Column & Archivesコラム&アーカイヴ

#インタビュー#舞踊#2025年度

ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団 『Sweet Mambo』関連記事

来日に向けて、瀬山亜津咲インタビュー

取材・文=浜野文雄(新書館『ダンスマガジン』編集委員)
2025.9.3 UP

2009 年に急逝した20 世紀を代表する振付家、ピナ・バウシュの最晩年作『Sweet Mambo』が日本で初めて上演される。本作のリハーサル・ディレクターを務める、ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団ダンサーの瀬山亜津咲に、日本公演への想いを聞いた。

取材・文=浜野文雄(新書館『ダンスマガジン』編集委員)
転載元:彩の国さいたま芸術劇場広報誌「埼玉アーツシアター通信」(2025年8月号掲載記事) より


 

Photo: Karl-Heinz Krauskopf

 

ピナの最後の質問――〝私を忘れないで〟

――今回上演される『Sweet Mambo』(2008年初演)のいちばんの見どころは?

『Sweet Mambo』を創るためにピナ・バウシュが集めたキャストが大きな魅力です。
舞踊団の本当に初期から彼女と一緒に作品を創ってきたダンサーたちが集まって、ピナと彼らだけで生まれたのがこの作品です。年齢を重ねたからこそ湧き出てくる静かな感情――親密さだったり、感傷だったり、欲望だったり、孤独だったり、そういったものがダンサーからひしひしと湧き出てくるのを感じます。彼女たちだからこそできるのだと思います。

――晩年のピナの作品では若いダンサーがどんどん登用された印象が強いですが、『Sweet Mambo』ではあえて昔からのダンサーだけを集めて創作にあたったのですね。

 当時彼女はふたつの作品を同時並行して創っていました。もうひとつの作品はインドをテーマにした『Bamboo Blues』で、こちらには比較的若い世代のダンサーが集まっていました。だから、ピナが意図して『Sweet Mambo』に昔からのダンサーを選んだのか、偶然にそうなったのか、どちらにも解釈できる気がします。私はツアーからスタンバイ(控えのキャスト)として入るようになったので、創作中のことを直接は知らないのですが、すごく楽しかったみたいですよ。とても親密な、心を許せる仲間たちと作品を創っていく過程は楽しかったに違いないと思います。私自身、『Sweet Mambo』に関わるのは毎回スペシャルな時間なんです。出演者は私がずっと憧れ続けているダンサーばかりですから、毎日たくさんインスピレーションを受けています。本当に贅沢な時間なんです。

――2009年に亡くなったピナのほぼ最後の作品になりますね。

 ピナは創作しているときには自分が亡くなるなんてわかっていなかったと思うのですが、そういうニュアンスがなんとなく作品のなかに入っているのは確かです。皆さんもそういう作品だとわかって観にきてくださると思うのですが……。

――ダンサーの台詞にも「忘れないで」という言葉があると聞きました。

 ピナとダンサーが共同で作業していくなかで、彼女がダンサーに投げかけた質問のなかに「私を忘れないで」というものがあったらしいんです。でも、ピナ自身は自分の作品についてあまり話さなかった。観客の一人ひとりが自由に解釈することが、彼女にとっては重要なことでしたから。

 

ピナが選び、今も進化し続けるダンサーの力 ――

――2022年の再演にあたっても出演者がほとんど変わっていないんですね。

 そうしなければいけなかったというか。もちろん「もう踊れない」という終わりのときは来ると思いますが、彼らだからこそできる舞台というものがあるんです。そこを大事にしたい。彼らが進化し続けているところも大きいです。再演の際には振付家のアラン・ルシアン・オイエンさんが「アーティスティック・ディレクション」として参加してくださいましたが、彼は2018年にカンパニーに新作を創ってくださっていて、ダンサーたちともとても信頼関係がありました。彼によって作品が息を吹き返した面も大きいと思います。

――振付家の死後に作品を再演する場合、ずっとアシスタントを務めていた人や初演のダンサーが指導を担うことが多い。まったく別の振付家を招聘するというのはとても珍しい試みだと思うのですが。

 はい。でも初演のダンサーは今もこの作品に出演していますし、特に再演に関していちばん大事だったのはダンサーとの信頼関係でした。彼のものの見方や彼の言葉はダンサーたちにとってとても納得のいく、インスパイアされるものばかりでした。再演にあたってアランはものすごく勉強してきたというか、おそらくピナのリハーサルのビデオを全部見たんじゃないかな。そこから作品を理解しようとしたんだと思います。「このシーンはどうやって生まれたの?」とダンサーに初演時のことを思い出させるようにしたり、『Sweet Mambo』を創る際にピナがダンサーにした質問のリストを持ってきて、「今のあなたならどういうふうに答えますか」と聞いたり、そうやってダンサーをフレッシュな状態に戻していきました。この作品においてアランの存在はとても大事ですね。私もリハーサル・ディレクターとしてこの再演の作業に関わることができたのはすごくうれしかったですし、日本公演に向けて、再びアランとリハーサルできるのが待ち遠しいです。テキストもたくさんあるので、ダンサーには日本語をしゃべってもらおうと思っています。彼らもみんな日本語で話したいんです。ピナにとっても、ダンサーにとっても、日本はとても大事な国。このスペシャルな作品で日本の観客の皆さんにお会いできるのが楽しみです。

 


<公演詳細>
ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団『Sweet Mambo』
2024年11月21日(金)19:00開演
     22日(土)15:00開演
会場:ロームシアター京都 メインホール
上演時間:約2時間20分/休憩含む
https://rohmtheatrekyoto.jp/event/134435/

  • 来日に向けて、瀬山亜津咲インタビュー

    Photo: Claudia Kempf

    瀬山亜津咲 Azusa Seyama

    瀬山紀子、石沢秀子にクラシックバレエを学ぶ。2000年にピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団に入団。バウシュとのクリエーションに参加するほか、『カフェ・ミュラー』など代表的なレパートリー作品へ出演。2014年、さいたまゴールド・シアターへ新『KOMA’』を振付。世界中のカンパニーによるピナ・バウシュ作品の再演にリハーサル・ディレクターとして携わる。アクラム・カーン・カンパニー、ファビアン・プリオヴィル・ダンス・カンパニー、アラン・ルシアン・オイエン率いるウィンターゲスツのリハーサル・ディレクターとして活躍。昨年の彩の国さいたま芸術劇場「ダンス・リダイレクション」では講師を務めた。ダンサーとして映画『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(ヴィム・ヴェンダース監督/2011年)にも出演。

  • 浜野文雄 Fumio Hamano

    新書館「ダンスマガジン」編集委員。1993年より株式会社新書館にて、バレエ、コンテンポラリーダンスを中心とするパフォーミングアーツの専門誌「ダンスマガジン」をはじめとする雑誌・書籍の編集に携わる。2009年より国際的なコンテンポラリーダンス・コンクール「ヨコハマダンスコレクション コンペティション」、全国の大学生を対象としたダンスコンクール「アーティスティック・ムーブメント・イン・トヤマ」の審査員を務める。

関連事業・記事

Turn your phone

スマートフォン・タブレットを
縦方向に戻してください