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#インタビュー#舞踊#2020年度

フランソワ・シェニョー&ニノ・レネ:インタビュー 続編

アンドロジニーをめぐるダンスと音楽
絢爛な時間の旅

聞き手/岡見さえ(舞踊評論家・共立女子大学准教授)
2020.12.9 UP

—— 前回はダンスと音楽の関係性、そして舞台上のパフォーマーと4人の演奏家の関係性についても話していただきました。舞台上のもう一つの要素、レネさんの担当した美術についても教えてください。スクリーンを立て、タペストリーの映像を投影していますね。 レネ:使用したのはスペインのタペストリーですが、同じものは存在しません。時代の異なる複数のタペストリーを集め、パースペクティヴを操作して再構成し、異なる時代の表象を一つの画面に共存させたのです。タペストリーの中の動植物が、フランソワが踊る人物と関係することも試みました。たとえば少女戦士が川の流れにのみ込まれていく場面では、タペストリーの鹿たちも跳ね回る。ラ・タララの場面では、動物たちは息をひそめて暗闇から彼女を見つめるのです。

―― シェニョーさんは時代も個性も異なる3人のアンドロジニーな人物になり代わり、特殊な形状の竹馬、バレエのトゥシューズ、ハイヒールを履いて踊り、休む間もなく(時には同時に!)高音域から低音域までを操り歌います。なぜこれほどハードな選択をしたのですか? シェニョー:実際、極めてアスレティックな作品です! 非常な努力が要求されますが、ニノも私も、この努力を舞台に載せることに興味がありました。バレエや、おそらく日本の舞踊でも、踊りの努力が完全に消し去られ易々と行われている印象を観客は持つ。ダンスは精神性や優雅さの探求も行いますが、その物質的側面、肉体の鍛錬の側面も、私にはとても重要なのです。

―― 「普通は見せない努力を敢えて見せる」という話から、2018年のKYOTO EXPERIMENTであなたが上演した『DUB LOVE』を思い出しました。この作品でも、ダンサーは信じがたいほど長い時間、トゥシューズで立っていました。 シェニョー:ええ、似ています。バレエのポワント技術は無重力の軽やかさの表象ですが、『DUB LOVE』ではこの技術が要求する物理的努力を見せました。精神性の表現に到達するには、物理的、肉体的な努力が必要なのです。

―― シェニョーさんは2014年にも『TWERK』で来日し、東京、京都、高知で公演しています。『DUV LOVE』も『TWERK』もセシリア・ベンゴレアとのプロジェクトですが、レネさんとのコラボレーションと違いがありますか? シェニョー:セシリアとは10数年間で多くの作品を作りましたが、自分の世界に対する理解や芸術的欲求は拡大を続けています。ニノとは、前からやりたかった音楽・歌・ダンスを同じ地平に置く作品の探求ができるのがすごく嬉しいです。また、セシリアとの仕事では全員がパフォーマーでしたが、ニノは舞台に立たないので演出や美学に細かく配慮できるようになりました。でも優劣があるわけではないし、自分にとって重要なのは、独りで全部決定するデミウルゴス的な芸術家神話から脱すること。作品はコラボレーションから生まれます。能動性も受動性も大切で、複数の人の無意識の反映や受容も作品の一部を成すのです。

――『不確かなロマンス』を観て、スペイン舞踊のモチーフや男性が女性を装うことから、舞踏、特に大野一雄の『ラ・アルヘンチーナ』を想起する人もいるかもしれません。9月末にシェニョーさんは、大駱駝艦を主宰する舞踏家、麿赤兒さんとのコラボレーションによる『Gold Shower』をパリで初演されていますね。 シェニョー:麿さんとの仕事を通して、舞踏の第一世代からの流れ、スペイン舞踊への強い興味を知り得たのはとても幸運でした。実は9月末から、もう一つ、バレエ・リュスのニジンスカが振り付けたラヴェルの『ボレロ』に基づいた新作の準備に入っています。ニジンスカはこの楽曲を初めて振り付け、スペイン風のダンスにしましたが、彼女は同時代の人々と同じく、当時一世を風靡した舞踊手、ラ・アルヘンチーナに衝撃を受けていました。そしてこのラ・アルヘンチーナが、大野や舞踏第一世代に影響を与えた…。新作の『ボレロ』は、”エスパニョラード”(フランス芸術のスペイン風創作)の記憶を掘り起こし当時の有名ダンサーを取り上げますが、この重層的な記憶に大野一雄のラ・アルヘンチーナの再解釈も加えたいと考えています。ラ・アルヘンチーナという一人のダンサーが、大野一雄を、ニジンスカを、そして間接的に私も感動させた、というわけです。そして『不確かなロマンス』は、『ボレロ』や『カルメン』といった“エスパニョラード”の振付や音楽の系譜に繋がる作品でもあるので、意図せず、『ボレロ』の創作、『不確かなロマンス』の再演、麿さんとコラボレーションが同時期に重なり、繋がりが生まれました。自分の中ではさまざまな物語が交錯し、とても強い感慨に浸っています。

  • 岡見さえ(おかみさえ)

    舞踊評論家、共立女子大学文芸学部准教授。2003年より『ダンスマガジン』(新書館)、産経新聞、朝日新聞、読売新聞等に舞踊公演評を執筆。JaDaFo(日本ダンスフォーラム)メンバー、2017年より横浜ダンスコレクションコンペティションⅠ審査員を務める。

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