
2025年度 全国共同制作オペラ 歌劇『愛の妙薬』」メインビジュアル
『ハムレット』などのシェイクスピア劇、『グリークス』などのギリシャ悲劇、木ノ下歌舞伎での創作や歌舞伎座『新・水滸伝』などの歌舞伎作品、さらにはミュージカルから現代劇まで、幅広く演出してきた杉原邦生が、歌劇『愛の妙薬』で初めてオペラの演出に挑む。村一番の美女に夢中になるも相手にされない純朴な農夫が、売りつけられた“愛の妙薬”なるものを飲んで強気になって彼女に迫る……というロマンティック・コメディをどう魅せるのか。杉原ならではの解釈で、思い切りハッピーなオペラが幕を開けそうだ。
転載元:フリーペーパーMEG 関西版 vol’30
聞き手・文:大内弓子

撮影:細野晋司
──これまでオペラにはどのような興味をお持ちでしたか。
京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)の映像・舞台芸術学科で学んでいたときに、僕は演出家を目指そうと決めたのですが。調べると、欧米では著名な演出家は必ずと言っていいほどオペラを演出していたんです。日本でも、作・演出を兼ねることのほうが圧倒的に多い中、演出を主として活動している演出家はやはりオペラをやっていた。だから、オペラを通っていなければ世界的には演出家と認めてもらえないのではないか、僕もいつかはオペラをと、学生当時から一つの目標にしていたんです。と言いながら、熱心に勉強していたわけではなく、野田秀樹さん演出の『マクベス』(04年)や、ピーター・ブルックさん演出の『魔笛』(12年)、ロメオ・カステルッチさん演出の『タンホイザー』(17年)など、たまに、気になった公演を観ていたくらいだったんですけど、ずっと頭のどこかにオペラ演出への想いはありました。
──そんな中、ついに、この『愛の妙薬』で初演出の依頼がありました。
本当に光栄です。「待ってました!」という感じで(笑)、嬉しかったです。ただ、これまでどちらかというと悲劇を演出することが多かったので、喜劇というのがとても意外で驚きましたけど。でも、今年3月に『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』という作品で、シニカルな笑いを特徴とされている松尾スズキさんの戯曲を演出させてもらったことで、笑いの演出に対する意識が強くなった気がするので、この作品も楽しみです。
──杉原演出の『愛の妙薬』は、何が鍵になっていきますか。
恋に振り回される登場人物たちが僕にはとても愛らしくカワイく思えました。だから、「カワイイ」をキーワードに、祝祭感と多幸感あふれる作品にしたいと思っています。「カワイイ」は今や世界的な共通語となって、ポジティブに多様なものを受け入れる言葉になっていますから、たとえば衣裳などのビジュアルでも、時代や国、ジェンダーなどがボーダーレスな形で「カワイイ」を表現できたらとイメージしていたり。加えて、今回の演出では、これまでに僕の演出作品に出演経験のある俳優とダンサーに、作中には登場しないキャラクターを演じてもらおうと思っています。きっと彼らは、舞台上で起こることを常に見守り、関わり続け、時には登場人物たちを動かしていくような存在になるんじゃないかと思っています。そういう存在がいることで、また別の視点から人間たちの「カワイイ」を表現できたら面白いんじゃないか、とか。オペラをたくさんご覧になっているお客様には、お叱りを受けるような結果になってしまうかもしれないですが(苦笑)。
──でも、これまでも歌舞伎にラップを取り入れたり、意表を突く演出で注目されることは多かったですが、すべて、作品の核心を今に伝えるための発想だったように思います。
自分としても、思いつきでやっていることは一つもなく、戯曲に書いてあることを自分なりにシンプルに解釈しているだけなんです。そうやって古典作品や海外の戯曲をたくさん演出する中で、今現代の観客に届ける、という作業を積み重ねてきているので、今回初めて僕の演出に触れることになる観客の皆さんにも、そこはもう半分騙されたと思って(笑)、信じていただけたらと思います。歌舞伎でもわからない、足りていないところは周囲の方々に学びながら作ってきました。今回も、マエストロのセバスティアーノ・ロッリさんはじめ、周りのプロフェッショナルな方々に教えていただきながら、自分の演出につなげていきたいと思っています。僕自身、演出家としての幅をさらに広げられるのではないかと楽しみですし、オペラを観たことのない方が僕の演出をきっかけに興味の幅を広げていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。それってすごく豊かで幸せなことだと思うんです。
公演情報
〈ロームシアター京都10周年記念事業〉
2025年度全国共同制作オペラ 歌劇『愛の妙薬』
2026年1月18日(日)14時開演
メインホール
演目:歌劇『愛の妙薬』(全2幕、イタリア語上演、日本語・英語字幕付き/新制作)
作曲:ガエターノ・ドニゼッティ
台本:フェリーチェ・ロマーニ
指揮:セバスティアーノ・ロッリ
演出:杉原邦生(KUNIO)
アディーナ:高野百合絵
ネモリーノ:糸賀修平
ベルコーレ:池内響
ドゥルカマーラ博士:セルジオ・ヴィターレ
ジャンネッタ:秋本悠希
ダンサー:福原冠、米田沙織、内海正考、水島麻理奈、井上向日葵、宮城優都
合唱:堺+京都公演特別合唱団
管弦楽:京都市交響楽団