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Sound Around005 細井美裕『世界交換手』関連記事

公演前メッセージ

文=杉山達哉(『新潮』編集長)、高谷史郎(アーティスト)、額田大志(作曲家・演出家・劇作家)
2025.8.30 UP

9月13日、14日に開催するSound Around005 細井美裕『世界交換手』の開催に向け、この公演を応援してくださる方々からメッセージが届きました!(8月30日更新)
公演情報はこちら


杉山達哉(『新潮』編集長)

細井美裕の名前を初めて認識したのは、2024年2月、ここロームシアター京都でのことだった。高谷史郎による舞台作品『Tangent』の出演者としての凛とした佇まいに、地球上ただひとりの生き残りが自分自身のため、あるいは世界に向けて音遊びをしているかのような、寂しさと背中合わせの美しさを感じた。
二度目の出会いは、同年暮れに行われたGallery 38での初個展『STAIN』。もはや人間が消え去ってしまったあと、存在の痕跡をいかに表象しうるか――。武満徹に倣って言えば、「音と測りあえるほどの沈黙」がミニマルなメディアアートに結晶しており、表現形態の幅広さと一貫したコンセプトに打たれた。
それから雑誌にエッセイを寄稿してもらい、初めて対面したのは今年5月末のこと。バービカン・センターでの滞在制作から帰国して直後の彼女は挨拶もそこそこに、現地での達成というよりむしろ、持ち帰った課題について熱っぽく語り出した。自分自身に対しても世界に対しても、妥協のない人だと思った。
『Tangent』のステージに立っていたのは「最後の人間」かつ、文明の起点に位置する「最初の人間」とも捉えられる。音を媒介に一作ごとに新たな表現を切り拓いてきた、方法論にも極めて意識的なこのアーティストは、再びのロームシアターで文明の利器である電話を使って何を見せ、聞かせてくれるのだろう。

 

高谷史郎(アーティスト)

細井美裕の作品は、音を空間と時間で捉え、それを独創的な発想で視点を変えて、新しい世界を見せてくれる。
今回の作品はどんな作品になるのだろう?世界のさまざまな音に耳を澄ますような作品なのだろうか?
それとも、耳で捉えた世界のように、空間と時間を超越した無限の広がりと同時に、ただその一点に集約したような世界なのか?
『世界交換手』というキーワードも気になるし、「交換手」から連想されるパッチベイやヘッドセットというビジュアルは、彼女の作品を想起させる。
ステレオのスピーカーを縦に配置するだけで、それまで聞こえていた立体的な音が、実は幻だったことに気づかせてくれる。

 

©︎Yuta Itagaki(KIENGI) / Mana Hiraki(KIENGI)

額田大志(作曲家・演出家・劇作家)

音や音楽は、それを聴くことでの興奮や心地よさ、すなわち感覚的な快楽を求められることが多い。しかし、細井さんの作る音は、そうした考え方とは異なる地点にあると思う。音という表現方法で、私たちの価値観に揺さぶりをかけてくる。数々のアーティストが絵を描くように、映画を撮るように、小説を書くように、そしてそれらが世界の新しい視座を開拓し続けてきたように、細井さんは音という方法で、まだ誰も見たことがない世界の姿に挑んでいる。たぶん、細井さんの作る音は、いつか誰かの忘れられない映画や本、絵画の一つのようになるのだろうと思う。だから、その可能性を秘めたこの作品を、たくさんの人に聴いて欲しいなと思う。

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