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#インタビュー#舞踊#2020年度

フランソワ・シェニョー&ニノ・レネ:インタビュー

アンドロジニーをめぐるダンスと音楽
絢爛な時間の旅

聞き手/岡見さえ(舞踊評論家・共立女子大学准教授)
2020.11.19 UP

──作品は、どのようにして生まれたのですか? シェニョー:私のソロ『Dumy Moyi』を観に来たニノと知り合ったのが、はじまりです。以前からダンスと音楽の関係性を模索していた私と、美術とギターを学び、歴史や廃れゆく文化的実践に着想するアーティストのニノは、すぐに意気投合しました。 レネ:そのころ私が進めていた、スペインの詩や音楽、郷土の祭礼で何世紀も伝えられた性的少数者のリサーチも、フランソワの関心と一致しました。ジェンダーを自分の願望に従って再創造した彼/彼女たちは、現代において示唆に富む存在であり、私とフランソワにはまるで別の時代を生きた兄弟姉妹のように感じられた。そしてまず二人で、曖昧なセクシュアリティで人々を魅惑してきたアンダルシアのジプシー、ラ・タララの複数の伝承に基づく短い作品を創作し、2014年にスペインのアラゴンで初演しました。その終演後には、二人でこの探求を続けるのは明白でした。

──シェニョーさんはラ・タララの他にも、男装の少女戦士やサン・ミゲル(聖ミカエル)の化身となって踊り、同時にスペイン語で歌います。声楽も学んだのですか? シェニョー:ダンスはパリのコンセルヴァトワール(国立高等音楽・舞踊学校)で学びましたが、オペラ歌手とコラボレーションした際、身体的で本能的、有機的な彼らの表現に嫉妬を感じました。以来、歌に強い関心を持ち続けていますが、習った経験はわずかです。私は歌いながら身体を動かしたり、声を変えたりするので、声楽の先生に注意されてしまう……。だからほぼ独学で、この作品では共演のミュージシャンに音の装飾技法やフレージングを教わりました。

── この作品では、レネさんが既存の楽曲をアレンジした音楽を、3人の古楽器奏者と1人のバンドネオン奏者が舞台の上、シェニョーさんの傍らで演奏します。 レネ:音楽は、スペイン音楽の400年にわたる歴史を包み込もうと考えました。アレンジは時代に伴う変化を反映し、スペイン系ユダヤ人の音楽やフラメンコ、オペレッタ、バロック・サルスエラを想起させる音の装飾もあります。歌詞も異なる時代の詩の積み重ねなので、楽器も歴史上は出会わなかった音色を共生させたかったのです。 バンドネオンは、パイプオルガンに似た響きと教会音楽との関係も面白いですね。西欧諸国の音楽、バロック音楽、民俗音楽、タンゴといった多様な専門を持つ、素晴らしい演奏者が揃いました。すごくフィジカルな演奏をする曲もあり、彼らの身体のテクスチュアがダンスの強度と結びついて見えるでしょう。

──宮廷舞踊からバレエ、竹馬を履いての民族舞踊、フラメンコまで多彩なダンスが引用されていますが、振付はどのように進めましたか? シェニョー:スペインのバロックダンス、フラメンコ、民俗舞踊のホタを短期間で集中的に学び、変容させ、混合しました。腕と上半身は古典舞踊、足はホタという具合で、さらに竹馬やハイヒールといった敢えてバランスを崩す要素も導入しました。ハイヒールで踊ることで、フラメンコは正統性の概念から切り離され、多様なリファレンス(引用)を含んだリアルなダンスになりました。音楽同様、ダンスも再創造された一種のフィクションなのです。

──振付と音楽の関係性は? シェニョー:振付は音楽の構造と深く結び付いています。振付は極めて音楽的ですが、逆に私のリズムが音楽に影響を与えることもある。ニノが言うように、ダンスと音楽の関係は平等かつ相互的です。 レネ:音楽とダンスのヒエラルキーを破壊することも、私たちの目標でした。一方が他方に従属するのではなく、各アーティストがソリストであるコレクティヴを夢想したのです。この考え方は、動きが歌を生み、歌が動きを生むフランソワの探求にも通じますね。

──シェニョーさんの身体は男性らしさと女性らしさの表象を往来し、変容していきますが、ダンス史におけるジェンダーの問題をどう捉えていますか? シェニョー:保守的な人は、ジェンダーの問題は近頃の若者が騒いでいるだけだと言います。でも両性的なアイデンティティを持つ人は、遥か昔から存在していました。 だから男装の少女戦士やサン・ミゲル、ラ・タララに、両性的なニノも私も親近感を抱くのです。私はこの作品で、“女装”や“演技”をしてはいません。高音と低音の両方で歌いますが、どちらもが私の声。男性的なもの女性的なもの、自分の中にあるすべてを使っているだけです。ジェンダーの問題は研究や臨床の分野で語られがちですが、それと異なる詩的な方法で提示することを私たちは試みました。そしてこの方法は、保守的な人々に対しても、非常に有効なのです。

埼玉アーツシアター通信89号より転載

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