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#インタビュー#機関誌「ASSEMBLY」

Artist Pickup Vol.1

茂山千之丞(本名:茂山童司)

インタビュー:橋本裕介 文:松本花音
2021.5.29 UP

『栗焼』公演の様子

“ 笑 い”を 届 け る 生 存 戦 略

江戸時代初期から京都で活動する狂言師の家である茂山千五郎家は、どんな人、どんな場であっても親しんでもらえる豆腐のような芸能であることを理想として「お豆腐狂言」を名乗ってきた。2018年12月に三世千之丞の襲名を控える茂山童司は、英語と日本語で演じるバイリンガル狂言、テレビ番組のレギュラー出演、100年後の古典を目指す新作狂言の制作、コント公演の作・演出など、時代を意識し活動してきた人だ。
 「常に“いまの狂言”というものを考えています。先代の思想を継ぎながら、狂言の何百年の歴史のなかでそぎ落とされてきたテキストを再解釈して、目の前のお客さんをどう笑わせるか。古典の技術を使いながら敷居を低くするためには、いろんな人が普通に笑えることが大切」。
 そもそも千五郎家は、祖父二世千之丞、大伯父の四世千作、父あきら、と、皆がテレビやオペラといった異分野との活動を積極的に行ってきた。「狂言だけをやっている茂山さんを見たことない。祖父がめちゃくちゃやってきたから、僕が何しても大丈夫。でも、一家全員仲良くすることも大事。一家団結することで仕事や芸の幅が広がる。これもひとつの“生存戦略”と言えるかもですね(笑)」と茶目っ気たっぷりに語る。直系ではない“一番外側”の立場ながら、自らの襲名披露公演で千五郎家の役者全員が活躍する番組を組んだのも、 狂言の未来を見据えてのことかもしれない。そんな彼の目標は?
 「やりたいことは一貫して“笑い”。まるで雲を操るみたいに、右から左、後ろから前、次は全体……と、会場の空気をコントロールできる瞬間があります。あの共有感は、笑い独特のもの。思い描いたとおりに客席が沸くのが楽しい」。喜劇をパズルととらえ、笑いの方程式をチャート化し、台本を組み立てていく。モンティ・パイソンとラーメンズが自らの柱だと言い切る35歳の狂言師は、“ 笑い”で京都の舞台芸術の歴史を更新し続ける。

初出:機関誌Assembly第2号(2018年12月21日発行)

  • 茂山千之丞(本名:茂山童司) Sennojo Shigeyama

    狂言師。1983年生まれ。茂山あきらの長男で、父および祖父二世千之丞に師事。NOHO(能方)劇団『魔法使いの弟子』(1986年)で初舞台を踏んで以来、古典に留まらない領域横断的な活動を続けている。2018年12月に三世茂山千之丞を襲名。

  • 橋本裕介 Yusuke Hashimoto

    1976年福岡生まれ。京都大学在学中の1997年より演劇活動を開始、2003年橋本制作事務所を設立後、京都芸術センター事業「演劇計画」など、現代演劇、コンテンポラリーダンスの企画・制作を手がける。2010年よりKYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭を企画、2019年までプログラムディレクターを務める。2013年から2019年まで舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)理事長。2014年1月〜2022年8月までロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)事業課担当課長兼管理課担当課長。

  • 松本花音 Kanon Matsumoto

    横浜市出身、京都市拠点。広報・PRプロデューサー、アートプロデューサー。
    早稲田大学第二文学部卒業後、株式会社リクルートメディアコミュニケーションズにて広告制作や業務設計に従事。2011-13年国際舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」制作・広報チーフ、株式会社precogを経て2015-23年ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)所属。劇場の広報統括と事業企画担当として劇場・公共空間やメディアを活かす企画のプロデュース・運営統括を多数手がけた。主な企画に「プレイ!シアター in Summer」(2017-22年)、空間現代×三重野龍「ZOU」、岩瀬諒子「石ころの庭」、VOUとの共同企画「GOU/郷」、「Sound Around 003」(日野浩志郎、古舘健ほか)、WEBマガジン「Spin-Off」など。
    2024年よりブランディング支援、PRコンサルティング等を行う株式会社マガザン所属・SHUTL広報担当。舞台芸術制作者コレクティブ一般社団法人ベンチメンバー。
    Instagram @kanon_works

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