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#インタビュー#機関誌「ASSEMBLY」

Artist Pickup Vol.2

和田ながら[したため]

インタビュー・文:島貫泰介
2021.5.29 UP

したため#6『 文字移植』|こまばアゴラ劇場(東京、2018年8月)|原作=多和田葉子|撮影=宇田川俊之

言 葉 を 発 掘 し 、向 き 合 う 人

演出家・和田ながらのソロユニット「したため」は、その名が示すように“言葉”に関心を寄せた創作を行なっている。ドイツ語でも文筆活動を行う小説家・詩人の多和田葉子『文字移植』を元にした同名タイトルの作品では、一人称の原文を4人の俳優のセリフに割り振り、言葉の重さと深みを慎重に測るかのような演出を試みている。
 「テキストの形式や言葉そのものに関心があります。例えば目の前にいない人に向けて書く手紙の言葉は、時に宛先が反転して差出人である自分自身に向かってしまうこともある。あるいは、書いて、投函して、返信が届くまでの時間の層を考えてみるのも楽しい。そうやって自分の好奇心を刺激するテキストと出会えたときに、作品づくりが始まります」。
 テキストと出会い作品にすることは生易しい試行ではない。常に俳優に求めるのは“言葉を簡単にせず、自分の所有物にしない”こと。ひたすら逐語的に言葉を読み込み、やがて言葉に俳優の身体が引っ張られていくぐらいの出来事が起こりはじめれば作品は強くなると、和田は信じている。「尾崎放哉と種田山頭火の自由律俳句で短編をつくったことがあります。放哉の句は写真的で自ずと動きの少ない静的な上演になりました。いっぽう山頭火は動詞が強くて、身体が動かされていく感触がありました。個々のテキストが持つ固有の質によって、作品の文法はさまざまに変わっていきます。そのことにはっとさせられた、稀有な体験でした」。
 2018年10月。岸井大輔の戯曲『埋蔵する』を和田は演出した。遠い未来に発掘・上演されることを期待して戯曲を石に刻み土中に埋める、という指示がされる同作において、和田は“埋蔵する”ことを選ばなかった。「自分の言葉を埋蔵し、いつか誰かに使われることを望むのが劇作家だとすると、自分はその言葉を発掘する側の人間。原理的に同時代を相手にするしかない演出家なんです。私は、拾ってしまった言葉を自分宛てだと勘違いして本気にしてしまう人になりたいと思っています」。

初出:機関誌Assembly第2号(2018年12月21日発行)

  • わだ・ながら[ したため] Na gara Wada [shitatame]

    演出家、UrBANGUILDブッキングスタッフ。京都造形芸術大学大学院芸術研究科修士課程修了。2009年に初演出作『したため』を上演。11年、同名の個人ユニットを立ち上げる。日常的な視力では見逃し続けてしまう厖大な細部を言葉と身体で接写する、あるいはとらえそこない、つまづくさまを連ねるように作品を制作する。

  • 島貫泰介 Taisuke Shimanuki

    美術ライター/編集者。1980年神奈川生まれ。現在は京都と別府を拠点に活動。『CINRA』『Tokyo Art Beat』『美術手帖』などで執筆・編集・企画を行う。2022年からは、DIYなアートイベント「湯の上フォーエバー!」を別府市内で主催している。

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