディレクションによる稽古場記録映像を制作し、2021年6月5日に開催した「『シーサイドタウン』を振り返る」で上映を行いました。
松田正隆による「海辺の町 二部作」として『シーサイドタウン』の再演と新作『文化センターの危機』の上演を行う2022年度は、両作品で演出助手を務める演出家の福井裕孝が、自身の視点も織り交ぜながら、稽古場での日々の記録を書き留めていきます。


ロームシアター京都 レパートリーの創造
松田正隆 海辺の町 二部作
『文化センターの危機』『シーサイドタウン』

作・演出|松田正隆
出演|生実慧、鈴鹿通儀、大門果央、田辺泰信、中川友香、深澤しほ、横田僚平
照明|藤原康弘、杉本奈月(N₂/青年団)
音響|合田洋祐(ロームシアター京都)
演出助手・稽古場記録|福井裕孝
舞台監督|川村剛史(ロームシアター京都)
制作|齋藤啓・木原里佳(以上、ロームシアター京都)

【配役】
『文化センターの危機』
吉村 まりあ(文化センター職員) 中川友香
辻井 ひかり(文化センター職員) 深澤しほ
里岡 泉(高校生)        大門果央
中野 浩介(文化センター職員)  鈴鹿通儀
加藤 保(その東京の友人)    田辺泰信
杉田 進次郎(万引きする男)   横田僚平
神長 哲也(美術教師)      生実慧

『シーサイドタウン』
シンジ(帰郷した男)      横田僚平
トノヤマ(地元の男)      生実慧
ギイチ(隣の男)        鈴鹿通儀
クルミ(隣の女)        深澤しほ
ウミ(隣の娘)         大門果央
ケンイチ(シンジの兄)     田辺泰信
—————————————————
福井裕孝
1996年京都生まれ。演出家。2017年にマレビトの会『福島を上演する』に演出部として参加。2018年から個人名義での作品の発表を始める。近作に『インテリア』(2020)、『デスクトップ・シアター』(2021)、『シアターマテリアル』(2020,2022)など。下北ウェーブ2019選出。ロームシアター京都×京都芸術センターU35創造支援プログラム“KIPPU”選出。2022年度よりTHEATRE E9 KYOTOアソシエイトアーティスト。
—————————————————
【第四期稽古期間:2023年1月7日~1月8日】
1月7日(土)
1月8日(日)


 

 

1月7日(土)

一昨日から先に照明の仕込みがあったので、今日は照明の具合を確認しつつ稽古をします。
横田さんは体調不良のためお休み。
大門さんはバスに乗り遅れたため10分ほど遅刻です。

齋藤 大門さん待ちますか? 10分ぐらい遅れるって。
松田 はいはいはい。ほかはみんな。横田さんだけだね。
齋藤 じゃあ大門さん来てから始めましょう。

大門さん到着。

松田
 はい。じゃあどうしたらいいですかね。
藤原 通しができれば一番ありがたいです。一応明かりの構成としてはキャンプに入るまでは明かりも変わらないという感じにしているので、そこまでは全部めっきりやる必要はないのかなって。キャンプからだんだん暗くなって、また朝になって明るくなる。なので、そもそも暗くしていいのかとか、どれぐらい暗くしていいのかとかを見てもらえたらいいのかなって思います。
松田 それじゃあ通しますよ。通しで見れた方がいいですしね。で、いいですか。
松田 じゃあ(13時)25分から。通して、また照明の確認を。

松田 ごめんなさい。やっぱり30分からにしようか。
川村 30分からだそうでーす。

 

『文化センターの危機』通し

お疲れ様です。
94分です。

15時10分からフィードバックをします。

 

ミーティング

松田 まあどうでしたかね。照明が入って。
深澤 ちょっと動揺しました。客席が見えないからハッと思って。いつも舞台上から客席後方の扉の方を見てたけど、今日は客席が暗くて自分が今どこを見ているのか不安になりました。
松田 芝居は良かったけどね。何をもって良いというのかは説明が難しいけど。
松田 なんか運動はかなり決まってんだけど、やらされているわけじゃないみたいな。もう僕がずっと見てるからかな…わからなくなってくるんだけど、自ずと決まってきた動きを確信を持ってやってる感じがしました。何もないところに太々しくいるっていうのがやっぱり重要で。というのと演劇の有機的なテンションみたいな、だんだん帯びてくる熱みたいなもの、それを僕らずっとエモーショナルって言い方をしてきたけど、それにいかないで、まあ違うテンションが湧き上がってる感じがしたんですけどね。…しましたか? みなさん。
松田 照明が入ったから緊張感があったっていうのもあるけどな。何か照明でありますか?
藤原 まあもちろんずっと言ってることですけど、あくまでもここの場所、ロームシアター京都っていうところに役者であるその人自身が立っているってこと、そこに演劇の中の空間性っていうのと役者が演じてる役ってのが両方ダブって見えてくるっていうことがありますけど、照明としても是非ともそういう形にしたいなって。普段の感覚だと死んじゃうくらい劇場は明るく当ててて、役者も明るく当ててるから、作業灯よりも面白いなって。
松田 パキッとしていいよね。俳優が見えるようになった。それはどうなんですか、俳優さん。
田辺 客席が結構暗いなって思って。さっき深澤さんも言ってたけど、ちょっと怖い。境界がはっきりしたから一瞬たじろいだけど、しっかり立っとこうって。
藤原 コンセプチュアルなところで言えば、客席もちょっと明るくてもいいんだろうなって思うんだけど、お客さんは点いてたら嫌だろうなって。
松田 むしろはっきり分断があった方がいい気もしましたけど。
藤原 だから始まりだけズラしてるっていう。1回目の音楽から客電も落ちていくっていうふうにしてます。
松田 まあシンプルでいいですよね。夜はちょっと暗いとか、陰影がはっきりしてるっていうか。パーライトの使い方とか見事に的確に出来上がってるなって思いましたけどね。
松田 寝て朝になる時の光の変化がコンセプチュアルな部分とバッティングする部分ではあるんですけど、まあいいかなって。大胆だし。そこだけかな気になるのは。
藤原 朝が来てお昼になるまでの間に少しづつ明るくしてるけど、夜から人々の意識が戻るのは起きるっていう行為がきっかけじゃなくてもっとゆっくりだろうから、もっとタイムも長くしてもいいかなって。
松田 でもあそこ「おはようございます」で割とパキッと起きるよね。タイミングはあそこがいいかなって思ったんだけどね。

松田
 なんか動揺っていうより、今日俳優みんな堂々としてたよね。照明のせいかな。というか芸が身についてきたんじゃない? そんなことないかな。
松田 …え、そんなことない?(笑)
中川 形になるまでの時間が今日は長く感じて。車とかこうやるってあらかじめ決まってることと、それを今こうするってことの間の距離がなかった。前よりも自分で頭を働かせてやってる感覚がありました。それが芸が身についたっていうことなのかはわからないです。
中川 例えばコップを取るって指示があった時に、やることは動作としては決まってるわけじゃないですか。順番があってその順番が来たからコップを取るってやってたんですけど、今日はそれがズレて感じて。一回真っ白になって、コップを取るっていう指示があったことから遠くなって、ああコップを取るんだって。行為に対する手触りが前に比べてズレた。それは慣れたからともちょっと違くて、そう思ったのが初めてだったから戸惑ったっていうのもあります。順番が来たからやるっていうより、そう思ったからやるっていう感覚が近い。これまでは全体像の把握に支配されてたんですけど、それが少し後退して自分が出てきたというか。
松田 それって俳優としては理想的なアレですよね。余計なことを考えなくてその場で瞬間的に反応して動いちゃうっていう。
中川 でも今までの形からは外れてるから不安にはなっちゃう。違うことやってる気にもなる。
松田 うん。稽古の中で何回もやっていくうちに全体像が退いて、頭じゃなくて身体が感覚的に動けるようになったっていう話とは別の言い方がされてる気もするので。
松田 どうなんですかね。あんまりそっちにいくとミスが出てくるってことなんですかね。
中川 はい。違うことやり出したりするのかなって。間を変えちゃったりとか。

松田 なんかありますか。
松田 ていになると表出される演技は省略されたり内面化されたりする。例えば、寝ているていっていうのは、布団に寝ている感じでいながら立っているっていうことで、身体の演技や形態の表現としては私たちの考える「寝る」こととは違うわけですよね。でも目を瞑っていたり布団を持っていたりする。そういう無対象の演技とかマイムとか俳優がていでいるっていうことをこれまでやってきたわけですけど、今更だけどそれがうまくいってるのかうまくいっていないのか。
田辺 うまくいき始めてる気はする。
松田 どうして?
田辺 どうして??
松田 その言葉を待っていたのかもしれない。誘水だね。
田辺 そう言われると何も言えなくなる…。
松田 いや、冗談です。検証はしたいなって思ってるんです。これまでずっと微妙なラインを探りながらやってきたんだけど、俳優が何遍もやっていくうちに身振りが確信に変わっていく感じはしたなって思ったから。照明が入ると尚のことパキッとしたしね。
田辺 照明が入ると身体の緊張感が違うなって自分は思って。その緊張に負けないようにというか。うまくいき始めてるのは、セリフが次これだってならなくても身体の反応で返せる時が時々あるからかな。
松田 (中川さんと)似てる。
中川 (うんうん)。
田辺 ああ名前呼ばれたか、「ああ、はい」って普通に返事するみたいな。
松田 あの三人の車に乗ってるところとか焦ってないなぁとは思った。中野の絶妙な間でね。あれより遅くなると困るけど。特にあそこですね、スーパーマーケットに向かうまでとか。つまり慌ててないなっていう。当然なんですけど時間かけるのは重要なんやなって。時間がこう適度に流れてないと、なんだろう、現場の運動感覚に負けちゃうって言ったらいいんかな。だからゆっくりに…とはいえ間を入れすぎてもいかんねんけど、だからどっしり構えてやることが重要だなって。そういう境地にだんだんなってきてる感じ。
鈴鹿 それはいい感じだよってことで受け取っていいってことですか?
松田 うん。何が面白いんだよってことがまだ言語化できてないから。いや面白かったよ。奇妙なものを見たって感じ。
松田 音楽も有効だなって思ったけどね。反復して何回も入るから見え方も変わって見えるし。単なるBGMというか、雰囲気作る感じにはなってないと思いますけど。
中川 鳴ってない時も空耳で聞こえる。あれ?って。
松田 恐ろしいよね。今聞こえた?って。
松田 焚き火で辻井が「中野さん」っていうところ。あそこもうちょっとセリフ立ててもいいかなって。音よりも。あと大門さんの妹に向かって話すところをどうするかっていうのはあるよね。あそこは完全に声が埋もれてるんだよね。
大門 やりながら曲の方が大きいなって思ってました。
松田 埋もれてもいい気もするけどね。観客はセリフ聞きたいかな。

松田
 辻井の運転のなめらかなこと。いい車なんやなあって。スイスイ上がっていく。

松田
 じゃあ『シーサイド』やりますか。ちょっと休みましょうよ。
松田 16時半再集合で。『シーサイド』のスポットのところですか。

休憩して『シーサイドタウン』の照明を確認します。

 

──休憩します。

──休憩明け。

 

松田 じゃあ。
藤原 ポジションが確認取れればいいっていうのはありますけど。一つ一つここで大丈夫でしたよね、みたいな感じで。

照明変化のある場面だけ初演のデータに基づいてポジションを確認します。

──ギイチ一家の生活の様子

藤原 ここです、バミリないんですけど。

藤原 このぐらいだったのかなって気はしますけど。

藤原 はい。これで照明的には確認取れました。
松田 これだけ?
藤原 はい。じゃあ流れで一回やれたら。

通してやります。

松田 はい。あの三人会話するシーンもう一回くれますか。
松田 えーっと。クルミ、もうちょっとそのまま下がれない?
松田 いやいやギイチは動かないで。
松田 こうなるとどうですか。
藤原 明かり的には問題ないです。
松田 まあそれで(クルミが)もう少し身体の向きをギイチの方に。
鈴鹿 感覚的には(以前よりも)前に来た感じが。ここまでのストロークあったかなって。
藤原 今なら調整できます。
松田 いや、これでいいんじゃないかな。あの三人で食べてる時の塩梅がこれぐらいでいいなって。
松田 もう一回さっきの位置に出ると?

三人の出から確認してみる。

松田 うーん、やっぱり(クルミは)ウミと近いラインの方が。

元の位置に戻す。

松田 うん、これで。バミらなくて大丈夫?
深澤 私は大丈夫です。
松田 じゃあこれでいきましょう。

続いて④のシンジとケンイチが並んで寝る場面。

松田 すごい。フレネルでやるんですね。

確認しました。

藤原 これで照明的にポジション確認したいところは以上です。ありがとうございます。
松田 じゃあこんなところですかね。
松田 本当に何もない。明日もう一回『文化センター』やりたいんですけど。

──レクチャー(?)について

松田
 なんかあの、どうしてこういうマイムの演技になったのかみたいなことって考えたことありますか?
松田 大門さんとか、演劇のイメージはこういう感じだよね。他の演劇のイメージってありますか。
大門 なんか遠足とかで、宝塚とか劇団四季とかそういう。
松田 見に行ったんだ。まあ演技っていうのにどういうイメージがあんのかなって。
松田 なんかさっきちょっと言いかけてたのは、今日もいいなって思いながら見てたんだけどね、でもその根拠も語りたいなっていうか…。
松田 …まとめてから話した方がいいかな?
深澤 (笑)
松田 どうしてこういう演劇にたどり着いたかって、まあたどり着いたって言っても今もこれが一番良いとは思ってないんですけど。常にプロセスだから。まあどっかでその説明をするとみなさんの演技にどういう影響が出てくるんだろうっていうのはあったんですよ。

松田
 僕はマレビトの会っていうのをずっとやってきて。2年前に『シーサイドタウン』をやった時はマレビトの会で培ってきたやり方をもうちょっとこう洗練させた形でやろうと。マレビトではもうちょっとざっくりやってたから。ざっくりっていうのは作品を大量生産しないといけなかったんで。『長崎を上演する』っていうのと『福島を上演する』っていうのを2013年から2018年までやって、どちらも被曝した、歴史的に大きな出来事に見舞われた二つの都市の相貌というか、それぞれの都市に生きる市民を演劇で描きたい、スケッチしていきたいっていうのが私たちの考えだったんだけど。それ以前からも作品作りはやってたけど、やっぱり現在を生きてる人間にとってはどうしようもないような出来事と今を生きてる人がどう繋がっているのか、演劇としてどう表現できるのかっていうのが問いとして常にあったわけです。

松田
 僕の最初のキャリアは知ってる人もいるかもしれないけど、もう少し戯曲を書いて、最近も上演されてますけど、割と『シーサイドタウン』と似てるような、ちゃぶ台が中央にあってそこに登場人物が現れて、中心点から世界が拡散していくみたいな感じなんですね。例えば典型的なのが、家族の一人が結婚しようとしている相手が両親が被曝している被曝二世でそれが理由で縁談がうまくいかなかったみたいな話とか、起承転結のあるドラマの周縁にそういう手の届かない過去の歴史的な出来事が垣間見えるような、そういう作り方をしてきたわけです。それからだんだん変わってきて、マレビトの会って集団を作ってからいろんなことを試したんですけど…まあその辺から語っていくと、今なんでこういうふうになってるのかっていうのがわかるような気が最近したんです(笑)。だからそれを説明する時間があるといいかなって。そうでもない?

松田
 その辺の前の作品って知らないでしょう。大門さんは絶対知らないよね。知ったからってどうってこともない気もするんですけど。

松田
 2012年にやった『アンティゴネーへの旅の記録とその上演』っていう作品とか、いろいろなことをやった後にこのスタイルに移行するんだけど、何でこんなふうに移行したんかなっていうのがもう少し説明できたらいいなって思いましたね。そうしたからといって良いのかはわからないですけど、俳優の余裕があったら次の1月の終わりの段階でちょっとみんなでシェアしようかなって。どうですかね。
深澤 ぜひ聞きたい。
松田 今回は横田さんいないからあれですけど。ちょっとこないだそういう授業があって。僕も全然忘れてたから。でも学生に伝えるとなるともう一回考え直したりして。つまり来歴っていうのかな、今みなさんがやっていることの。もちろんそれは僕のキャリアの中で獲得した個人的なものでもあるわけだけど。

松田
 それとさっきの話と似てる気がするけど、常に俳優って現場の最前線にいるわけじゃない。現場の最前線に立つ俳優にとってそういう来歴が重要なのかどうかっていうのはありますよね。どうやってここに至ったのかっていう過去の歴史、もちろんこれからの未来もあるけど、そういう過去現在未来っていう割と簡単にイメージするような時間の流れとはちょっと違うかもしれないから、俳優の時間性っていうのは。いずれ本番がやってくるのに合わせながら、あるいは未来を先取りしながら毎度毎度稽古を重ねていく俳優の身体の中でどういう時間性が蓄積していくのかっていうのは、言語化しにくいけどした方がいいんじゃないのかなって思うので。そのへんのことはまた俳優に聞きたいなって思います。さっき中川さんとか田辺さんが言ったこともずっと重要な問題だと思うので。

松田
 演劇の上演っていう条件のもとでドラマが成り立つっていうのは、普段アクシデントのように起こるドラマとか現実世界の中でドラマチックに動いてる出来事とはまた違うじゃない。劇場っていうフレームがあってわざわざ見せている、あるいはそういう約束事のもとで見せているっていう。それを見る観客がそういう約束事を読み取らないとっていうのを前提にしてるから。その辺のこともみなさんにいろいろ聞きたいなって思うんですけどね。

松田
 どうですかね。田辺さん。
田辺 いやまあ、この『文化』の稽古を通して自分の体の中で起こっていることの体感は各々一人づつあると思って。それをどこまで喋れるかなってのもあるんですけど、僕は喋るのに興味あるから聞いてみたいです。自分はやってて『文化』と『シーサイド』では全然違うから。今の身体の状態だと『シーサイド』の方はうまくセリフが出てこないから今はそれを修正してるんですけど、その辺のことをうまく素直に話せたら楽しい時間だなと。ワクワクする。



松田
 何かないですか。
深澤 どうしてマイム芝居なのかっていうのはわからないですけど。田辺さんの言うようにどこから話したらいいのかなっていうのはありますね。私の来歴みたいな部分から話さないとうまく伝わらない気もして、でもそれはめちゃくちゃ時間かかることだなって思うから難しいんですけど。『シーサイド』と『文化』で衣装が変わらないとか、前回は衣装があって『シーサイドタウン』をやって、衣装があるかないかって部分だけでも全然違う。自分の中で今日照明を合わせてやって、『シーサイド』はこんな緊張しなかったはずなのになぜ? とか。ちょっとした変化に敏感になる現場ってこの松田さんの作品が初めてっていうか、その変化が何でなんだろうって考えるのはメチャクチャ面白くて。
深澤 衣装変えないっていうのも去年からずっと考えてて言語化したいんですけど。普段劇場で他の作品を見ても衣装がもたらすものの強さというか機能みたいなものを観客として見てて感じることもあるから。ここにいると演劇の原初的な部分を考えさせられる。音楽を使うことと使わないこととかも。音楽の4拍子に合わせて綺麗に入っちゃうとすごいBGMになっちゃうから音もちゃんと聞きながらやんなきゃなとか。考えられる視点がたくさんあって楽しいですけど、どこを軸に置いたら確信を持てるのかなみたいなことはもっと知りたいところではあります。
松田 そうですね。来歴みたいなものを知らない方がいいんじゃないかっていうのもあるんだよね。そんな縦軸に貫かれない方がいいんじゃないかみたいな。因果関係が生まれちゃうから。それはあんまりよろしくないなって思っちゃうんだけど、考えるきっかけにはなるかなって。今やっているそれへの批評的な距離感ができるし、一旦比べられたらっていうかね。現在の舞台上に身体をどう置くか、どうはめていくか、言葉はわからないけど。俳優の側からするとどういう言語感覚で舞台の上に立ってるのかわからないんで、まあそこをちょっと知るのもいいかなとは思うんですけど。
松田 まあせっかくこうしてアーカイブもされるんで、劇場にそういうものが残っていくのもロームシアター京都の機能としてはいいんじゃないかなって。

松田 まあそんな詳細にはできないけど、エッセンスだけでも話せるといいなって思いますけどね。

松田 『文化センター』をやって見えてくるものもあるよね。『シーサイド』を経験してない中川さんは。
中川 体感が比較できないっていうのはありますけど。3年ぐらい前から絵を見るときにどこを最初に描いたのかなって考えるようになって。わかんないんですけど、スケッチするってことを考えたときにそれを思いました。出来上がってくる絵は同じでも、どの色のどの線から引いたかによって全然違うっていうか。『文化センター』と『シーサイド』が同じ形になってるわけじゃないんですけど、それぞれスケッチするときにどこから筆を入れるかみたいなことは二つ並べるとわかるみたいな。
中川 演技は比べ難いものじゃないですか。固定的な形が生まれないから。再現性が低いものなので、さっきはどうだったとか今回はどうだったとか同じように評価も認識もできないものなので。そういうことを二つ見たりやったりしていると見えてくるのかなあみたいなことを今聞いてて思いました。ちょっと違う話をしてるかもしれないですけど。

松田
 藤原さんは照明をずっとね、物語を解体した時期からずっと一緒にやってるから。
藤原 個人的にはよく作られた芝居とか観た時にいいなと思う一方で、演技プラン見せられるのはもういいよって思うこともよくあるんですよね。もっと役者本人を見たいっていう衝動に駆られるというか。よくできた演技プランよりもなぜ私がここに立って演じるのか、なぜ演じることができるのかっていう発話に対する戸惑いを乗り越えて発話する、そのプロセスみたいなものが見えてくるとすごく面白く感じるっていうのはあって。松田さんのこの作品はまさしく私がここに立って演技をする、役を演じようとするっていうことにアプローチしてると思う。
藤原 今もみなさんいろいろ喋られてましたけど、多分それぞれの演技システムを統一する必要とかはないんだろうし、海が見えるとか海を見ようとしてしまうとか、反対に海を見ないようにするとか海なんかないと思うようにするとか、いろんな話が出ましたけど、どの状態でいるのが正しいとかではなくて、自分の演技のシステムとして何を持っていて、それに今乗っかって演技をしようとしていることの自覚が大事で、なぜそれで演技できるのかってことが見えてくると面白いなって思います。

松田
 それってすごくそうなんですよね。俳優が何で舞台に、みんなの目の前に立てるのかっていうのがあるよね、まず。没頭っていう問題だと思うんですけど、何かに没頭せざるを得ないっていう。
松田 ざね(生実)くんも前なんか言ってたよね。つまり現在時に飲み込まれちゃうから何かに没頭しとかないと立てないっていう。授業で『福島を上演する』のある部分を300人ぐらいいる前で照明もそのまんまでやってもらったんだよね。ほとんどの観客はそれが何やってるのかわからないような、ざわつきまでしないけど、興味がない人ばっかのところで何回かやってもらったりもしたんだけどね、ああいうときにどうでした?ってざねくんに聞いてみたら、今の状況に飲み込まれないようにしてますみたいなことを…なんて言ってたっけ?
生実 見てる人が300人ぐらいいる講堂みたいな状況に飲み込まれないように、何者かになっているふりをしてますみたいなことだったかな…。
松田 それは今藤原さんが言った原初的な、何つうんだろう、なんで俳優がそこに立てるのかっていう手練手管を、そこで獲得する過程そのものをなんか見せられてるっていうのが面白いんだろうなっていう。まあ別にそのプロセスが見えなくてもいいんかもしれないけど、なんで立ててるんだろうっていうことを割と剥き出しにしたいのかもしれない。
松田 どうなんですかねそれは。俳優には過酷なのか。意地悪な感じだよね。頼るところがないって。だけど俳優はそれなりに獲得するプロセスを経てここに来てるっていうかね。だから明日立ってって言えば意地悪だけどさ。
松田 でもなんか腑に落ちました、藤原さん。統一する必要はないっていうね。

深澤 その面白さってやっぱり稽古場だからっていうのはあるんですかね。俳優がどうやって立てるようになっていくんだろうっていう過程が見えるわけでじゃないですか、稽古では。でも本番はもちろん何回も見る人もいるけど、お客さんが見るのは基本一回じゃないですか。俳優がその過程で獲得したものみたいなのを追える楽しさみたいなのは稽古場にしかない気もしていて。
藤原 なんか毎回新鮮にそこで新たに獲得し直してるように見えることはあります。もちろん内的なことはわかんないけど。
松田 うん。本番でも獲得してるってことだと思う。稽古場と本番も等価だっていう。本番の状況は違うけど。
深澤 稽古と本番では見られてる質感が違うっていうのはあって。キャラクターを見られてるっていうよりも、すごい私が見られてるみたいな。俳優が立たされている感? その怖さみたいなのはあったりします。
松田 それはざねくんが言った飲み込まれないようにっていう。
深澤 だからそのためにプランは持ってないと舞台に立てない。さっき松田さんがそのプランは統一する必要はないっておっしゃってましたけど、ある意味統一されてると立ちやすいんですよね。こういう軸があってそれに沿えば大体はOKみたいなふうに。
深澤 すごいこっちは内側で葛藤してますけど、それを面白がって見てくれてるならいいなって思いました。
松田 でもキャラクターを演じようとすることと、それが頼りになって自分を明け渡すってことがあって、自分を明け渡さないと難しいじゃないですか。自分が見られているっていう主体をやっぱり一旦消すようなことをやらないと舞台に立てない。それがこれまで付き合ってきたもう一個の人格というかペルソナみたいなものなんだろうけど、でもペルソナみたいなもので追うこともできないっていう状況が生まれてるってことですよね。
深澤 そうですね。特に今日は照明が入って「見てくれ」みたいな状況だったから、さらに見られることが強化されるというか。だから普段はできてるパンを食べる動作も変に両手でやっちゃったりして、ああやばいやばい、今役だ、みたいな。めちゃめちゃ戦ってました。
松田 でもそれって深澤さん本人が出てきてるわけでもないんですよね。
深澤 あ、でも私本人が出てきてると思います。光に動揺してる私というか。
松田 そこでもうちょっと私が消えていくと、こう太々しくなると思うんだけどね。根拠なく太々しい人っていうふうに。まあ実際は稽古を重ねてないとそうはならないんですが、結果的にそう…まあもう割とみんななってると思うんだけどね。

松田
 今日すごい田辺さん太々しいなって感じたんだけど。太々しい…。
田辺 (笑)
松田 それって根拠無くよく立っとるわみたいなことなんですけど、その方向に行くといいなって。それに胡座かいたらダメなんでしょうけどもちろん。でもある程度重心が下がってくるといいですよね。うわずってない状態というか。
田辺 その話聞いて思い出したんですけど、年末の稽古の時にキャンプで中野に「加藤さんビール飲みます?」って言われて「自分で行くよ」って言うところをやってたら、僕間違ってるつもりないんですけど松田さんも福井くんも笑ってて、なんで笑ってるんやろう、完璧にしてんのにって思って後で映像見たら、本当は「自分で行くよ」っていう前に、こう座ってくつろいでる姿勢は崩しておかないといけないけど、こう座ったまま「自分で行くよ」って言ってて、全然自分で行く気ないやんみたいな状況が起きてて。でもそれってさっきざねくんが言ってたような没頭してる状態になってたなって思って。そういう意味では間違ってるけど間違ってないなって。そういう体の微妙な状態ができれば、これまで見たことないような感じが成立するんかなって。

松田
 いろいろ話せてよかったです。まあ終わりますか。
松田 お疲れ様でした。

 

 

1月8日(日)

松田 今日も(13時)30分からで良いですか?
深澤 はい。
藤原 問題ないと。
松田 齋藤さん大丈夫ですか。
齋藤 はい。今日稽古終わってから2月のスケジュールの確認は…。
松田 それと1月の後半のやつは21日から? 確認ですけど。
齋藤 はいそうです。三日間。

松田 毎日『シーサイド』と『文化』で二回やった方がいい?
松田 まあ焦んなくても、2月にやれればいいんですが。
松田 もしかすると2月に緩やかにやれた方がいいのかもしれないですが。

松田 じゃあ30分からやりましょう。衣装はじゃあ有りで。
松田 大門さん昨日の衣装あるの。
大門 上はあります。下はスカートを持ってきてないです。ズボン持ってきました。
松田 じゃあズボンと昨日の上でやってみようか。

 

『文化センターの危機』通し

お疲れ様です。
94分です。

松田 はーい。(15時)10分からフィードバックしよっか。

 

ミーティング

松田 えっと、あの全体をなるべく見るように心がけてたんですけど、あと照明の具合と、今日もよかったですよ。昨日の流れの中で。まあよかったです。
松田 細かなところはまあ、本番までの稽古のところで修正できればいいんで。
松田 迷ってるところはあるんだけど。あの里岡の妹に話すところのBGM、あそこいらないと思ったね。音無しでいきたい。
松田 あとは良かったんじゃないかな。なんかありました?

松田
 中川さん走るところ、照明の外に出るのいいんじゃないかな。それで暗いところから戻るのをもう少し緩やかにしたらいいかなって思ったけど。
中川 走り終わったあと?
松田 そうそう。あそこからもっかい光に入るでしょ。それまで光の瀬戸際にいるんだけど、外に出て暗くなってまた舞台上の明るいところにゆっくり入っていく。まあもう一回見ますけど。別に今どうってことではないんですけど。

松田
 深澤さん今日なんか良かったね。昨日疲れてた?
深澤 昨日ですか? んー…。
松田 今日はパリッとしてました。
松田 (辻井の運転する車)なんかフォルクスワーゲンじゃないかな。
深澤 車種まで見えてきた…。
松田 なんか揺るぎがない、ベンツとかドイツ車だよね。
深澤 乗り心地がいい。
中川 強い。

松田
 あと万引きのくだりとかは横田さんいないとわかんないけど。
松田 まあこんなとこですね。なんか大丈夫でしたか。

松田
 (田辺さん)芝居よかったよね。安定してた。
田辺 なんか細かいミスあった気がします。
松田 (キャンプ場の)中野「あー」で、加藤「え」のところ。ツッコミが早いですよ。「あー」をもう少し待ってあげてください。
松田 でも今日は部分というより、全体の流れを見たいと思ったので。

松田
 やっぱり町の人になってからのところ、つなぎの部分ですね、あそこら辺を次回の稽古でいじる可能性はあるんだけど、ちょっと様子見て。とにかくまあ、それまでの焚き火まで行って、ドラマの核心めいたことが語られてっていうあの一連のところまではいいなって思ってて。後半をどう処理していくのかっていうのはあるんだけど、まあそういうもんだよね演劇って。後半どう回収していくかっていう。まあうまくいってるとは思うんですけど、もうちょっとなんかあるかもなって考えてるのと、ラストシーンで考えてるところは横田さんが来てからで。
松田 はいそういうことで。俳優さんとしては終わりますかね。何かないですか質問とか。
深澤 衣装は。
松田 中川さんね。二人がデニムの薄い(大門さん)のと濃い(深澤さん)のなんで。

薄いデニムと濃いデニム。

中川 デニムが多いですよね。
深澤 …私のズボンを変えます?
松田 変えたい?
深澤 いやわかんないですけど(笑)。
中川 深澤さんはこれで大丈夫です。

松田 この三人は抜群に出来上がってる。
松田 大門さんもそれで。
松田 …いやわかんない、まだ。
中川 じゃあ次ジーンズ以外持ってきます。

衣装は次回の1月末の稽古で確定します。

松田
 はい。じゃあ一旦これで終わりましょう。
松田 なんかあります?
齋藤 大丈夫です。
松田 じゃあ21日にということで。お疲れ様でした。
みなさん お疲れ様でした。
深澤 早い。

15時半ごろに解散。

  • 福井 裕孝
    福井 裕孝 Hirotaka Fukui

    1996年京都生まれ。演出家。2017年にマレビトの会『福島を上演する』に演出部として参加。2018年から個人名義での作品の発表を始める。近作に『インテリア』(2020)、『デスクトップ・シアター』(2021)、『シアターマテリアル』(2020,2022)など。下北ウェーブ2019選出。ロームシアター京都×京都芸術センターU35創造支援プログラム“KIPPU”選出。2022年度よりTHEATRE E9 KYOTOアソシエイトアーティスト。

関連事業・記事

Turn your phone

スマートフォン・タブレットを
縦方向に戻してください