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#インタビュー#2024年度

Artist Pickup Vol.20

中川裕貴

インタビュー:寺田貴美子、儀三武桐子(ロームシアター京都) 文:儀三武桐子
2024.11.20 UP

撮影:堺俊輔

「曲をつくるというよりは環境をつくりたい。
 そこに集まってくれたひとたちと一緒に声のような存在を感じたいんです」

中川裕貴がこの年末、4年ぶりにロームシアター京都のステージに立つ。2020年KIPPU(ロームシアター京都と京都芸術センターが実施する若手アーティスト支援プログラム)に選抜されコロナ禍の公演となった前回から、今年、有望な若手に贈られる「京都市芸術文化特別奨励者」に選出されるまでには、様々な出会いと変遷があった。

「たまたま知り合いから譲り受けたのがチェロとの出会い」と語る中川。そんな縁もあってか、偶然性を巧みにとりいれた独自のスタイルは、音楽にかぎらず演劇やダンス、現代美術まで、他分野とインタラクティブな探求を重ねてきた。バンド”goat”などで活躍する音楽家・日野浩志郎と組んだKAKUHANではクラブミュージックに接近し、海外での活躍も目覚ましい。

確固たる作品の完成ではなく、環境に溶けあうように演奏を変化させ、観客に「生きているような”存在”にふれてほしい」と語る中川にとって、人間の声に近い音といわれるチェロはぴったりの相棒となった。
そんな15年来のチェロとの関係に変化あったのもこの4年。たまたま拾った枝に毛をつけて弓にし、それでチェロを弾いた。「ぼんやりざらついた感じの音色ですごくいいな」と発見する。
通常の弓では、同時に弾く弦の本数が限られるチェロだが、手のひらで調整するこの弓を使えばよりハーモニックな「声」となる。バッハのある楽曲を演奏するために誤って開発された通称「バッハ弓」やインドの弓にならったこの自作弓は中川の意識を変えた。クラシック出身ではない独学のチェリストゆえの気後れを吹き飛ばしただけではない。まるで自然現象のように変じる音色が、すべてをコントロールせずに周囲に委ねながら奏でる中川のスタイルにマッチしたのだ。「チェロという西洋の楽器にたいして、このような弓をあてることで、それ(西洋)とは少し距離をもつ様々な現象が”音”として生まれる。おもしろいですよね」。

来る12月の公演では、「チェロとDJ」という一見かけ離れた存在が融合する。公演タイトルの「弭(ゆはず)」とは弦を「かける」場所。それはDJが音楽を「かける」行為とも共鳴する。生命が宿る「声」のような音に惹かれるふたりの“異端”から生まれる場。そこに、長年に亘り中川の作品に参加してきた俳優・出村弘美と穐月萌が「コンサート」というイベントの境界線上でパフォーマンスを行う。

「ゆ は ず」
「you haze ユーヘイズ(霞んでいる)」
「ゆ わ ず(言わず)」……

一見、何も起きていない、なにも聞こえないと認識しているときでも、聴こうとしていないだけで「音」は在る。音を「存在」として浮かびあがらせ、交感する場をひらくのが中川の方法だ。
弦や音楽を「かける」には、「欠ける」「賭ける」も重なる。「つよい何かからではなく、欠けたつぎはぎのような状態だからこそ賭けられるものがあると思っているんです。今だからこそできることに挑戦したい」という言葉に期待が高まる。

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中川裕貴「弭(ゆはず)」
2024年12月28日(土)13:00/18:00
12月29日(日)13:00
ノースホール
詳細:https://rohmtheatrekyoto.jp/event/126634/

  • 中川裕貴
    中川裕貴 Yuki Nakagawa

    1986年生まれ、三重/京都在住の音楽家。チェロを独学で学び、そこから独自の作曲、演奏活動を行う。人間の「声」に最も近いとも言われる「チェロ」という楽器を使用しながら、同時にチェロを打楽器のように使用する特殊奏法や自作の弓を使用した演奏を行う。音楽以外の表現形式との交流も長く、様々な団体やアーティスト(烏丸ストロークロック、森村泰昌、渡邉尚など)への音楽提供や共同パフォーマンスも継続して行っている。また2022年からは音楽家・日野浩志郎とのDUOプロジェクト「KAKUHAN」がスタートしている。
    近年のコンサート作品として、「ここでひくことについて(2019)」@京都芸術センター、「アウト、セーフ、フレーム(2020)」@ロームシアター京都サウスホール(ロームシアター京都×京都芸術センター U35創造支援プログラム“KIPPU”)などがある。
    同志社大学工学部情報システムデザイン学科卒業。京都市立芸術大学大学院音楽研究科修了(音楽学)。令和6年度京都市芸術文化特別奨励者。

  • 寺田貴美子(ロームシアター京都) Terada Kimiko

    梅田芸術劇場やテーマパークにてダンサーとして活動後、東京・スパイラルホールでの勤務を経て、2015年ロームシアター京都 開設準備室に入り、以降、施設管理や事業制作に従事。ダンストリエンナーレトーキョー、KYOTO EXPERIMENT等の国際舞台芸術フェスティバルでも制作業務を担当。

  • 儀三武桐子(ロームシアター京都) Kiriko Gisabu

    市立公民館で社会教育主事有資格者として事業の企画運営に従事(2011~2018年)。広告代理店のプランナーとしてイベントや各種広報物の企画制作を担当しながら、並行してコミュニティスペースの運営、イベント企画、記事の執筆・編集を手掛ける。2023年よりロームシアター京都に勤務。

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