2024年度の「レパートリーの創造」で発表される市原佐都子/Qの最新作『キティ』。
市原は2011年のQの始動からこれまで、観たものに確かな創(きず)を刻みこむ、忘れがたい作品を発表し、世に痛烈な問いを投げかけてきた。その作品群は、第11回AAF戯曲賞受賞、第64回岸田國士戯曲賞受賞、国内外のフェスティバルへの招聘など高い評価を得ている。2025年2月の待望の新作公演に向けて、これまでの市原作品に携わったドラマトゥルクが、市原作品に感じること、新作への期待を語る。
木村覚氏(『妖精の問題 デラックス』(2022年初演)ドラマトゥルク)によるコラムに続いてお送りするのは、『妖精の問題』(2017年初演)のドラマトゥルクを担当した横堀応彦氏による、市原作品の「音楽」に焦点を当てたコラムです。
市原佐都子の言葉からは、音楽が溢れ出す。
『毛美子不毛話』の劇中映像でマオ・メイジーが歌う「太陽と大通りの靴職人」、『妖精の問題』の第二部・ゴキブリ、『バッコスの信女─ホルスタインの雌』のスタシモン(コロスたちの歌唱場面)、『弱法師』で語り手・原サチコがドイツ語で歌う呪われた人形の歌。これらの歌は作品を見終わった後にも、観客に強い印象を残す。
それはなぜか。音楽家や俳優の力に支えられていることはもちろんだが、何よりその根底には劇作家・市原佐都子のテキストが持つ力がある。そしてその力はとても強いので、歌のない場面でも市原のテキストからは音楽が溢れ出す。
岸田國士戯曲賞受賞作『バッコスの信女』は、ある主婦が住む家のリビングダイニングルームが舞台だが、その部屋ではペットのパピヨンが飼われている。作品の中盤、このイヌ役の永山由里恵(今回の新作『キティ』にも出演)が「ハワイはさ…」と突然自分の名前を名乗って話し始める場面がある。このイヌの長い1人語りは、決して歌を歌っているわけではないのに、演出家・市原佐都子によるディレクションも相俟って、あたかも音楽を聴いているかのような感覚を観客に与える。一度聴いてしまうと、聴く前の自分にはもう戻れない。この感覚は劇場でしか味わうことのできないものなので、ぜひ実際に体感してほしい。
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定期的にシングルがリリースされるミュージシャンの活動をフォローすることも楽しいが、私にとって市原佐都子/Qの新作を待つことは、リリースは不定期で、メンバーも敢えて固定させないが、毎回誰とコラボするのかが楽しみなミュージシャンの新作アルバムを待つことに似ている。
『妖精の問題』と『バッコスの信女』では額田大志が、『弱法師』では西原鶴真が音楽を担当していたが、今回の新作『キティ』では荒木優光が音楽を担当するという。私にとっては荒木も新作が待ち遠しいアーティストだ。市原と荒木による音楽のクロスオーバーを楽しみに待ちたい。
<公演情報>
ロームシアター京都〈レパートリーの創造〉
市原佐都子/Q『キティ』
2025年2月17日(月)~ 2月24日(月)