ベルギーの世界的ダンスカンパニー<ローザス>を主宰するアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル。『和声と創意の試み』来日公演に向けて、振付家ラドワン・ムリジガをはじめとする今回のコラボレーターのこと、題材に選んだヴィヴァルディの《四季》のこと、そして〝四季〞のある日本についても想いを語ってもらった。
聞き手=唐津絵理(愛知県芸術劇場芸術監督)
転載元:彩の国さいたま芸術劇場広報誌「埼玉アーツシアター通信」(VOL.120 2026年4月号掲載記事) より

© Anne Van Aerschot
──今回、ヴィヴァルディの《四季》を取り上げた理由を教えてください。
《四季》は重要な作品です。構造、物語性、ヴァイオリンの特質など、多くの点で西洋音楽史における象徴的な作品で、私は以前から手がけたい曲のリストに入れていました。ご存じのように全4楽曲で四季を表現し、各曲は3つの楽章で構成されています。私にとっては、ダイレクトに踊りへと誘われる音楽なのです。
──ラドワンさんとは、どのように協働していったのでしょうか?
私はブリュッセル近郊の農家の出身、ラドワンの家族はモロッコのアトラス山脈の農民で、ふたりとも田舎と都会の両方に触れながら育ちました。彼と私はともに自然の精神的な側面に興味と愛着を抱いていますが、音楽へのアプローチはまったく異なっています。私は楽譜や音楽分析を重視しますが、彼は無音や、ダンスと音楽の独立した関係性に焦点を当てます。彼はダンスと音楽の距離感に注力するのに対し、私はその融合を追求しています。
私たちは、ともに視覚芸術からも影響を受けています。私は16世紀のフランドル派画家ピーテル・ブリューゲルが季節を描いた六連作に触発されました。一方ラドワンは地中海地域のギリシャ神話や、神々・自然・人間の神聖な関係を扱うペルシャやシリアの神話に深く感化されました。さらに彼は作品の終盤に、アスマー・ジャマ(デンマーク出身のソマリア系マルチメディアアーティスト、作家、映像作家)の詩も取り入れました。その美しい詩『We, the salvage(我ら、救い出されし者)』には、気候変動がもたらす脅威が、いうなれば啓示的な方法で非常に暗く描かれています。古代から現代に至る、私たちと自然との結びつきについて。人間が容認し、引き起こしている破壊的な力、そして私たちが環境を破壊する様子などが作品に投影されています。
──音楽という抽象的な表現を、どのように“身体”や“動きの構造”へ翻訳していくのでしょうか。
ヴィヴァルディの《四季》には各楽章にソネット(14行の短い詩)が添えられており、農夫の営みや鳥たちなど自然の情景がかなり具体的に描かれています。このテキストとブリューゲルの絵画に触発されたので、それほど抽象的だとは感じませんでした。そしてこの曲には、回転したり渦巻いたりするような音形が多く登場するため、回転や楕円形のパターンを多用しました。また、ステップも取り入れました。ステップは時間構成の基本であり、音楽との接点でもあります。
長調と短調を使い分けた和声や、和声の変化も極めて重要です。不思議なことにほとんどの緩徐楽章(ゆったりとしたテンポの第二楽章)は短調で書かれているのですが、長調では前進・上昇、短調では後退というふうに、それぞれの和声に結びつく振付の語彙を発展させようと試みました。ヴァイオリン、物語、和声、音楽のもつさまざまな要素との関係をいくつも重ねながら、動きを構築していきました。
衣裳も非常に重要で、2度目のコラボレーションとなるアオウアティフ・ブライシュはドリス・ヴァン・ノッテンと多くの仕事をしています。アオウアティフは色彩やさまざまな素材を駆使し、身体を覆ったり露わにしたりすることで、動きの構造を強調あるいは抑制する表現を得意としています。

© Anne Van Aerschot
──今回は出演ダンサーも共同創作として名を連ねていますね。
ブレイクダンサーのナシーム・バダグとコラボレートしました。ブレイクダンスには美しく見事な螺旋状の上下運動や回転が数多く存在します。ラドワンが動きの語彙を構築し、私がそれを発展させましたが、ブレイクダンスのテクニックから多くの着想を得ました。コラボレーションとはつねに最適な形式を探すためのプロセスで、そこにダンサーの存在は不可欠です。
──《四季》は日本人にとっても馴染みの深い音楽で、また日本には“四季”があります。一方で、気候変動によって季節の輪郭が変わりつつあるともいわれています。この作品を日本で上演することについて、日本の観客へメッセージをいただけますか。
日本の芸術には四季が深く刻まれています。絵画や音楽などの文化において、つねに自然やその精神的な力との強い結びつきがあり、自然への敬意を見出すことができます。しかしまた日本は、広島や福島で起きたような、最も破壊的な力にも直面してきました。技術の進歩がいかに私たちを自然から遠ざけたかということを考えさせられます。人類が自然を破壊するとき、それは自らを破壊することであり、自然の神聖な力を破壊することだと気づくのです。自然を敬い畏れる精神が今も色濃く息づいている日本で、この作品をぜひ皆さんに観ていただきたいと思っています。
<公演詳細>
〈10周年記念事業〉アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル、ラドワン・ムリジガ
ローザス、アトラファイブ
『和声と創意の試み/ Il Cimento dell’Armonia e dell’Inventione』

Photo: Anne Van Aerschot
2026年6月27日(土)19:00開演
6月28日(日)14:00開演
会場:ロームシアター京都 サウスホール
https://rohmtheatrekyoto.jp/event/148028/
振付:アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル、ラドワン・ムリジガ
共同創作・出演:ボシュチャン・アントニッチ、ナシーム・バダグ、ラヴ・クルンチェヴィッチ、ホセ・パウロ・ドス・サントス
音楽:アントニオ・ヴィヴァルディ《四季》
録音:アマンディーヌ・ベイエ、リ・インコーニティ Alpha Classics / Outhere Music(2015)
音楽分析:アマンディーヌ・ベイエ
詩:アスマー・ジャマ「We, the salvage」、アントニオ・ヴィヴァルディ「Le quattro stagioni」