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2025年度 全国共同制作オペラ 歌劇『愛の妙薬』関連コラム

いよいよツアー開幕、東京・大阪・京都へ! 全国共同制作オペラ 『愛の妙薬』記者取材会レポート

2025.10.29 UP

左から糸賀修平、宮里直樹、高野百合絵、杉原邦生、大西宇宙、池内響、秋本悠希

11月より、全国共同制作オペラの新制作、ドニゼッティ『愛の妙薬』3都市ツアーが開幕する。全国共同制作オペラは、全国各地のホール・芸術団体が連携し、新演出のオペラを共同制作・巡演を行うプロジェクトで、今年は東京・大阪・京都を巡る。
初演が翌月に迫る過日10月9日に、ツアー開幕地となる東京芸術劇場にて、記者取材会を実施した。はじめてのオペラ演出に「待ってました」と熱意を示す、演出の杉原邦生をふくむ主要キャスト総勢7名が一堂に会し、意気込みと作品の魅力を語った。

登壇者:
杉原邦生(演出)
高野百合絵(アディーナ役・全公演)
宮里直樹(ネモリーノ役・東京・大阪)
糸賀修平(ネモリーノ役・京都)
大西宇宙(ベルコーレ役・東京・大阪)
池内響(ベルコーレ役・京都)
秋本悠希(ジャンネッタ役・全公演)
ビデオメッセージ:
セバスティアーノ・ロッリ(指揮)
セルジオ・ヴィターレ(ドゥルカマーラ博士・全公演)

日時:2025年10月9日(木)
於:東京芸術劇場


「待ってました!」と「そう来たか!」
 杉原邦生、オペラ初演出で挑むのは喜劇

杉原邦生(演出)

本作の演出を担うのは、演劇や歌舞伎など幅広い分野で、大胆な解釈を試みてきた演出家・杉原邦生。学生時代からいつかは挑戦したいと思い続けてきた念願のオペラ演出に「待ってました」という気持ちだったという。同時に、これまで悲劇を多く手がけてきた杉原にとって、「喜劇」は驚きだった。
「依頼をいただいた時は、てっきり悲劇か得意の長尺作品かなと思っていたんです。『ニーベルングの指環』のような(笑)。まさかの喜劇に意表を突かれましたけど、だからこそ挑戦しがいがあると感じました。」

 

ネガティブをポジティブに変換する「カワイイ」の力
多様性を肯定する現代だからこその演出を

作品へのファースト・インプレッションは、登場人物たちの「かわいさ」だったという。「それぞれのキャラクターが、人を好きになって、そのために一生懸命行動するところがとても人間らしくてかわいらしい」と感じたことから、今回の演出のテーマとなる「カワイイ」が生まれた。それは単なる見た目のかわいさではない。
「「カワイイ」は今やグローバルな世界語です。多様性を尊重する時代に、あらゆるものを肯定していく言葉として機能していると思います。「気持ち悪い」に「カワイイ」がついて「キモカワイイ」になるように、ネガティブをポジティブに変換できる。そんな「カワイイ」の力を作品にも取り入れたいです。」
舞台美術や衣裳デザインもそんな「カワイイ」をキーワードに進行中。作品の時代・場所は特定せずに、もともとのスペイン地方の物語でもあり、現代の日本の物語にも見えるような、誰しもが自分ごととして捉えられる世界観を考えているという。現代社会を地にして、まったく新しい『愛の妙薬』が立ちあがっていきそうだ。

 

愛の矢印はひとつじゃない
男‐女に限らない恋愛模様

『愛の妙薬』はロマンティック・コメディだが、杉原の構想では、恋愛の矢印は一方向ではない。
「たとえばベルコーレはアディーナではなく実はネモリーノに惹かれているから、ふたりのあいだを裂こうとしているとか、ジャンネッタはアディーナのことが好きで周囲の展開に嫉妬しているとか。恋の矢印を男女に限定せず、いろんな矢印が見えるようにしていきたいと思っています。恋愛も自由で多様なものですから。」

 

歌舞伎やオペラ、古典に通じる「音」

実際にオペラ演出に携わって初めに驚いたのは、電話帳のように分厚い、台本ならぬ五線譜のみの楽譜だったという。しかし、歌舞伎をはじめとしたこれまでの演出でもつねに「音」を大事にしてきた杉原。「ギリシャ悲劇のコロス(合唱)やシェイクスピアの韻文、歌舞伎の詞章。古典と呼ばれる作品はどれも音楽性を持っていると思います。だから僕はいつも演劇の音楽性を大事に、作品全体が1曲の音楽になるようなイメージで演出してきたので、そういう意味では今回も変わりません。オペラも僕のやってきたことの延長線上にあると思いました」。これまでの多彩な演出経験が、本作にどう結実していくのか期待が高まる。

 

杉原邦生演出で生まれた「愛の精霊」ダンサーズ

見逃せないのが、今回の杉原演出で登場する、愛の精霊たち=ダンサーの存在だ。
「ギリシャ悲劇でいうコロスのように、舞台を見守りながら観客と作品をつなぐ役割を担うのがダンサーたちです。彼らの存在が物語をより重層的にしてくれるはずです。」
原作に誠実に向きあうなかから編みだされる杉原ならではの演出で現代に生まれ変わる『愛の妙薬』。オペラ好きの方にも、はじめてオペラにふれる方にも、驚きのある忘れられない作品になるだろう。

 

イタリア文化の偉大な傑作としての『愛の妙薬』
ドニゼッティの音楽をとおして、人間の本質的な感情と文化を共有しあう

指揮:セバスティアーノ・ロッリ

続いて、指揮、ベルカント・オペラのスペシャリストとしても名高いセバスティアーノ・ロッリからのビデオメッセージでは、イタリア文化のなかでの『愛の妙薬』の重要性を、ロマン派へと可能性をひろげた革新性やドニゼッティの音楽の豊潤さを通して述べ、本プロジェクトが人間の普遍的な感情を共有する場になればという願いで話を結んだ。

 

豪華キャストが語る『愛の妙薬』

 続いては主要キャストが、今作における思いをそれぞれの抱負を込めて語った。

アディーナ役:高野百合絵  

「『愛の妙薬』はオペラのなかでも珍しいハッピーエンドです。観客の皆さんにくすっと笑ってもらったり、心が温かくなってもらえるような時間を届けたいです。ベルカント作品は初挑戦ですが、柔らかい声のなかにも力強さを感じるアディーナ役を精一杯頑張っていきたいです。」

 

ネモリーノ役(東京・大阪):宮里直樹

「『愛の妙薬』は僕が一番好きなオペラであり、ネモリーノは一番好きな役です。様々なテノール役を演じてきましたが、ネモリーノほど純粋で一途な人はいません。アディーナ一筋で…まあ、杉原さんのコンセプトでは恋の矢印はひとつじゃないとのことでどうなるかわかりませんが(笑)。すこし抜けてみえても言葉選びが詩的でかっこよくて、とにかく大好きな役。とても楽しみにしています。」

 

ネモリーノ役(京都):糸賀修平  

「音楽と物語を丁寧に伝えることを一番大切にしていきたいです。誰も死なないというところがこのオペラの素敵なところですね。稽古場でも「カワイイ」を合言葉にして楽しんでいけたら。また、京都公演はロームシアター京都の10周年記念事業でもあります。10年前のリニューアルオープン時のオペラにも出演したので、本公演にも参加することができて嬉しく思っています。」

 

 

ベルコーレ役(東京・大阪):大西宇宙

「杉原さんは、古典を手掛ける際にも、オイディプス王をR&Bやラップで演出したりなど切り口がたいへんユニークですね。異なるジャンルが出会う「異種格闘技」のような刺激的な現場がわたしはとても好きなので、互いに触発し合いながら新しい『愛の妙薬』をつくっていけることを楽しみにしています。」

 

ベルコーレ役(京都):池内響

「いつも挑戦的な要素が入る全国共同制作オペラですが、昨年参加した『ラ・ボエーム』では、マルチェッロ役を藤田嗣治に置き換え、僕だけ日本人として出演し、たいへん新鮮な体験をしました。今回も、斬新なビジュアルに、今年もなにかが起こるな…と確信し、心からわくわくしています。「美しい・こころ」という名のベルコーレがキーワード「カワイイ」にたいしてどう関係していくのか探っていきたいです。」

 

ジャンネッタ役:秋本悠希

「恋の矢印がまっすぐではなく複雑に交差していくなかで、それぞれのキャラクターがそれぞれの「かわいさ」を探求していけることを楽しみにしています。ジャンネッタ役はソリストと合唱をつなぐ大事な役割を担っています。観客の皆さんには「あれ、この人は今どう思ってる?どっちを見てる?」と感じてもらえたら嬉しいです。」

 

ドゥルカマーラ博士役:セルジオ・ヴィターレ

イタリアから届いたセルジオ・ヴィターレからのビデオメッセージは、トリックスターであるドゥルカマーラ博士らしく、イタリア語での抱負を語ったあと、あやしいほど流暢な日本語で「イタリアと日本の文化がどう混ざるか、とても楽しみ」と語り、「ドゥルカマーラの言葉は、何ひとつ信じないでくださいね(笑)」とウインクを飛ばし、会場を笑いで沸かせた。

「カワイイ」をキーに現代に生まれ変わる
まったく新しい『愛の妙薬』をぜひ東京・大阪・京都で!

杉原邦生が挑む初のオペラ演出に、ベルカント・オペラのスペシャリストとしても名高いセバスティアーノ・ロッリの指揮。「カワイイ」という現代的なキーワードを軸に、時代も性別も飛び越える『愛の妙薬』は、11月9日の東京公演を皮切りに、大阪、京都と巡る。
オペラ好きの方も、オペラははじめてという方も、どなたさまも是非お見逃しなきよう!
劇場でお待ちしています。


公演情報

2025年度 全国共同制作オペラ
ドニゼッティ 歌劇『愛の妙薬』
〈全2幕/イタリア語上演/日本語・英語字幕付き/新制作〉

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東京公演
東京芸術劇場 コンサートホール
2025年11月 9日(日)14:00開演
[公演情報]https://www.geigeki.jp/performance/concert301/

大阪公演
フェニーチェ堺 大ホール
2025年11月16日(日)14:00開演
[公演情報]https://www.fenice-sacay.jp/event/27388/

京都公演
ロームシアター京都 メインホール
2026年1月18日(日)14:00開演
[公演情報]https://rohmtheatrekyoto.jp/event/134533/

 

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