
左からルギーレ・バルズジュカイテ、ヴァイヴァ・グライニテ、リナ・ラペリテ
2019年、世界最高峰の国際美術展であるヴェネチア・ビエンナーレで『Sun & Sea(Marina)』が金獅子賞を受賞し、一躍、世界のアートシーンから注目を集めたリトアニアの女性アーティスト、ヴァイヴァ・グライニテ(台本)、リナ・ラペリテ(作曲・音楽監督)、ルギーレ・バルズジュカイテ(演出・美術)。その共同作業の端緒となった『HAVE A GOOD DAY!』の日本初演に向けて、彼女たちのコラボレーションや独自の表現スタイル、作品をとりまく環境の変化についてメールインタビューを実施した。
聞き手=後藤孝典(ロームシアター京都 事業課)
翻訳=山口恵子
English:https://rohmtheatrekyoto.jp/en/archives/hgd_interview/
Q1.『HAVE A GOOD DAY!』は、三人にとって初めての共同創作となる作品ですね。どのようにしてこの共同創作が始まったのか、教えていただけますか。また、この共同創作のプロセスは、作品の表現にどのような影響を与えているのでしょうか。
リナ・ラペリテ(LL):私たちの共同制作の強みは、私たちがひとつのコレクティブ(集団)ではないという点にあります。私たちは皆、それぞれ独立したアーティストです。結婚と同居の違いに似ているかもしれません。最初からお互いの作品に惹かれ合っていて、だからこそ、何かを一緒にやってみようということになりました。異なる視点や知識をコレクティブな思考に持ち込みながら、同時に、それぞれのエゴにどう向き合うかも意識的に実践しています。そして、それがうまくいっているんです! 簡単なことではありませんが、そこからたくさんのことを学んでいます。
ルギーレ・バルズジュカイテ(RB):美しさは、このエコシステムそのものにあると思います。アイデアを生み出していくときも、それを実現していくときも、同じです。そこに関わる一人ひとりが、とても重要な存在です。私たちは創作プロセスを、ヒエラルキーのない、喜びに満ちた共有の行為だと考えています。
ヴァイヴァ・グライニテ (VG) : 創作プロセスは、複雑に絡み合っています。作品のそれぞれのレイヤーが、ひとつひとつ慎重に、同時に積み上げられています。例えば、私が短いリブレット(歌詞・台本)を少し書くと、レジ係のキャラクターのオーディションがすぐに行われます。ふさわしい歌手が見つかったら、その人の声や姿に基づいてメロディーが創られます。メロディーはいつもテキストに寄り添い、それぞれの物語の核を増幅する役割を果たします。言い換えれば、私たちそれぞれの異なる芸術的な実践やインプットが、綿密に紡がれた作品の表現に映し出されているのです。
Q2.『HAVE A GOOD DAY!』ではスーパーマーケット、『Sun & Sea』(ヴェネチア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞)では海辺など、日常の風景を題材とすることで、伝統的なオペラとは異なる表現を生み出されています。この独特の表現スタイルは、どのようにして作り上げていかれたのですか?
RB:私たちのインスピレーションは、自分たちの周りの世界を観察し、より大きな全体像を捉えるきっかけとなる、特定の社会状況を見つけるところから始まります。私たちは、社会の中で見られる振る舞いを、単なる偶然としてではなく、あまりにもありふれているために時に見えなくなってしまう、繰り返されるグローバルな振り付けの一部として捉えようとします。よく目を凝らして見ると、こうしたパターンは、哲学的な速度で語り始めるのです。
VG:ありふれた状況や日常は、ミクロな物語と「私」という視点を与えてくれます。そこにズームインすることで、より広くひらけた景色が現れてくるのです。逆説的ですが、小さな個人の物語が、宇宙的な視点を開き、私たちに直接語りかけてきます。このアプローチは技術的なものではなく、壮大で抽象的なテーマを伝えるための、詩的な方法なのです。

“Sun & Sea (Marina) ” Photo by Gabrielius Jauniskis
Q3. 初演以来、『HAVE A GOOD DAY!』は世界中の多くの国で上演されてきました。各地での反応はどのようなものでしたか?また、スーパーマーケットの設定や、そこに通底しているテーマはリトアニアだけでなく、日本においても共鳴するものです。この文化を超えた普遍的な魅力は創作プロセスの初期段階から意識されていたのでしょうか。
LL:買うこと、売ること、ヒエラルキーやジェンダーにおける関係性は非常に普遍的なテーマです。ローカルなメッセージでありながら、同時にグローバルなものに取り組みたいと考えています。私たちの共同作品『Sun & Sea』では、気候変動についても同様の方法で扱っています。一方では非常にグローバルなテーマですが、同時にローカルな視点を持つことは極めて重要なのです。
VG:『HAVE A GOOD DAY!』と『Sun& Sea』の物語やイメージは、レジ係個人の物語やスーパーという設定、あるいは浜辺の黄金の砂を通して、リトアニアの社会や地理的な風景に根ざしています。しかし、これらの表象が異なる文化的文脈に持ち込まれると、そのローカルなニュアンスはアウラのようなものに変わっていきます。どちらの作品においても、小さな物語が地域性を超えて発展し、普遍的な問題へと届いていくのです。これらの小さな物語は、まるで世界のミニチュアのように、より大きな物語の中で、何かを露わにし、共鳴していきます。
Q4. 2013年の初演以来、社会構造や人間の労働を取り巻く環境は大きく変化しています。とりわけ、AIの急速な発展は目覚ましいものがあります。振り返ってみて、作品のメッセージやニュアンスは、これまでどのように変化してきたでしょうか。
LL:テクノロジーの発展がどれだけ急速に進もうと、または資本主義社会のスピードがどれだけ加速しようとも、人間の心や、もろさ、やわらかさ、その根本、シンプルさと複雑さは変わらずそこにあります。今もなお同じで、同じ循環の中に閉じ込められています。
RB:少なくともリトアニアにおいては、ジェンダーの役割に変化がみられます。以前より男性のレジ係が増えていますので、私たちのオペラに登場する10人の女性のレジ係は、現在のジェンダーの役割から見ると極端に見えるかもしれません。
VG:もしこの作品が今日創作されていたら、クィアのレジ係や、ロボットのレジ係や、更年期の症状を抱えたレジ係、そして戦争や気候危機によって難民になったレジ係が登場していたでしょう。世界や私たち一人ひとりの経験は確かに絶えず変化しています。それでも、生と死の循環は、繰り返される宇宙のビープ音に合わせるように、変わることなく続いているのです。
Q5. 日本の観客の皆さんへメッセージをお願いします。
LL:こんにちは、ありがとうございます、日本の皆さん、Have a good Day!日々、いい一日を!
RB:素晴らしい物語は売り物ではありません。それは、売り買いとは関係のない選択をしたときに生まれます。売ることと買うこと、その間のどこかにあるものを、楽しむことを忘れないようにしましょう。
VG:どんなに完璧に演じられて、反復的で、機械的で、一見すると非人間的な行為にも、そこには人間の魂が宿っています。

“HAVE A GOOD DAY!” Photo by Tiziana Tomasulo