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ロームシアター京都×京都芸術センター U35 創造支援プログラム “KIPPU”
トレモロ 第5回本公演『コリオレーナス』関連コラム

早坂彩インタビュー シェイクスピアの言葉がつなぐ人と時間

インタビュー:後藤孝典、儀三武桐子(ロームシアター京都) 構成:儀三武桐子(ロームシアター京都)
2026.3.6 UP

『新ハムレット』(THEATRE E9 KYOTO、2024年)撮影:井上嘉和

 若手アーティストのさらなる活躍を応援するU35創造支援プログラムKIPPU2025年度に選抜された3団体のうちのひとつ、トレモロの公演がいよいよ今月に迫る。今回トレモロが上演するのは、シェイクスピアの『コリオレーナス』。シェイクスピアは、劇団の代表で演出を務める早坂が演劇の世界に入るきっかけにもなった原点のような存在だ。コロナ禍の時期に始めたオンラインでの「シェイクスピア戯曲を読む会」は、多様な人々が集まる場として開催は70回以上を越え、今も続いている。公演に向け待ちに待った俳優全員との初稽古を控えた早坂に話を聞いた。

インタビュー:後藤孝典、儀三武桐子(ロームシアター京都)
構成:儀三武桐子(ロームシアター京都)
インタビュー日時:2026年1月20日 於: 京都芸術センターにて


 

クラス劇の原風景と、トレモロの響き

『新ハムレット』(THEATRE E9 KYOTO、2024年)撮影:井上嘉和

――早坂さんの演劇との出会いはなんだったんですか。

早坂  中学で入った演劇部ですね。文化祭でシェイクスピア『お気に召すまま』にスタッフとして関わったあと、クラス劇でシェイクスピアの『空騒ぎ』を、はじめて演出として担いました。このときの経験が演劇をやっていきたいと思う大きなきっかけになっていると思います。

――はじめからシェイクスピア尽くしだったんですね。

早坂 最近、自分がシェイクスピアガチ勢だったことにあらためて気づきました。「関西シェイクスピア・フェスティバル」という、いろんな団体がシェイクスピアの上演や関連イベントをするお祭りがあって、そこでシェイクスピア愛について熱くトークをしました。でも思い起こせば、中学の卒業研究でもシェイクスピアについて講堂で発表してたなぁと。
(関西シェイクスピアフェスティバルで早坂さんが配られた手紙 劇団note)

――初演出だった中学校でのクラス劇はどうでしたか。

早坂 国語の授業でやる劇だったので、なかには興味の持てない子たちもたくさんいるんですよね、強制だから。 でもそういう子の気持ちもわかる…。いろんな立場の人たちでひとつの作品をつくったことが、今も大事にしていることの原体験になったと思います。演劇は限られた人だけのものではなく、いろんな人が楽しめるものだという思いがその時からずっとあります。
そんな流れで大学でも演劇を学び、4年生の時に劇団を立ち上げました。ずっと演出家になりたかったのですが、20代前半の女子に演出を任せてもらえる機会がなかなか得られず、制作の仕事が多くなっていって。それはそれで学びが大きかったのですが、自分がやりたいのは演出だ!と思いなおしました。そこから、横浜の急な坂スタジオの企画で若手演出家として選んでいただいたことをきっかけに、高校の同級生とトレモロを旗揚げしました。それぞれのライフステージの変化などもあって、今は主にわたしひとりでやっています。今年で16年目です。

――トレモロという劇団名はどうやって決められたんですか。

早坂 私がマリンバをやっていたこともあって、タラララ…と響くトレモロの音色みたいに、スルッと人の心に入って記憶に残るようなもの。それでいてイメージが受け手によって異なる作品をつくりたいという思いから決めました。劇団を長く続けていくなかで、シェイクスピアなどの古典を現代に上演する意味や、自分が上演するからこその個性などを考えるようになっていきましたね。

シェイクスピアからシェイクスピアへ

『新ハムレット』(THEATRE E9 KYOTO、2024年)撮影:井上嘉和

――これまでの活動を3期に分けてnoteでふりかえっていらっしゃいますね。
(第一期 身体と音楽のトレモロ、第二期 台詞と空間演出のトレモロ、第三期 自由に、開いて、場作りを進めるトレモロ 劇団noteより)

早坂  はい。やっているときはわからないので、あとからの区分ですけどね。はじめの数年は、私がミュージカルをやっていたり、身体性が高いメンバーも多かったこともあって、身体がどうセリフの後押しになるか試行錯誤していました。たとえば、上演の終盤でそれまでの演技のダイジェスト版みたいなシーンを、激しい音楽と共に高速フラッシュバックのようにして挿入したり。その頃の方法は、太宰治『新ハムレット』(THEATRE E9 KYOTO、2024年)でも活かされたと思います。普通に上演すると4時間もある作品を、見立てを使ったり、舞台美術を工夫したり、場面転換をキュッとスピーディにまとめて、結果的に70分にしました。

――第2期が2015年ぐらいからですね。

早坂 はい。ターニングポイントになったのは利賀演劇人コンクールでチェーホフの『イワーノフ』に挑戦したことです(優秀演出家賞と観客賞を受賞)。それまでと変わって、俳優の身体とセリフのみで作品を伝えていくべく、音楽はまったく使いませんでした。そのあと青年団に入って細やかな演出方法を学んだり、岸田國士の戯曲などに挑戦したりしながら、いろんな方法を吸収していきました。ほかにも、新国立劇場の演劇研修所で助手をさせてもらう機会もありましたね。運がいいことにそこでの作品もなんとシェイクスピア『ロミオとジュリエット』でした。

戯曲をまんなかに置いた場づくり

ワークショップの様子

――第3期が、コロナ禍や先ほど話にでた『新ハムレット』含めた今にいたる時期ですね。

早坂 はい。コロナ禍でほんとうに何もできなくなったときに、 「早坂さんは一番何がやりたいのよ?」ってあらためて聞かれたんです。自然と「シェイクスピアが好きだからシェイクスピアがやりたい」って言っていました。その直前までは、現代口語演劇の現場にいたこともあって、自分からはほとんどシェイクスピア劇をやってなかったんですよね。それでコロナ禍でもできることとしてオンラインで始めたのが、シェイクスピア戯曲を読む会でした。俳優や演劇関係者に限らず、参加したい人が、自分で本を買って、オンラインで集まって、みんなで読むっていう会です。

――どんな人たちが集まっているんですか。

早坂 その日によって様々ですね。ふだん全く演劇に関わっていない人から、現役の役者の人、ふだんは心理学やっているんですという人、この戯曲ちょっと読んでみたくて来た方、逆にシェイクスピアがコンプレックスでほとんど読んだことないけど俳優をやっているからには触れておきたくて…という人も来たり。いろんな人がそれぞれのモチベーションと楽しみ方で集まってくれています。
はじまりがコロナ禍でなかなか人に会えない時期だったこともあり、戯曲を読みながら密な時間を過ごす貴重な経験でしたね。

――演劇関係者に限らずいろんな人と、というのは中学の時のご経験ともつながりますね。

早坂 そうですね。演劇をやりたいわけじゃない人も含めて、演劇を通してどう楽しく過ごす場をつくれるか、ずっと考えてきました。コロナ禍に入る前に、こまばアゴラ劇場でやっていたファシリテーション・ワークショップに通ったり、高校生と演劇を作ったりするお仕事をしていて。その想いを自分の劇団として実現できたのがこの会だったので、嬉しかったです。中学のときの原体験に回帰するような感じがありました。

――いまでも続いているってすごいですね。

早坂 もう70回ぐらいやってますね。あと3作品ですべてのシェイクスピア戯曲を読み終わります。続けることでシェイクスピアの良さがよりわかるようにもなりました。シェイクスピアのセリフは、誰が読んでも想像がしっかり膨らむから、みんなやっていて楽しいんです。戯曲をまんなかに全国各地から集まった人たちでつくる場自体が、みなさんの人生のちょっとでもプラスになっている感覚があって。じゃないとこんなに続かないと思うんですよ。やっていくなかで、シェイクスピアの悲劇、喜劇、ロマンス劇のそれぞれの良さをあらためて感じます。

――創作にも活きていきそうですね。

早坂 それだけの回数、配役もしてきたことになるので、活動にもプラスになっていると思います。今回、出演する北條(泰成)さんと大間知(賢哉)さんは研究会で出会った方なんですよ。

『コリオレーナス』の多面性に現代を映す

『コリオレーナス』稽古場風景

――『コリオレーナス』は400年以上前に書かれた作品ですよね。古典が現代に再演されることについてどう感じていますか。

早坂 今作を選んだのは、今の時代にぴったりだと思ったからです。コリオレーナスという、紀元前5世紀のローマの将軍に対して、賛成側もいれば反対側もいる。民衆の英雄でありながらも、見方によって敵とも呼ばれてしまう。ひとりの人間を巡って情報が様々に切り取られ、時に謂れなき中傷を受けるといった状況は、現代とも通じます。今作は400年前にシェイクスピアが、さらに昔の紀元前5世紀を舞台に書いているものなんですけど、それぐらい距離感があるからこそ、自分たちの状況と重ねて考えられる作品になると思っています。

――セリフを伝えることを重視されていましたが、稽古に向けてはいかがですか。

早坂 シェイクスピアのセリフは、感情で読んじゃうと全然言葉が伝わってこないんですよ。だからちゃんと言葉が伝わるように稽古していきたいですね。シェイクスピアっぽい型とかではなくて、物語自体のスケールの大きさを受けとめ、戯曲のセリフを喋りうる人物としてそこにいる、ということが必要になると思います。

――これは観てからのお楽しみですが、舞台装置も重要な役割をしますね。

早坂 はい。舞台がローマですし、いかに自分と関係ある話として観てもらえるだろうかと考えているんですが、よくよく考えてみたらシェイクスピアが活躍したグローブ座がそうだったなと。シェイクスピアの作品自体がもともとお客さんを巻き込んで楽しめるようにつくられていたんです。
舞台美術は、そのほか「異なる見え方」につながる仕掛けを美術の中村友美さんと一緒に考えています。また、中村さん、照明の松本永さん、音響の森永恭代さんみんなで早い段階から話しあう機会を持ちながら相乗効果で創作を進めています。 大野知英さんとも現代につながるような衣裳を相談していて。

『コリオレーナス』稽古場風景

――シェイクスピア好きな方にも、はじめての方にも観ていただきたいですね。

早坂 1600年代に様々な客層に楽しまれていた『コリオレーナス』は、現代こそ楽しむことのできる豊かな戯曲だと思います。登場人物ひとりひとりが魅力的で、稽古をしていても楽しくて。シェイクスピア劇は人物も多いし規模が大きくなるので、今回、自分の劇団で、しかも数年ぶりに本公演を京都でできるということで、気合が入っています。一緒につくってくれるみんながいるから心強いですね。

 

――京都では2回目の上演ですね。

早坂 はい。2年前にTHEATRE E9 KYOTOで上演した『新ハムレット』も、みんなで2週間ぐらい京都に泊まりこんで滞在制作みたいにやったんですよね。上演する場所に集まって、つくって、発表するということを、やっぱり大事にしたいなって思います。だから今回も楽しみで。今回も普段は東京を拠点に活動する出演者が8名いて、滞在しながら作品を作っています。今日はこのあと、作品に関わるみなさんとの初顔合わせなんです。

◆公演情報
ロームシアター京都×京都芸術センター U35 創造支援プログラム “KIPPU”
トレモロ 第5回本公演『コリオレーナス』

2026年3月13日(金)~ 3月15日(日)
https://rohmtheatrekyoto.jp/event/133642/

  • 早坂彩インタビュー シェイクスピアの言葉がつなぐ人と時間
    早坂彩 Hayasaka Aya

    演出家・脚本家。神戸市在住。早稲田大学文学部演劇映像コース卒、同大学院(西洋演劇)修了。2010年トレモロ結成、全公演の演出を担う。シェイクスピア、チェーホフなど翻訳劇を中心に幅広い作品を手がける。2015年利賀演劇人コンクール『イワーノフ』で優秀演出家賞・観客賞受賞、2017年青年団入団。2024年3月、トレモロ『新ハムレット』をこまばアゴラ劇場とTHEATRE E9 KYOTOで二都市ツアーを敢行。 CoRich舞台芸術まつり!2024春 最終審査作品に選出される。また、オンラインでシェイクスピア戯曲読書会を継続し、演劇を媒介とした場づくりにも取り組む。

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