若手アーティストのさらなる活躍を後押しするU35創造支援プログラムKIPPU。2024年度に選抜された2団体のうちのひとつが劇団「プロトテアトル」だ。
観客が観ることによってはじめて演劇が完成するという「試作」性と、劇団が創作の「場」になってほしいという思いが名に込められた「プロトテアトル」は、結成10年を迎えた。さらなる飛躍へと向かう最新作『ザ・パレスサイド』では、全盛期を過ぎたホテルを舞台に、多様性が言祝がれるなかで徐々に進行する「個性の喪失」に焦点を当てる。9月公演に向けて、約4 年ぶりの新作長編に挑む座付作家のF.O. ペレイラ宏一朗にインタビューを行った。
聞き手:木原里佳、儀三武桐子(ロームシアター京都)、平居香子、黄宇曦 (京都芸術センター)
(インタビュー実施日:2024年6月2日、ZOOMにて)
劇団「プロトテアトル」結成のきっかけ
――結成のきっかけは何だったんですか。
ペレイラ:大学在学中、今も劇団員である豊島祐貴に「ペレイラが劇団をつくらないなら自分は演劇をやめる」と言われたことがきっかけです。体制やメンバーに変遷がありながらも今年で結成から10年が経ちました。
――プロトテアトルは「試作劇場」とも表記されています。劇団名のアイデアはどこからですか。
ペレイラ:お客さんが観てようやく完成するものが演劇であるという意味から「試作(プロト)」。そこに、人が集う場所にして劇団をしていきたいという思いを込めて、演劇と劇場、両方の意味をもつフランス語の「テアトル」を合体させました。
――結成10年を迎えましたね。今後の展望を聞かせてください。
ペレイラ:これまではぼくが戯曲も演出も手掛ける作品が多かったのですが、これからは複数の作家でつくっていきたいと思っています。今の日本は自分のカンパニーがないと作品発表がしにくい状況なので、プロトテアトルという場所が、フリーの作家や俳優たちの創作の場所になれたらと思います。メンバーも理想は60人ぐらい。それだけの人数がいたら、劇団内劇団のようなチーム体制で年間3本ぐらい新作をつくれそうだなと。
結成から10年の変遷
「演出部」という複数の目
――「演出部」というチームがあると聞きました。
ペレイラ:創作に集中すると、周りが見えなくなったり、こう観てくれるだろうという希望的観測に偏ったりしがちです。クリエーションのなかで積みあげられていく変化を観測し、第三者としてフィードバックする役割として「演出部」を設けました。
きっかけは、外部の方にドラマトゥルクとして入ってもらった際、ぼくの作風になじみのある劇団員とは、感じ方にちがいがでて、それがクリエーションへのいい刺激になったんです。
また、演劇の稽古場にかぎらず、人と人がやりとりをする場ではつねにハラスメントの危険性があります。俳優/演出という対構造のあいだに「演出部」があることで少しでもそれを防げればと思っています。
――これまでをふりかえって、作風に共通するものはあると感じますか。カンパニープロフィールには「静かでリアルな会話劇」とありますね。
ペレイラ:旗揚げ公演の『第1回本公演 ぼくらの新製品開発課』は社会派演劇、次作は唐十郎と寺山修司をモチーフに「現代アングラ」を標榜した『第2回本公演 アサ村ショウ一郎』といったように、作風には変遷があるのですが、『第4回本公演 ノクターン』で、そのように評されたあたりから、会話劇が中心になっていきました。人それぞれの背景のちがいによって生まれるコミュニケーションのズレに興味があります。
――それぞれの背景によって見え方が変わるというのは、プロフィールにある「借景に似た作り方」とも重なりますか。
ペレイラ:作品の外側、例えば公演が行われる町や劇場、同時代を生きるお客さんの意識を利用して創作することを、ぼくは「借景」と捉えています。今回でいえば、ホテルが舞台なので、観る人がホテルに関して抱くそれぞれのイメージから作品がたちあがっていけばいいなと思っています。
どうにもならない状況に抗う人間を描きたい
――プロフィールには「人生において普遍的であり誰もが共感できる出来事」ともあります。たとえば近作の会話劇『レディカンヴァセイション』は、生き埋めになって身動きがとれない登場人物たちによる会話劇でした。そういった特異な状況への共感は一見むずかしく感じますが、ペレイラさんの考える「共感」とはどんなものでしょうか。
ペレイラ:「誰もが共感できる」っていうと、ほんまかいなって思いますよね(笑)。出来事に共感というよりは、登場人物たちの心の動きや、状況に抗う姿勢にたいしての共感について考えています。ぼくの作品には、自分ひとりの力ではどうにもならない状況に抗う人たちがよく登場します。ぼくはその姿勢にこそ共感してほしいと思い、作品をつくっているのかもしれません。
新作の舞台は寂れたホテル
匿名的な場で「自己の喪失」を描きだす
――今まさにクリエーション中の新作について伺います。ペレイラさんは、作品を作るときに、まず舞台空間から考えると聞きましたが、今回もそうですか。
ペレイラ:作品の始まりと終わりの空間を想像してから戯曲を書きはじめるのが好きです。今回、ロームシアター京都で上演すると決まったとき、劇場空間のブラックボックスを思い浮かべました。その生活感のない空間イメージが、寂れたホテルのアイデアへとつながっていきました。ホテルは、人がやってきては去っていく、情報が溜まらずに都度リセットされていく場所です。ゲストハウスほど雑多ではないけれど、旅館ほど丁寧な感じもない。そんな場所の奇妙さに着目し、作品化したいと思っています。
――どんな内容になっていきそうですか。
ペレイラ:ホテルを舞台に、複数の人間が行き交う群像劇になる予定です。ただ複数といっても、ひとりのホテルマン役を何人もの俳優で演じるものにできないかと考えています。ホテルという場所では、従業員も泊りにくるゲストも、個性が見えにくい匿名的な存在になるように感じます。それを軸にどこか自己が喪失していく感覚を描けないかと。
――自己の喪失という着眼は、今の社会状況にもつうじそうですね。
ペレイラ:情報社会が発展するなかで、個人が平均化されていく感覚があります。一方で、多様性という言葉もよく社会のなかで使われます。多様というからには本来もっと凸凹しているものだと思いますが、現実は逆に、尖った部分をフラットに均されていく感じがあって。そんなじわじわと支配されていく状況を「自己の喪失」として描けないかと考えています。
また、ホテルは労働の場所でもありますよね。資本主義のなかでは、雇用/被雇用という、支配や搾取の構造が生まれます。「パレスサイド」を訳すと「宮殿の横」という意味ですが、もしホテルという労働の場で突然ボスがいなくなったらと仮定し、資本主義のなかでの力関係なども織り込んでいけたらと思っています。
これまでの作品では比較的すっきりと終わる作品が多かったのですが、今回は人によって見え方が変わるものにしていきたいですね。
◆公演情報
9月14日(土)13:00/18:00
9月15日(日)11:00/15:00