シン・文楽のパイオニア
2008年にユネスコ無形文化遺産にも登録された「人形浄瑠璃文楽」は、太夫・三味線による 義太夫節に合わせ人形を操作する伝統芸能だ。義太夫節による登場人物の感情表現と、世界でも例を見ない人形一体を3人の人形遣い(主遣い、左遣い、足遣い)が操る技は、生身の人間を超えるかのような情感を生み出す。
中学1年生で人形遣い・三世吉田簑助に入門し、いまや文楽界のホープとして多数の文楽賞を受賞している吉田簑紫郎という技芸員をご存知だろうか。小学3年生の時にテレビの文楽中継を見て“仕掛け”に興味を持ったのが文楽との出会い。1991年、15歳で簑紫郎を名乗っての初舞台から“、足10年、左10年”といわれる修業期間に足遣いを20年以上も遣った。今では連日舞台を踏みながら、自ら主役を務める自主企画も精力的におこない、“バックパッカー文楽”とも称されるアジア巡業では出演のみならず資金調達から人形・道具類の手配、航空券の手配まで一手に対応している。
文楽の魅力を改めて尋ねてみた。「死ぬまで追究できるところですね。凝り性なうえに、やりたいことをやりきった時の達成感がやめられなくて」とはにかむ一方で、長い修行時代には迷いもあったという。
「何でもやるの精神で、師匠達のいろんな芝居をこの目で見て、身体で覚えたことが自分の強み。おんなじことばかりってくさってたらあかん。楽しいことを自分で見つけて適応する。そして周りの評価を気にしない。修行は続きますが、いつ急に大きな役が来ても言い訳せずに、びっくりさせるくらいのものを準備しておいて、チャンスを窺う」。
その野心は文楽の中にとどまらない。積極的に映画や現代アートも嗜み、コラボレーションの機会を探っているという。「文楽から脱線しすぎずに、文楽人形の可能性を拡げるような表現をつくってみたい。何やってんねんって言われるかもしれないけど…それが文楽を知るきっかけになれば」。小さい頃から見つめてきたからこその、明日の文楽を真剣に変えようとする強い眼差しに迷いはない。
初出:機関誌Assembly第4号(2019年10月27日発行)