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#コラム・レポート#演劇#市民寄席#2017年度

【市民寄席】演目解説(第335-339回)

文:佐田吉(小佐田定雄)
2021.7.1 UP

1957年にスタートし、京都では恒例の落語会として長く親しまれてきた「市民寄席」。 京都会館がロームシアター京都としてリニューアルオープンしてから最初に開催された市民寄席は、第325回(2015年5月15日)の市民寄席です。第325回から今日まで、市民寄席は30回以上開催され、130以上の演目が上演されました。

市民寄席では、ご来場いただいたお客様に配布するパンフレットに、小佐田定雄氏による演目解説を掲載しています。Spin-Offでは、ロームシアター京都版・上方落語演目のミニ辞典として、また、これからも続く市民寄席の歩みのアーカイブとして、本解説を継続して掲載していきます。

 

第335回

日程:2017年5月23日(火)

番組・出演
「雑 俳」桂二葉 
「銃撃戦」桂文鹿
「崇徳院」桂春雨 
「船弁慶」笑福亭松枝
※一部広報物等で、「雑排」との表記がありましたが、正しくは「雑俳」です。

◆ 雑俳 ざっぱい
 古典落語 『雑俳』 を女流落語家の大先輩である桂あやめさんが女子むけにリライトした作品です。 「雑俳」 というのは 「俳句」 と同じ五七五の十七文字で表現される世界ですが、 「俳句」 があくまでも文学であるのに対して、 遊戯的な要素の強いものです。 「大喜利」 でおなじみの 「やりくり川柳」 や 「折句」 なども雑俳の一種と言っていいでしょう。

◆ 銃撃戦 じゅうげきせん
 我が国のおまわりさんがピストルを携帯するようになったのは大正時代の末のころだったと言われています。 それ以前はサーベルを腰にぶら下げて、 ガチャガチャ音を立てながら歩くというのがおまわりさんのスタイルでした。 実は警官より前に、 郵便配達員が強盗撃退用に明治六年(一八七三)から所持していたのです。 我が国では 「天才バカボン」 に登場する本官さんが最も発射弾数の多いおまわりさんだそうです。

◆崇徳院 すとくいん
 崇徳院さんは鳥羽天皇の第一皇子ですが、 実は鳥羽天皇の祖父の白河法皇の子供だという説があります。 そのため、 鳥羽天皇からは疎まれて皇位を追われます。 後にクーデター (保元の乱) を試みますが失敗。 讃岐の国に流されて、 その地で生きながら天狗になって憤死したと伝えられます。 「割れても末に逢わんとぞ思う」 は単なる恋歌ではなく、 「再び都に帰るぞ」 という思いが込められているという学説もあります。 

◆ 船弁慶 ふなべんけい
 大阪の 「夏」 を先取りした噺です。 後半の舞台になる難波橋は江戸時代から夕涼みの名所でした。 我黒の句に 「涼しさやながかれとおもう難波橋」 というのがあります。 また、 橋の上からの眺めもみごとなもので、 橋の上から十六の橋を見ることができたそうです。 「西東みな見 (南) に来た (北) れ難波橋すみずみかけて四々の十六」 という蔭山梅好の狂歌が残っているくらいです。

第336回

日程:2017年7月19日(水)

番組・出演
「桃太郎」桂 団治郎 
「阿弥陀池」林家 竹丸
「鹿政談」桂 春若
「竹の水仙」笑福亭 鶴光

◆桃太郎 ももたろう
 昔話では 「ある所」 となっている桃太郎の出身地ですが、 あちこちに 「うちこそが生誕地」 と手を挙げる町があります。 例えば岡山市、 香川県高松市、 愛知県犬山市、 奈良県磯城郡田原本町などが有名です。 中でも犬山市には 「桃太郎神社」 なるお宮さんがあり、 市内には犬山、 猿洞、 雉ケ棚という家来たちに縁のある地名も存在するそうですよ。

◆ 阿弥陀池 あみだいけ
 阿弥陀池があるのは大阪市西区の和光寺。 元禄十一年 (一六九八)に堀江新地が開発された時に建立されています。 境内には講釈や浄瑠璃の寄席をはじめ、 あやつり芝居、 軽業などの見世物小屋や物売り店が並んでいたと申します。 「百々屋」 という精進料理の店が境内の片隅にあり、 大阪弁の 「隅っこ」 を意味する 「すまんだ」 と呼ばれていました。 桂文屋という人が創った明治の新作落語です。

◆鹿政談 しかせいだん
 奈良奉行所があったのは現在の奈良女子大学のあるあたりです。 奉行所といってもかなり広く、 東西百七十メートル、 南北も百七十メートル。 総坪数が八千七百坪と申しますからおよそ二万九千平方メートルありました。 そこに奉行が事務を行う書院公事場、白洲、 吟味所、 公事人溜り、 与力詰所、 同心書方詰所などの役所と、 奉行と家来の住居に庭園などがあり、 牢屋は奉行所の北側の町にあったそうです。 

◆竹の水仙 たけのすいせん
 京山幸枝若師の浪曲でおなじみの名工伝説の一席です。 噺に登場する細川越中守は肥後熊本の大名で、 風流の道にも詳しい殿様として他の落語や講談にも出演しておられます。 例えば近年上方でもよく演じられるようになった 『井戸の茶碗』 のお殿様も細川様です。 その子孫が元・総理大臣の細川護熙さん。 政界を引退した後は陶芸家として活躍しておられるのも細川家代々の伝統なのかもしれません。

第337回 ~市民寄席60周年記念公演~

日程:2017年9月23日(土)

番組・出演

「金明竹」林家 花丸 
「ふぐ鍋」桂 米二
「くっしゃみ講釈」桂 文珍  
  口上 福団治・文珍・仁智・米二 (司会:花丸)
「トクさん トメさん」笑福亭 仁智
「藪入り」桂 福団治

◆ 金明竹 きんめいちく 
 タイトルになっている「金明竹」というのは観賞用の美しい真竹の一種で、茎の部分が黄金色で枝分かれした上の部分に節があります。輪切りにして花活けに使用したと申します。東京ではよく演じられているおなじみのネタですが、花丸さんの師匠の四代目染丸師匠がこちらに輸入して、今では上方落語の大きな財産になりました。

◆ ふぐ鍋 ふぐなべ 
 米二さんの誕生日は一九五七年九月二日…ということは市民寄席が誕生する三週間前に生まれた「お兄さん」です。しかも、どちらも京都市の生まれ…ということは、いわば市民寄席といっしょに育った落語家さんと言ってもいいでしょう。さらに、生まれて初めて見た落語会が「市民寄席」で、その時の感動が落語家を志すきっかけとなった…と申しますから、まさに「市民寄席の申し子」なのです。

◆くっしゃみ講釈 くっしゃみこうしゃく
 市民寄席の出演者は全員が落語家さんで、最近は記念の特別公演に太神楽が色物として出演するくらいですが、昔は講談の三代目旭堂南陵先生がよく出ておられました。落語家の人数が少なかった時代、四天王の師匠方とともに上方落語協会の幹事として名を連ねており、三回に一回は出演して上方講談を聞かせてくれていました。講談の全盛期は明治から大正時代にかけて。この噺のように町内に一軒は小さな講釈の席(寄席)がありました。

◆口上 
 六十周年を記念してのご挨拶です。この会では「三代目林家染丸追善」をはじめとして、「百回記念」、「二十五周年記念」、「四十周年記念」、「二百回記念」などの区切りの時や、「六代目笑福亭松喬」、「四代目林家染丸」をはじめ数々の襲名披露の「口上」をお聞きいただきました。親しみやすい「儀式」のひとときをお楽しみください。

◆トクさん トメさん 
 先日、厚生労働省から発表された日本人の平均寿命は男が八〇・九八歳で女が八七・一四歳。長寿社会とともに高齢者社会にもなったわけです。この噺に登場するような元気なお年寄りが増えました。今日の出演者は最年少の花丸さんが五十代、最年長の福團治さんは喜寿を迎えるとのことですが、落語家さんは実年齢よりぐんと若く見えると思いませんか? お客様の笑い声を受けるのがアンチエージングに効果があるのかも?

◆藪入り やぶいり
 福團治さんが初登場したのは六二年六月の第二十二回公演。三代目春團治師匠から「春團治を襲名して一番目の弟子」という意味で付けていただいた「一春」の名前で前座を勤めています。演目は『野崎詣り』。当時師匠のお宅に住み込んでの内弟子修業の真っ最中。それだけに、お店に住み込みで働いている丁稚さんが年に二回だけ親元に帰ることが許される「藪入り」の日を描いた噺を演じる時、親子双方の「情」が濃厚に出るのだと思います。

第338回

日程:2017年11月14日(火)

番組・出演
「鉄砲勇助」月亭天使
「軽業講釈」笑福亭 たま
「目指せ!ちょっと岳」桂 三風
「小間物屋政談」桂 塩鯛

◆鉄砲勇助 てっぽうゆうすけ
 「うそ」 のことを 「鉄砲」 というのは 「空鉄砲」 という言葉からきているという説があります。 「空鉄砲」 とは空砲のこと。 音だけで実際の弾丸は飛んでこないことから口先だけの偽りのことを 「鉄砲」と言うようになったのだそうです。 うそばかりついている男を 「鉄砲言う助」 と呼び、 「言う」 の字を 「勇」 に変えてこの噺のタイトルができあがりました。 

◆軽業講釈 かるわざこうしゃく
 我が国の大衆芸能のルーツは奈良時代に大陸から渡来した「散楽」 だと言われています。 その 「散楽」 の中には今で言う舞踊やマジツクなどとともに軽業もありました。 現在は 「シルク・ド・ソレイユ」 などに代表される華やかで、 ドラマティックなサーカスが人気を集めていますが、 今日は昔ながらの軽業小屋の風景を味わっていただきましょう。 下座のお囃子との競演が聞き物の一席です。 

◆目指せ!ちょっと岳 めざせ!ちょっとだけ
 「山岳」 という言葉があるように、 日本の山の名前には 「○○山」と 「○○岳」 があります。 とくに厳密な区別はないようですが、 「岳」 のほうがけわしいというイメージがありますね。 最近は「トレッキング」 という山歩きが流行しているようです。 登山は頂上を目指しますが、 トレッキングは山の雰囲気を楽しむものだとうかがいました。 昔の人は 「紅葉狩り」 と称して秋の山歩きを楽しんでいました。

◆小間物屋政談 こまものやせいだん
 「小間物」 というのは日用品や化粧品、 櫛やかんざしなどの装身具、 袋物、 飾り紐などのこと。 今で言うならファンシーグッズです。専門のお店もありましたが、 多くは商品を入れた箱を背負った商人が行商に回っていたようです。 「政談」 といっても政治の話ではなく、 裁判を扱った作品です。 上方落語では 『○○裁き』 というのに対し、 東京落語では 『○○政談』 というタイトルが多いようです。東京から輸入した一席です。

第339回 ~三喬改メ 七代目笑福亭松喬襲名披露公演~

日程:2018年1月21日(日)

番組・出演

「牛ほめ」笑福亭 喬介
「芝居道楽」桂 よね吉
「きょうの料理」笑福亭 福笑
  口上  松喬・福笑・団四郎・よね吉(司会:桂 春若)
「百面相」露の 団四郎
「らくだ」笑福亭 松喬(三喬改メ)

◆ 牛ほめ しほめ
 いい牛のことを称して 「天角地眼一黒鹿頭耳小歯違」 というのは義太夫 『菅原伝授手習鑑』 からきています。 この義太夫の天拝山の段に登場する菅相丞 (実録の菅原道真) の乗っていたのがそういう牛だったと申します。 このフレーズの後半は穀物や水の量を示す 「一石六斗二升八合」 のシャレになっています。 お百姓さんにはおぼえやすかったのかもしれませんね。

◆ 芝居道楽 しばいどうらく
 去年の師走、 例年は四条の南座で開催されている 「吉例顔見世興行」 は、 ここロームシアター京都のメインホールで行われ、 東西の名優が顔を揃え、 おおいに賑わいました。 本日は大の歌舞伎ファンのよね吉さんが、 下座のお囃子さんの助けも借りて、 高座の上に歌舞伎の舞台を再現してくれます。 彼の日常生活をスケッチしたような噺だ…と言われている賑やかな一席です。 

◆きょうの料理 きょうのりょうり
 近頃は料理を食べる前にスマホで撮影する人が増えました。 ツイッターやフェースブックに載せるためだそうで、 料理も味よりも写真写りのいい 「インスタ映え」 するものが人気なのだそうです。 味のほうは映像ではわかりませんからね。 ちなみにこの噺と同じタイトルのNHKテレビ 「きょうの料理」という番組は一九五七年からスタートしたと申しますから去年、 還暦を迎えました。 

◆ 口上
 昨年十月八日に大阪の松竹座で七代目を襲名した笑福亭松喬さんの披露口上です。 七代目さんは一九六一年、 西宮市生まれ。 八三年四月に鶴三時代の六代目松喬師匠に入門して 「笑三」 と名付けられました。 師匠の六代目襲名とともに 「三喬」 となり、 師匠とお別れして四年後に七代目襲名の日を迎えました。 人のいい盗人の登場する噺を十八番にしている文句なしの 「おもしろいはなし家」 です。 

◆百面相 ひゃくめんそう
 江戸の職業落語家の祖と言われている初代三笑亭可楽の弟子に 「可上」 という人がいました。 その人の得意芸が 「百眼 (ひゃくまなこ) 」 。 いろんな型の目や眉毛を書いたアイマスクのような仮面を取り換えながら、 ひとりで何役も演じ分けて見せるという芸だったようです。 それが進化して今日ご覧いただく 「百面相」 となったと申します。 貴重な 「色物芸」 をお楽しみください。 

◆らくだ
 「笑福亭のお家芸」 と呼ばれている一席です。 もともとはシンプルな構成の噺だったものを明治の末に活躍した四代目桂文吾が現在のような大ネタに仕上げたと申します。 この文吾から教えを受けた三代目柳家小さんが東京に伝 え、 ついには歌舞伎やエノケンの喜劇映画にもなりました。 本日は文吾の型を受け継いだ六代目松鶴から六代目松喬を経て伝えられた 『らくだ』 を本来のサゲまで、 じっくりたっぷりとお楽しみいただきます。 

  • 小佐田定雄 Sadao Osada

    落語作家。1952年、大阪市生まれ。
    77年に桂枝雀に新作落語『幽霊の辻』を書いたのを手始めに、落語の新作や改作、滅んでいた噺の復活などを手がけた。つくった新作落語の数は250席を超えた。近年は落語だけでなく、狂言、文楽、歌舞伎の台本にも挑戦。著書に「5分で落語のよみきかせ」三部作(PHP研究所)、「落語大阪弁講座」(平凡社)、「枝雀らくごの舞台裏」、「米朝らくごの舞台裏」「上方らくごの舞台裏」(ちくま新書)などがある。2021年第42回松尾芸能賞優秀賞受賞。

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