Column & Archivesコラム&アーカイヴ

#コラム・レポート#演劇#市民寄席#2016年度

【市民寄席】演目解説(第330-334回)

文:佐田吉(小佐田定雄)
2021.7.1 UP

1957年にスタートし、京都では恒例の落語会として長く親しまれてきた「市民寄席」。 京都会館がロームシアター京都としてリニューアルオープンしてから最初に開催された市民寄席は、第325回(2015年5月15日)の市民寄席です。第325回から今日まで、市民寄席は30回以上開催され、130以上の演目が上演されました。

市民寄席では、ご来場いただいたお客様に配布するパンフレットに、小佐田定雄氏による演目解説を掲載しています。Spin-Offでは、ロームシアター京都版・上方落語演目のミニ辞典として、また、これからも続く市民寄席の歩みのアーカイブとして、本解説を継続して掲載していきます。

 

第330回(ロームシアター京都オープニング事業)

日程:2016年5月17日(火)

番組・出演
桂華紋「道具屋」
桂春蝶「権助提灯」
桂米輔「親子茶屋」
笑福亭福笑「便利屋さん」

◆ 道具屋 どうぐや
 「道具屋」といってもピンからキリまであります。落語を例に挙げて説明いたしますと、『はてなの茶碗』に登場するような古美術や骨董品を扱うお店から、『つぼ算』や『へっつい幽霊』でおなじみの日用品を売っているお店。『火焔太鼓』に出てくるリサイクル品を売る古道具屋さん。キリは、この噺の主人公のような露店の道具屋さんです。

◆権助提灯 ごんすけちょうちん
 「提灯」といってもいろんな種類があります。お祭の露店の店先にぶら下がっていたり、棒の先に下げて持ち歩く丸い提灯が「ぶら提灯」。門の前に張り出すように高く掲げている大型の提灯が「高張」。時代劇で役人が「御用だ!」と突きつけるのが「弓張」。旅行の道中などで使う円筒形の「小田原提灯」。「小田原提灯」はお猿の駕籠屋が使っているので有名です。さて、この噺で権助さんが持たされるのは、どの提灯でしょうか?

◆ 親子茶屋 おやこちゃや
 料理屋さん、お茶屋さん、芸者の置屋さんが集まっているところを「花街」と書いて「かがい」と読みます。この噺には「南地五花街」のうちの宗右衛門町が舞台になっています。因みにほかは九郎右衛門町、櫓町、坂町、難波新地の四町。ご当地にも「五花街」と呼ばれる場所があります。祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒、祇園東の五つです。今夜あたり、帰りにどこぞへお寄りになりまへんか?

◆便利屋さん べんりやさん
 どこの店に買いに行ったらわからない品物を売っているのが「荒物屋さん」。それと同じように誰に頼んだらいいかわからない仕事をしてくれるのが「便利屋さん」です。いつごろから出現したのかは不明ですが、確かテレビの「必殺シリーズ」に「便利屋のお加代」という人が出ていたように記憶しますが、史料としてはいささか問題がありそうです。一度、便利屋さんの歴史を便利屋さんに頼んで調べてもらおうと思っています。

第331回(ロームシアター京都オープニング事業)

日程:2016年7月18日(月)

番組・出演
林家菊丸【第10回繁昌亭大賞受賞】「看板のピン」
笑福亭三喬【第1回繁昌亭大賞受賞】「月に群雲」(作:小佐田定雄)
月亭八方「堀川」
笑福亭仁智「めざせ甲子園」
桂ざこば「遊山船」

◆看板のピン かんばんのぴん
 前名の「染弥」から上方落語界の大看板である「菊丸」を三代目として襲名したのは一昨年の菊月…九月のことでした。「看板」というのは、お客の注意を引いて客寄せに使われる人のことです。菊丸さんも今や「看板」の一人になりました。さて、この噺に登場する「看板」は…?

◆ 月に群雲 つきにむらくも
 明治時代に「泥棒伯円」と呼ばれた講釈の名人がいました。鼠小僧をはじめとする泥棒が大活躍する作品を十八番にしていたからです。その伝でいくと、この噺のほかにも『花色木綿』、『転宅』などの愛すべき泥棒が活躍するネタを得意にしておられる三喬さんは「盗人三喬」と呼ばれることになります…よね?

◆堀川 ほりかわ
 トップに登場した菊丸さんの先代…二代目林家菊丸さんが作った明治の新作落語です。当時は人形浄瑠璃・文楽が大流行していました。この噺のタイトルも『近頃河原達引(ちかごろ・かわらのたてひき)』という浄瑠璃の「堀川猿回しの段」から由来しています。どのように由来しているかは聞いてのお楽しみ。古典芸能が大好きな八方さんだけに、力のこもる一席になりそうです。

◆めざせ甲子園(めざせこうしえん)
 「甲子園」という球場の名前は、完成したのが一九二四年だったことによります。この年は十干十二支が「甲子(かのえね)」でした。内野席と外野席の間の観覧席を「アルブススタンド」と呼ぶのは、夏の大会でスタンドが真っ白なシャツを着た観客で満員になり、雪を頂いた「アルプス山脈」を連想させたからだそうです。

◆遊山船(ゆさんぶね)
 「遊山」というのは元来、文字通り山に遊びに行くことを指していました。水辺にも行く場合を含むと「遊山翫水(ゆさんがんすい)」というのだそうです。「上方はなし」などの古い落語の本を見ると、この噺のタイトルを「遊散船」と表記していて、笑福亭では「散」の字を使っていた…という説も聞いたことがあります。どのように表記しても「遊び」であることに違いありませんが…。

第332回(ロームシアター京都オープニング事業)

日程:2016年9月20日(火)

番組・出演
月亭八斗「四人ぐせ」
笑福亭銀瓶「千早振る」
桂米團治「軒付け」
桂春之輔「幸助餅」

◆ 四人ぐせ よにんぐせ 
 「なくて七癖」などという場合、「癖」は悪い意味で使われています。「くせある馬に能あり」という言葉があります。すぐれた人間は、どこか普通の人とはちがう部分があるものだ…という意味で、この場合は「癖」はちょっといい意味になりますね。さて、この噺に登場する四人の男たちの「癖」は、どちらの意味になるのでしょうか?

◆ 千早振る ちはやぶる
 「千早振る」とは「神」にかかる枕詞である…ということは中学の古典の時間に習いましたよね。もともとは「いちはやぶ」という言葉なんやそうです。「いち」とは「勢いのある」という意味の接頭語で、「はやぶ」は「激しい」という様子を表しています。そこで「いちはやぶ」は「荒々しく猛々しい」という意味になります。むつかしい詮索は学者さんにお任せして、今宵は銀瓶さんの落語風の解釈をお楽しみください。

◆軒付け のきづけ  
 義太夫節が大流行した明治時代の初期、大阪の街で「軒付け」という風習が流行ったことがありました。今でいうならば、自宅の前にカラオケセットを担いだおっさんたちの集団が集まって、いきなり歌いだすようなものです。いかにのどかな明治の人たちでも、この「騒音公害」には辟易したものか、明治の中期にはすでに廃っていたようです。米團治さんならば、オペラのアリアの「軒付け」をなさるかもしれません。

◆幸助餅 こうすけもち
 現在のプロの相撲は「日本相撲協会」に統一されていますが、以前は江戸と大坂にそれぞれの相撲の興行組織が存在していました。力士の交流も盛んで、当初は江戸と大坂の差はなかったのですが、幕末には江戸が大坂に大きく水を開けるようになっていました。この噺はもともとは講談だったものを一堺漁人こと曾我廼家五郎が芝居に仕立て直しました。現在は松竹新喜劇だけでなく歌舞伎の演目としても上演される人気作品です。

第333回(ロームシアター京都オープニング事業)

日程:2016年11月16日(水)

番組・出演
「手水廻し」 桂 三語
「花筏」 笑福亭 鶴笑
「茶屋迎い」 桂 文之助
「欲の熊鷹」 笑福亭 呂鶴

◆手水廻し ちょうずまわし
 土地独特の言葉があります。例えばご当地・京都で申しますと「おくどさん」。よそでは「へっつい」や「かまど」などと申します。「おかべ」という言葉はもともと京都の宮中の女房言葉でしたが、現在は遠く鹿児島で使われているとのこと。言葉がジワジワと伝わって行ったわけですね。「おかべ」の正体は…お豆腐やそうです。この落語に登場する謎の言葉は…。

◆花筏 はないかだ
 先場所は寝屋川市出身の大関・豪栄道関がみごと初優勝を飾り、京阪沿線を中心に日本中がおおいに盛り上がりました。九州場所は本日が四日目。今場所はいかがなりますやら? それはさておき、今日のところは落語国の相撲の話題にお付き合いください。鶴笑さんといえば「パペット落語」という変化技を得意にしておられますが、本日は堂々たる横綱相撲で勝負をつけてくれるはずです。

◆茶屋迎い ちゃやむかい
 「日本三大廓」と申しますと江戸の吉原、京の島原、そしてこの噺の舞台になっている大阪の新町です。豊臣氏が滅んで徳川の世になって間もなくのこと。芦の生い茂った寂しい海辺に近い沼地を埋め立て、そこに遊女屋を集めて新しい町を築きました、新しくできた町なので「新町」と呼ばれたのが、現在にも伝わっているわけですね。「京の女郎に江戸の張を持たせて新町の揚屋で遊ぶ」というのが江戸時代の男の夢だったそうです。

◆欲の熊鷹 よくのくまたか
 熊鷹は肉食で獰猛な性格を持っている鳥です。その熊鷹が森で猪を二頭見つけました。まず右脚で一頭を捕まえ、左脚でもう一頭も捕まえました。驚いた猪は左右逆方向に走り出します。熊鷹も片方の猪を放したらよかったのですが、欲張ってどちらも放さなかったので、熊鷹は股が裂けて死んでしまいました。これが「欲の熊鷹股を裂く」というエピソードです。欲が深いと災いを受けますよ…という教えなのですが、さて、この落語では…。

第334回

日程:2017年1月22日(日)

番組・出演
「兵庫船」 桂 米紫
「天災」  桂 梅団治
「寝床」  桂 雀三郎
「替り目」 笑福亭 鶴志
「福の神」(作=各駅亭 車) 桂 きん枝

◆ 兵庫船 ひょうごふね
 上方落語には「旅ネタ」といって旅先でおこったエピソードを描いたジャンルの噺があります。その中に船が舞台になっているものがあり、小倉から馬関(下関)へ渡る『小倉船』や琵琶湖の矢橋から大津へ向かう『矢橋船』などがありますが、いずれも出発地に『船』を付けてタイトルにしています。この噺も例にもれず、兵庫の鍛冶屋町の浜から始まります。

◆ 天災(てんさい)
 「心学」とは享保十四年(一七二九年)に京都の町人学者の石田梅岩によって唱えられた人間の生き方を教える学問です。上方では町人…ことに商人の哲学として、わかりやすいたとえ話で教えられました。壺に入った金平糖を取ろうとした老人の手が抜けなくなって大騒ぎになります。その理由は壺の中で金平糖をいっぱいつかんでいたから。「離すまいと欲を出すと自由がなくなる」という教えです。

◆寝床(ねどこ) 
 大阪の国立文楽劇場では「初春文楽公演」の真っ最中。その文楽でナレーションと台詞を担当している太夫さんが語っているのが浄瑠璃…義太夫節です。雀三郎さんも若かりし頃、義太夫のお稽古に通っていた時代がありました。大阪府池田市在住の竹本角重師匠という女性のお師匠さんで、そこで鍛えた美声が現在の「世界で一番落語のうまい歌手」という栄光の座を築き上げる基礎となったわけですね。

◆ 替り目(かわりめ)
 「笑福亭」といえば「酒」。お酒の酔い方にも段階があるんやそうです。まずは、気分がほぐれてリラックスしている「ほろ酔い」。そして、足元がふらつき、同じ話を繰り返し、相手にからみだす「酩酊」。さらには前後不覚になって酔いつぶれてしまう「泥酔」。その上は叩いてもつねっても反応のない「昏睡」。この段階になったら生命の危険に関わりますので、救急車を呼んでください。さて、この噺の主人公は…?

◆福の神(ふくのかみ)
 福の神というとわが国では代表的なのが「七福神」。大黒、毘沙門、恵比寿、寿老人、福禄寿、弁財天、布袋和尚が、そのメンバーです。狂言に登場する福の神は幸福になる方法を教えてくれます。その方法とは「朝は早起きして、慈悲心を持ち、人付き合いを良くして、夫婦の仲で争いをせず、福の神にお供えやお神酒をたっぷりあげなさい」。いささか神様に都合のいい部分もありますが、皆さんも試してみたらいかがかな?

  • 小佐田定雄 Sadao Osada

    落語作家。1952年、大阪市生まれ。
    77年に桂枝雀に新作落語『幽霊の辻』を書いたのを手始めに、落語の新作や改作、滅んでいた噺の復活などを手がけた。つくった新作落語の数は250席を超えた。近年は落語だけでなく、狂言、文楽、歌舞伎の台本にも挑戦。著書に「5分で落語のよみきかせ」三部作(PHP研究所)、「落語大阪弁講座」(平凡社)、「枝雀らくごの舞台裏」、「米朝らくごの舞台裏」「上方らくごの舞台裏」(ちくま新書)などがある。2021年第42回松尾芸能賞優秀賞受賞。

関連事業・記事

Turn your phone

スマートフォン・タブレットを
縦方向に戻してください