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Sound Around 006『Weavings|おること』関連コラム

茶の湯と舞台、記憶と場所、音階と楽譜… 異なりの「おりあわさり」から紡がれるメソッド
Sound Aroundクリエイションメンバー座談会

構成:儀三武桐子(ロームシアター京都)
2026.6.9 UP

ジャンルや固定観念にとらわれない「音楽」を軸とした表現活動を行うアーティストによるパフォーマンスを紹介するシリーズ「Sound Around」。第6弾のアーティストは、京都を拠点に活動し電子音響、パフォーミングアーツ、現代美術、伝統工芸など幅広い領域を横断して作品を制作している武田真彦を迎えた。
今回は、Sound Around 006『Weavings|おること』(2026年6月13日・14日開催)の上演に先立ち2部構成による関連トークイベントを開催した。本レポートでは、第2部のクリエイションメンバー座談会の模様を紹介する。なお、登壇した、メインアーティストである武田真彦、場所と記憶に着目した活動を続けるキュレーターの上田聖子、茶の湯を時間と空間の芸術として捉え越境的な活動をする茶人の中山福太朗にくわえ、メンバーとして、ヴィブラフォン・打楽器奏者の芦田かんな、鳳笙奏者の井原季子、調香師の沙里が関わる。

第一部のトークレポートはこちら。
武田真彦×矢代真也(矢代仁/YSN Studio) 「西陣織の工場跡で考える、おること、つぐこと」レポート

左から上田聖子、武田真彦、中山福太朗

登壇者:武田真彦(アーティスト)、上田聖子(キュレーター)、中山福太朗(茶人)
司会:成瀬はつみ(ロームシアター京都)
2026年5月23日 於:西陣織「大樋の黒共」旧工場

構成:儀三武桐子(ロームシアター京都)

 

武田真彦

──今回、武田さん含めて6名のクリエイションメンバーが集まりました。どうしてこのメンバーになったかというところからお聞かせいただけますか。

武田 お客さんと演者の関係性や空間の使い方など、公演の土台から実験的に探っていきたくて、西洋楽器奏者、鳳笙奏者、キュレーター、調香師、茶人、いろんな分野の方にお声がけしました。

お茶を点てない茶の湯? 越境で研ぎ澄まされる時間と空間の思想

武田真彦、中山福太朗

──武田さんは、茶人の中山福太朗さんと継続して作品づくりをされていますね。

武田 最初の出会いは7年前ですね。音楽レーベル「涼音堂茶舗」の星さんが毎年法然院で開催しているイベント「Electronic Evening 電子音楽の夕べ」でご一緒し、アンビエント音楽と、茶の湯のアイデアを合わせた体験をつくりました。今回も空間と時間を一緒に考えたくて一番はじめにお声がけして。 

中山 中山です。この公演を周りにお知らせすると「えっ歌うの?」「踊るの?」と訊かれるのですが(笑)、私はふだん裏千家の専業茶人をしています。でも茶道の家系でもなく、身内にお茶をやっていた人もおらず、ある意味で外側から入りました。だからこそお茶の基本に立ち戻って考えていったことが、今の越境的な活動につながっていると思います。
今回私は、茶の湯と舞台芸術の共通点から、時間と空間の進行を考える役割を担います。時間のパートごとに流れが設計されていること、その時の道具や会話によってその場限りのイマジネーションがひろがること、そして必ず時間と共に終わりが来ること。亭主だけじゃなく客も場を共に生む「演者」であるところも含めて両者はかなり近いと思っていて。
武田さんとつくった作品をみていきましょうか。

中山 これは法然院での作品です。お茶を、要素をいつどのように配置していくかで場が変わっていく、時間と空間の芸術として捉えました。武田さんがつくった音が流れるなか、私は茶会の亭主でありながら一服も茶を点てず、ひたすらお客さんの前で物の配置を変え続けて(笑)。自分のなかでもエポックメイキングな作品ですね。

中山 これは翌年の作品で、一見お茶を点てているように見えますが、釜が鳴る音をマイクでピックアップしています。シューッと湯が沸く音が空間に広がって、そこに水を一滴落とすとパーンと消えるんですよ。その瞬間の空間を体験にしました。

中山 これは武田さんが開発に関わった「CYCLEE」という装置です。おりんがのったターンテーブルを回転させて音を発生させるインスタレーションです。5つのおりんの周波数それぞれに反応するディスプレイを置き、それによって音と映像が反応しあいます。私は、おりんを置いたり取ったり、お湯に水を入れたり入れなかったりしながら、空間をつくっていきました。このときもお茶は点てなかったですね。
次の作品は一番タケダ色の強い作品かもしれない。

武田 ゆれているのは丹波ちりめんです。西陣織のリサーチで出会ったのですが、とろみが本当に美しくて。人が空間を通った時に起こるわずかな風でゆらぐ布の距離から音を生みました。
次は「置花」という作品です。

中山 お茶の奥儀のひとつを時間と空間のレイアウトであると捉え、複数人で行うゲームを考案しました。配置によって生まれるばらばらな音が、だんだんと空間のなかで響きあうことで、ひとつの音楽のように聞こえてくるんです。最後、物を全部取り去って音がピタッと消えたとき、拍手が起こりました。茶会で拍手が起こることがあるんだって、嬉しい経験でしたね。

中山福太朗

中山 お茶というすでに完成されたすばらしいフォーマットを、別のシチュエーションに重ねるときに、一旦要素をバラバラにして組み替えてみる。お茶の可能性をひろげたい、なにかやったりたい、という気持ちが今の活動につながっていると思います。

保存修復から考える変容 記憶から浮かびあがる場所性

上田聖子、武田真彦

武田 上田聖子さんは九条にあるHOTEL ANTEROOM KYOTOの元支配人です。ホテルに併設するギャラリーで上田さんが企画した展覧会に呼んでいただいたことが出会いですね。

上田 2021年の「デジタル・オーガニック」展ですね。そもそもなぜホテルで展覧会をしたかというと、パナソニックさんとUDSが共同で開発した瞑想体験を軸にした宿泊型の「(MU)ROOM」プロジェクトがきっかけです。部屋だけじゃなくエントランスからの導線もふくめて体験にできないかと考え、当時コロナ禍だったのもあり、音や記憶や光など五感で受けとれるものを手がかりにしながら形にしていきました。私が学生当時、東洋思想、ジョン・ケージ、フルクサスを研究していたこともあり、武田さんとよく話すようになりました。

写真:大澤一太

武田 これはそのときホテルのエントランスに展示した香の作品です。ドリッパーのようになった部分に灰が残っていきます。

上田 灰の状態で時間の経過がわかる現代版香時計ですね。

武田 今回は調香師の沙里さんが香を担ってくれますが、音だけじゃなく、香も人間が空間と時間を把握するための重要なメディウムだと思っています。

上田 3年前に独立しましたが、昨年は、この場所(「大樋の黒共」旧工場)で武田さんの個展「Weaving Studies ー 織ることのスタディ」も一緒に企画しましたね。今回のSound Aroundにも通じる内容で、保存修復の研究者である森尾さゆりさんをゲストに「継承と保存修復のエシック」というトークイベントも開きました。

「Weaving Studies ー 織ることのスタディ」展の様子 写真:青野由香

トーク「継承と保存修復のエシック」の様子 写真:佐々木明日華

上田 記憶の痕跡が残る旧工場を舞台に、解体することとその先の可能性をコンセプトに据えました。展示やトークをこの場所でおこなうなかで、家業としては継がなかった武田さんが、別のかたちで試みられている創作観が浮かびあがっていく時間になりました。

武田 「保存修復」と聞くと、どうしても守る、時間を戻していくというイメージがあったのですが、トークゲストの森尾さんが、「保存修復は変容させていくこと」だと話されていたことが印象的でした。その見方は今作にも影響しています。

上田 そうですね。企画では、「何かを残そうとするとき、何を価値とするのか?」と考えることを大事にしました。思い出のような精神性なのか、それとも物質的なかたちなのか。
それぞれの場所に潜在する価値や記憶を掘り起こして、組み合わせたり掛け合わせたりすることは私のキュレーターとしての活動とつながるものです。今回の舞台作品でもそういった観点から探っていきたいです。

武田 上田さんとは「*** in Residence Kyoto(アスタリスクインレジデンス)」の共同ディレクターとしてもご一緒しています。海外のクリエイターを受け入れる仕組みづくりで、そこで大事にしていることも、より開かれた関係への接続ですね。

茶の湯の智慧を舞台へ転化 おりあわせる土台としての「楽譜」

上田聖子、武田真彦、中山福太朗

──時間と空間の話はクリエーションでもずっとディスカッションしてきましたね。構想はどうでしょう。

武田 構想は全体の時間設計から考えていきました。ふつうの音楽パフォーマンスだと、内容を決めてから時間や空間をはめていく流れが一般的だと思いますが、その前提からメンバーで考えなおしていきたかった。私のバックグラウンドにも関わる「おること」というテーマを拡張し、日本の伝統、美学、茶の湯の考え方などをメンバーで意識的に交差させていきたい。具体的には茶の湯の展開を舞台芸術のフォーマットに転化させて設計していきましたね。

中山 お茶の流れを舞台のフローに見立てました。お茶の英訳はティーセレモニー、お茶の「儀礼」となりますが、お茶の要はお茶そのものではなく、プロセスの全体設計のほうなんですよね。茶の湯はそのフローを五百年近く積み重ねてきた。その智慧を舞台公演へ転用できると思いました。

武田 …この場にいる方限定で現時点でのフローをお見せしましょうか。

クリエーション中のフロー

中山 横軸が時間経過で、縦軸は上がり下がりの波を表しています。お茶では、茶事と呼ばれる4時間程のフルコースがあって、前半パートは、お酒もでる食事の時間で和気あいあいとした雰囲気で進みます。休憩を挟んだ後半が、一般的にお茶でイメージされる静かなパートです。濃茶という一番ヘビーなやつが供され、さっきまであんなに楽しそうにしてた亭主も厳しい顔でじっとして…という落差が設計されています。前半に上がって、急にドーンと落ちて、そこからまただんだんと緩んで上がっていくというお茶の流れを舞台進行に落とし込みました。

武田 上がっては下がっての波は陰陽の関係も込めています。

──武田さんは当初から作品というよりメソッドを作りたいと言われていましたよね。

武田 はい。一過性ではない、楽譜のような…でも五線譜とも異なるものを想定しています。くりかえすごとに新たにおりあげていけるような、決めきらない指示書のような感じでしょうか。
PCの音楽制作ソフトや、電子音楽機材など、数字やプログラミングを元に作曲していることもあり、一般的な楽譜がほぼ読めないことがずっとトラウマだったんです。でも、芦田かんなさん、井原季子さんと会話を重ねるなかで考え方も変わってきて、楽譜というものを制限や枠をつくることで表現を自由にしてくれる「指示書」として捉えてみたら一気に新鮮に感じられて。そこから自分なりの楽譜、異なるものがおりあわさるための土台、「変容のための型」のようなものをつくれたらと思っています。

西洋と日本 知識や経験 異なりをおりあわせる方法を探って 

──音では、ヴィブラフォンと笙が組み合わさりますね。

武田 西洋と日本、異なる楽器、記譜法、音階…、それらをおりあわせることが今回の音の実験のひとつです。音階にも意味があるんですよね。今作のテーマに合う笙の音階をとりだしてヴィブラフォンに重ねてみたり、中世の教会でかつて歌われていた音階を使ってみたり…実験中です。

中山 ちなみに、ヴィブラフォンは、モーター付きの鉄琴のような比較的新しい西洋楽器で、プロペラが回ることで音が拡張されてふわーんとした不思議な音色の楽器です。

武田 あと、詩の朗読も入る予定です。というのも、上田さんや福太朗さんなど別ジャンルの方と接するなかで、言葉で伝える大事さを自覚しまして。

中山 言葉での説明は流れを断ち切ってしまうこともありますが、必要な場面もあると思うんです。たとえば、お茶はその場に集まった人の知識や経験がある程度揃っていたほうが、焦点が定まっていい会になりやすいんですよ。「ご存じでしょう」っていう態度で進めずに受け取り方を伝えることは、より良い場を共にするために必要だなと。

武田 こういったアイデアは音楽の現場からはあんまりでない気がしますね。 だからこそ意識することで体験が変わるだろうなと思います。
芦田かんなさんの話からも、大きなインスピレーションをいただきました。

──ワーグナーが自分の音を聴かせるために専用劇場をつくった話ですね。中世ヨーロッパの音楽は社交場での演奏が当たり前で、奏者も聴者も交じりあうなかでの聴取体験がふつうでした。ワーグナーはそれに対抗して、自分の曲をしっかり聴いてもらうために、奏者と聴者がステージと観客で分かれた専用劇場をつくりました。バイロイト祝祭劇場といって今もあります。そこから始まった形式が今も定着しています。

武田 クラシック音楽、または私が普段パフォーマンスしているDJにおいても、元々はオーディエンス/観客が空間の中心にいたということに気づきました。演奏の内容ももちろん大切ですが、今回は特に、一方向性的なものではなく、演者と観客の関係性をほどくような時間と空間を作りたいという想いで取り組んでいます。一方で、目的のためにハードを変えてしまう発想も面白いですね。

中山 千利休がやったこともそうなんじゃないかな。目的や構造が先で、そこから極小の茶室や、黒い楽茶碗など、今までにない形式が生まれていったんだろうなと。
ひるがえって、今回の『おること』もロームシアター京都新ホールを作るところから始めなきゃでしたが、残念ながら予算と時間の関係で間に合わなかったので…、武田さんが大成した暁につくっていただけると期待しましょう(笑)。ノースホールが地下2階なので、地下3階ぐらいに掘りますか。 Sound Around500ぐらいでどうにか。

武田 そうですね(笑)。

上田 (笑)。

──京都は地下掘るの難しいですけどね(笑)。

会場となった西陣織「大樋の黒共」旧工場

  • 武田真彦

    ⓒTomoko Hayashi (atelier now/here)

    武田真彦 Masahiko Takeda

    京都を拠点に活動する音楽家、アーティスト。同志社大学商学部卒業、Central Saint Martins Couture Tailoring 修了。 家業であった西陣織「大樋の黒共」の廃業を背景に、残された素材・技術・歴史を継いでいく見立てを通じて、サウンドインスタレーション、パフォーミングアーツ、現代美術、伝統工芸など幅広い領域における作品を制作。主な作品として、フルアルバム「Mitate」(2019年)、サウンドインスタレーション作品「CYCLEE」(2020年)、音のプロダクト「Synclee」(2023年)、サウンドインスタレーション作品「WEAVING BLACK」(2025年)などがある。2023年、香港メディアアートアワード FUTURE TENSEにおいて、サウンドインスタレーション作品「CYCLEE」がBEST POPULARITY AWARD最優秀賞を受賞。
    武田真彦WEBサイト

  • 上田聖子

    Photo Takehiro Iikawa

    上田聖子 Masako Ueda

    MISENOMA代表/キュレーター/ホテルアドバイザリー
    1982年生まれ。英国グラスゴー美術大学卒業後、ホテルアンテルーム京都の支配人を経て独立。アートとホスピタリティを横断し、キュレーションを通じて価値の編集と伴走を行っている。近年は、アートと医療のあいだに生まれるケアの可能性に注目し、社会との新たな関わり方を探っている。
    主な企画展に「デジタル・オーガニック」展 ホテルアンテルーム京都(2021年)、「24/7」HOTEL ANTEROOM SEOUL(2024年)がある。

  • 中山福太朗

    Photo:Ryo Kawano

    中山福太朗 Fukutaro Nakayama

    茶人。両足院 茶頭。茶の湯の知恵や技術を分解し、組み変えることで、現代に接続する茶の湯を具体化する活動を続けている。
    2019年~2025年 涼音堂茶舗「electronic evening 電子音楽の夕べ」(法然院、京都市)茶会亭主 など。
    Instagram

  • 儀三武桐子(ロームシアター京都) Kiriko Gisabu

    市立公民館で社会教育主事有資格者として事業の企画運営に従事(2011~2018年)。広告代理店のプランナーとしてイベントや各種広報物の企画制作を担当しながら、並行してコミュニティスペースの運営、イベント企画、記事の執筆・編集を手掛ける。2023年よりロームシアター京都に勤務。主な企画に「”いま”を考えるトークシリーズ」(2025~)。

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