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#コラム・レポート#音楽#2024年度

「Sound Around 004 荒木優光」関連コラム①

まじりあう記憶、時間、空間 ‐荒木優光の「音」の風景‐

構成:儀三武桐子(ロームシアター京都)
2024.6.7 UP

一聴永楽  『絶聴(一)Death Song(1)』

ジャンルや固定観念にとらわれずに「音楽」を考えていくシリーズ「Sound Around」。
第4回目は、今・ここに限定されない時間と空間や、パーソナルな体験や記憶など、さまざまな層が交じりあう「音」の場に着目し、創作をつづけてきた荒木優光です。新作公演に向けて、シアターピースやインスタレーション、パフォーマンスやツアー、音源など、荒木の多岐にわたる作品のなかからいくつかをご紹介します。 


 

場所と時間を越えて、「音の存在」とやりとりする

パブリックアドレス ‐ 音場(2013)
シアターピース

ラウドアーカイブス2020 |SCOOL 撮影:西野正将

パフォーマンス空間には誰もおらず、通常の意味での「出演者」は登場しない。ステージにいるのは、各所に設置されたスピーカーに宿る声や音の存在のみで、スピーカーを移動させる荒木と作業者がときおり登場してはスピーカーを移動させる。

流れている音声は、全盲の横田光春さんと荒木の対話の音声だ。横田さんの部屋を模すかのように仮設された簡易なステージには複数のスピーカーがあり、ひとつから荒木の声が聞こえ、応じる横田さんの声が別のスピーカーから聞こえてくる。スピーカーは、部屋でのふたりのふるまいをトレースしているかのように、(舞台に現れた荒木や作業者によって)近寄ったり遠ざかったり、横向きになったりする。それによって鑑賞者はだんだんと目には見えない現前する声の存在として、ふたつのスピーカーを認識していき、ふたりのいる(いた)場に居合わせているかのような感覚にいざなわれる。

音響は、横田さんの部屋での様子をこの場に表すだけにとどまらない。会話にでてくるししおどしや、横田さんが通っているブレイクダンス教室やバレーボールクラブの音が、合間に臨場感をもって聞こえてくる。それは、ふだんわたしたちが会話をする際、頭のなかに様々な風景をイメージする様子を思わせる。目に見えている場と一致しない音の場が何層にもなって浮かびあがってくる。

終わりには、見えない音の場を具現化させていたスピーカーからコードが順々に引き抜かれていき、最後、横田さんの声を宿すスピーカーのコードが抜かれて幕を閉じる。

ラウドアーカイブス2020 |SCOOL 撮影:西野正将


パブリックアドレス ‐ 音場(2013)

 


 

音が再構成するばらばらな時空間

Sami-Khedi-Ra-Biot (microcosm)(2019)
サウンドインスタレーション

あいちトリエンナーレ地域展開事業 Windshield Time—わたしのフロントガラスから|旧愛知銀行豊田支店  撮影:城戸保

何部屋にも分かれた展示会場のどこからか声が聞こえてくる。それをたどって鑑賞者がいきつく部屋にはそれぞれ液晶モニターがあり、モニターごとに異なる声楽家の姿が流れている。展示会場6か所それぞれから流れる6人の声楽家の声が、部屋ごとに分かれつつも境のない展示空間によって、時に不協和音を響かせながら合唱を成立させる。

各部屋のモニターの映像は、4万人収容のスポーツ観戦スタジアムである豊田スタジアムでの撮影だ。客席、VIPルーム、システム調整室、選手控え室などにひとりずつ声楽家が立ち、各部屋の中継システムから届く他の場所の声を手がかりに、間接的に合唱をおこなった。

それら個別に録音されたスタジアムでの音を、展示会場に再構成することで生じた「歌声」の場を鑑賞者はめぐり、ばらばらな時間と空間の声と声の重なりに出会っていく。


WALK|Sami-Khedi-Ra-Biot (microcosm) | Masamitsu Araki : installation view , Windshield Time—Contemporary Art in Toyota

 


 

誰のものでもなく誰のものにもなりうる
周りつづけるクラウドメモリー

SWEET MEMORIES episode1–60(2020~)
インスタレーション作品

わたしとゾンビ|京都市京セラ美術館 ザ・トライアングル  撮影:三吉史高

中央の台のうえでゆっくり回りつづけるのは、大きなモニターとスピーカーからなる巨大オブジェクト。モニターには、風景映像が1回転ごとに切り替わりながら断片的に流れつづける。鑑賞者が部屋の隅に座ると、背中合わせで回転するモニターとスピーカーによって、音から想起される像と、モニターの映像とのずれが浮かびあがってくる。

海辺や林などの野外から、階段や寝室などの屋内まで、モニターに映る60もの場所はどれも無人だが、忘れ去られたかのようにぽつんとスピーカーがおかれている。その「映像内スピーカー」から聞こえてくる持続的な電子音は、海辺の波音など、スピーカーが置かれた場所の音が「よくきこえる」ように、荒木が即興で響かせたものだ。いま・ここにいる鑑賞者は、そのいつかどこかの風景に目の前のスピーカーとモニターを介して間接的に出会うことで、浮遊した時間と空間へといざなわれていく。

荒木によると、今作は近未来の室内楽やモニュメントを想定したという。特定の場所や時間に属さない「クラウドメモリー」たちは、鑑賞者の記憶や想像を触発しながら回りつづける。


SWEET MEMORIES Episode 1 – 60

 


 

場所から場所、記憶から記憶へ、音の亡霊-サウンドトラック

サウンドトラックフォーミッドナイト屯(たむろ)(2021)
コンサートピース

KYOTO EXPERIMENT 2021 AUTUMN |比叡山ドライブウェイ山頂駐車場  撮影:井上嘉和 提供:KYOTO EXPERIMENT

ツアーバスに乗車した鑑賞者は、車中で荒木の駐車場の思い出にふれながら今作の「ステージ」となる山頂の駐車場に到着する。

仮設の客席で待っていると、じきにネオンの明滅が煌びやかなカスタムオーディオカーが8台登場する。ゆらめくように動きながら、ネオンとおのおのの音を響かせあうカスタムオーディオカー楽団は、だんだんと暮れなずんでいく山からの町並を借景に、荒木が駐車場の思い出から作曲した交響曲を奏でていく。コンサートが終わると、オーディオカーたちは、駐車場から駐車場へあてどなくさまよう記憶の亡霊たちのように、連なって山から下りていく。


荒木優光『サウンドトラックフォーミッドナイト屯』/Masamitsu Araki Soundtrack for Midnight TAMURO (trailer2)

 

 

そのほかの作品はこちら 
荒木優光サイト https://www.masamitsuaraki.com/

 

SWEET MEMORIES 収録現場にてスピーカーを設置する荒木  撮影:松見 拓也


公演情報

Sound Around 004

開催日時:
2024年6月29日(土)17:00開演
       30日(日)15:00開演
会場:ノースホール

  • まじりあう記憶、時間、空間 ‐荒木優光の「音」の風景‐

    photo:Kai Maetani

    荒木優光 Masamitsu Araki

    1981年山形県生まれ、京都市在住。
    アーティスト、音楽家、サウンドデザイナー。
    音楽を活動の主体としながらもその周縁に立つことを起点として、聴くことの創造性をユーモラスに追求し、再度音楽と結びつけることで文脈や効用の再考を促す。独自の解釈とプロセスによって構築する音場空間は、音や映像、声、サイトスペシフィックな要素や環境を活用し、シアターピースやインスタレーション、パフォーマンス、ツアー、音源など多岐にわたる形態で発表されるが、総じて我々を取り巻く音の総体について、身近な視点から分解・観察することでみえてくる「音-音楽」の境界をともに漂うことを担保としている。
    また、記録にまつわる参加型作業集団ARCHIVES PAY(アーカイブスペイ)や音楽グループNEW MANUKE(ニューマヌケ)のメンバーとしての活動、サウンドデザイナーとして多様なアーティストとのコラボレーションも多く、各現場でのサウンド面での貢献を経て得た知見を自身の活動へと還元させている。
    サイト:https://www.masamitsuaraki.com/

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