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#コラム・レポート#音楽#2018年度

タンブッコ・パーカッション・アンサンブル コンサート

【コラム】タンブッコのわくわく

音楽評論:青澤隆明
2018.5.20 UP

多彩で複雑な打楽器作品、実験的前衛音楽と、広く柔軟なレパートリーを持つ、メキシコのスーパー・パーカッション・アンサンブル「タンブッコ」。6月23日、24日に開催する「京都岡崎音楽祭2018 OKAZAKI LOOPS」の企画の一つとして、ロームシアター京都でコンサートを行います。音楽評論家の青澤隆明さんに、タンブッコの魅力について書いていただきました。

 

【コラム】タンブッコのわくわく

タンブッコの音楽は、いいにおいがする。とても自然で、懐かしく、耳にやさしく、しかも不思議なくらい楽しく、めくるめく変化を生み出す。打楽器の響きが空気になったり、水になったり、風になったり、木や葉を揺らしたり、土埃を舞わせたりしながら、生まれたての自由のような顔をして微笑んでいる。メキシコの4人はひとりひとり名手であり、アンサンブル全体でひとつでもある。しごく当然のことで、自然な世界はそのようにできていて、調和と緊張の間を行ったり来たりしながら、歌ったり舞い踊ったりしている。  タンブッコの奏でる曲の大半は新しく書かれた現代の音楽、それから少し昔の曲の彼らのためのアレンジ。けれど、「現代音楽」という言葉が誘う難解さは、技巧や構築は高度に知的であるにせよ、タンブッコの織りなす響きのなかでは、とても有機的に素材の自然さと溶け合っている。木と金属の音が、すべてを包み込むようにして、人智の工作を再び大きな自然の環のなかへと響き合わせるのだと言ってもいい。  そう、大地のにおい、である。昨年のツアー中に日本で録音された彼らの最新アルバムの名で、コエーリョの曲のタイトルからきている。メキシコの同時代やライヒ、ラヴェルのマリンバ版もいっしょに収められているが、タンブッコが叩けば、今世紀も20世紀も太古の時間もひと続きだ。  いろいろな音楽を聴いてきた大人たちはもちろんだが、今回ワークショップに参加もできる小学生にも、音楽なんてふだんは聴かないよという方々にも、彼らの音楽は直接的に訴えかけ、いつのまにかそうしたみんなを包み込んでいるだろう。これはちょっとすごいことだ。もともと音楽は歌と踊りからきているはずで、タンブッコの演奏はそのどちらにもあたりまえのように親しく通じている。  ところで、「タンブッコ」という心地よい響きの名前は、メキシコの大作曲家チャベスの作品名から採られた。地名だったり、出発点という意味もあったりするらしいが、どうであれ、わくわくの始まるところならそれでいい。25年の長きにわたる活動を通じて、タンブッコがいつも新しい驚きを運んでくることに変わりはないのだから。

©青柳聡

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