「曲をつくるというよりは環境をつくりたい。
そこに集まってくれたひとたちと一緒に声のような存在を感じたいんです」
中川裕貴がこの年末、4年ぶりにロームシアター京都のステージに立つ。2020年KIPPU(ロームシアター京都と京都芸術センターが実施する若手アーティスト支援プログラム)に選抜されコロナ禍の公演となった前回から、今年、有望な若手に贈られる「京都市芸術文化特別奨励者」に選出されるまでには、様々な出会いと変遷があった。
「たまたま知り合いから譲り受けたのがチェロとの出会い」と語る中川。そんな縁もあってか、偶然性を巧みにとりいれた独自のスタイルは、音楽にかぎらず演劇やダンス、現代美術まで、他分野とインタラクティブな探求を重ねてきた。バンド”goat”などで活躍する音楽家・日野浩志郎と組んだKAKUHANではクラブミュージックに接近し、海外での活躍も目覚ましい。
確固たる作品の完成ではなく、環境に溶けあうように演奏を変化させ、観客に「生きているような”存在”にふれてほしい」と語る中川にとって、人間の声に近い音といわれるチェロはぴったりの相棒となった。
そんな15年来のチェロとの関係に変化あったのもこの4年。たまたま拾った枝に毛をつけて弓にし、それでチェロを弾いた。「ぼんやりざらついた感じの音色ですごくいいな」と発見する。
通常の弓では、同時に弾く弦の本数が限られるチェロだが、手のひらで調整するこの弓を使えばよりハーモニックな「声」となる。バッハのある楽曲を演奏するために誤って開発された通称「バッハ弓」やインドの弓にならったこの自作弓は中川の意識を変えた。クラシック出身ではない独学のチェリストゆえの気後れを吹き飛ばしただけではない。まるで自然現象のように変じる音色が、すべてをコントロールせずに周囲に委ねながら奏でる中川のスタイルにマッチしたのだ。「チェロという西洋の楽器にたいして、このような弓をあてることで、それ(西洋)とは少し距離をもつ様々な現象が”音”として生まれる。おもしろいですよね」。
来る12月の公演では、「チェロとDJ」という一見かけ離れた存在が融合する。公演タイトルの「弭(ゆはず)」とは弦を「かける」場所。それはDJが音楽を「かける」行為とも共鳴する。生命が宿る「声」のような音に惹かれるふたりの“異端”から生まれる場。そこに、長年に亘り中川の作品に参加してきた俳優・出村弘美と穐月萌が「コンサート」というイベントの境界線上でパフォーマンスを行う。
「ゆ は ず」
「you haze ユーヘイズ(霞んでいる)」
「ゆ わ ず(言わず)」……
一見、何も起きていない、なにも聞こえないと認識しているときでも、聴こうとしていないだけで「音」は在る。音を「存在」として浮かびあがらせ、交感する場をひらくのが中川の方法だ。
弦や音楽を「かける」には、「欠ける」「賭ける」も重なる。「つよい何かからではなく、欠けたつぎはぎのような状態だからこそ賭けられるものがあると思っているんです。今だからこそできることに挑戦したい」という言葉に期待が高まる。
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中川裕貴「弭(ゆはず)」
2024年12月28日(土)13:00/18:00
12月29日(日)13:00
ノースホール
詳細:https://rohmtheatrekyoto.jp/event/126634/