Column & Archivesコラム&アーカイヴ

#インタビュー#機関誌「ASSEMBLY」

Artist Pickup Vol.4

荒木優光

インタビュー・文:島貫泰介
2021.5.29 UP

荒木優光 サウンド/ドラマ『おじさんと海に行く話』| 京都芸術センター講堂(京都、2018年12月 )撮影=前谷開

音場という名のロードムービー

荒木優光は「音場(sound field)」をつくり出す作家だ。音場とは「電気信号を物理振動に変え、音楽や音声などの音を生み出す機械」すなわちスピーカーから発せられる音によって擬似的に再現された空間のことだが、荒木が再現しようとするのはコンサートホールやライブハウスではなく、もっと身近な空間だ。  「2014年に発表した『パブリックアドレス 音場2』は、全盲の知人の家にお邪魔して対話する作品ですけど、おしゃべりの間、家のなかや外に6本以上のマイクを設置して、その時間のなかで起こる音すべてを記録しようとしたものでした。上演ではそれを同時に流すことで、劇場空間にその部屋の音場を再現するわけです」
  こうしたドキュメンタリー的な試みを経て、近作『おじさんと海に行く話』(2018年)では、作家・松原俊太郎が書いた物語を音に置き換える試みに挑んだ。カーテンや角材で表現された簡素な部屋に人の背丈ほどのスピーカーが複数置かれ、それぞれに「おじさん」や「少女」の役割が割り振られている。そして荒木本人を含めた3人の黒子が、スピーカーや美術セットの位置を調整していくことで、登場人物の心情やシーンの変化を視覚・聴覚の両面で「翻訳」していく。
 「単純な時間や風景の再現だけでは面白くなくて、大事なのは観客に『いま聴いている音が何であるか』を意識させて、いかに面白く聴く場をつくれるか。ただの対話を、スピーカーの配置や向きを途中で変えて表現したり、スポットライトを当てまくったり。照明や美術などの視覚要素も利用して響きを変える。そうやって遊んでます(笑)。物語を精巧に音に置き換えればよいってわけじゃない。音楽的ではないもので、いかに音楽的な時間をつくるか。そこが勝負です」  映画ジャンルの一つにロードムービーというものがあるが、大きな出来事の起こらない旅は、しばしば物語よりも時間的・音楽的な経験として観客に受容される。流れる時間が喚起する、そこにはない音楽。荒木にとっての音場は、そのようなものかもしれない。

初出:機関誌Assembly第3号(2019年3月31日発行)

  • 荒木優光 Masamitsu Araki

    1981年山形生まれ。京都在住。京都造形芸術大学映像・舞台芸術学科卒。ドキュメンタリーやフィールドレコーディングの手法を用い、音を主体として身の回りにある事物と組み合わせた聴取空間を構築する。音楽グループ「NEW MANUKE」のメンバーでもある。

  • 島貫泰介 Taisuke Shimanuki

    美術ライター/編集者。1980年神奈川生まれ。現在は京都と別府を拠点に活動。『CINRA』『Tokyo Art Beat』『美術手帖』などで執筆・編集・企画を行う。2022年からは、DIYなアートイベント「湯の上フォーエバー!」を別府市内で主催している。

Turn your phone

スマートフォン・タブレットを
縦方向に戻してください