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#インタビュー#2021年度

Artist Pickup Vol.17

おおしまたくろう

インタビュー・文:長野夏織
2022.2.15 UP

ノイズをユーモアに変換し、社会をマッサージする

PLAY A DAY(毎日PLAYする)をモットーに、身近な道具を改変した楽器の制作と、それらを組み合わせたユニークなパフォーマンスを発信し続ける、おおしまたくろう。

子ども時代は、両親や兄弟が聴いていたロックやブルースなど、比較的ノイジーな音楽に囲まれて育ったが、楽器演奏の経験はほぼ無いという。「ドラえもん」や「鉄人28号」などの漫画が好きだったことから、いつしかロボット開発者に憧れるようになる。工業高等専門学校(高校~大学)に進学し、ロボットなどの機械工学を学んだ。その後、同級生の薦めで知った、岐阜にある情報科学芸術大学院大学[IAMAS]に入学。ここでの経験や出会いが、現在の作品スタイルの礎となっている。

「世の中から排除されてしまいがちな“ノイズ”を、パフォーマンスを通して肯定的に捉え、ユーモアや笑いに変換し、表現することを意識しています」。そのような思考の背景には、自身の吃音症がある。「ノイズには、言葉通りの雑音と、社会の異分子という両方の意味が含まれていると思います。自分がうまく喋れないことと、思い通りには動かない楽器(作品)を重ね合わせている部分もあります」。ノイズ・ミュージックは、逸脱を目指すものである一方、逸脱の範囲が大きすぎると不気味で怖いものとして捉えられてしまうことがある。普段耳慣れないものを、パフォーマンスという一瞬の時間だけでも面白いものとして受け止め、共感してもらえたら良い。それによって、社会の凝り固まった部分(世の中の規範)をマッサージしたいという思いが、活動の根幹にあるという。

最近は、コロナ禍によって、ライブパフォーマンスの機会が制限されたこともあり、オンラインでのライブ配信を試すようになった。その中で、特にマイクの重要性を感じ、小さな音を扱ったパフォーマンスなど、ライブ空間とは異なるマイクの存在や可能性にも注目している。また、耳型のマイクを開発しパフォーマンスに取り入れるなど、造形も含めた作品づくりにも挑戦し始めた。コロナの状況に応じながらも、コロナを直接的にテーマにするのではなく、環境に応じたさまざまなアプローチを試行していきたいという。

新しい音が生まれ、新しい価値観が生まれる。それが、人生の面白みとなり、自分自身を乗り越えることにもつながっている。

  • おおしまたくろう Oshima Takuro

    1992年京都府生まれ、同地在住。音楽や楽器の名を借りた遊びやユーモアによって社会の不寛容さをマッサージすることを目指す。近作に、車のウィンカーのタイミングのズレを利用したグルーヴマシーン「NB-606」、スケートボードとエレキギターを組み合わせた道楽楽器「滑琴(かっきん)」など。音の実験ワークショップ「SOUNDやろうぜ」を主宰。ロームシアター京都では、「ホリデー・パフォーマンス Vol.5」(2020年)に出演した。

  • 長野夏織 Kaori Nagano

    ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)事業課事業係長。事業企画では主に音楽事業を担当。昭和音楽大学アートマネジメントコース卒業後、ミューザ川崎シンフォニーホール(2004-13年)にて事業企画・広報を担当。2014年1月、開設準備室より現職。2022年11月退職。

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