
デザイン:ササキエイコ
2024年度のロームシアター京都「レパートリーの創造」で発表される市原佐都子/Qの最新作『キティ』。今作では音楽・サウンドデザインに荒木優光、衣裳に南野詩恵(お寿司)と、京都を拠点にそれぞれ自身の作品を発表している二人のアーティストをクリエーションメンバーに迎えている。アーティスト同士の協働からどのような作品が立ち上がってくるのか。城崎国際アートセンターでの滞在制作を終えたばかりの市原、荒木、南野にクリエーションの様子を聞いた。
(取材・文:山﨑健太、インタビュー実施日:2025年1月7日)
*本記事は舞台芸術をめぐる言説を発信するプラットフォーム「紙背」との連携企画です。
——まずはどのようなかたちで今回のクリエーションがはじまったかを教えてください。
荒木 実は最初にオファーをいただいたとき、自分で大丈夫なのかということを改めて確認したんです。というのも、以前拝見した『妖精の問題 デラックス』では額田大志さんが音楽を担当されていて、額田さんと僕ではアーティストとしてやっていることがだいぶ違う。いただいたオーダーも「台本に沿ったテーマ曲みたいなものを作れないか」というもので、僕が普段やっていることとギャップがあるように感じました。それで、いわゆる音楽的なものがほしいのか、それとももう少し変な音を期待されているのか、そのあたりをまずは確認したかったんです。
市原 荒木さんにはまず、作品のなかで同じ音楽を何回もかけたいという希望をお伝えしました。たとえばディスカウントストアのドン・キホーテでずっと流れている「ドンドンドン、ドンキ〜♪」って音楽みたいなイメージです。今回の作品は、資本主義とか消費社会を扱っているので、ああいう、一度耳に残ると延々とループしてしまうような曲を使いたいと思ったんです。
加えて今回は、劇中のセリフをAIボイスで作ることを荒木さんにお願いすることになりました。今回は韓国・香港・日本の俳優が出演するんですけど、三つの言語を舞台上でどうやって扱うか迷っていたときに、俳優の声をサンプリングしてボイスクローンが作れることを荒木さんが教えてくれて。それと今回のコンセプトがうまく繋がりアイディアが広がり、出演者の永山由里恵さんの声をサンプリングして、韓国語・広東語・日本語をミックスした言葉をしゃべらせるというかたちになりました。
南野 私は『妖精の問題 デラックス』に続いて市原作品には2回目の参加となります。『妖精の問題 デラックス』でもゴミを使った衣装を作ったりしていたので、今回もいわゆる既製服や日常の服とは違った衣裳を想定しているんだろうなと思いました。あと、オファーをいただく直前に、城崎国際アートセンターで瀧口翔さんとマルセロ・エヴェリンさんの『共鳴の装置(仮)』という作品の成果発表があって、市原さんもそれをご覧になっていたんですけど、私が担当していたそのときの衣裳も「被服」というよりは身体から離れた形だったんです。だから「人間の形から外れた衣装を作っている人」というイメージでご依頼をいただいたのかなと思っています。

クリエーション成果発表時の様子。photo by bozzo 提供:城崎国際アートセンター(豊岡市)
市原 既製品を組み合わせて衣裳を作るのは作品に合っている方がと思って、それで南野さんへのオファーを決めました。他にも、今回は着ぐるみ的な衣装も使っています。今回の主人公は<ねこ>で、それを3人の俳優が交代で演じるんですけど、それ以外の役との違いをはっきりさせるためにも<ねこ>以外は着ぐるみ的な形で表現したいと思いました。南野さんには『妖精の問題 デラックス』でもバクの着ぐるみを作っていただきましたし、写真で見たほかの作品でも着ぐるみを作っていたりしたので「南野さんなら面白いものを作ってくれるはず!」と思ったんです。
南野 市原さんの作品って面白くてするする読めるんですけど、そのなかに批判や攻撃が巧妙に含まれているんですよね。でも、その文脈にきちんと乗らないと、必要以上に人を攻撃してしまう可能性がある。だから衣裳としても繊細な作業が必要になってくるんです。たとえば『妖精の問題 デラックス』の第一部は「ブス」というタイトルでした。そういうときにどんな衣裳を作るべきか。衣裳とブスという言葉が結びついて、作品には書かれていない読みが生じてしまうことは避けなければならない。市原さんの作品の世界を守るために「余計な想像」がなるべく生まれないように気をつけて作業をしていました。今回の作品は人間ではなく<ねこ>の話なので気持ちが多少は楽な部分はあるんですけど、一方で消費社会がテーマで既製品やキャラクターを扱っているので、著作権について考える必要が出てきていたりもして、今回はそこが私が対峙すべきところかなと思っています。
——城崎国際アートセンターでの滞在制作はいかがでしたか?
荒木 僕は舞台のサウンドをやるとき、あまり戯曲を読み込み過ぎないようにしてるんです。やっぱり舞台の上で起こることがすべてなので、まずはそこに集中する。戯曲は参考にはするけど、それにはあまり縛られすぎずに、何が舞台上で生まれたら面白いかをメインで考えたいと思ってやっています。城崎国際アートセンターでの滞在制作では、まず市原さんの頭にあるキーワードを聞いて、舞台上のセットや衣装のトーンなども「今こんな感じで進んでるのか」と確認しつつ、音楽とAIボイスのデモを仕上げていきました。
南野 私も、実際に俳優がどう動いていくかは刻々と変わっていくので、それを見ながら近くで創作できる滞在制作はありがたかったです。滞在制作中は荒木さんの音楽からインスピレーションを受けて衣裳を進化させる場面もありました。音楽のリズムや反復が衣裳のデザインにも影響を与えているんです。ロームシアター京都での創作でも部屋を用意していただいて、時々稽古を覗きながらそこで作業をさせていただいています。
城崎での滞在制作では「数」ということについてすごく考えていました。戯曲を読んだときに、衣裳としてできることは「数」だなと思ったんです。たとえば動物の繁殖だったり、ゴミが増え続けることだったり、子供の数が減っていることだったり。人間が数を管理しているはずが、うまくいかないからいろいろ問題が起きてきている。そういうことを考えつつ、舞台や稽古を見ながらイメージを衣裳に落とし込んでいきました。

クリエーション成果発表時の様子。photo by bozzo 提供:城崎国際アートセンター(豊岡市)
市原 滞在制作の成果発表会は戯曲全体の約四分の一の部分の上演でした。たとえばAIボイスについても、韓国語・広東語・日本語をどのくらいの割合でどう混ぜていくのかということはこれからまだまだ試していきたいと思っています。韓国のソン・スヨンさんと香港のバーディ・ウォン・チンヤンさんが合流するのもこれからですし、荒木さんからは「舞台上に音を鳴らす装置を置くのはどうか」みたいなアイディアをいただいていたりもするので、クリエーションはまだまだこれからというところです。
荒木 僕は最初は音楽を作るだけのつもりでいたんですけど、作品全体のサウンドをディレクションさせてもらえることになったので、それについてはこれからですね。音楽に関しても成果発表会で使ったものにさらに修正を加えていく予定です。成果発表会で使ったものは「商業施設のBGM」というより、もう少しアジアの屋台っぽい感じのものだった。ちょうど僕が台湾に行った直後だったのと、タイ語とか台湾華語の音がなんとなくにゃんにゃんした感じで猫っぽいなと思っていたこともあって、そういう不思議なアジア感があるループ音楽ができてきたんです。実際に上演してみて「やっぱりもう少しドンキ感が欲しいよね」という話になったので、また全く違った印象のものになっていくと思います。
(荒木が製作した音楽が使われている市原佐都子/Q『キティ』トレイラー)
南野 衣装も第二部ではまたまったく違うかぶりものが出てくる予定です。<ねこ>が成長することで世界の解像度、見え方が変わったということを衣装で表現しているんですけど、ものすごい数を作ることになっているので頑張ります(笑)。
<公演情報>
ロームシアター京都〈レパートリーの創造〉
市原佐都子/Q『キティ』
2025年2月17日(月)~ 2月24日(月)
ロームシアター京都 ノースホール
東京公演あり