2022年6月11日(土)、12日(日)にロームシアター京都 ノースホールで開催した、「Sound Around 002」から派生した作品(一部)です。1日目のゲスト・山田亮太氏(詩人)が、パフォーマンスや会場の様子を見ながら書き綴ったテキストから、この詩が生まれました。
なお、本テキストの全文は、改稿した上で「ユリイカ」(2022年9月号)に掲載予定です。
この目で見たものを
本当であると
信じてもよいし
信じなくてもよい
何かあるいはどこかへ
この場所は開かれ
侵入するもの
うごめくもの
異なる物質と
物質が接触する音
高いところから
聞こえてくるもの
次々と
巻かれていくもの
膜の向こう側で
自動的に巻かれて
時間を刻むもの
地面からまっすぐに
伸びる線と
平行になって回転するもの
端から端へぐるぐると
回って
ここから見えるものが
同じであることが
ないように
同じでないように
あなたの見ているものと
あなたの
見ていたものが決して
同じでないように
光ったり
光らなかったりするもの
この耳で聞いたことを
本当であると
信じてもよいし
信じなくてもよい
やぐらの下の屋台が
半透明の膜で
おおわれていく
膜の一部がやぶれて
ここは
地下2階なので
雨により水が
あふれるだろう
膜の破れから
水がこぼれ
地面をおおうだろう
人間のからだ
ひとりぶんだけ
ぎりぎり通れる場所を
あなたは移動する
後ろへ
前へ
テープの端が
何度も木をこすり
そこだけえぐれていく
やってみるとは
どういうことか
何を?
何をやろうと
しているのだろう
何をして何をしないのか
いつだって選んでいる
のだと信じてもよいし
信じなくてもよい
やってみるとはどういう
ことか
やってみないとは
どういうことか
台車を押して部屋の
隅まで運び戻っていく
その動作と
自動的に回転するものに
どれほどの違いが
あるというのか
マイクは1本しかない
ここで話していいのは
ひとりだけだ
同時に話すことはできない
いつだって同時に
話すことはできない
あなたは白い壁を見て話す
その壁には何かが
書かれていてそれを
見て話す
あるいはそれを見ずに
話す
マイクの方向を
何度も変えて
あなたの位置は常に同じで
方向だけが刻々と変化する
あなたの位置は
いつであれここに
あるのだから
動いているのは
いつだって他人ばかりだ
もう1回言ってください
どちらを向いて
しゃべってもいいと
あなたは言うが
本当はいつだって
同じ方を向いている