
若手アーティストのさらなる活躍を後押しするU35創造支援プログラムKIPPU。「幻灯劇場」は、2025年度に選抜された3団体のうちのひとつだ。
劇作家や俳優、ダンサーをはじめ、写真家、ジャグラー、映像作家まで、多様な作家が集まっての作劇方法が特徴で、旗揚げ公演となった『ミルユメコリオ』は、せんだい短編戯曲賞を、藤井颯太郎が最年少受賞。その後、文化庁文化交流事業として製作した『56db』が国内だけでなく国外でも上演されるなど、躍進ぶりがまぶしい劇団だ。主宰で原作・脚本・演出を手掛ける藤井颯太郎は、他劇団の演出から小説執筆、ワークショップの企画など、多岐にわたる活動を続ける。新作『Waltz for Daddy』公演に先立ち、稽古大詰めのさなかにおこなった藤井へのメールインタビューを再構成してお届けする。
幻灯劇場 Gento-Gekijo
2013 年設立。劇作家や映像作家、俳優、ダンサー、写真家など多様な作家が集まり演劇をつくる集団。旗揚げ公演『ミルユメコリオ』でせんだい短編戯曲賞を最年少受賞。文化庁文化交流事業として『56db』を製作、二ヶ国五都市で上演するなど国内外で挑戦的な作品を発表し続けている。
構成:儀三武桐子(ロームシアター京都)
「音楽→小説→演劇作品」アダプテーションから生まれるもの
―幻灯劇場さんといえば、クラシック音楽と現代演劇など、異なる分野を組み合わせた作劇方法が特徴ですね。
藤井:幻灯劇場には写真家やダンサー、映画監督、芸人など様々なジャンルの作家が所属しています。僕はあらゆるジャンルを包括できるという演劇の特性をつかって、異分野や異文化をミックスし横断していくことに関心があります。
―そのような方法に至ったきっかけはありますか。
藤井:久石譲さんが音楽監督をされている日本センチュリー交響楽団というオーケストラと豊中市立文化芸術センターが共同主催で年四回開催している“センチュリー豊中名曲シリーズ”に小説を書き下ろし始めたのは2022年のことでした。オーケストラの演奏会に物語を掛け合わせるという豊中市立文化芸術センターからのオファーにより、2025年9月の現時点で、オーケストラの演奏会に14編の小説を書き下ろしました。9月13日には『眠りながら飛ぶ』という公演が行われます。この企画の中で2024年に生まれた小説が『美しい足跡』でした。その小説をもとに今回の舞台『Waltz for Daddy』を立ち上げていきました。
「センチュリー豊中名曲シリーズ Vol.30 美しい足跡」の詳細については公演HPご確認ください。
―クラシック音楽から小説を生んだと。それをさらに舞台にしたいと思われたのはなぜでしょう。
藤井:小説特有の制限のない奔放な物語を舞台上に持ち込んでみたいと考えたからです。「音楽→小説→演劇作品」とアダプテーションを繰り返していくうち、それぞれのメディアの個性に合わせ作品は形を変えていき、これまで観たことのないようなユニークな演劇作品になりました。
―メディアを変えていくことで生まれる変化を作品の個性として取り込んでいかれたのですね。小説との違いも楽しめそうです。
藤井:はい。すでに原作小説を読まれた方も、先が予測できないストーリー展開に翻弄されること間違いなし!気になる方は原作小説もチェックしてみてください。ネタバレになりませんので!!
(連載『豊中名曲』 ー美しい足跡は 「センチュリー豊中名曲シリーズ Vol.30 美しい足跡」の公演HPからお読みいただけます)
ジャンル横断のプロ音楽家と、アクロバティックな身体演出が交差する
―今作は、全編生演奏であることも見どころですね。もとは音楽からの着想だったことも息づいているように感じます。
藤井:音楽家たちはジャンル横断のプロぞろいで、観たことのない演奏をします。指揮者、作曲家、DJとしてクラシックシーンとクラブシーンを横断する水野蒼生、ビートボクサーでダンサーでもある本城祐哉、仕立て屋のサーカスを主宰する曽我大穂。三人が音を積み重ねるシーンは圧巻です。
―そこに舞台ならではの身体表現が交差していくのですね。
藤井:現代ジャグリング作家の染谷樹とともに考案した「意志をもって動く足跡」の表現や、ゆったりと空中を歩くアクロバットな表現などさまざまなジャンルの技術を応用した詩的な身体演出もとても魅力的です。様々なジャンルのアーティストがぶつかり合って、あまり観たことが無いような不思議な作品になりました。これまで続けてきた、僕たちの“異文化交流”の一つの集大成となる作品だと思います。
―最後に、本公演は若手アーティスト支援プログラムである「KIPPU」に参加するかたちで制作されましたが、実際に取り組んでみていかがでしたか。
藤井:KIPPUはこれまで関西内外の若手カンパニーを支援するプログラムとして、沢山の良作を世に放ってきました。実際に支援を受けてみてその理由がわかった気がします。京都芸術センターは素晴らしい環境で創作に集中させてくれました。他の地域のアーティストからすると喉から手が出るほど羨ましい環境だと思います。ロームシアター京都は海外のアーティスト招致や日本の作家とのレパートリー創造など、主催事業も多く京都のアーティストに刺激を与え続ける劇場としてこれまでも存在し続けてくれました。ロームシアター京都で作品を上演できると言うこと自体、とても光栄に思います。どちらも京都のアーティストにとってなくてはならない重要な場所です。
-公演、いよいよですね。京都のあとには東京公演が続きます。楽しみにしています。
藤井:ご来場をお待ちしています。
◆公演情報
ロームシアター京都×京都芸術センター U35 創造支援プログラム “KIPPU”
幻灯劇場『Waltz for Daddy』
2025年9月5日(金)~ 9月7日(日)
https://rohmtheatrekyoto.jp/event/133636/
東京公演:10月23日~26日