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ロームシアター京都×京都芸術センター U35 創造支援プログラム “KIPPU” 餓鬼の断食vol.5『DOGHOUSE』関連コラム

川村智基インタビュー スケッチの声から広がる、快活で「ごちゃごちゃ」した喜び

構成:儀三武桐子(ロームシアター京都)
2025.11.26 UP

新作『DOGHOUSE』に関わるメンバー

 若手アーティストのさらなる活躍を応援するU35創造支援プログラムKIPPU。2025年度に選抜されたうちのひとつが劇団「餓鬼の断食」だ。個々のパーソナルな体験を源に繰りだされる血の通った言葉たちによって繰り広げられる丁々発止のやりとりはまるでジャズセッション。舞台上で立ちあがるつかの間の共同体が放つエネルギーに賭けて、これまで作品作りを続けてきた。12月の新作『DOGHOUSE』に向けて稽古真っ最中な代表の川村智基に、劇団の構想、演劇にたいするスタンス、そして今作での挑戦を聞いた。

インタビュー:後藤孝典、儀三武桐子(ロームシアター京都)
構成:儀三武桐子(ロームシアター京都)
インタビュー日時:2025年11月2日 ZOOMにて

餓鬼の断食  Gaki no danjiki
2021 年に川村智基により旗揚げ。関西弁のスラングを多用し、現代社会の構造を若者らの会話で丁寧に描き出す戯曲と、徹底的な観察に基づいた戯画的かつ肉感のある身体を生み出す演出手法を得意とする。関西演劇祭 2023 ベスト演出賞など受賞。


 

関西弁でくりひろげられるジャズセッション

川村智基 撮影:川上さわ

――今年で立ち上げ5年目ですか。

川村 ほんとうは2020年の高校最後の春休みに旗揚げ公演をやろうとしていたんですが、ちょうどコロナの第1波で、正式には2021年に立ちあげました。ぼくの場合、公演ごとに俳優さんに求めるものが異なるので個人ユニットとして始めましたが、途中からプロデューサーの堀(綾花)が声をかけてくれて、今はふたり体制です。堀とはじつは大学の入試で隣の席だったんですよ。入学先は異なりましたけど。

『DOGHOUSE』稽古場風景

――『餓鬼の断食』は高速の関西弁が特徴的ですよね。関西弁にたいして思い入れはありますか。

川村  明確に意識した瞬間があります。言語学の博士号を目指している先輩が、日本語は1言語としてそれぞれカウントできるぐらい多様な方言があるけれど、日本語というひとつの枠組みに括られてしまっているのが大きな損失だって、サイゼリヤで声高に語ってたことがあったんです。たしかに関西弁ネイティブのぼくが標準語で書くと、なにか欠落するものがあるなと。じゃあ、ぼくが書ける言語は関西弁しかないんじゃないかと思ったのがスタートです。また、死語になっていく言葉も、今の会話劇だからこそ扱うべきだと思っています。数十年後に振り返ったときに手触りがある形で残したくて。

――会話の速度がとても速いのが印象的です。

川村  速さにたいして喜びがあるんです。イメージとしてはジャズです。コードに沿って演奏しながら即興でそれぞれがソロを取りあっていくと、コードがいきいきと崩れていきますよね。その即興的な喜び、ジャズ的な取り合い、柔道の乱取りみたいな状態が好きで。
速さって、お客さんにたいする不親切さとして見えたりもしますが、そうじゃない捉え方もあると思うんです。たとえば親戚の集まりや、めっちゃ仲いいグループの会話は、共通のコードのようなものを持っているがゆえにテンポよく、飛躍もし、単語も短くなって、スパンスパンって、次々やりとりされていきますよね。速さが文化圏を表していることがすごくおもしろい。会話の音や速さによって、知らない外国語でもなんとなく内容がわかってくるときの喜びとも似ているように思います。

 

「キュレーション」のような演出方法

『STUDY | 修飾を歓迎する環境←→拒否する身体』舞台写真

――演出で心掛けていることはありますか。

川村 もともと演劇よりも、メディアアートなどの現代アート、建築やファッションが好きなんです。だから、劇団の代表・脚本・演出をしているというよりも、俳優やスタッフさんのキュレーションをやっている意識のほうが強いですね。アートは作品のキュレーションですが、演劇は「人」のキュレーションなんじゃないかなと。これまでに出会ってきた人たちと連れ立って演劇をするっていう感覚があるので、キュレーションという言葉のほうがしっくりきます。
こどもの頃、家がホームステイを受け入れていたり、ボーイスカウトに入っていたりしたこともあって、年齢も価値観も文化もちがう人たちと関わることが好きです。専門性や知識にかかわらず、かっこいいと思う人にどうやったら出会え、一緒にやっていけるかをずっと考えてきました。今作も、記録映像に映画監督の川上さわさん、フライヤーデザインに詩作やイラストなど多分野で活躍されている、のもとしゅうへいさんに関わってもらいました。

――日常会話を舞台に乗せる「vol.シリーズ(ボリュームシリーズ)」、既成戯曲を用いて他のアーティストの方とコラボレーションする「戯れ」シリーズ、実験的な要素の大きな「企み」シリーズの3本柱でやっていると伺いました。結成から決めていたんですか。

川村 はい。旗揚げ時期がちょうどコロナだったので、いろいろ調べながら劇団の方向性を考えました。ちょうど「安住の地」や「スペースノットブランク」が注目を集めていたころで、身体と言語に距離をとりつつスタイルを確立してる劇団が多いなと。そこで、自分がいちばん強度を持てる、現代口語をデッサン的に散りばめていく方法を考えました。たとえば、SNSのタイムラインは、流行の移り替わりが早いですよね。でも、10スクロールぐらいすればなんとなく今の世相がわかってくる。現代口語のコラージュでなにかを表現し、その会話劇から生じるものをダンスにも転じていこうと。ただこのふたつだけだとどうしても自分のボキャブラリーが枯渇する。だから他ジャンルのアーティストとの協働を「戯れ」シリーズとして組み込みました。
自分の問題意識と遠いものにあえて取り組み、「わけわかんねえ」ってなりながらもがーっとつくっていくなかで得たものが、ほかの作品づくりにもいいかたちで反映されていくなと。たとえば、「戯れ」シリーズで、三島由紀夫の『班女』をやったときに、いつもの口語じゃない文語にたいして手ごたえを感じたり、阿部公房の『棒になった男』で初めて身体に向きあったときも、作品内での飛躍や矛盾の考え方が変わったりしましたね。

餓鬼の断食 戯れその1『班女』(近代能楽集より)舞台写真

川村 『STUDY』というコレクティブともいえないゆるやかな共同体もやっています。振付家の櫻井拓斗、サウンドアーティストの池田翔、ドラマーの本多悠人、とテキストと演出をする僕の、ジャンルの異なる4人がコアメンバーで。分野が違いながらも、好きな方向性を共有する同世代が集まること自体が大事なんじゃないかと話しています。
異分野のアーティストとやることで、使う言語はちがっても共通する美学がやっぱりあるんだなと思いましたね。美学って言葉はかっこよすぎますけど、メンバーの共通感覚に乗るために自身の大事にしたい美学について考えることはポジティブなんかもしれへんなって。

『STUDY | 修飾を歓迎する環境←→拒否する身体』稽古記録写真 川村智基による『STUDY』についてのエッセイはこちら『“STUDY”っていう良くわからん演目について。』(note)

――ジャズがイメージの会話劇もそうですが、人と人との相互作用を大事にされてるんですね。

川村 たぶん共同体というものに思い入れがあるんだと思います。「餓鬼の断食」は毎回客演なこともあってメンバーが固定されていません。それは正直けっこう寂しくて。人にたいしても、それが共同体になっていく「寄り合いの時間や過程」にも、双方に愛着があります。たとえば、足が不揃いなガタガタする机をみんなで調整していくプロセスみたいなもの。長いほうを切って短いところに継いで、なんとか1時間ないし2時間かけて、コップを置いても水がこぼれないぐらいまで修理する、その道程こそに興味があるんです。その机は3ヶ月後には壊れるだろうし、その3年後には見るも無残になくなってしまっているかもしれない。でもこの今の舞台の時間だけは、かれらの自助努力によって机が機能している状態を保たれている。その保ちあおうとする動的な状態が美しいって思う。

 

最新作『DOGHOUSE』。土地と身体。

のもとしゅうへいが手掛けたフライヤー

――今作『DOGHOUSE』の舞台は限界集落といわれるような共同体だと聞きました。

川村  はい。インフラが崩壊しかけている後期過疎地域の村が舞台です。村が廃れるのは、第1次産業がなくなることらしいんですけど、農業や林業が廃れると、その産業にたいして存在するお祭りも廃れ、結果的に住民の体に継承されていった歴史も潰える。すると、その場に住む必要がなくなっていくんですよね。そこにIT業がノマド的に入ってくる状況があります。
そういった土地での変化が、どこか人間の体とも重ねて考えられると思いました。たとえば、がん細胞が分裂する速度が早すぎて血管を破壊しながら広がっていくところは、都市で立ちいかなくなった産業が、抜け道を探して地方に行きつき結果的に荒らしていくという構造とも似ているなと。人間の身体と戦後日本という身体の重なりから作品を立ち上げています。

――DOGHOUSEの由来である、「in the doghouse」というスラングには行き詰まりという意味がありますね。SNSではキュートな喜劇とか、パワフル、キュートかつキッチュみたいな表現をされていましたけど。

川村 そう、一幕はめっちゃ笑える喜劇なんですよ。でもどこか悲劇的なグロテスクさもある喜劇です。リサーチでは、都市開発、脳、がん細胞の研究者や、後期過疎地域の集落の住職さんに取材させてもらっています。とくに後期過疎地域で経済的に厳しいなか、それでも守りたいものをもってお寺を運営されている住職さんのお話がとても印象的で。その一概に言えない執念のようなものに、どうやったら作品内で辿りつけるんだろうと探っています。

――今回は、これまでとちがって若手の方のほかベテランの俳優さんもいらっしゃいますね。

川村 はい。ぼくはスケッチのように言語を扱う側面が強いので、どうしても近い年代のことしかちゃんと書けないんです。だからそれを広げるために上の世代の俳優さんに参加してもらいました。

――今回は、川村さんが出演されないんですよね。なにかちがいはありますか。

川村 ぼくが出演するときは、本番の舞台上で、あそこ巻いてとか、あそこ2倍遅くしてとか、スマホのメモやグループLINEを使って即興的にリズムキープをしているんです。それをせずに一歩引いた立場になると、作品としては整ってきますが、ごちゃごちゃした喜びは失われていく。それを悲しく思う時もあって…。だから最近は、俳優さんに無理やりノイズをつくってもらうことを意識しています。アドリブじゃない形で、どうやったら俳優さんの体が自由になるのかなと。自由になった俳優さんの体を眺めるのがいちばん幸せな瞬間ですから。

ごちゃごちゃした喜び

『或る解釈。』舞台写真

――「ごちゃごちゃに喜び」は、まさに餓鬼の断食さんの特色ですね。

川村  まとまってないもののほうが好きですね。エゴン・シーレのスケッチが好きなのですが、あの自由に描かれた線から広がる空間みたいなもの。人物その人ではなくて、人と人の相互の関りから生まれる広がりこそを見たいんです。それを表現するためには、まずエネルギーのぎゅっとした玉が必要だと思っていて、そのエネルギーの泥玉をどれだけ固く大きくできるかを、砂場の幼稚園児の張り合いのように取り組んでいくことが20代のぼくの仕事なんじゃないかと思っています。

――それをどう稽古場でつくりあげていっているんですか。

川村 これが難しくて。誰かに告白する時って緊張するやん、みたいな一般論はいやなんですよね。パーソナルな感情まで持っていかないと嘘になってしまう。
ぼくは戯曲を俳優さんひとりひとりへラブレターとして宛て書きで書いています。たとえば何月何日の何時に誰々から来た電話にめっちゃ腹立ったみたいな、ものすごくパーソナルな原体験をエネルギーの泥玉にして、客席にぶつけるみたいなことを起こしたい。

『DOGHOUSE』稽古場風景

川村 俳優同士の即興のポジション取りによって生まれる快活さと、その喜びを大事にしています。だからうまくならないでくださいって俳優さんにずっと言ってるんです。うそをつかないでほしい、皮をかぶらないでほしい、もっとわがままになってほしい。俳優さんとはそういうやりとりをずっと続けてきました。まあ、こういう作り方は自分が若いからできてんのかなとも思いますけどね。

――今後どんな活動をされていくのか楽しみです。

川村 5年後ですら何やっているかわからないですけどね。演劇やってても納得ですし、急に絵を描いてるかもしれないし、またはイベントをしたりしているかもしれない。

川村智基による本公演に向けてのエッセイ 「お寺の話のくせ『DOGHOUSE』って言うタイトルの演目について。」

新作『DOGHOUSE』に関わるメンバー

川村智基 撮影:川上さわ

 

◆公演情報
ロームシアター京都×京都芸術センター U35 創造支援プログラム “KIPPU”
餓鬼の断食vol.5『DOGHOUSE』

2025年12月5日(金)~ 12月7日(日)
https://rohmtheatrekyoto.jp/event/134420/

  • 川村智基インタビュー スケッチの声から広がる、快活で「ごちゃごちゃ」した喜び

    撮影:松本尚大

    川村智基 Tomoki Kawamura

    2001年生まれ。奈良県出身。劇作家、演出家、俳優。劇団『餓鬼の断食』代表。西陽〈ニシビ〉プロジェクトメンバー。
    関西弁で捲し立てる会話劇や、演技表現の延長線上にあるダンス表現に取り組んでいる。
    常に「自分にとって今、何がおもしろいのか。」に対して素直に生きていたいと思っている。
    https://gakinodanjiki.jimdosite.com/

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