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#インタビュー#機関誌「ASSEMBLY」

Artist Pickup Vol.10

桂華紋

インタビュー:枡谷雄一郎・松本花音 文:枡谷雄一郎
2021.5.29 UP

コロナ禍で更新される噺家の視線

「落語に魅了されてこの世界に入ったので、自分も純粋に落語の面白さを伝えたい」。そう語る桂華紋に落語の魅力を伝えたのは、師匠である桂文華であった。弟子入りから10年、華紋はNHK新人落語大賞を受賞。師匠との縁を大切に精進し、ようやくひとつの節目をつくることができた。
 しかし、その凱旋公演ともいえる「桂華紋10周年&NHK新人落語大賞受賞記念独演会」がコロナ禍で中止となり、その他の公演もなくなってしまう。そんな中、落語会をネット配信しようと仲間に誘われた。「ナマの落語が一番良いが……」と当初は後ろ向きの思いもあったが、実際にやってみるとさまざまなことに気が付いた。配信の落語は、カメラやマイクを自分たちでセッティングする。つまり映像や音声のディレクションを落語家自身でおこなう必要がある。テレビ放送の場合、落語家はあくまでも演者である。「ディレクションができるのであれば」と、華紋はまずカメラに着目した。落語中、上(かみ)・下(しも)で目線を切り返すタイミングで、あえてカメラを見たのだ。配信の場合、カメラを見れば“視聴者全員と目が合う”。劇場やテレビ収録ではありえない発見だった。そして、そのままカメラ目線で話しかけられ、落語が進んでいくと視聴者は咄嗟に自分が登場人物にされてしまったと驚き、これがウケた。目線の効果的なカメラへの切り返し、これが武器になったのだ。華紋が落語の最中にカメラに目線を送ると、配信サイトのチャットが活気づき、「よっ、カメラ目線!」「目があったー!」などと書き込まれるようになる。笑いと歓声が混ざり盛り上がる。古典落語の盤石な構成と新しい試みの融合は相性がよい。この落語式カメラ目線以外にも、あえて顔を映さないことで発話の法則を崩したり、カメラの置き位置で見せ方に変化を加えたり、配信落語への工夫と追及は止まらない。
 「通常の落語会も経験し、小さい頃からPCやカメラが身近にあって、その勉強にも抵抗がない。そんな我々の世代にできることがある」という華紋はいま、最前線で新しい落語の面白さを伝えている。

初出:機関誌Assembly第6号(2021年3月25日発行)

  • 桂華紋 Kamon Katsura

    落語家。1987年、大阪生まれ。関西学院大学法学部を卒業後、2010年、桂文華に弟子入り。2019年、東西の若手落語家の登竜門であるNHK新人落語大賞において「ふぐ鍋」を披露し、大賞を受賞した。関西を中心に落語会に出演し、またインターネットラジオやネット配信の落語など、様々な分野で活躍中。

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