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「ショールームダミーズ #4」第2期クリエーションレポート

再始動と、深まる関係性が描くあらたな作品世界

文:高嶋慈 編集:鈴木理映子
2020.2.1 UP
撮影:中谷利明

第2期クリエーションは、約半年間の期間を空けて、2020年1月15日~2月2日にかけての計15日間、ノースホールにて行なわれた。第1期クリエーションの時点ですでに、本作のキーポイントである「等身大の女性のマネキンたち」「過剰な化粧のマスク」が稽古場に用意されていたが、第2期では、舞台装置や照明、衣装も整えられ、作品の仕上げに向けての再始動となった。

撮影:中谷利明

第1期では、少しずつシーンを構築し、作品全体の骨格づくりが進められたが、第2期では、細かい動きの調整や「目線を合わせる/合わせない」など、微修正を加えながら完成度を上げていった。基本的には、第1期と同様、①ウォーミングアップ→②身体性の共有を図るワーク→③個別シーンの稽古という順で進められ、週後半には通し稽古も何度か行なわれた。特に第1期のワークでは、「abandoned wave」「letting go」といった独自の言葉を用いて、「意識のコントロールを手放しつつ、仙骨を起点に波動のような動きが全身に広がる」という身体状態の共有が図られたが、第2期では「snow fall」という言葉が新たに登場した。仙骨と後頭部に意識をフォーカスすることで背骨を柔らかく保ちつつ、ゆっくり重心を傾け、身体が流体のように崩れて床に沈み込むような動きだ。「落下して地面に着地した雪がゆっくりと溶けて水になり、広がっていく」イメージが込められた言葉であり、初動が途切れずに余韻のように動きを導いていくこと、床と身体との接点を意識することも重視されている。実際の作品ではダンサーはハイヒールを履いて動くのだが、「ヒールを着用した時にできるかどうかよりも、この感覚をキープすることが重要」とジゼルは述べ、個別シーンの稽古時にも「snow fall」という言葉はたびたび発された。

撮影:中谷利明

特に第2期のクリエーションで重要ポイントと思われたのが、「各自のキャラクターや相手との関係性」を言語化し、話し合うミーティングの時間がしっかりと確保されたことだ。第1期でもこのミーティングは設けられたが、稽古の進展に応じて、より内面化や具体性、感情の強度が深まっていた。たとえば、以前は独裁者的にふるまう人物に対して、「怖そうだから、良い子を演じて従っている」という一面的な捉え方しかしていなかったのが、「私が言うことをきかなくなったらどう反応するのか見てみたい」という反抗心の芽生え、「良い子」ではない新しい自分の模索、支配者を共に倒そうという共犯関係の形成、従順に従っているようで実は精神的な支配下に置いているのではないかなど、関係の捉え方に発展性が出てきた。さらに以前は、独裁者的な存在や直接コンタクトのある相手との1対1の関係にとどまっていたものが、関係性や感情が向かうベクトルがより多方向へと発展した。また、マスク=素顔を隠すと同時に「被ることで自由奔放にふるまえる」力を付与する装置でもあるという両面性についての意見も出された。ダンサーたちの言葉からは、支配/被支配の錯綜した関係や心理的な駆け引き、女性性を身にまとうことと力の誇示、人形的な受動性から自我の覚醒への移行、現実と妄想の境界の攪乱など、『ショールームダミーズ』という作品の根幹に関わるさまざまな考察が出ていたと思う。
「自分の内側で何が起こっているか」をダンサー自身に観察させ、それをモチベーションとして次の動きを引き出させる。ルールや前提はあるが、その時々に出てきた即興性を「間違い」として否定せず、重要視するジゼルの創作態度は、この6人だからこそつくり上げられる新たな『ショールームダミーズ』の世界を見せてくれると期待したい。

  • 鈴木理映子 Rieko Suzuki

    編集者、ライター。演劇情報誌「シアターガイド」編集部を経て、2009年よりフリーランスとして、舞台芸術関連の原稿執筆、冊子、書籍の編集を手がける。NPO法人芸術公社創立メンバー。成蹊大学文学部芸術文化行政コース非常勤講師。東京芸術祭ファーム2022ラボ <ファーム編集室>室長。【共編著】『<現代演劇>のレッスン』(フィルムアート社)【共著】「宝塚風ミュージカル劇団のオリジナリティ」(『「地域市民演劇」の現在 芸術と社会の新しい結びつき』森話社)【監修】『日本の演劇 公演と劇評目録1980〜2018年』(日外アソシエーツ)、ACL現代演劇批評アーカイブ  https://acl-ctca.net/ 

  • 高嶋 慈 Megumu Takashima

    美術・舞台芸術批評。京都市立芸術大学芸術資源研究センター研究員。ウェブマガジン「artscape」と「京都新聞」にて連載。ジェンダーやクィア、歴史の(再)表象などを軸に、現代美術とパフォーミングアーツを横断的に批評する。
    近刊の共著に『百瀬文 口を寄せる Momose Aya: Interpreter』(美術出版社、2023)。「プッチーニ『蝶々夫人』の批評的解体と、〈声〉の主体の回復 ─ノイマルクト劇場 & 市原佐都子/Q『Madama Butterfly』」にて第27回シアターアーツ賞佳作受賞。論文に「アメリカ国立公文書館所蔵写真にみる、接収住宅と「占領」の眼差し」(『COMPOST』vol.03、2022)。共著に『不確かな変化の中で 村川拓也 2005-2020』(林立騎編、KANKARA Inc.、2020)、『身体感覚の旅──舞踊家レジーヌ・ショピノとパシフィックメルティングポット』(富田大介編、大阪大学出版会、2017)。

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