Column & Archivesコラム&アーカイヴ

#インタビュー#音楽#小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクト#2022年度

小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXIX G.プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」関連コラム

インタビュー 指揮 ディエゴ・マテウス

インタビュー:深町 達(小澤征爾音楽塾 プロデューサー )
2023.2.1 UP

(C)大窪道治/2022SeijiOzawaMusicAcademy
2022年小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXVIII 「こうもり」公演

2022年12月2日(金) インタビュー 都内

――小澤征爾音楽塾 初の首席指揮者として、3月に公演となる「ラ・ボエーム」を指揮されますが、首席指揮者に就任した経緯を教えて頂けますか?

 2022年の小澤征爾音楽塾「こうもり」公演の際、東京での最初のリハーサルにマエストロ・オザワが聴きに来て喜んでくれていた、ということがまずありました。その後、東京公演のときだったと思うのですが、楽屋でマエストロ・オザワから直接、首席指揮者についての話がありました。マエストロのような指揮者から頼まれたことは光栄であり、故に責任重大だと感じましたが、それと同時に嬉しくてたまらず、すぐにやる気が出てきました。

(C)大窪道治/2022SeijiOzawaMusicAcademy
2022年小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXVII 「こうもり」公演舞台裏での小澤征爾音楽塾長とディエゴ・マテウス氏

――若いオーケストラを指揮する時に気をつけていることは?

 エル・システマで音楽を学んだので、若いオーケストラと一緒に音楽をすること自体が自然なことに感じます。クラウディオ・アバドにもマエストロ・オザワにも共通しているのは、若者を信じていること、その背中を押してくれること。若者を応援して、どんどん与えてくれることです。こうして学んだ音楽家たちは、何年後かにオーケストラで重要なパートを担っているはずですよ。

――話に出たエル・システマについて、簡単に教えてもらえますか?

 生まれ育ったベネズエラの音楽教育のシステムで、ベネズエラの人口は3000万人弱ですが、世界に広がるエル・システマで学んでいる人、関わって働いている人は100万人近くにのぼります。音楽教育だけに留まらない国家的なプロジェクトに発展しています。自分が音楽に目覚めたのもエル・システマです。7歳の頃、父親に連れられて行ったのがきっかけで入りました。行ったその日に楽器を自分で選ぶシステムになっていて、それを家に持って帰るんです。私が最初に選んだのはチェロだったんですが、父の車が小さくて、チェロを家に持って帰ろうとしたら妹二人を乗せることができなくなってしまいました。そこで、チェロは大きいからヴァイオリンにしたらどう? と言われ、車の大きさの関係でヴァイオリンを選ぶことになりました。父は音楽家ではありませんが音楽が好きで、自分が音楽を学び始めたら妹たちも触発されて、両親も合唱を初めました。始めてみたらヴァイオリンが好きになりました。日本とは違い、個人練習から楽器を始めるのではなく、いきなりオーケストラの一員として弾くんです。楽器が弾けなくてもやる。オーケストラという集団の中で演奏できることがすごく好きで、それがモチベーションになりました。その中にいるだけでも楽しいから、弾きたいという気持ちになれたんです。

(C)大窪道治/2022SeijiOzawaMusicAcademy
2022年小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXVIII 「こうもり」公演リハーサル

――そうやってオーケストラで演奏する中で、クラウディオ・アバドに出会ったのですね?

 クラウディオは長い間、頻繁にベネズエラに来ていました。主に冬の頃、ヨーロッパの冬の1〜2月とかですね。(ヨーロッパは)寒い時期ですが、ベネズエラはいつも天気がいいので、よくベネズエラに来て、オーケストラを指揮してくれました。一度、一緒にツアーに行くことになり、スペインのセビリャに行った時に、私が指揮の勉強をしていたことを耳にしたらしく、そのときにバトンを渡されました。それが始まりです。

――もう少し詳しく教えてもらえますか?

 私は一時期、ヴァイオリンでパリの高等音楽学校に行こうと思っていて、オーディションを受けたことがあるんです。でもその年は3人しか採用されず自分は4番目でした。受かったのは12,13才の中国の子ども達。すごい子達でしたね。ベネズエラに帰った後、ホセ・アントニオ・アブレウ先生(エル・システマの創設者)に話をしたら、「きみはどうしたいんだい」と、聞かれたんです。「室内楽も興味あるし、ソリストも、オーケストラもいいなあ」と答えたら、アブレウ先生に「指揮はどう、興味はないかい?」と聞かれ、「ちょっと気になる」と言ったら、ちょうど先生の机の上に置いてあったチャイコフスキーの5番の楽譜を渡されて、「じゃあ明日から授業しよう」と言われて、それをきっかけに指揮の勉強を始めました。

――これまで様々な先生に教わってきていると思いますが、一番影響を受けた先生は誰ですか?

 アバド先生ですね。先生からは互いを聴きあうことについて教えてもらいました。彼にとっては、それがエッセンスだ、と言ってもいいくらい大事だったんですよね。お互い聴きあって、オーケストラのみんなにメンタリティ、マインドセットを入れて、どんどんレベルを上げていく。そういう考え方や、お互いを聴きあう様子がわかったからこそ、彼はレベルが高いパフォーマンスが出来たんだと思います。

――小澤征爾さんとの出会いを教えてもらえますか?

 最初に会ったのは2008年、シモン・ボリバル・オーケストラの日本ツアーでした。指揮はドゥダメル、ソリストはマルタ・アルゲリッチとゴーティエ・カプソン。自分はまだオーケストラでヴァイオリンを弾いており、コンサートマスターをしていました。その時、観客としていらっしゃっていたマエストロ・オザワが東京文化会館の楽屋裏に来てくださり、ご挨拶したのが最初です。
 その後、小澤先生が「誰か若くて良い指揮者はいないか?」とアバド先生に聞いたことがあったそうで、アバド先生が自分の名前を挙げてくれたそうです。2010年、サイトウ・キネン・オーケストラがニューヨークのカーネギー・ホールでツアーを行った時に小澤先生から呼ばれて、今度サイトウ・キネン・オーケストラを指揮して欲しい、と頼まれました。それから、2011年、2014年、2018年、2019年と度々サイトウ・キネン・オーケストラを指揮させていただいています。

(C)大窪道治
2018年12月にサントリーホールで行われたドイツ・グラモフォン創立120周年Special Gala Concert

――小澤征爾音楽塾首席指揮者としての抱負をお聞かせください。

 抱負としては、2つあります。1つ目はもちろん音楽的な教育で、高い水準の音楽を若い音楽家たちから引き出すこと。もう一つは人間性です。こちらのほうがオーケストラにとって大切かもしれません。オーケストラはお互いを聴きあわないといけないし、それには心を開いて話し合い、共通認識を作る必要があります。こうやって人間性を伸ばすと音楽も良くなるんです。そういう経験をしてほしいな、と思います。

(C)大窪道治/2023SeijiOzawaMusicAcademy
ディエゴ・マテウス(2022年12月インタビューにて)


2023年3月17日(金)と19日(日)にロームシアター京都 メインホールで開催される小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXIX G.プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」は、舞台装置と衣裳が本公演のための新制作となる。世界的デザイナー ロバート・パージオーラ氏による、第2幕の舞台デザイン画。

新制作となる衣裳のデザイン画。物語の格となるミミとムゼッタの衣裳。デザインを手掛けたのは舞台装置と同じく、ロバート・パージオーラ氏。

関連事業・記事

Turn your phone

スマートフォン・タブレットを
縦方向に戻してください