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#演劇#レパートリーの創造#2022年度

レパートリーの創造 松田正隆 海辺の町 二部作 「文化センターの危機」〈新作〉/ 「シーサイドタウン」〈再演〉

稽古場記録 (第ニ期:2022年11月1日〜11月3日)

記録:福井裕孝
2023.2.7 UP

ロームシアター京都の「レパートリーの創造」では、創作過程をいかに記録するかというアーカイヴの視点を持ちながら作品製作に取り組んでおり、作品ごとに異なる方法で記録を残しています。
2020年度のレパートリー作品『シーサイドタウン』(作・演出:松田正隆)の創作過程では、演出家・映像作家の村川拓也ディレクションによる稽古場記録映像を制作し、2021年6月5日に開催した「『シーサイドタウン』を振り返る」で上映を行いました。
松田正隆による「海辺の町 二部作」として『シーサイドタウン』の再演と新作『文化センターの危機』の上演を行う2022年度は、両作品で演出助手を務める演出家の福井裕孝が、自身の視点も織り交ぜながら、稽古場での日々の記録を書き留めていきます。


ロームシアター京都 レパートリーの創造
松田正隆 海辺の町 二部作
『文化センターの危機』『シーサイドタウン』

作・演出|松田正隆
出演|生実慧、鈴鹿通儀、大門果央、田辺泰信、中川友香、深澤しほ、横田僚平
照明|藤原康弘、杉本奈月(N₂/青年団)
音響|合田洋祐(ロームシアター京都)
演出助手・稽古場記録|福井裕孝
舞台監督|川村剛史(ロームシアター京都)
制作|齋藤啓・木原里佳(以上、ロームシアター京都)

【配役】
『文化センターの危機』
吉村 まりあ(文化センター職員) 中川友香
辻井 ひかり(文化センター職員) 深澤しほ
里岡 泉(高校生)        大門果央
中野 浩介(文化センター職員)  鈴鹿通儀
加藤 保(その東京の友人)    田辺泰信
杉田 進次郎(万引きする男)   横田僚平
神長 哲也(美術教師)      生実慧

『シーサイドタウン』
シンジ(帰郷した男)      横田僚平
トノヤマ(地元の男)      生実慧
ギイチ(隣の男)        鈴鹿通儀
クルミ(隣の女)        深澤しほ
ウミ(隣の娘)         大門果央
ケンイチ(シンジの兄)     田辺泰信
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福井裕孝
1996年京都生まれ。演出家。2017年にマレビトの会『福島を上演する』に演出部として参加。2018年から個人名義での作品の発表を始める。近作に『インテリア』(2020)、『デスクトップ・シアター』(2021)、『シアターマテリアル』(2020,2022)など。下北ウェーブ2019選出。ロームシアター京都×京都芸術センターU35創造支援プログラム“KIPPU”選出。2022年度よりTHEATRE E9 KYOTOアソシエイトアーティスト。
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【第二期稽古期間:2022年11月】
11月1日(火)
11月2日(水)
11月3日(木)


 

11月1日(火)

今日から三日間は『シーサイドタウン』をやる。
初演以来の創作なので、順に思い出しながら確認していく。

床には『シーサイドタウン』と『文化センターの危機』の二種類のバミリ。
いつも舞台監督の川村さんが用意してくださります。
稽古を進めながらバミリが隣接する箇所を確認して整理していく。

川村 どの色がいいかなと思って。

松田 じゃあ(13時)15分から開始します。

──13時15分。

①をやった。

松田 なんか問題あった?

──特に。

松田 まあ間違ったら間違ったでいいんだけど、修正すれば。後に影響なければ。

 

──休憩します。

──休憩明け。

 

①の最後から②をやった。

クルミ「おはようございます」
松田 はい、大丈夫でしたか。

──大丈夫。

続いて②の終わりまでやった。

松田 はい。

続いて③をやった。

別タブで初演の記録映像を開きつつまだ一度も見ていない。
元の上演をどこまで参照する必要があるのか。

松田 はい。

 

──休憩します。

──休憩明け。

 

④をやった。

全体的にスピーディーな印象。

松田 はい。

 

──休憩します。

──休憩明け。

 

⑤、⑥と最後までやった。

松田 問題あった?

──大丈夫。

松田 全体的に巻いてて緊張の持続が曖昧になってる。
松田 演技の間ではなくて、段取りを思い出せていなくてうまく応答できないことの間というか。まだ有効な間になってない。
松田 でもそれはしゃあない、余裕がないから。何回かやるしかないけどね。

最後まで特筆すべきやりとりもなく流れるように終えた。時間が経過して、また『文化センター』の創作を経由して変化したようなこともこれといってなかった。変わってはいるのだろうけど。

 

──休憩して、17時半から通します。

 

通し

冒頭のシンジの時間は記憶が薄れていた分新鮮に見えたが、それ以降は空間なり場面なり先行するイメージがあって、それに目の前の人と演技が収まっていくという順序で答え合わせのように見てしまった。初演の稽古から通しを見まくっているので仕方がないが、見方を工夫したい。新鮮に見たいということではない。

何かそれ自体が動いていることよりも、むしろその周囲が止まっていることが問題になるというのが良い運動だと思う。『シーサイド』の冒頭のシンジとか『文化センター』の冒頭の吉村とか。

 

お疲れ様です。
96分です。

 

ミーティング

松田 シンジ最後(ケンイチとの場面)ツラになってたね。少し身体開いた方がいいかな。
松田 心理的にいく面も重要だから。トノヤマが怒ってるところとか。なぜかはわからないけど互いに触発され合うなかで生まれるもの。それが何の感情かはわからないけど、微妙な間とか塩梅とか、この芝居はそういう部分が繊細に出来上がってると思う。初演はそれができてたから今はそれを思い出して再現しようとしてる。
松田 こちら(『シーサイドタウン』)は緊張感を感じます。『文化センター』はもっと弛緩してますが。

こちらは空間の中心が変わらない。出来事が中央のちゃぶ台に集まってくる(引き寄せられる)印象。
『文化センター』は中心がその都度変わるし、人物の配置も自然発生的。

松田 (照明の)藤原さんどうですか。
藤原 緊張感があるというのはどうなのか。あった方がいいのか、合わせた方がいいのかとか。
松田 緊張感のあるなしは良し悪しではないし、『シーサイド』と『文化センター』二つの調子を合わせたいわけではないです。むしろ離れた方が面白いのかもしれないしね。

松田 ノマドではありたいって思ってますけどね。定住しないという意味で、この芝居が。
松田 俳優もある種ノマドですしね。
松田 二つともスタイルや方法は違うんだけど、住めない場所に住むという可能性を探るっていうようなことをそれぞれの作品に感じてもらえたらいいです。

お疲れさまでした。

 

11月2日(水)

松田 じゃあ(13時)10分からやります。
松田 また①から順に。止めないかもしれないですけど。1時間経ったら止めます。

また①から順に止め通し。
問題なければ最後までそのまま続けます。
最後にまた通します。

──全体訓練の場面。

ギイチというよりサイレンが喋っているという感じ。肉体の伴わない発話。

松田 はい一回切ろう。
松田 あの鍵のところ、鍵を渡すところなんですけど、鈴鹿くん。
横田 鈴鹿さーん。
松田 鍵を渡すじゃないですか。ほいで(シンジが)「玄関開いてました」ってなるよね。そんときギイチも玄関ちょっと見てくれるかな。セリフのあとゆっくり見て、それから(シンジの)顔もう一回見て。
松田 ちょっとやってみる?

ギイチ「鍵です」

松田 そうそう。それで一回行ってみましょうか。
松田 なんかニュアンスが欲しいなって思っただけなんですけど。「ああ玄関ね」みたいな。うん、いいと思います。

松田 じゃあちょっと休みましょうか。(13時)55分から。③からやります。

 

──休憩します。

──13時55分。

 

松田 すいません。やっぱり14時で。

 

──14時。

 

横田 行きまーす。
松田 あ、ごめんちょっと待ってね。
松田 先に全体訓練のところやります。
横田 全体訓練!

ウミがジェスチャーをするタイミングを確認。
初演ではクルミのセリフに合わせて動いていたので、そうする。

全体訓練。頭部を守るジェスチャー。

──ウミ、家にあがってシンジの横に来る場面

松田 それってさ、靴脱ぐ場所って中央だった?
松田 (中央に来なくても)そのまんま脱いだら良くない?記録あります?

初演の映像を見る。
中央に来てる。

松田 合ってました。
松田 いいよ、その通りしよう。

──衣装について

松田 横田くん、これ(袖)下ろすとどうなるの。

下ろす。

松田 それで万引きしてみて。

『文化センター』の方で杉田がやる万引きの身振りを確認。

松田 ああ、それ巻くってたのは?
横田 暑いからですね。
松田 いや、上それでもいいなと思って。
松田 大門さんも上それでも。でも下それなんだよね。
松田 他のがあれば見せてください。割といい感じだと思うけど。
松田 深澤さんはこれで決まりです。
松田 鈴鹿さんはそれデニムだよね。
鈴鹿 デニムっぽいスラックスなんですけど。
松田 デニムに見えるってことはもうデニムだよね(笑)。いやみんながデニムだから。
松田 生実さん昨日のパンツデニムじゃないよね。
生実 コーデュロイです。
松田 (今履いてるのより)そっちがいいな。昨日上はジャージだったけど。
松田 そうなってくると鈴鹿さんそれでも。デニムじゃないと主張して。

松田 じゃあちょっと休もうか。休んでまた⑤、⑥と。
松田 50分からやろうか。

 

──休憩します。

──休憩明け。

 

松田 じゃあ車からいく?

──全体訓練から帰ってきたシンジとギイチ一家
ウミ「自宅にいる場合」
シンジ、そうする。
一同「おー」
一同、拍手する。

松田 それ「おー」抜きにして、拍手だけ。感じはそのまんまで。

一同、拍手。

松田 うん、その後の「ケンイチさんもお願いします」もカットしてみて。できる?
深澤 じゃあ(ケンイチは)拍手はしない?
松田 いや拍手していいよ。流れで。

──ウミ、ちゃぶ台にうつ伏せて眠る場面
松田 もうちょっとさ、首が横になると。
松田 ああ、うん。
松田 今真っ直ぐ首が下がってるんだけど、そうそうそう。
松田 はい大丈夫です。

──シンジ、ハザードマップを指差す場面
松田 もうちょっとこう、(シンジ)やっぱり身体開きすぎだったな。最後の1、2、3…のとこ。
松田 あんまりこっち(上手側)行かなくていいかな。向きはそういう(内に向いてる)感じが。
松田 まあマストではなくて、流れで言ってくれたらいいんですが。
松田 その前の時にタバコ吸ってからそうなるんだよね。
松田 開いてるのと内側向いてるのとでは、関係性、やっぱり空間が狭まるから。そっちの方がいいかなって。

松田 はい、じゃあ16時からやる?
全員 はい。

 

──休憩します。

──休憩明け。

 

通す前に、最後のシンジとケンイチが車に乗るまでのルートを確認します。

松田 じゃあ(16時)15分から行きまーす。

 

──16時15分。

 

通し

車で坂を下る場面。

終盤だが、ここで初めて空間の中心が変わる感じがする。

お疲れ様です。
96分です。

ミーティング

松田 まあ今日良かったんじゃないかな。
松田 そんなとこですかね。

松田 ちょっと「悪いことがどうのこうの」ってとこ(④のウミがシンジと話す場面)のボリュームをもうちょっと上げた方がいいかな。

松田 はい、そんなとこですかね。僕からは。
松田 なんかありましたか?
松田 (田辺さん)今日うまく行ってたね。
田辺 今日は空間が締まってるなってのを感じながらやってましたね、昨日より。

──また衣装について

松田 (横田)そのパンツがいいなあ。
横田 衣裳こっちですか。
松田 ジーパンじゃないかなって。その合わせ若くていい、シンジっぽい。
松田 あとはそれで万引きができるかどうか。
横田 若い万引き男に見えちゃいそう。
松田 そんな若くも見えないから大丈夫よ。

松田 どこに売ってんのその靴下?
田辺 奥さんが買ってきてくれたの!ハッピーソックス。

ハッピーソックス。

松田 (大門さん)ちょっと袖が長いな。
大門 そうですね。
松田 もうちょっと色があってもいいかなって、くすんでるから。
大門 あんまり持ってなくて。色付きを。
松田 なんかおしゃれな服ないの?これもおしゃれなんだけど。お気に入りの。
大門 昨日のセーターがお気に入りです。
松田 見た見た。おしゃれだけど。舞台じゃなあって感じもする。
松田 GUかなんかで買うか。
大門 自由?
大門 あ、GUか。
横田 GUじゃなさそうです。
松田 ジーユー?え?
横田 自由じゃなくてGU。
松田 GUじゃ不服そうです?
大門 そんなことないです。

松田 (大門さん)サーカス行くの? 間に合ったね。

19時から上のサウスホールでカンパニーXYの公演があります。
稽古が間に合えば見に行きたかったそうです。

松田 これちょっとでも、この緊張感を二つ続けてやれるかね。一日に。
横田 なんかコツがあるんじゃないですか。
松田 これやった後に『文化センター』やったり『文化』の後にこれやったり。
松田 『文化』は弛緩してるから簡単でしょ。
松田 ここで『文化センター』のセリフ出てきたり、間違えない?
田辺 絶対出てこない。

松田 最後の拍手のところ、中川さんいてもいいかなって思った。
横田 中川さん『シーサイドタウン』出るんちゃうかって話してたんですよ!ほえーって一回通り過ぎるぐらいとか。ムツミさんとか。
松田 まあいない方がいいと思いますけどね。
松田 あそこ(拍手のところ)に混じってるのはいいなと思ったけどね。
松田 やらないけど。

 

11月3日(木)

松田 昨日サーカスは良かった?
大門 お腹空いて帰っちゃいました。
松田 えぇっ。
大門 お腹空きすぎて待てなくて、帰っちゃいました。
松田 じゃあ横田くんだけか、見たの。
横田 スタンディングオベーションしちゃいました。人生で2回目。
田辺 興奮してたもんね、帰り会った時。
横田 よくわからんけど、みんな喜んでるから俺もここぞとばかりに喜ぼうと。

松田 じゃあやりますか。(13時)15分からにしようか。
松田 一旦通そうかな。まあ一応③の終わりで切るかね。③の終わりは…
横田 ケンイチが寝るところですね。
松田 ④の終わりは…④の終わりまで行こうか。
松田 まあ通そうか。2回通そうよ。今日で終わりだし。体力的にもそれぐらいやっといた方がどうなるかって測れるし。

松田 ちょっと力抜き気味でボヤっとやってみたらどうなるかな。そんなことできないか。
松田 肩の力もうちょっと抜いたらいいんじゃないかって思うけどね。昨日は良かったけどね。

松田 じゃあ(13時)20分からやりましょう。
深澤 服は暫定の衣装着たらいいですか?
松田 うん、2回目の通しでいいんじゃないですかね。

通し(一回目)

お疲れ様です。
96分です。

松田 今回もよかったんじゃないかな。
松田 ちょっと力抜いてみた感じですか?
横田 今までで一番力抜いてました。もう何も考えてないです。
深澤 昨日は何を考えて?
横田 聞こえてくる言葉とか、自分の家族のこととか色々。今日はただただぼーっと。
深澤 へー。
松田 なんかゆるい感じじゃなかった?肩の力が抜けてて。
深澤 意識はしました。
松田 まああんまり行きすぎるとエモーショナルな感じに…
深澤 肩の力を抜きすぎるとってことですか?
松田 うん、シンジはいいんだけどね。

松田 お兄さん(ケンイチ)もっとこう、無関心な方がいいと思うよ。最後ちょっと大丈夫かなぁって。もっと適当な方が。適当さが無くなってるかな。そっちの情感の方に触れるとちょっとやばくなる。
松田 トノヤマもそういうところはあると思う。まあ冒頭は良かったと思うけど。あれはあれで成り立ってたけど。
松田 まあでも全体は大丈夫やと思うけど。

松田 衣装はなかなかいいと思うんだけどね。
松田 みんなパンツになる。ジーンズ一家になるね。
松田 あ、それジーンズじゃないのか。
鈴鹿 いや、ジーンズです。

松田 (シンジの家の)居間のちゃぶ台を中心点に空間の配置がその都度確定して、局面ごとにシーンが出来上がってる感じがしたね。そういうふうに作ってるんだけど。こっちに冷蔵庫があるとかは定着してるけど、車のシーンとかはキュビズムみたいな配置にはなってるよね。それとかどうやって見えてるんかなって。
松田 この上演空間は一つしかないんだけど、出来事に対面するときの俳優の眼差しと身振りとその方向性によって、その都度この空間にテリトリーのようなものを確定させている。あるいは生まれたテリトリーに対して応答しているとも言えるのかもしれない。俳優なり登場人物が実際の上演空間に影響を与えつつ影響を受けながらシンジの家の居間っていう建築物とその周辺の領土を確定させていく。消えたらまたその都度確定させていく、みたいな。
松田 シンジの住む空き家っていうのが基本的な舞台としてあって。もう一つは地図上、ハザードマップの上に描かれた街もある。あとは全体訓練の場面で、どこそこに逃げ込むとか、何とかの場合って言ってるところも、場所としては庭で訓練してるんだけど、訓練の中ではそこが田んぼだったり学校だったりするわけで、その時の俳優の身振りも結果的には同じようなことをやっている。そうやって空間の位相がいくつもある。昨日『シーサイドタウン』は空間の持つ中心点が変わらないって話してたけど、よく見るとその中にいくつもの間取りがあるって言ったらいいかな。ここの真四角の中にいろんな間取りを作ったりするよね。それは可能性としては無数にあるわけで。その無数にある可能性を色々試していってるって感じがしましたね。

松田 やってみてどうでした?今のは僕の感想だけど。
横田 やってるときは自分かシンジのことしか考えてないんですけど。戯曲の世界を生きる街の人たち、その他大勢の人たちもいるよなって思って。それは見てる人には見えてるんですか?
松田 古賀さん(ウミの友達)とかね。まあそもそも演劇がそういうものだけど、この芝居もここに出てこない人たちのイメージが展開するように出来上がってるよね。黒子島がそこから見えるとか、窓の向こうに何が見えるとか、市民病院はどこにあるとか、たくさんの人が桟橋にいるとか。登場人物がここにもたらしてくる情報によって、その空間の構図が遠近法的に見えてくる。それによって解像度は低くなっていくわけだけど、その想定される解像度のあり方によって遠近法がはっきりしてくるというか。さっき言ってたキュビズムは、別の角度から見える風景を一つの画面に同居させるから変な絵画になるわけだけど、まあここもそれぞれの登場人物が連れてくるパースペクティブを共存させるから角度が歪になってくるわけで。
松田 「統合」と「総合」ってあって。「統合」は一点透視っていう感じで、最初の鍵を渡す場面だと、この人はこう渡すよねって一つのリアリティに集約させるけど、「総合」はこっちから鍵を渡そうとする人とこっちから鍵を受け取ろうとする人、それぞれの視点や見てる世界を同居させて描くようなこと。鍵の受け渡しという行為が時間的に合っていれば、空間的に空いていても大丈夫というふうに考えて作ってるわけですよね。そのあり方を僕は「総合」って言ってるんだけど。
松田 だから『シーサイド』の方は中心点があって凝集力がある、緊張感があるみたいな、それで『文化センター』の方はゆるくて散漫になってるって話したけど、それは極端な話やったかなって。シンジの家とその周辺からイメージが拡散するように出来上がってはいるんだけど、よく見るとシンジの家の中にいくつものテリトリーがせめぎ合ってて共存しているっていうか。ドライブのシーンとかも奇妙だし、あの夢の場面もね。夢って言っていいのかわからないけど。
横田 ぼやややややんってイメージ。
松田 吹き出しみたいなね。でも上演空間は吹き出しみたいにはならないから。それは重要なことだよね。俳優がある間隔で配置されてるんだけど、明らかに見えないいくつかのテリトリーが成立してるじゃない。Aっていう俳優とBっていう俳優の空間把握が同じ空間で共存してる。でも本当は対面していたり、お互い実際に見ることもできたりするっていう。
松田 単なるエモーショナルな心理劇を成り立たせるんだったら、もうちょっと向き合ってやった方がいいだろうし対立を作っていけばいいんだけど。
松田 感情の持たせ方も、その全体の情動の中の一つってことかな。ナイフを持って、机に刺して、それが抜けないっていう一連のところとか。シンジのテリトリーの中にトノヤマが入っていくときの情動の動きというか、それが相互に触発し合う見えない空気の領海侵犯的なことでもあるからね。そういうものが今回より鮮明に見えるようになってた。今は俳優に余裕があるからかもしんないけど。だからそれが感情の方にいっちゃうともったいないなって感じがするけどね。
松田 情動って言っても、単にこう緊張させたり恐怖で塗り尽くしてしまうってことではわかんないから。
松田 肩の荷を下ろしてやってみるといいんじゃないかなって。(雰囲気が?)一色にならない方がいい。一番危ないところはナイフが現れた時。ナイフは実際は見えないわけだけど。

松田 通し何時からがいいですか。
松田 シンジに合わせます。
横田 外でなんかやってるの、ちょっと見たいなって。

文化の日ということで外の岡崎公園ではフリマが開催されており、大変賑わっています。

松田 じゃあ16時半からやりましょう。

 

通し(2回目)

お疲れ様です。
(ほぼ)96分です。

ミーティング

松田 最後の(シンジとケンイチの)ところあんまり良くないんだよな。どんどんシリアスになってる。もうちょっとなんかすんなりいかんかなって。(ケンイチのセリフの)「行こうか」も深刻なんよね。犯罪した人みたいな。
松田 お兄さん(ケンイチ)もヒューマニズムの方に行きつつあるので。
松田 あそこだけ部分稽古。今日はもうしないけど12月しましょうよ。
横田 はい。

松田 あとはまあよかったんじゃないかな。2回やったけど、体力的にどうでした?
松田 (横田さん)フリーマーケットにも行ったのも踏まえて。
横田 『シーサイド』2回やと前後で比べたり気にしちゃうなって。でも違う作品だったら特に。

松田 「市民センター」と「文化センター」があるからね。
深澤 怖いです。

1回目の通しで『シーサイドタウン』のセリフにある「市民センター」を「文化センター」と間違えそうになったので。

松田 こんなところですかね。なんかありますか。

──12月の稽古について

横田 ガンガンやりましょう。同じ日に両方やりましょう。
松田 まあまあ二つともある程度できてるからいいんですけど。まあ初日は『文化センター』やった方がよくないかな。期間的に長く離れてるからね。
松田 次が5日間あるんだよね。休み入れるかな。
横田 入れない。
松田 入れない?ええ?
深澤 早く終わる日があるとか。
横田 ああそれいいっすね。
田辺 早く終わりたい。
松田 21時までやるか。
鈴鹿 真逆のことを言わはる。
松田 まあ何も考えてないけど稽古をするってことですよ。どうせ通しばっかりです。通ししてはどこが悪いっていう。
松田 ではまた来月。お疲れ様でした。

稽古で決まった衣装を中川さんに共有する。

  • 福井 裕孝
    福井 裕孝 Hirotaka Fukui

    1996年京都生まれ。演出家。2017年にマレビトの会『福島を上演する』に演出部として参加。2018年から個人名義での作品の発表を始める。近作に『インテリア』(2020)、『デスクトップ・シアター』(2021)、『シアターマテリアル』(2020,2022)など。下北ウェーブ2019選出。ロームシアター京都×京都芸術センターU35創造支援プログラム“KIPPU”選出。2022年度よりTHEATRE E9 KYOTOアソシエイトアーティスト。

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