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レパートリーの創造 市原佐都子/Q『キティ』関連コラム

市原佐都子/Q「キティ」 記者取材会 レポート

2025.1.22 UP

市原さんは、「ねこ」の視点から描かれる作品にちなみネコのセーターで登場。

時代を超えて末永く上演される劇場のレパートリー演目を製作することを念頭に、ロームシアター京都が2017年から継続して取り組むプロジェクト「レパートリーの創造」。第八弾となる今回は、第64回岸田國士戯曲賞の受賞作家であり、社会における不可触なタブーや性をめぐる矛盾を、大胆不敵かつ繊細に問いつづける劇作家・演出家、市原佐都子による最新作『キティ』をプロデュースする。2月の上演に先駆け、家父長制や資本主義、大量生産・消費システムのひずみから生じる不条理や滑稽、そして欲望のグローバルな均一化を、痛烈なクエスチョンとしてみるものにつきつける、批評的ユーモア満載の今作について、記者取材会を行った。

日程:2025年1月17日(金)
登壇者:市原佐都子、小倉由佳子(ロームシアター京都 事業課長/プログラムディレクター)
司会:儀三武桐子(ロームシアター京都)
レポート:垣田みずき(ロームシアター京都)

 

満を持しての新作書き下ろし
主人公の「ねこ」が、家庭や社会のなかで感じる違和感を描く

■小倉由佳子(以下「小倉」)より企画趣旨説明

市原さんとロームシアター京都の協働は2022年『妖精の問題 デラックス』以来2回目です。1回目はKYOTO EXPERIMENTで初演した『妖精の問題』のリクリエーションで、今回は満を持しての新作です。世界中の劇場やフェスティバルから上演オファーがくる、注目の市原さんと、ともに舞台をつくっていけることは本当に光栄なことです。
構想段階で、市原さんご自身が韓国でのリサーチを実施しました。社会におけるタブーや押しつけられた社会規範の影響を受けやすい女性やそうした社会状況に切り込んでいく市原さんが、使い古された表現ですが「近くて遠い」隣国である韓国をリサーチすることで何か面白いものが出てくるのではと考えました。MeToo運動の盛り上がりにしても、韓国と日本では共通するところもあれば違いもありました。
タイトルの「キティ」は「かわいい」を象徴するような「こねこ」を意味します。主人公の「ねこ」が家庭や社会のなかで感じる、増幅する違和感を描く物語です。今作の特徴として、キャストは日本、韓国、香港の3か国の俳優が参加します。3か国語による台詞と字幕の出し方など、新たな挑戦を試みています。
音楽・サウンドは京都を拠点に活動するサウンドアーティスト荒木優光さんが担当します。衣裳は、京都を拠点に活動する舞台芸術団体「お寿司」を主宰する、劇作家・演出家・衣裳作家の南野詩恵さん。京都を拠点とするスタッフが今作には大きくかかわっています。
これまでの市原作品のなかでも、スケールの大きな世界観で描かれる戯曲です。今回は演出的な挑戦もふんだんに盛り込まれる予定です。

 

「ねこ」の目線から見えてくる「性」が商品化された世界

■市原佐都子 コメント

——今回、最新作をいちからつくるにあたって、どのように構想を練っていかれたのでしょうか。

市原佐都子(以下「市原」):「韓国」をヒントに何かつくれないかといろいろな書籍を読むなかで、シンパク・ジニョン氏の「性売買のブラックホール」[1]という本に出合いました。韓国のエネルギッシュな女性の運動を知り、自分自身が女性であることもあって興味をもちました。そこで同書の著者や、性売買にまつわるアクティビストに会いにいきました。リサーチ中、性売買が行われているエリアを歩いているときに、有名な猫のキャラクターを多く発見し、性が売買される世界をキャラクター=商品としてしか存在できない「ねこ」の目線から見たらどうか、と想像がかき立てられました。

 

AIボイスがしゃべる、ニセモノのキャラクターみたいな演技

——12月には城崎国際アートセンター(以下KIAC)にてクリエーションと成果発表がおこなわれました。そのときの様子をお聞かせください。

市原:青年団の永山由里恵さんと花本ゆかさん、芸術文化観光専門職大学の学生2名が出演し、1幕を試演しました。演出的な部分をすごく迷っていて、3か国の俳優が出演するので、言葉がそれぞれ異なることを前提としつつも、字幕を出して母語で話す、というやり方ではなく、もっと面白がれるやり方を探していました。そんなとき、荒木さんが「AIボイス」を提案してくれました。「AIボイス」は、ある人の声を採取すると好きな言語で好きなことを機械にしゃべらせることができる技術です。

去年インドネシアに仕事で行ったときに、ニセモノのキャラクターグッズがたくさん売られていて面白かったんです。似てるけどちょっと違う、こういう風に変えられちゃったんだ、みたいな。そういう「ニセモノのキャラクター」みたいな演技ができないかな、と思いました。元々の存在から派生して、アイデアだけがとられて、別の存在がつくられ、それが世界中に蔓延っている…。AI技術も、アイデアだけもらってコピーされていくような側面が似ていると思います。今回俳優は肉声では発語せず、すべてAIボイスがしゃべる、という演出にしています。KIACではそれを実験しました。

KIACでのクリエーション成果発表の様子 Ⓒbozzo 提供:城崎国際アートセンター(豊岡市)

——明日より、韓国や香港の出演者も合流し、ロームシアター京都でのクリエーションがはじまります。どんな作品になりそうか、お聞かせください。

市原:一人で考えることに疲れてきたので早く来てくれたらいいな、と思います(笑)。韓国の俳優(ソン・スヨン)も香港の俳優(バーディ・ウォン・チンヤン)も、自分で作品をつくっているアーティストなので、アイデアをもらってみえてくることがないかと期待しています。

 

■質疑応答

記者からの質問では、作品のモチーフなどについて質問が挙がった。特にいわゆる父親、家父長を登場させることについて、市原は「動物としての猫は肉食で、肉食は男性の文化。そこからお父さんは肉食だけど子供は食べたくない、という想像をしました。「肉を食べる」は「女性とまぐわう」というような性的な意味もあります。また、韓国にリサーチへ行ったとき、性売買が行われているエリアで赤いライトで女性を照らしていて、肉屋でも同じような赤い照明が使われていたことが印象的でした」と着想の原点を語った。
小倉は、「リサーチの期間はありましたが、戯曲自体は瞬発的に短期間で書きあげられました。2024年8月にほぼ完成して以降、ずっと演出に向きあい続けていて、劇作家の市原さんと演出家の市原さんが拮抗しているようにみえます」と戯曲で高い評価を得ている市原の、新たな挑戦に期待を寄せる。
『キティ』の戯曲は2025年2月7日発売の『悲劇喜劇』に掲載予定。上演と併せて、ぜひチェックしてほしい。
本作の京都公演は2025年2月17日(月)から2月24日(月・休)までロームシアター京都 ノースホール、続けて2025年3月1日(土)・3月2日(日)に東京公演が予定されている。

 

<公演情報>
ロームシアター京都〈レパートリーの創造〉
市原佐都子/Q『キティ』
2025年2月17日(月)~ 2月24日(月・休)

 

 

[1]シンパク・ジニョン著、金富子監修、大畑正姫・萩原恵美翻訳『性売買のブラックホール』ころから株式会社、2022年

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