ロームシアター京都の「レパートリーの創造」第四弾として制作中の『シーサイドタウン』。作・演出を手がける松田正隆さんにとって、自身の演出作品を京都で上演するのは10年ぶりとなります。
そこで、和田ながらさんと岡本昌也さんという、京都を拠点に創作を行う若い世代の演劇人をお招きして、松田さんとの座談会を開催しました。『シーサイドタウン』まで続く松田さんの足跡、そして二人の現在の活動を通して見えてくる、京都の演劇の状況や課題、今後の展望について、語り合っていただきました。
なお、和田さんと岡本さんは、『シーサイドタウン』の稽古を見学し、座談会に臨みました。
登壇者(50音順):
岡本昌也(演劇作家・映像作家・安住の地所属)
松田正隆(劇作家・演出家・マレビトの会代表)
和田ながら(演出家・したため主宰・NPO法人京都舞台芸術協会理事長)
聞き手:橋本裕介(ロームシアター京都 プログラムディレクター)
(座談会実施:2020年9月7日、ロームシアター京都)
-今、松田正隆さんには来年の1月に発表する『シーサイドタウン』という作品の制作のために、定期的に京都に来てもらっています。松田さんは長らく京都で活動していましたが、この10年京都を離れ、東京を拠点に作品を発表されています。その間、どれくらい京都の舞台の状況が変わったのか、あるいは続いてるのかという話と、現在の皆さんの関心をリンクさせるようなかたちで鼎談ができたらと思っています。
現在の活動について
-先に和田さんと岡本さんから、どのような創作の基盤を持ち、また、この1、2年ぐらいの作品がどういうものだったのか、お話しいただきたいと思います。
和田さんは、したためというグループで、ご自身では劇作はせず、演出家としていろいろなテキストを構成して作品を発表しています。また、鳥公園というグループにも参加されています。
和田 したためというユニットで自分が演出する作品を上演しています。したためで最近作ったのは、私も含め誰も妊娠、出産を経験したことがないメンバーで、妊娠、出産をリハーサルしてみる『擬娩』という作品です。
したため以外には、今おっしゃっていただいたように、東京を拠点にしている鳥公園という劇団に、アソシエイトアーティストとして今年から参加しています。鳥公園はこれまで、西尾佳織さんが主宰、劇作家、演出家をつとめていた団体だったんですが、集団のあり方やお金の流れについて多くの課題を感じ、その解決のために、西尾さんは主宰と劇作家、演出は私を含めた3人の演出家が担当する新体制を今年度からスタートしました。新型コロナウイルスの影響で作品の発表はまだできていないんですが、アソシエイトアーティスト3人と西尾さんで常にミーティングをしていて、活動全体のこと、個別の作品のプロセスについて議論しています。
私の活動は基本的に一人でやっていて、作品を作りたいと思ったら、人を集めてやる。公演が終わったら解散する。良くも悪くもシンプルで身軽に、勝手にやってきました。一人じゃなくて、西尾さんや他のメンバーがいる環境の中で考える鳥公園の活動には、新鮮な気持ちで取り組んでいます。創作の話とはずれるかもしれませんが、心身ともに疲れすぎず、連帯しながらいかにサスティナブルに活動していくかということに関しては、今年から理事長をつとめている京都舞台芸術協会で考えていることにもつながっています。
―京都舞台芸術協会の話は、後ほどまたうかがいたいと思います。
では、岡本さんにうかがいます。岡本さんは2017年から安住の地で活動をされていますが、既に学生時代から立命館大学の西一風という劇団で、たくさん作品を発表されています。安住の地は脚本も共同で書かれることもあって、普通にイメージする劇団のかたちとはだいぶ違うと思います。それから、第1回公演以降、計画的にステップアップしているように映るのですが、活動の展開についてもお聞かせください。
岡本 安住の地でも、旗揚げのときから持続可能性みたいなことをすごく考えています。僕も大学を離れてしばらくは一人でやっていた時期があったんですが、創作の面で積み重なっていかない感覚がありました。僕の劇作は俳優さんとのやり取りに重きに置いてるので、だったら劇団というかたちで俳優さんとチームになって、毎回座組が変わらない状態をまず作ろうと。そういうメンバーを探す期間を1年ぐらい取りました。今は12人所属しているんですが、ずっとやっていくだろうという合意のもとやっている、はずです。 僕と、もう1人、私道かぴという作家がいて、2人で作・演出をやるかたちですが、ほかにも写真だったり、身体表現をベースにやってる人もいたり、作家性をいくつかはらんでいる状態で活動をしています。今作りたいものは何だろう、みたいなことからみんなでしゃべって、今、興味があるのはこういうことで、じゃあ、それをやりましょうといった感じです。だから、毎回言われてしまうんですが、結構作風もばらばらで。ただメンバーは一緒なので、作風よりも自分たちの中のやり方を積み上げていくことを考えながらやっていますね。
ステップアップについては、大きな劇場でやらしてもらったりとか、機会にすごく恵まれている、運がよかったと感じています。演劇っていうカルチャーは、もともとそんなにポピュラーじゃないっていう認識を持っていて、そこに見に来ない人が無限にいる前提でやっています。そのときに、じゃあファッション業界の人に見に来てもらうためにはどうしたらいいかとか、他ジャンルとのボーダーをどう超えられるか、ということを思っています。この間、イギリスで移民の人たちの生活を見て感じたことをもとに、ファッションデザイナーと作品を作りました。そういう化学反応を求めて違うところに行って、そっちのお客さんに見てもらって、もしかしたら自分たちの面白さもわかってくれるかもしれない。そういったことを意識的にやっています。
松田 二つとも興味深い話ですね。演劇で作品を作るっていうのは、どうしても、作・演出の人の個性みたいなものが表面化しやすいというか、それが焦点になる時代がずっとあった。でも、集団構成から考えること、集団構成の仕方こそが、演劇を持続させる。演劇は集合体が生産、産出していくものだから、上演に至るまでの集団の過ごし方とか、空間に人々がどう集っていくのかっていうことが重要で、そういうことを考える若い人たちが出てきてるんだと感じました。
京都の創作環境
―少し俯瞰したところから、和田さんにお話をうかがおうと思います。和田さんは、京都舞台芸術協会の理事長にこの5月から就任されています。協会にいれば、他のグループの活動についても情報は集まってくると思うので、そういった視点から見えてくる傾向とか関心がどういうものだとお考えか、お聞かせください。
和田 例えば、私の大学時代の同期でもある倉田翠さん。彼女のakakilikeというチームはスタッフの集団で、俳優やダンサーは所属していません。倉田さんには、活動当初から公演でのお金の使い方、配分についての問題意識があり、作品に関わる人へお金を払う体系自体を変えるところからチームづくりにアプローチしています。
自分より若い世代では、劇団速度でしょうか。安住の地もメンバーそれぞれに強い個性や専門分野があるというお話がありましたが、劇団速度も作・演出をやる野村眞人さんが中心になりつつ、従来の劇団というよりもアーティストのコレクティブといった志向を感じます。
あと、安住の地で私がいいなって思うのは、代表が俳優の中村(彩乃)さんなんですよね?
岡本 そうですね。
和田 劇団やそれに類するチームは劇作家や演出家が集団のトップに立ち、かつクリエイションの場面でも劇作家と演出家がイニシアチブを取ることが多いので、俳優の方が集団の代表だっていうのは、風通しがいいなって思います。権力を扱う立場にどういった人が選ばれるのかは、男女比も含め、常に気にしています。
-理事長である間は、どんなことをしたいですか。
和田 協会に入ったのも2018年に理事になった時だったので、まだ3年も経っておらず日が浅いのですが、京都という街を、どのようなかたちでも演劇を続けていけるって思える場所にする、活動をしている人が安心感を持って過ごせる場所にするためのアクションが起こせたらいいなと思っています。
岡本 京都舞台芸術協会って、あんまり活動を存じ上げなくて。協会員ではないんですけど、多分享受はしてると思います。
和田 どれぐらいの役割を現在の協会が果たせているかはわからないですけれど。もともとは京都芸術センターが設立される時に、舞台芸術の人たちのまとまった集まりがないので作ったと聞いています。
松田 公金を使うときの、あるいは公共の場所を使うときの京都市側との窓口みたいなところが必要だった。あれ、でも僕が初代会長か。
和田 先輩です。
松田 設立が96年だ。
岡本 芸術センターには、安住の地もめちゃくちゃお世話になっています。
-今、芸術センターの12ある制作室を使用しているのは、圧倒的に舞台関係が多い。やっぱり、舞台の人たちが一番たくさん意見を言った結果だと思うんです。そういう意味で組織立っていたのは舞台だけだったので、設置者の京都市は意見を聞き取りやすかったんだろうなとは思います。
和田 その後、任意団体から2002年にNPO法人になり、現在まで続いています。実演家や劇団が会員で、その中に理事が5人。今までは、劇作家とか演出家、劇団を主宰している人が理事になる傾向が強かったと思いますが、今年度の改選で大きく顔ぶれが変わりました。理事の5人中2人はテクニカルスタッフで、俳優もいますし、男女比は5分の4が女性です。年齢も若返り、私が真ん中ぐらい。同じ舞台芸術と言っても職能ごとに見えている景色はさまざまなので、協会の視野を広げていくという意味で、いいメンバー構成だと思っています。
-岡本さんは今の協会には直接携わってないですが、以前お話をうかがった際、京都や関西の舞台の環境について憂いていましたね。
岡本 そうですね。僕は劇場とカンパニーとの関わりみたいなことに問題意識を感じています。今は貸し館が主流で、1日8万円ぐらいの料金で1週間借りるとなったら、劇団にかなりの負担がかかる。当然、作品にもお金は割けなくなってしまう。次やるときに、もう一回、お金稼ぎの時間があってバイトして、また借りるという循環では持続可能性がかなり低い。続けられるかもしれないけど、その続け方でいいのかということをアーティストとしては思っている。もうちょっと協働の体制で何かできたらなと思います。劇場と協働して作って、1週間じゃなくて1カ月上演するとか。あるいは作品を劇場のレパートリーにしたり、アソシエイトアーティストというかたちもあります。安住の地の活動としても、KIPPU(注1)で選んでいただいた時や、KAVC(注2)や金沢21世紀美術館での活動(注3)のように、劇場と一緒にやれたほうがいいというか、それが本来あるべきかたちだなって、そうなっていけばいいなと思いながら活動しています。
-劇場とアーティストが一緒にリスクを持ちながら何かできる方法はないだろうかということですよね。
岡本 そうですね。
松田 そういう事例はあるんですか。
-マレビトの会の最初の頃がそうだったと思います。
松田 アトリエ劇研と一緒にやろうっていうのが、僕らの設立の時で、フランチャイズ劇団っていう感じでやり始めました。場所を使うのにお金は要らない、創作費は両者で助成金を取るっていうことで、とにかく集団のメンバーからお金を徴収したことはなかったですよね。