衣裳から舞台芸術そのものへ進化する、“ふくしゅう”劇
「子どもがつくれたんやから、演劇もつくれるかもしれない」ーー自身の演劇作品をつくりはじめたきっかけは、そんな気付きからだったという。関西の小劇場界では衣裳作家としての経歴でも知られるが、自ら作・演出・衣裳を担う舞台芸術団体「お寿司」を2016年に立ち上げ、2019年には京都芸術センター×ロームシアター京都 U35創造支援プログラム”KIPPU“の参加団体に選出された。近年には東京での自主公演も重ね、飛躍を期待される演劇作家のひとりである。
生まれは大阪・八尾市。小中高時代を奈良県で過ごし、京都教育大美術科に進学した。学内で立ち上げた演劇団体でたまたま就いた「舞台衣裳」の役割が、学外でのあらたな出会いを引き寄せた。劇作家、演出家の山口茜(トリコA/サファリP主宰)作品の衣裳を務めることになり、そのうちにさらなる衣服製作のスキルアップの必要を感じて専門学校へ入学。自分は既製品のデザインよりも、物語の世界を形づくる舞台衣裳に食指が動くと再認識した。
衣裳製作の着想は、台本には書かれていないキャラクターの人物像や関係性、その人物が抱える「物語」をイメージするところから。衣裳として携わる作品では演出家の意向を尊重するが、他者を経由するうちに中抜けしてしまうオリジナルな発想をそのまま表現したいという欲求が、出産の経験で後押しされた。妊娠中に食べたくても食べられなかったナマモノを名前に冠し、自らの団体を立ち上げたのが30歳のとき。以降、一作ごとにできることが変化している感覚があるという。
劇作も手掛ける南野の創作の種は「病気」。心身のバランスを取るために表現、創作をおこなう人々が抱える偏りをそう呼んでいるそうだ。そして南野自身にとってそれを他者と共有する舞台創作は、弱さゆえ見過ごしてしまった苦い感覚を見つめなおす”ふくしゅう”=復習/復讐の時間なのだという。「私にとって演劇創作って、何もないところにみんなで楔を打って、それを頼りにその上を打つような作業です。落ちていないと信じているから浮かんでいられる。共有した物語への信仰が、そのまま作品の強度になる」。自作を重ねるにつれ、演者や舞台技術を活かすための余白が増え、かさばっていた衣裳の役割はシンプルになっている。切実な物語を身体/衣服のあわいで見せる手つきは進化をつづけ、舞台表現の未開の航路を示しつつある。