Column & Archivesコラム&アーカイヴ

#コラム・レポート#演劇#参加/学び#地域の課題を考えるプラットフォーム#2022年度

地域の課題を考えるプラットフォーム「仕事と働くことを考える」(その2)
村川拓也 演出「Pamilya(パミリヤ)」 関連コラム

エッセイ 日本の高齢者たちを支える外国人介護士たち
~パートナーとしての存在の大切さ~

文:田中優子
2022.12.15 UP

本稿は、「Pamilya(パミリヤ)」初演時(2020年2月開催:キビるフェス)のパンフレット(編集:長津結一郎)に掲載されたテキストを今回の再演(2022年12月開催:地域の課題を考えるプラットフォーム「仕事と働くことを考える」(その2)村川拓也 演出「Pamilya(パミリヤ)」)のために改稿したものです。


介護業界の人材不足は深刻な問題です。この問題が一気に表面化してくる2025年は、もうすぐそこまで来ています。増え続ける高齢者や要介護者たちを、もはや日本人だけでは支えきれないのは明らかです。2000年に介護保険制度が施行され、介護を専門的なサービスとして保険料を負担しながら支えていく「介護の社会化」がスタートしました。子が親を介護する、という今までの家族介護のあり方から多様な介護サービスの中から自分たちの希望に合った事業者と契約するというものです。
介護の専門職が提供する介護が一般的になってくると、介護業界で働く人の人材不足という問題が浮上してきました。求人を出しても応募がない、すぐ辞めてしまうなど、理由は様々ですが、慢性的な介護人材不足はますます深刻化しています。
そんな中、最近外国人介護士受け入れが本格化してきました。2008年に始まったEPA(二か国間経済連携協定)、2017年には在留資格「介護」や技能実習、2019年には「特定技能1号」が新設されました。

外国人介護士受け入れ制度

今、日本で働いている外国人介護士のカテゴリーは、①定住者、②留学生のアルバイト、③EPA介護福祉士、④在留資格「介護」・技能実習・特定技能1号などがあります。
介護の留学生は国家試験に合格すると在留資格が「介護」に変わります。日本で働く外国人介護士の各制度について簡単に表にまとめてみました。

表 外国人介護士受け入れの4つの制度比較

  EPA 介護 技能実習 特定技能
入国の条件 看護系学校卒業か母国政府による介護士認定 介護福祉士 技能実習制度の介護固有の要件を満たす 介護技能試験と介護日本語評価試験合格者
就労規定 国家資格取得後永続的 永続的可能 最長5年
介護福祉士資格取得で永続的
最長5年
介護福祉士資格取得で永続的
日本語能力 インドネシアとフィリピンはN5、ベトナムはN3 養成校卒業生はN3〜N2レベル 入国時はN4レベル ある程度の日本語会話ができ生活に支障がない程度。
介護の現場で働くうえで必要な日本語能力
受け入れ機関等のサポート あり
icwels(国際厚生事業団)
ない あり 
監理団体
あり
登録支援機関
課題点 国家資格取得後帰国者が多い 入国に際してのサポート支援がない 他の制度に比べて日本語能力要件が緩い 日本語と専門分野の試験がある

 

受け入れの準備とプラスの効果

受け入れにあたり施設は、入国者の日本語レベルや介護についての技術・知識の事前学習について、施設内の職員たちと情報を共有しておくことが必要です。受け入れ制度によって日本語や介護の技術のスキルが異なることや、本人たちの日本で働く意味やモチベーションも違うことを理解しておくことが大切です。またその国の宗教や風習、文化や価値観なども理解し共有することも忘れてはいけません。介護人材が確保されれば介護職員一人ひとりの負担も軽減・分散でき、介護離職の減少につながる可能性もあります。現在、日本に来ている東南アジア系の人たちは明るく朗らかで、ホスピタリティが高く介護の仕事に向いているように感じます。日本人が一緒に働くパートナーとしては働きやすいのではないでしょうか。
外国人介護士と一緒に働くことで、日本人職員にも新たな意識の変化がみられてきています。異言語・異文化、さらに価値観や宗教観が異なった外国人と協働することで、今まで気づかなかった自分の国の文化や伝統、四季折々の行事や風景などを再認識する職員も少なくありません。

外国人介護士たちの本音とは…

外国人介護士たちが外国で介護の仕事を頑張れるひとつの要因として、毎月確かな賃金を得ることができ、母国への仕送りや自分の生活が不安なく送れることがあります。介護の留学生も卒業後の就職先である介護施設でアルバイトをしながら収入を得ています。さらには、その施設から生活支援金のサポートを受けている学生もいます。
また、介護の先進国である日本の介護技術の習得は、これからの自分の人生のスキルアップ、さらに日本語力は将来日系企業への就職や新たなビジネス展開など、自分のアドバンテージになると考えている人も多くいます。ほとんどの外国人介護士は、数年後は母国に帰り家族と暮らしたいと思っているようです。

外国人介護士受け入れの現状と課題

受け入れる施設側からみれば、海外からの人材確保は容易ではありません。どの制度を活用するか、どれが一番自分たちの施設に合うのか検討を重ねて決定します。過去、「介護は外国人ではなく日本人で!」という考えが多くを占めていた分野での外国人雇用ですから、ほとんどの法人や施設で戸惑いがあるのは当然です。でも待ったなしの現実をみると、外国人介護士が当面の間、人手不足解消の手助けになるのは間違いないでしょう。実際のところ、ここ2~3年間で外国人介護士たちは増加の一途をたどっています。特に留学生を受け入れている介護福祉士養成校では半数以上が留学生という学校も少なくありません。学校経営上、留学生は必須不可欠な存在になっています。
外国人介護士を受け入れることは、介護施設にとって新たな生活支援や学習支援等などの経済負担や指導職員等の人的負担が生じます。しかし、これらの支援を負担と思わず、施設側の「人を育てる!」という意識が外国人介護士の定着に繋がっていくのではと考えています。

今回の再演にあたり

2020年2月に福岡市で初演された「Pamilya」が今回、新たに再演されることになりました。わずか2年の間に、日本における外国人介護士を取り巻く環境は大きく変わりました。たくさんの外国人介護士たちが、日本の介護施設で働く姿が特別ではなくごく普通になってきています。みなさんも介護施設で日本のお年寄りの方を介護している外国人の方の姿を目にしたことがありませんか?
出演のジェッサ・ジョイ・アルセナスさんは、前回の公演時は介護福祉士国家試験の受験の年でした。彼女と私は約3年間、介護福祉士国家試験合格を目指して一緒に勉強しました。公演の練習をしながら彼女はみごと国家試験に合格し介護福祉士になりました。実は私が日本語教師の資格取得を目指したきっかけは彼女との出会いで受けた刺激が大きかったと思います。
今回の公演で久しぶりに彼女と会うことになります。前回同様、今回もいろいろ想像しながら公演初日を楽しみに待っていようと思います。

  • 田中優子 Yuko Tanaka

    看護師・介護支援専門員・社会福祉士・教員として30年以上、医療・福祉・教育の現場で介護の人材育成に携わる。15年前、介護士を目指す在留フィリピン人の授業風景を見学、彼女たちの一生懸命さに感動を覚え外国人介護士育成の道へと進む。現在は留学生が学ぶ介護福祉士養成校の非常勤講師やEPA介護福祉士候補生の国家試験対策を中心に活動。2019年12月に日本語教師の資格取得。

関連事業・記事

Turn your phone

スマートフォン・タブレットを
縦方向に戻してください