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#インタビュー#機関誌「ASSEMBLY」

Artist Pickup Vol.5

吉田簑紫郎

インタビュー:橋本裕介 文:松本花音
2021.5.29 UP

撮影=小川知子

シン・文楽のパイオニア

2008年にユネスコ無形文化遺産にも登録された「人形浄瑠璃文楽」は、太夫・三味線による 義太夫節に合わせ人形を操作する伝統芸能だ。義太夫節による登場人物の感情表現と、世界でも例を見ない人形一体を3人の人形遣い(主遣い、左遣い、足遣い)が操る技は、生身の人間を超えるかのような情感を生み出す。
 中学1年生で人形遣い・三世吉田簑助に入門し、いまや文楽界のホープとして多数の文楽賞を受賞している吉田簑紫郎という技芸員をご存知だろうか。小学3年生の時にテレビの文楽中継を見て“仕掛け”に興味を持ったのが文楽との出会い。1991年、15歳で簑紫郎を名乗っての初舞台から“、足10年、左10年”といわれる修業期間に足遣いを20年以上も遣った。今では連日舞台を踏みながら、自ら主役を務める自主企画も精力的におこない、“バックパッカー文楽”とも称されるアジア巡業では出演のみならず資金調達から人形・道具類の手配、航空券の手配まで一手に対応している。
 文楽の魅力を改めて尋ねてみた。「死ぬまで追究できるところですね。凝り性なうえに、やりたいことをやりきった時の達成感がやめられなくて」とはにかむ一方で、長い修行時代には迷いもあったという。
 「何でもやるの精神で、師匠達のいろんな芝居をこの目で見て、身体で覚えたことが自分の強み。おんなじことばかりってくさってたらあかん。楽しいことを自分で見つけて適応する。そして周りの評価を気にしない。修行は続きますが、いつ急に大きな役が来ても言い訳せずに、びっくりさせるくらいのものを準備しておいて、チャンスを窺う」。
 その野心は文楽の中にとどまらない。積極的に映画や現代アートも嗜み、コラボレーションの機会を探っているという。「文楽から脱線しすぎずに、文楽人形の可能性を拡げるような表現をつくってみたい。何やってんねんって言われるかもしれないけど…それが文楽を知るきっかけになれば」。小さい頃から見つめてきたからこその、明日の文楽を真剣に変えようとする強い眼差しに迷いはない。

初出:機関誌Assembly第4号(2019年10月27日発行)

  • 吉田簑紫郎 Mino Yoshida

    人形浄瑠璃文楽の人形遣い。1975年京都生まれ。1988年三世吉田簑助に入門し、1991年4月、簑紫郎と名乗り大阪国立文楽劇場で初舞台。2009年・10年「文楽協会賞」、12年「国立劇場文楽賞奨励賞」、17年「平成28年度咲くやこの花賞(演劇・舞踊部門)」および「国立劇場文楽賞文楽奨励賞」の各賞受賞。健康法は筋トレ。

  • 橋本裕介 Yusuke Hashimoto

    1976年福岡生まれ。京都大学在学中の1997年より演劇活動を開始、2003年橋本制作事務所を設立後、京都芸術センター事業「演劇計画」など、現代演劇、コンテンポラリーダンスの企画・制作を手がける。2010年よりKYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭を企画、2019年までプログラムディレクターを務める。2013年から2019年まで舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)理事長。2014年1月〜2022年8月までロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)事業課担当課長兼管理課担当課長。

  • 松本花音 Kanon Matsumoto

    横浜市出身、京都市拠点。広報・PRプロデューサー、アートプロデューサー。
    早稲田大学第二文学部卒業後、株式会社リクルートメディアコミュニケーションズにて広告制作や業務設計に従事。2011-13年国際舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」制作・広報チーフ、株式会社precogを経て2015-23年ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)所属。劇場の広報統括と事業企画担当として劇場・公共空間やメディアを活かす企画のプロデュース・運営統括を多数手がけた。主な企画に「プレイ!シアター in Summer」(2017-22年)、空間現代×三重野龍「ZOU」、岩瀬諒子「石ころの庭」、VOUとの共同企画「GOU/郷」、「Sound Around 003」(日野浩志郎、古舘健ほか)、WEBマガジン「Spin-Off」など。
    2024年よりブランディング支援、PRコンサルティング等を行う株式会社マガザン所属・SHUTL広報担当。舞台芸術制作者コレクティブ一般社団法人ベンチメンバー。
    Instagram @kanon_works

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