2026年1月10日に上演する《継承と創造》「三番叟づくし」では、さまざまな芸能の「三番叟もの」を上演します。そのうち、「長唄」について、今回の演目「三番叟組曲」の紹介とあわせて解説いただきます。

「三番叟 真中橋劇場廓開」翁(2代)沢村訥升、三番叟(4代)中村芝翫、千歳(3代)沢村田之助 豊原国周 作 東京都立中央図書館 所蔵
今回は「翁千歳三番叟」と「操り三番叟」を合体させた「三番叟組曲」として演奏されます。歌舞伎の舞台でもしばしば観ることのある「操り三番叟」は、いわゆる人形ぶり(文楽の人形のように踊る、現在のロボットダンスにあたる)でよく知られています。人形に見立てた三番叟が操り手によって踊らされているというところが妙味になる曲です。嘉永六(1853)、 篠田瑳助作詞、五代目杵屋弥十郎作曲によるもので、長唄の有名曲としてもたびたび演奏されています。三味線音楽における三番叟ものといえば、長唄の「晒三番叟(さらしさんばそう)」「廓三番叟(くるわさんばそう)」「操三番叟(あやつりさんばそう)」「翁千歳三番叟(おきなせんざいさんばそう)」、常磐津の「子宝三番叟(こだからさんばそう)」、清元の 「四季三葉草(しきさんばそう)」、長唄・清元掛合の「舌出し三番叟」、義太夫の「二人三番叟(ににんさんばそう)」などのほか、一中節・河東節なども知られています。
もともと三番叟もの、といいますと、これは歌舞伎舞踊における系統のひとつで、江戸歌舞伎では、顔見世興行の初日から三日間の早朝および正月元日の午前中、また柿落しに、能楽の「式三番」を移した儀式舞踊を演じたのが最初です。この行事を「翁渡し」といいました。翁を太夫元、千歳(せんざい)を若太夫、三番叟を座頭役者が勤めるもので、天下太平、五穀豊穣、芝居繁盛を祈願するというところが眼目になっています。
「式三番」というのは、能楽の演目では「翁」とするのが一般的で、これは能楽よりも起源が古く、老人の面を付けた神が踊り語って祝福を与えるという様式を「式三番」はとどめています。能楽「翁」では、翁、千歳、三番叟の三人の歌舞からできています。
元来「式三番」という名称は、「例式の三番の演目」という意味で、「父尉」「翁」「三番猿楽」の三演目を指すものであり、古くは最初と二番目は呪師が演じ、三番目が呪師に代わって猿楽師(能楽師)が演じておりました。翁の舞が、天下泰平を祈るのに対し、三番叟の舞は五穀豊穣を寿ぐといわれ、その芸能性の高さから、格式のある翁以上に歌舞伎や文楽、各地の民俗芸能や人形芝居などに取り入れられ、祝言の舞として確立されました。
いまでも国立文楽劇場で文楽を鑑賞するときは、演目の始まる前に(最初の演目の15分前に)「幕開け三番叟」という清めの儀式がおこなわれ、舞台の無事を祈ります。これは三人遣いではなく、若手の人形遣い二人によって操られます。文楽に行かれるときは早めに着席されることをおすすめします。歌舞伎の世界でも「番立(ばんだち)」といって、略式の「三番叟」が明治中期ごろまで 上演前に披露されておりました。
「式三番叟」から儀式性が取り払われ、踊りに工夫を加えたものが次々に登場し、寛永年間(1624-44)に初世中村勘三郎が踊った「乱曲三番叟」が嚆矢とされています。翁や千歳が神聖な存在で、動きや早く、滑稽な振りを見せる三番叟が独立して踊られました。初世中村仲蔵が踊った文化九年(1812)の「寿世嗣三番叟(ことぶきよつぎさんばそう)」はその流れのうちにありますが、仲蔵二十三回忌追善に三世中村歌右衛門によって演じられた 「再春菘種蒔(またくるはるすずなのたねまき)」は、踊りの途中で舌を出す演出があるため、「舌出し三番叟」の名で、現在でも上演されています。
「三番叟」の儀式性から離れていきますので、清元「四季三葉草」のように千歳を女(女方)が踊るもの、長唄の「廓三番叟」のように、傾城(けいせい)が翁、新造(しんぞう)が千歳、幇間(ほうかん)が三番叟という「見立て」で(つまり、三番叟の世界を、廓の世界に置き換えて)語られるものがあります。このように、洒落っ気や茶目っ気のある三番叟ものは多いのですが、やはり古来からの格式のある「三番叟」の神聖さというのは、どこかに残っているのではないかと思います。
組曲として演奏される「翁千歳三番叟」は、文政八年(1825)から安政三年(1856)のあいだに、十世杵屋六左衛門によって作曲されました。外記節(げきぶし)、河東節、半太夫節など先行する作品に範をとり、能楽「翁」のもつ荘重さを失わないように作られた一曲になります。ほぼ同時代に作られたこれらの三番叟ものを組曲として演奏することは、長唄、さらには三味線音楽をより楽しく身近に感じることができるようになっております。
<公演詳細>

プレイ!シアター for the 10th anniversary
《継承と創造》「三番叟づくし」
2026年1月10日(土)10:30開演
会場:サウスホール