“ 笑 い”を 届 け る 生 存 戦 略
江戸時代初期から京都で活動する狂言師の家である茂山千五郎家は、どんな人、どんな場であっても親しんでもらえる豆腐のような芸能であることを理想として「お豆腐狂言」を名乗ってきた。2018年12月に三世千之丞の襲名を控える茂山童司は、英語と日本語で演じるバイリンガル狂言、テレビ番組のレギュラー出演、100年後の古典を目指す新作狂言の制作、コント公演の作・演出など、時代を意識し活動してきた人だ。
「常に“いまの狂言”というものを考えています。先代の思想を継ぎながら、狂言の何百年の歴史のなかでそぎ落とされてきたテキストを再解釈して、目の前のお客さんをどう笑わせるか。古典の技術を使いながら敷居を低くするためには、いろんな人が普通に笑えることが大切」。
そもそも千五郎家は、祖父二世千之丞、大伯父の四世千作、父あきら、と、皆がテレビやオペラといった異分野との活動を積極的に行ってきた。「狂言だけをやっている茂山さんを見たことない。祖父がめちゃくちゃやってきたから、僕が何しても大丈夫。でも、一家全員仲良くすることも大事。一家団結することで仕事や芸の幅が広がる。これもひとつの“生存戦略”と言えるかもですね(笑)」と茶目っ気たっぷりに語る。直系ではない“一番外側”の立場ながら、自らの襲名披露公演で千五郎家の役者全員が活躍する番組を組んだのも、 狂言の未来を見据えてのことかもしれない。そんな彼の目標は?
「やりたいことは一貫して“笑い”。まるで雲を操るみたいに、右から左、後ろから前、次は全体……と、会場の空気をコントロールできる瞬間があります。あの共有感は、笑い独特のもの。思い描いたとおりに客席が沸くのが楽しい」。喜劇をパズルととらえ、笑いの方程式をチャート化し、台本を組み立てていく。モンティ・パイソンとラーメンズが自らの柱だと言い切る35歳の狂言師は、“ 笑い”で京都の舞台芸術の歴史を更新し続ける。
初出:機関誌Assembly第2号(2018年12月21日発行)