多様な角度から同時代の社会を知り、捉え直すためのトピックを挙げ、それにまつわるゲストを招くトークシリーズ。複雑化し、混迷する現代をいかに生きるべきか。その手がかりを探り、ともに考えていきます。
第20回目は、主には映像やパフォーマンスなどの作品を発表しているアーティスト・百瀬文氏と、自然科学・エコロジーと現在の諸問題をめぐる環境哲学を研究し、英文学者、哲学者であるティモシー・モートンの和訳の第一人者としても知られる篠原雅武氏をお迎えします。今回は両者のトークの前に、百瀬文氏の映像作品「Flos Pavonis」(2021)、「Social Dance」(2019)を上映したのち対話を行う形式とします。
百瀬氏は、自他の身体をめぐるコミュニケーションにおける不均衡と、そこに生じるセクシュアリティやジェンダーの問題を扱っているアーティストです。昨今、自分/個人が所有するはずの身体が、社会の言説・制度・道徳といった通念に抑圧されていると訴える「痛み」の声は高まり続けています。氏の作品は、そうした「痛み」という個人的・身体的感覚は他者と共有可能であるのかという問い、そして異なるものへの想像力が孕む連帯の可能性と暴力性の両面性を鑑賞者に提示しています。
消費と「個」の利益を追求する社会や生活は、生活の困難や苦しさとともに、こうした個人の「痛み」は自覚されにくいシステムで成り立っています。しかし「痛み」は、たとえ言葉にされなくても、そこに確かに存在している。篠原氏はその状況を捉えなおし、自分への配慮とヒト・モノを含む他者との結びつきから、全体的な、(相互連関性という意味での)エコロジカルなものとして世界を捉えなおすことはできるかという問いに向き合う哲学者です。あらゆる人間や人間以外のものと複数的に集合し、一緒に生きていくための条件とは何か――その思索において、社会で意識されえない固有の身体や感覚に耳をすますこと、現実の描写を超えて個の想像力を可視化する芸術は、世界のあり方をエコロジカルなやり方で把握するうえで重要な手がかりとなると氏は説いています。
百瀬氏の作品と両者の対話を通じて、「身体」の輪郭とその曖昧さ、「痛み」やその弱さと共存する世界への新たなまなざしを見つけることができるでしょう。
開催日時・会場
公演・作品について
ゲスト
百瀬文(アーティスト)、篠原雅武(哲学者)
上映作品
《Flos Pavonis》
2021年/シングル・チャンネル・ビデオ/30分/東京都現代美術館蔵
ポーランドで2021年に成立した人工妊娠中絶禁止法や日本の堕胎罪などの状況が映し出され、個人の身体に対する国家権力による管理がコロナ禍で強化されてゆく様子を問う。
※一部刺激的な表現が含まれます。
《Social Dance》
2019年/シングル・チャンネル・ビデオ/10分33秒/大阪中之島美術館蔵
聴覚障害をもつ女性と、耳の聞こえる男性との間で交わされる手話によるコミュニケーションにまつわる作品。他者への想像力と行為には、愛情と暴力の両面性を孕んでいることが示唆される。
参加費
無料(事前申込優先)
※16歳以上推奨
※当日お席がある場合は申込無しでもご参加いただけます
申込方法
専用予約フォーム(こちら)あるいは FAX (075-746-3366)でお申し込みください。FAX には、参加希望日、お名前、参加人数(4名様まで)、ご連絡先お電話番号をご記入ください。
申込〆切日:2023年3月29日(水)
プロフィール
百瀬 文Aya Momose
1988年東京都生まれ。2013年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。主な個展に「I.C.A.N.S.E.E.Y.O.U」(EFAG East Factory Art Gallery、東京、2020年)、「サンプルボイス」(横浜美術館アートギャラリー1、神奈川、2014年)など。主なグループ展に「国際芸術祭 あいち2022」(愛知芸術文化センター)、「新・今日の作家展2021 日常の輪郭」(横浜市民ギャラリー、神奈川)、「彼女たちは歌う」(東京藝術大学 美術館陳列館、2020年)、「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」(森美術館、東京)、「アーティスト・ファイル2015 隣の部屋——日本と韓国の作家たち」(国立新美術館、東京・韓国国立現代美術館、2015-2016年)など。2016年度アジアン・カルチュラル・カウンシルの助成を受けニューヨークに滞在。2023年6月まで青森県の十和田市現代美術館にて個展「口を寄せる」を開催中。
篠原雅武Masatake Shinohara
1975年神奈川県生まれ。1999年京都大学総合人間学部卒業。2007年京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)。現在、京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定准教授。
単著書に『公共空間の政治理論』(人文書院、2007年)、『空間のために』(以文社、2011年)、『全−生活論』(以文社、2012年)、『生きられたニュータウン』(青土社、2015年)、『複数性のエコロジー』(以文社、2016年)、『人新世の哲学』(人文書院、2018年)、『「人間以後」の哲学』(講談社選書メチエ、2020年)。主な翻訳書として『社会の新たな哲学』(マヌエル・デランダ著、人文書院、2015年)、『自然なきエコロジー』(ティモシー・モートン著、以文社、2018年)、『ヒューマン・カインド』(ティモシー・モートン著、岩波書店、2022年)。
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