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#インタビュー#舞踊#2024年度

ラシッド・ウランダン『Corps extrêmes——身体の極限で』関連記事

人間の身体の極限に挑む
サーカスとコンテンポラリーの奇跡のアンサンブル
ラシッド・ウランダン インタビュー

聞き手・文:乗越たかお Takao Norikoshi(作家・ヤサぐれ舞踊評論家)
2024.9.9 UP

2024年パリオリンピックのセレモニーでの反響も記憶に新しいラシッド・ウランダン。いよいよ来日する『Corps extrêmesコール エクストレーム-身体の極限で』は、ハイライナー、クライマー、アクロバットパフォーマーによるめくるめく超絶技巧が展開される、スポーツとアートが融合した新感覚のパフォーマンスだ。コロナ禍により生物としての人間の脆弱さが再確認され、挑戦よりも安全が優先される現代において、ウランダンが表現する未知へ挑戦する人間の探求心とは。

聞き手・文:乗越たかお Takao Norikoshi(作家・ヤサぐれ舞踊評論家)
転載元:彩の国さいたま芸術劇場広報誌「埼玉アーツシアター通信」(2024年8月号掲載記事) より


 

©Pascale Cholette

 

3つの「危険に立ち向かう身体」

――10月に来日する『Corps extrêmes ─身体の極限で』は、「ハイライナー(綱渡り)、クライマー(素手で崖や岩山を登る)、アクロバット」の3者が登場します。あなたはなぜ彼ら「危険に立ち向かう身体」を作品のテーマにしたのですか。そしてなぜこの3者を選んだのでしょう。

ウランダン この作品がコロナ禍の時期につくられたことと関係しています(初演2021年)。あのとき私たちは自分自身の弱さ、環境のもろさ、生物の弱さといった多くのことを問い直すことになりました。
 彼らに共通しているのは「ハイレベルな技術とともに、周囲の環境を鋭敏に感じ取る豊かな感受性をもつ人たち」ということです。作品中に彼らのパフォーマンス映像が流れますが、ハイライナーやクライマーは峡谷や絶壁など大自然のなかで、空気の流れや岩肌といった周囲の環境を観察し対応しています。アクロバットは室内ですが、やはり仲間をつねに観察し感覚を共有していなければ、高レベルのパフォーマンスは不可能です。
 私は彼らをスポーツ選手やパフォーマーという分類ではなく、「エアリアル(空中)にいるコミュニティ」と考えて作品にしようと思ったのです。

――彼らは人類の歴史のなかでも、ずっと魅力的な存在であり続けてきました。

ウランダン エクストリームスポーツをする人たちは決して「死と戯れる、ちょっとクレイジーな人たち」ではありません。彼らは繊細に周囲を観察し合理的に判断してリスクをコントロールしている。いわば「生命の極限状態に、明晰な意識のまま存在することができる人々」なのです。

 

生命の瀬戸際にある「静けさ」

――しかし今作でアクロバットの方は、トラウマと呼べるような失敗の経験について語っていますね。

ウランダン 本作で彼ら自身の言葉を使った理由は、まさにそこです。「彼らは超人だから」で終わるのではなく、超絶パフォーマンスの内側で彼らが感じている煩悶を、観客と共有したかったのです。
 彼女は必要な知識と技術がまだ自分に備わっていなかったのにできる気がして、事故が起きてしまった。平静な気持ちと集中力をもって物事に取り組む彼らにとってすら、自分自身を知ることの重要さと困難さを示す、非常に重い言葉だと思います。

©Pascale Cholette

――この作品は、動きは激しいのに静寂さが漂っているような不思議な印象を受けます。それはウランダンさんのおっしゃる「自分自身と周囲を冷静に見守り続ける視線」のためかもしれません。熱と静けさが同居している独特な感覚にはジャン=バティスト・ジュリアンの音楽も重要な役割を果たしていますか?

ウランダン 彼との協働は長いですが、彼の音楽は映像的な次元をもっているんですよ。時には時間を止め、瞑想へと誘うような環境をつくってくれるのです。それが「静けさ」を舞台にもたらしているのかもしれませんね。

 

限界を知ることが強みになる

©Pascale Cholette

――今回取り上げられた3人以外にも、現代社会にはさまざまな「危険に挑む人々」がいます。なぜ我々は彼らに魅了されるのでしょう。本作中でクライマーは「今の社会は安全を重視するあまり、子どもは転ぶことすら経験できない。それは身体を歪ませる」と発言していますね。現代社会に住む我々は、日常が安全すぎるあまりにそういう人を求めてしまうのでしょうか。

ウランダン たしかに、最近そういうことが多い感じはします。それが今だからなのか、以前からそうだったのかはわかりませんけれども。人間はもともと、あらゆるものを自由に探求していく生き物です。自然や環境は直接身体に語りかけてくるものですし、身体もまたリアクションしようとする。リアクションによる小さな達成感でも、積み重なることでさらに新しい可能性へ挑戦していく意欲につながっていきます。

――危機に向かう彼らをとおして、我々はそういう小さな達成感を求めているのかもしれませんね。

ウランダン 彼らは自分の限界を正確に意識することで、いま可能なぎりぎり最大限のパフォーマンスを実現しています。それは限界が「弱み」から「強み」に転化する、非常にエキサイティングな瞬間でもあります。

©Pascale Cholette

 

ダンスは社会のあらゆる場所に

――最後に、あなた自身のことを聞かせてください。あなたは2021年にシャイヨー国立劇場の芸術監督に就任しました。劇場の将来像について、どのような取り組みを考えていますか?

ウランダン シャイヨー劇場は、フランスで唯一の国立ダンス専門劇場です。しかしダンスは劇場だけではなく社会のあらゆる場所に存在しています。私たちの劇場は多様性とホスピタリティを体現し、世界中のあらゆる身体表現を迎え入れる場所であるべきです。ダンスを体験し・学び・楽しめる、つまりダンスに関する「知識」と「実践」を集約する場所にしていきます。

――今作は「環境の観察」と「技術」を使って高いレベルのパフォーマンスを実現していく作品で
す。今おっしゃったシャイヨー劇場の「知識」と「実践」の理念を体現した作品といえるかもし
れません。公演を楽しみにしています。

©Pascale Cholette

 


<公演詳細>
ラシッド・ウランダン 『Corps extrêmesコールエクストレーム ー 身体の極限で』
2024年11月2日(土)19:00 開演
    11月3日(日・祝)15:00 開演☆
☆3日のみ、ダンサーによるポスト・パフォーマンス・トークあり(ラシッド・ウランダンは出演しません)
会場:ロームシアター京都 サウスホール
上演時間:約60分
https://rohmtheatrekyoto.jp/event/119835/

  • 人間の身体の極限に挑むサーカスとコンテンポラリーの奇跡のアンサンブルラシッド・ウランダン インタビュー

    Ⓒ Julien Benhamou

    ラシッド・ウランダン Rachid Ouramdane

    1992年にアンジェ国立現代舞踊センターを卒業後、振付家・パフォーマーとしてフランス国内外で活動を開始。2005年からアヌシーのボンリュー国立舞台、2010年からパリ市立劇場のアソシエイト・アーティストを務めた後、2016年1月より、サーカス・アーティストであるヨアン・ブルジョワとグルノーブル国立振付センター(CCN2)の共同ディレクターを務めた。2021年4月、シャイヨー国立劇場のディレクターに就任。日本では2012年に「万国博覧会(ワールド・フェアー)」、2018年に「TORDRE」、2022年にカンパニーXY withラシッド・ウランダン「Möbius /メビウス」を上演。

  • 乗越たかお Norikoshi Takao

    作家・ヤサぐれ舞踊評論家。株式会社ジャパン・ダンス・プラグ代表。
    世界のフェスをめぐり、現代サーカスにも詳しい。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』(作品社)、『ダンス・バイブル』(河出書房新社)、『どうせダンスなんか観ないんだろ!?』(NTT出版)、『舞台の見方がまるごとわかる 実例解説!コンテンポラリー・ダンス入門』(新書館)、他著書多数。現在、月刊誌「ぶらあぼ」で『誰も踊ってはならぬ』を連載中。

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