古の技術に現代の情感をのせる 若き天才尺八奏者
「首振り三年ころ八年」といわれるほど、良質な音を奏でることが難しいとされる尺八。リコーダーが好きな小学3年生の女の子は、はじめて尺八を吹いたその日に音を出して周囲の大人を驚かせたという。京都で生まれたその少女こそ、16歳で全国最年少の琴古流大師範を充許された尺八奏者・寄田真見乃だ。現在31歳にして「鶴の巣籠」や「鹿の遠音」に代表される古伝(こでん)尺八本曲で用いられる秘伝技法をものにし、大家たちから称賛を受ける現代尺八界のホープである。
尺八は7世紀末から8世紀初頭に中国から伝来した、真竹に5つの指孔がある単音楽器。穴のふさぎ方や顎の上げ下げなどで微細に音が変わる高難度さゆえ、時勢によって衰退したり技術が簡略化されて伝承されてきた面もあるという。だからこそ寄田はクラシカルな技法により尺八独自の世界を表現する古伝曲に魅了され、その技術の会得に夢中になった。古伝曲には特有の音の”陰陽”があり、それらを吹き分けることでも曲の顔つきが変わるという。「古伝には、日本各地の原風景や、その風土のなかで時代の趨勢(すうせい)を乗り越えてきた人間の生き様が映し出されています。私はそこに、現代を生きる人々の感情を重ね合わせて演奏したい。それは日本的なレッテルへの挑戦でもあります」。
尺八曲は演奏者自身が作曲を手掛けることも多く、寄田も作曲をおこなうが、演奏手法こそ異なれど現代楽曲と古伝楽曲への向き合い方は同じだという。その姿勢は多彩な活動歴からも明らかで、今年9月にはTHEATRE E9 KYOTOでのダンサー田中泯・ピアニスト森本ゆりとのコラボレーション公演、中国のRPGゲーム「原神」楽曲内の尺八パート吹奏、無観客ライブ配信コンサートなど、コロナ禍でも意欲的に活動を続けている。「次は能楽尺八の復元演奏をやってみたいです。あと、尺八の音をデジタルダウンロードできるよう素材化もしたい!」。現在の音楽をとりまく環境も見据えつつ、伝統邦楽の正統継承者としての使命も全うする勤勉さ・柔軟さ・大胆さが同居する姿に、今後ますます目が離せない。