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#コラム・レポート#2020年度

シンポジウム「劇場におけるハラスメントを考える —個人が尊重され、豊かな対話が生まれるために—」第2部抄録

2021.5.21 UP

◾︎開催日時:2021年2月14日(日)
◾︎主催:ロームシアター京都
◾︎内容:シンポジウム「劇場におけるハラスメントを考える —個人が尊重され、豊かな対話が生まれるために—」


本稿目次
●第2部 ディスカッション「すべての人々が尊重される上演・創造環境を目指して」ハラスメント防止に関する取り組み紹介 1
●ハラスメント防止に関する取り組み紹介 2
●ハラスメント防止に関する取り組み紹介 3
●ディスカッション
●会場からの質問

シンポジウム第1部抄録はこちら


第2部:ディスカッション「すべての人々が尊重される上演・創造環境を目指して」

2-1. 「ハラスメント防止」に関する取り組み紹介
発表① KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 川崎陽子氏

<略歴>
KYOTO EXPERIMENT共同ディレクター/舞台芸術プロデューサー。株式会社 CAN、京都芸術センター アートコーディネーターを経て2014-2015年、文化庁新進芸術家海外研修制度によりHAU Hebbel am Ufer劇場(ベルリン)にて研修。近年はジャンルを横断したプロジェクトの企画・制作を行う。KYOTO EXPERIMENTには2011年より制作として参加、2020年より共同ディレクター。

KYOTO EXPERIMENTとは
 「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」は、2010年から毎年、京都市内の劇場で開催している国際舞台芸術フェスティバル。国内外からアーティストを迎え、「EXPERIMENT(エクスペリメント)=実験」的な舞台作品を中心に、演劇やダンス、音楽、美術などジャンルを越えた幅広い作品を展開している(https://kyoto-ex.jp)。
 2020年度より、前任のプログラムディレクター橋本裕介氏から、自分(川崎)を含む計3名がディレクション・運営業務を引き継ぎ、3名による共同ディレクター体制となった。体制変更により、複数の人間の集合意思によって意思決定を行なうこととなったが、これによって、従来のヒエラルキー的な組織運営とは異なる「新しい組織のありかた」を模索している最中である。特に、運営面・プログラム面で、フェスィバルにおける「力の関係性」を見直したいと考えている。
 具体的には、①フェスティバルと観客、アーティスト/演者の間に新たな関係性を築いていきたい。フェスティバルやアーティストが提供する作品を観客が受容する、といった一方向的な関係ではなく、観客のフィードバックや反応を何らかの形でフェスティバルの思考に還元していく方法を考えている。②フェスティバルとアーティストの関係性も見直していきたい。従来はプログラムや内容の決定権はフェスティバル事務局にあったが、一方的に事務局が力を誇示するのではない、対等な関係を築いていきたいと考えている。こうしたパワーバランスの再構築によって、間接的にではあるが、ハラスメントが起こりやすい環境を防いでいくことにつながると考えている。

ハラスメント防止の取り組みについて
 前提として、KYOTO EXPERIMENT事務局は、スタッフが専従する組織ではなく、それぞれスタッフ個人が別の仕事をしながら、運営に携わっているコレクティブ(共同体)である。また、フェスティバルの作品制作は事務局ではなく、公演会場のスタッフが担当している(会場に制作担当がいない場合は、フリーランスの制作者に委託)。テクニカルスタッフも専属ではなく、公演の時期に合わせてチームを編成している。
 つまり、事務局スタッフは普段は異なるフィールドで働いているため、これまではチームとして創作環境のあり方やハラスメント防止策について、じっくり話し合う機会は持てていなかった。しかし、今年度はディレクターの交代や、ロームシアター京都の館長人事問題がきっかけとなり、2020年11月に京都舞台芸術協会と共同で「ハラスメントに関するワークショップ 入門編」を開催した。
 (新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から)密を避けるためZoomを使用したオンラインワークショップとし、ワークショップのファシリテーターを専門とする事務局スタッフの主導で実施した。資料には、厚生労働省がウェブで公開している啓蒙動画を文字起こししたテキストを使用。全参加者を5名程度の少人数のグループに分け、資料を元に約20分の意見交換を行った(ホストを務めた事務局メンバーは全グループのディスカッションに参加)。議論で上がった意見は、オンライン上の付箋ツールを活用し、参加メンバーが可視化できるよう工夫した。
 終了後のアンケートでは、「ハラスメントについて、所属や職種が違う人たちと意見を交換できてよかった」「ようやくスタートラインに立てたので、ここから理解を深めていきたい」「専門家によるレクチャーがあると、なおよかった」などの意見があがった。
 今後は、より実践的な研修を行うことで、ハラスメント防止に向けたさらなる意識向上を図っていきたい。普段は異なるフィールドで活動しているスタッフの意識が向上することは、フェスティバルのみならず、舞台芸術全体での意識改革につながると信じている。

 

◾︎発表② NPO法人京都舞台芸術協会 筒井加寿子氏

<略歴>
劇団ルドルフ主宰。演出家・劇作家・俳優。1999年劇団衛星入団。2003年退団後、フリーの俳優としての活動を経て2008年にルドルフを立ち上げ。演出・劇作を開始する。2015年第22回OMS戯曲賞最終候補。2020年十三夜会奨励賞受賞。平成21年度京都市芸術文化特別奨励制度奨励者。2020年度よりNPO法人京都舞台芸術協会理事。

京都舞台芸術協会とは
1996年に設立。当初は任意団体であったが、2002年に特定非営利法人(NPO法人)へ移行した。地域の舞台芸術家間の交流や人材育成、創作環境の整備を主な目的として活動する。現在の会員数は、19団体と28名の個人。主に京都で活動する劇団やダンスカンパニー、俳優、ダンサー、スタッフなどで構成されている。会員は随時募集中。賛助会員も募集しており、舞台芸術を生業としていない人も入会可能。https://kyoto-pa.org

ハラスメント防止の取り組みについて
 京都舞台芸術協会では、これまでハラスメント防止に関する直接的な取り組みを主催事業として行なったことはない*1。ただし、創作環境の整備に関する活動は長年実施しており、その中にはハラスメント防止に役立つものも多く、今回はその事例を紹介したい。

○ 交流・相談の場作り(交流会の開催)
 舞台創作の現場で、ハラスメントやいじめなどの被害者が孤立し、頼れる人がいない状況に陥らないよう、協会主催の交流会を定期的に開催。同じ業界の知り合いを増やすことで、頼れる仲間を増やし、トラブルが起きた時の「セーフティネット」となることを期待している。交流会は会員・非会員を問わず誰でも参加可能で、会によってはテーマを決めて意見交換を行うこともある。コロナ禍以前は、飲み会のような形式で実施していたが、現在はオンラインで実施している。

○ 交流・相談の場作り(「なんでも相談窓口」の開設)
 舞台芸術協会のウェブサイトに、メールフォーム形式で「なんでも相談窓口」を開設している。舞台芸術に関わることであれば何でも相談可能で、その都度、秘密保持に留意しながら理事が対応にあたっている。これまではハラスメントの相談事例はないが、舞台制作の過程で起きたトラブルに関する相談がいくつか寄せられた。

○ 労働条件面の環境整備
 舞台芸術分野で、不当な労働条件で働くことを未然に防ぐ活動も実施している。2020年度は座談会を行い、「舞台芸術の現場を”労働の現場”と考えた時にどんな課題があるのか?」をテーマに、意見を出し合った。過去の活動例では、「舞台芸術家のための法律セミナー」を開催。舞台芸術の分野で起こりがちなトラブルを「法律的に見るとどのように捉えられるのか?」を弁護士を招いて学んだ。そこで学んだことをベースに、後日、弁護士の指導の下「契約書作りワークショップ」を開催した。

○ 創作プロセスの環境改善を目指す事業
 創作の行き詰まりから発生するトラブル、ハラスメントを防止するための事業。2020年11月には、俳優が「からだの使い方」を学ぶ意義を考え、そのプロセスを言語化して学ぶワークショップを開催した。2021年2月には、「対等・協働・個の尊重」をテーマに、これからの「稽古場」と「創作プロセス」について考えるオンライントークイベントを開催。

◾︎発表③ 京都市立芸術大学 砂原悟氏

<略歴>
京都市立芸術大学教授・音楽学部長。ピアニスト。東京芸術大学付属高校を経て,1983 年同大学卒業。同大学院在学中の 1985 年、ドイツ学術交流会(DAAD)の奨学金を得て渡独。1987 年ミュンヘン音楽大学マイスタークラッセを修了して帰国。1988 年東京芸術大学大学院修了。1993 年まで同大学院博士後期課程に在籍した。

ハラスメント防止の取り組みについて
 京都市立芸術大学の音楽学部は、1学年60数名程度という小規模な学部であり、実技レッスンに教育の重きをおいている。実技レッスンは、マンツーマンかつ密室で行われるのが通常。また、マンツーマンの授業により「生徒と師匠」という関係性が生まれるため、学内では「〇〇門下」という言葉もよく使われている(現在は教師側から使うことはほとんどないが、学生の間では慣習的に使われているようである)。
 以上のことから、構造的にハラスメントが起こりやすい環境にあるため、大学として複数のハラスメント防止策を講じている。

○ レッスン教室の密室化を防ぐ
レッスン教室のすべてのドアに窓が取り付けられており、外から中が見えるようにしている。

○ ハラスメント防止ガイドライン
本学独自の「ハラスメント防止ガイドライン」を制定している。監修には、葵橋ファミリー・クリニック 首席カウンセラー山本陽子先生にご協力いただいている。内容は、①教職員に対してハラスメントに値する行為の例を明示し、②学生に対してハラスメントを感じた場合、大学がどのような対応を行うか(相談窓口、手続きについて)を明文化している。

○ ハラスメント防止のための研修会
今年度、教職員を対象とし、専門家(山本陽子先生)による「ハラスメント防止研修会」を実施した。

余談だが、本学の美術学部ではダイバーシティの観点から、2020年度に初めて「女性教員限定」の公募を実施した。本学は、美術学部・音楽学部共に女性の学生が多いのに対し、教員は男性が多い。特に美術学部では女性教員が3割程度にとどまっているため、この比率を是正する試みである。また、一般教養としてジェンダー論の授業も開設している。間接的ではあるが、こうした試みもセクシャル・ハラスメントを防止する一手になると考えている。

 

2-2. ディスカッション
◾︎登壇者:川崎陽子(KYOTO EXPERIMENT)、筒井加寿子(京都舞台芸術協会)、砂原悟(京都市立芸術大学)、小倉由佳子(ロームシアター京都)
◾︎司会:丸井重樹(ロームシアター京都)  

◎教室や稽古場の密室化を防ぐために
砂原先生にお伺いしたい。大学のレッスン教室を密室化しない配慮があるとのことだが、いつ頃から行われているのか?(質問者 筒井)

砂原:私は本学に赴任する前は東京の学校で教えていたが、その当時、約30年前には既にそうした配慮がされていた。おそらくハラスメント、特にセクシャル・ハラスメント的な問題が発生したことに端を発しているのではないか。私はピアノの専門だが、以前の教育はパワー・ハラスメント的な要素を少なからず含んでいたように思う。時代と共に、そうした行為が顕在化・問題化され、大学の制度も年々変化してきていると感じている。

川崎:舞台芸術の分野では、稽古場が閉鎖的な密室空間になりやすい。閉じられた空間で人間関係ができてしまうことで、構造的にハラスメント問題が起こりやすい環境が生じているように思う。KYOTO EXPERIMENTの場合は、先ほども話したように人材が固定化しない良さがある。ただし、それぞれが異なるバックグラウンドを持っているがゆえに、共通の問題意識を共有しにくいデメリットもある。

筒井:舞台芸術の稽古場では、人数が多いことでマイナスの影響を与えることもある。例えば、指導者の意見が非常に強い場合や、説得力が強い場合。「少しおかしいことはあるが、従ってしまった方が楽だ」という意見が大多数になると、「おかしい」と感じた少数派の心理が封殺されてしまう。「多数派=正論」のような集団心理の危うさが露見することに危惧を感じている。

閉鎖された空間では、客観的な第三者の視点が入りにくいため、ハラスメントを受けた側がハラスメントだと自覚できない可能性がある。後から「あれはいじめだった」と気づかされることもあるだろう。ロームシアター京都のガイドラインでも「自分一人で抱え込むのではなく、周りの誰かに相談しましょう」というように、できるだけ第三者を交えることを勧めているが、それぞれの現場ではどのような工夫をされているか?(質問者 丸井)

筒井:舞台芸術協会の理事としてではなく、個人の意見として述べたい。明らかな犯罪行為は別として、端から見てハラスメントに感じたとしても、「お互いが納得している場合」は非常に介入が難しい。支配・従属の関係が長期間にわたって成立しているとき、一概に「支配側が悪である」と言い切れない場合もある。支配側の強い抑圧や束縛が「誰かが価値を決めてくれる」という受け手側の安心感につながってしまうこともある(本物の安心かどうかは別)。
 複数の指導者から、ソフトに指導をしていると「もっと厳しく言ってくれないと不安だ」「もっと上から物を言ってほしい」と相手に要求されたという話を聞いたことがある。強い指導者を望む人もいる。支配・従属という結束が生まれているときに、他者が無理矢理に剥がすべきかの判断は非常に難しい。人の価値観を変えていくことは容易ではない。自分の場合は、少しおかしいと感じた場合は、本人の意思をしっかり聞きながら、無理矢理に「こっちが正しい」と決めつけることなく、慎重にことを進めるよう心がけている。

川崎:第三者がずっと稽古場にいることは物理的に不可能だ。であるならば、やはり稽古に参加している側が自覚を強め、ロームシアター京都のガイドラインにあるような意識を持つことが大切だと思う。

砂原:指導法についてのコメントになるが、大学教育でも、学生から「もっと課題を与えてほしい」「もっとこういう指導をしてほしい」という要望を受けることがある。しかし、「自分で課題を解決する力を育てる」ことも教育の一つの側面であり、一概に要望に答えることが正しいとは思わない。従って、状況によっては「細かな指導を行わない(それによって、学生の自主性を伸ばす)」という判断をすることもある。学生を思っての判断だが、一方で、アカデミックハラスメントの中に「指導を故意に放棄する」という項目もあり、難しいところである。

◎「権力との向き合い方」を考える 
教育現場では、「教師=指導者」「生徒=指導される側」という明らかな上下関係が発生している。舞台芸術の現場でも、「プロデューサー/ディレクター=指示を行う人」「役者=指示に従う人」という上下関係がある。こうした構造がハラスメントの温床につながらないよう、それぞれの現場で意識的に行っている取り組みはあるか?(質問者:丸井)

砂原:個人的な話だが、学生時代にドイツ留学をした際、ドイツ人の先生が推薦状に「砂原と一緒に勉強したい」と書いてくれた。通常なら「私の下で学ばせたい」と書くところだが、その方が「一緒に」と書いてくれたことがとても嬉しかった。教える側になった自分も、日々学生から学ぶことが多い。驕ることなく、「一緒に勉強させてもらっている」という姿勢を忘れないようにしたいと考えている。
 とはいえ、大学においては教師の力は必然的に強くなるため、生徒が知らず知らずのうちに威圧感を感じる場合もあるだろう。学生に良かれと思って勧めたことが、「実は迷惑に感じていた」というケースは私の周りで起きている。例えば、学生の方から「お手伝いします」と言ってくれたので用事を頼んだところ、本当は「やりたくなかったのに」と裏で不満を述べていた。表面的な会話や表情だけで、学生の本心を知ることは難しいと感じている。

筒井:私自身も劇団を主宰している。役者と演出を経験しており、今は演出の立場が多いが、「決定権が自分に多くある」「権力を握っている」というのは、単なる『役割分担にすぎない』と考えている。力をうまく活用すれば、チームのためになることも多いと感じている。私が裏方を全て担えば、俳優は演技だけに集中できるだろうし、俳優同士がお互いに言いづらいことがあった場合、私が嫌われ役を買って出てものを言えば、角が立ちにくいだろう。
 稽古現場でヒエラルキーが根付いてしまうと、気づかないうちに「人間的な価値もそうだ」という勘違いが起こりやすい。上に立つ立場の人は「なぜ、自分に権限が課されているのか」という本質を考え、常に全体の利益になる形で考え、行動する必要がある。反対に、権力を自分の立場を守るためだけに使おうとするときに、ハラスメントが生まれやすいと感じている。

川崎:組織の一番上に立つ人に力があることは否めないが、KYOTO EXPERIMENTに関しては、3人の共同ディレクターがいることで、一人に権力が集中することを防ぎ、力を分散させることができていると感じている。それをディレクターだけでなく、周りのスタッフにも理解してもらい、新しい組織づくりにつなげていきたいと考えている。
 その一方で、トップダウンのように「上の意見に従えばいい」という構造が広く定着化しているため、力を分散させることは簡単ではないとも感じている。権力が分散した組織のなかで、お互いがどのように自分の力を発揮していくのが良いか、今まさに現在進行形で取り組んでいるところである。

◎「ハラスメント防止ガイドライン」について
第1部でご紹介した、ロームシアター京都独自の「ハラスメント防止ガイドライン」について、ご意見・ご提言があればお伺いしたい。(質問者:丸井)

筒井:非常にバランスよくできていると感じた。また、ガイドラインはあくまで指針に過ぎず、今後この指針では対応しきれないことも起こりうるだろう。その都度、当事者が必死で考えて解決策を探すよりほかはないと思う。ガイドラインを完璧に作ることがゴールではなく、発表後も柔軟に改正を続けていくことが大切になっていくだろう。

砂原:私もアップデートし続けることが大切だと思う。本学と比べ、ロームシアター京都のガイドラインは具体例がとても多いと感じた。それだけハラスメントが起こりうる可能性がある業界なのだろう。業界に即した対応でよいことだと思う。

川崎:「事例に記載されていない問題が起きた場合にどうするか」という課題は残ると思うが、実際にハラスメントが起きたときの対応方法が明文化されていることが、とても画期的だと感じた。個人的には、先ほど小倉さんが話していたように、事例の中には、過去に自分が体験したことが多くあったように思う(被害者に限らず、第三者として目にしたものも含め)。このガイドラインを読んで、これまでの自分の意識が低かったことをあらためて思い知らされた。そういった意識を正す意味でも、事例を多くあげて明文化したことは意義があると感じた。

小倉:ガイドライン制作担当からも一言申し上げたい。今回の策定では、同業者の先例にあたることができず、別の業界のガイドラインを参照しながら、チームで試行錯誤しながら作ってきた。今回のシンポジウムも「ハラスメント防止シンポジウム」ではなく、「ハラスメントを考えるシンポジウム」という名称にしたいと劇場スタッフ間で話し合って決めたが、「どうすればハラスメントが起きないのか?」「どうすれば問題を解決できるのか?」という問いに対して、決してひとつの答えがあるわけではない。また、見る人によっては、現状の内容ではまだまだ足りていない部分、もう少し踏み込んで盛り込んだ方がいい部分があるだろう。皆さんにおっしゃっていただいたように、今後も継続して考え続けていくこと、定期的な見直しやアップデートが重要になってくると感じている。
 先ほどの議論にあった、指導側とハラスメントを受けている側が相互に納得しあっている創作現場に関しても、今後このようなガイドラインが一般化し、ハラスメントに対する理解が高まることで、当事者の中で「第三者的視点を持つ」手助けになることを期待している。

 

2-3. 会場からの質問

 質問者①
公共劇場によるハラスメント防止ガイドラインの策定を、プロセスも含めて公開しながら進めていくことは、非常に画期的なことだと感じた。その行為に対して敬意を評したい。質問は2つあり、1点目は、サブタイトルで「ロームシアターで過ごすすべての人々のために」について、「集う」「関わる」の候補があったなかで、「過ごす」を選んだ理由を伺いたい。
 2点目は、防止ガイドラインをカウンセラーの方が監修しているとのことだが、現状のガイドラインに法的な妥当性、法的な拘束力が入っているかどうか、または今後そのような検討をする予定があるかをお聞きしたい。ハラスメントが起きる状況には、加害者と被害者の関係性だけではなく、周囲が「現場の雰囲気に水を差してはいけない」と指摘を憚ることもトリガーになりうると感じている。

小倉:1点目について、「過ごす」は当初は「関わる」としていたが、劇場スタッフ内で「観客が含まれていない印象がある」「貸館の利用者や、自主事業に関わるアーティストのみを指しているように聞こえる」という指摘があり、もう少し広い意味を持つ言葉を探すに至った。「集う」は現在も候補のひとつであるが、「過ごす」という言葉の方が、劇場に足を運んでくださっている全ての方(アーティスト、出演者、観客のみならず、劇場内のカフェ・書店なども含めた、敷地内にいる人)を包含する言葉としてふさわしいと感じている。発表までの間に、より良い言葉があれば積極的に探していきたい。
 補足だが、ガイドラインの当事者に観客を含めている理由は、草案の「1. はじめに」でも記載しているが、ロームシアター京都は舞台芸術のみの場ではなく、「憩いの場を提供する」ことも重要な役割として考えているためである。
 2点目については、今後、皆様からのご意見をいただきながら考えていきたい。監修者である葵橋ファミリー・クリニックには弁護士もいるので、法的な観点について相談できる環境は整っている。

質問者②
1点目の質問は、ロームシアター京都が責任を有する事業において、ハラスメント問題が発生し、当事者間での解決が難しい場合について。解決に向けて弁護士を交えることになると思うが、演劇関係者の多くは収益が少ないので、自身で弁護士を雇うのは難しいのではないか。法テラスを利用することもできるとは思うが、簡単にはいかないと感じている。被害者に弁護士が必要になる場合、劇場として何か支援は考えているか?
2点目は、ハラスメントを行った加害者について。ハラスメントをする人には2種類のタイプがいると考えており、ひとつは「権力を後ろ盾に、ハラスメントをする人」。この場合はガイドラインを制定することで、(加害者に損得勘定が働き)抑止力になるだろう。その一方で、ガイドラインがあってもなくても、権力があってもなくてもハラスメントを行ってしまうタイプの人もいる。そういう人を助ける(ハラスメントを再び繰り返さないようにする)には、医療やカウンセリングの手助けが必要だと思う。被害者へのサポートは当然のことだが、加害者に対するバックアップ体制はどのように考えているか?

小倉:1点目について:ロームシアター京都が創作過程を含めて全般的に責任を持っている事業に関しては、劇場が解決までの責任を負うため、実際に弁護士が必要な状況になった場合は、劇場が弁護士に依頼し、解決に向けて動いていくことを想定している。貸館利用など、劇場の責任外の場で起きたことについては、ガイドラインに記載している通り、劇場は仲介を行わず、今のところ、相談窓口のような公式な制度も設けていない。
2点目について:こちらも、ロームシアター京都が創作過程を含めて全般的に責任を持っている事業に関しては、解決に向けたプロセスの中で、専門家により「当事者がカウンセリングを受けた方がいい」という判断がなされるときは、専門家に相談しながら進めていくことを想定している。
 どちらのご質問に関しても、ロームシアター京都が解決に向けて動くのは、「すべての創作過程に責任がある事業」においてのみとなる。それ以外のケースに関しては、京都舞台芸術協会の相談窓口を活用し、ご相談する方法もあると思う。

筒井:はい。窓口がありますので、ぜひご相談ください。

丸井:それではこれでシンポジウムを終了といたします。なお、最終的なロームシアター京都ハラスメント防止ガイドラインは、皆さまからのご意見も踏まえ*2、三月中に発表させていただく予定である。もちろんその後も、ガイドラインは社会状況に合わせて見直しをしていくと共に、ハラスメントのない劇場、舞台上演・創造環境のためにできることを、引き続き考えていく予定です。本日は最後までご参加いただき、ありがとうございました。

*1 2020年度にKYOTO EXPERIMENTが主催した勉強会に、舞台芸術協会の理事は全員オブザーバーとして参加した。
*2 シンポジウム終了から2021年3月7日まで、ロームシアター京都公式ウェブサイトにてご意見を募集、多数の方からご意見をいただいた。当初3月中の完成を予定していたが、いただいたご意見について検討し、また専門家も交えた内容の精査・調整を諮るため、ガイドラインの発表についてはいましばらく延期させていただく。

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