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#コラム・レポート#舞踊#音楽#継承と創造#2022年度

ひと足先に実現 「宮古・八重山・琉球の芸能」沖縄公演 レポート

文:山形ゆき(ロームシアター京都)
2022.4.22 UP

 新型コロナウイルス感染症を巡る状況によって、《継承と創造》宮古・八重山・琉球 京都公演は、4月に延期になりましたが、3月13日、那覇文化芸術劇場なはーと(2021年10月開館)で沖縄公演が無事開催されました。


 この沖縄公演では、おきなわ3地域の芸能を1日で上演。豊かな自然の恩恵と猛威と共生する人々によって受け継がれた、多様性に富んだ“芸能”が、各地の特色を見せながら紹介されました。全ての演目に施された劇場だからこそできる演出には、更なる魅力と可能性を、客席からの手拍子や繊細な音色に耳を澄ませる様子からは、島々が育んだ芸能の幅広さを感じられました。この公演は“おきなわ”の芸能を一挙に見渡せる、貴重な機会であったことは勿論、島々に生きる多くの芸能の“継承と創造”の場になったことでしょう。

シンポジウム(沖縄公演)

そして本稿では、これらの芸能の成り立ちやプログラムの意図をお伝えすべく、終演後に行われた、監修者や出演者・関係者によるシンポジウムの内容を、抜粋して掲載します。

 

司会|林立騎(那覇文化芸術劇場なはーと)
登壇者|
【宮古】監修:前里昌吾(「宮古島創作芸能集団」んきゃーんじゅくプロデューサー)
    亀浜律子(琉球舞踊穂花会・宮古舞踊 んまてぃだの会)
【八重山】監修:大田静男(八重山芸能研究者)、新盛基代(古見民俗芸能保存会)
【琉球】監修:遠藤 美奈(沖縄県立芸術大学准教授)
    新垣俊道(沖縄県立芸術大学准教授、琉球古典音楽野村流保存会師範)

―ロームシアター京都と那覇文化芸術劇場なはーとの共同企画として、沖縄の芸能を上演したいと相談を受けて、どのようなことを考えましたか?

遠藤美奈 “おきなわ”の芸能を紹介する際、県外の人にとっては、数ある島々も“おきなわ”とひとくくりに見えがちで、特に芸能となるとその差異が見えにくいことから、どんな切り口でプログラムを構成するか深く考える機会になりました。今回は、文化的な特色を最大限にお伝えできるよう、宮古・八重山・琉球の3地域にスポットを当てましたが、取り上げられなかったそれ以外の地域にもたくさんの演目があります。「私たちの地域がでていない」「この芸能が取り上げられてない」などのご意見があれば、それは逆説的言うと、それだけ様々な地域で活発な芸能活動がなされており、多面的で豊かな芸能をもっている証拠になるのではと思います。監修者の三人はそれぞれの担当地域に責任をもって取り組んだことはもちろん、その他の地域の芸能にも最大限の配慮と敬意をもち、“おきなわ”という土地が育んだ芸能を感じてもらえるように構成しました。

―それぞれの地域の芸能を上演するにあたって考えたことや各地域の芸能の現状について教えてください。

【宮古】
前里昌吾 「水」をテーマに演目を構成しました。前半は水不足に苦しんだ時代の歌、中盤は地下ダムができ水が貯蓄できるようになったことから、少しずつ生活が豊かになり、次第に芸能も発展していく様子を『家庭和合』(きないわごう)で表現しました。後半は、宮古の現在、新たな創作として演舞を踊り、最後はクイチャーで先人達への感謝と世の中の平和を願い演じました。

宮古島・福里地下ダム

亀浜律子 宮古には「クイチャーしかない」と言われ続けてきましたが、生活が豊かになるにつれ新たな芸能の創造がなされるようになってきました。クイチャーは雨乞いをしながら苦しい時代を歩んだ宮古を代表するものですが、現在は若い世代の演者が舞台に立つなど、芸能を楽しむ余裕がでてきています。宮古の人は踊ることは好きですが、舞台に立ち、お客さんに見てもらうということが遅れていました。苦しい時代があったからこそ、今の宮古の芸能があり、琉球・八重山にならんで「宮古舞踊」というジャンルが確立できたらいいなと思っています。

宮古の古謡「なりやまあやぐ」発祥の地とされる友利の海/記念碑

【八重山】
大田静男
 今回の演目は2部構成で、前半は古謡(豊作祈願や、神への感謝を表す曲など)。稲作をはじめ、人々の生活環境は変わりました。そのため、最近、古謡はほとんど歌われておらず、無伴奏の歌は消え去りそうになっています。ユンタ(古謡のひとつ)の持つ生命力あるダイナミックな歌はなかなかありません。後半の舞踊は、琉球王府の影響があって成立したもの。この二部構成のプログラムで八重山の芸能ジャンルの90%を見せることができたと思います。

八重山の芸能 古謡/舞踊(沖縄公演)

新盛基代 西表の古見では年々世帯数が減り、高齢化が進んでいます。芸能の継承の場でもある祭祀は年に十数回行われていますが、現状、村の人だけでの実施が難しくなっており、先人が守ってきた踊りを披露することも少なくなってきました。今回、そのようななかでは《古見ぬ浦節》を披露する機会を得られ良かったです。昨今の感染状況も含め、これからの課題はたくさんありますが、公益財団法人沖縄県文化振興会の支援もあり、祭事や三線の楽譜(工工四-くんくんしー)の作成などによって、学生や若い世代が芸能に触れる機会も増えてきました。こどもから大人まで、芸能に対して前向きになってきています。

西表島・古見

【琉球】
遠藤美奈 ロームシアター京都から「継承と創造」と「声」というテーマの投げかけがあったことから、組踊や沖縄本島の民俗芸能ではなく、あえて琉球の古典音楽の「声」に挑戦しました。三線演奏には今ではほとんど使われなくなった絹弦を使い、マイクをほとんど通さないことで、無理のない自然な音色を届けることができたと思います。また更なる挑戦として、本来は歌のみのところに、当時の特性から、祝儀牲を持つ「若衆踊り」「二才踊り」を、琉球舞踊家に作舞してもらいました。

宮城茂雄/佐辺良和の各氏作舞による舞(沖縄公演)

新垣俊道 北宮十二頌曲で演奏する「かきやてふうふし」や「つくてやんふし」は琉球古典音楽を知る人にとっては馴染みのある曲ですが、曲は同じでも歌詞が12曲とも通常と異なりました。まずは歌詞を覚え、節にのせるところから始まったのですが、囃子言葉の位置も重要でこれらを含めた演奏は、とても難易度の高いものでした。また、曲想も普段と違ったので、どう表現すべきかとても悩みました。さらに、当時の音色を再現するため、三線の弦を絹糸にしているのですが、胴の皮をゆるく張ったことで奏法や調弦にも変化がありました。特に絹糸は、通常の調弦から1音下げて歌うことになり、曲全体の雰囲気も大きく変わったと思います。そして、今回の5名の地謡編成は2名が男性、3名が女性でした。少人数で男女混成の演奏もあまりないことなので、新たな可能性を見出すきっかけとなりました。

琉球の芸能 地謡(沖縄公演)

 

写真(沖縄公演):仲程長治

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