フランソワ・シェニョー&ニノ・レネ 不確かなロマンスーもう一人のオーランドー

フランソワ・シェニョー&ニノ・レネ『不確かなロマンスーもう一人のオーランドー』

フランスの俊英ダンサー・振付家のフランソワ・シェニョーが、アーティストのニノ・レネと共に2017年に初演し、アヴィニョン国際演劇祭をはじめ世界各地で称賛を浴びた話題作『不確かなロマンスーもう一人のオーランドー』が日本初上陸。シェニョーとアーティスト ニノ・レネが共同で構想した本作は、トランスジェンダーの青年貴族が主人公のヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』を想起させ、シェニョー自身が性を超越し、外見とアイデンティティを変容させながら見事なソロダンスと歌唱を繰り広げます。テオルボ、バンドネオン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、パーカッション、バロックギターの音色に乗せて、たった一人の身体が歴史/芸術/社会のごとく絶え間なく変化し続ける圧巻の舞台です。

ダンス・歌唱 : フランソワ・シェニョー
バンドネオン:ジャン=バティスト・アンリ
ヴィオラ・ダ・ガンバ:フランソワ・ジュベール=カイエ
テオルボ・バロックギター:ダニエル・ザピコ
パーカッション:ペレ・オリヴェ

コンセプト・音楽監督・演出 : ニノ・レネ
コンセプト・振付 : フランソワ・シェニョー
上演時間 : 70分

本公演の出演アーティストは、日本政府が定める「国際的な人の往来再開に向けた段階的措置」のガイドラインを遵守し、来日をいたします。
公演実施に際しては、政府・自治体、並びに公益社団法人全国公立文化施設協会による「劇場、音楽堂等における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」(令和2年9月18日更新)に基づき、新型コロナウイルス感染拡大予防のための取り組みを行っております。
ご来場前に各劇場の新型コロナウイルス関連情報をご確認いただきますよう、お願いいたします。

Profileプロフィール

  • ©Laurent Poleo Garnier

    フランソワ・シェニョーFrançois Chaignaud

    フランス・レンヌ生まれ。6歳からダンスをはじめ、2003年パリ国立高等音楽・舞踊学校卒業。その後、ボリス・シャルマッツ、エマニュエル・ユイン、アラン・ブファール、ジル・ ジョバンといった多くの振付家やダンサーとコラボレーションを展開。『不確かなロマンス-もう一人のオーランドー』(2017年)のような官能的かつ崇高な作品で、ダンスにおける肉体的な厳密さ、歌の何かを喚起する力、さらには、歴史的な言及の間に立ち上がる空間において、身体の可能性を追求してきた。2005年以来、セシリア・ベンゴレアと共にカンパニーVlovajob Pruを結成し、『TWERK』、『DUB LOVE』、などを世界各国で発表し、高い評価を得ている。また彼らは、リヨン・オペラ・バレエ、ロレーヌ国立バレエ団、ヴッパタール舞踊団など欧州の重要なダンスカンパニーに作品を提供している。

  • ©Magali Pomier

    ニノ・レネNino Laisné

    映像と写真を軸に、現代美術、映画、音楽などジャンルを横断して活動するアーティスト。歴史的および社会学的要素、芸術、伝統、キャバレーそしてオペラなどを通じて展開される彼のプロジェクトはポルトガル、ドイツ、スイス、エジプト、中国、そしてアルゼンチンで実施されており、近年は数々の映画祭やアートフェアに招かれている。2018年にはパリの美術館グラン・パレの委嘱でマスネのオペラ『ウェルテル』に着想を得た短編映像『Mourn, O Nature!』をシェニョーとのコラボレーションで発表。現在、マドリッドのアカデミー・ド・フランスのメンバーであり、カサ・デ・ヴェラスケスのレジデント・アーティスト。

  • ©Nino Laisné

    ジャン=バティスト・アンリ(バンドネオン)

    Jean-Baptiste Henry (Bandoneon)

    9歳でバンドネオンに出会い、ピノ・エンリケスやフアン・ホセ・モサリーニといった著名ミュージシャンのもとで経験を積む。2004年アルゼンチンへ移住し演奏活動を行う。タンゴ歌手・冴木杏奈の伴奏者として日本国内ツアー等にも参加。チェロ奏者ジュリアン・ブロンデルとFrench Tango Connectionを結成、作曲も行う。2002年よりジュンヌヴィリエの音楽院でバンドネオンとタンゴの指導にもあたっている。

  • ©Nino Laisné

    フランソワ・ジュベール=カイエ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)

    François Joubert-Caillet (Viola da Gamba)

    バーゼル・スコラ・カントルムにてパオロ・パンドルフォよりヴィオラ・ダ・ガンバを、バロックの大家ルドルフ・ルッツより即興演奏を学ぶ。ブルージュ国際古楽コンクール室内楽部門で最高位および観客賞を受賞。現在はナンシー音楽院にて教鞭を執る。ヴィーラント・クイケンと共演し、CDのリリースも多数。2014年よりマラン・マレのヴィオール曲集全楽曲の収録する一大プロジェクトに着手。

  • ©Julián J. Rus

    ダニエル・ザピコ(テオルボ・バロックギター)

    Daniel Zapico (Theorbo and Baroque Guitar)

    幼少期から古楽を学び、1999年からテオルボを専門とする。カタルーニャ高等音楽院を最高位で卒業。アンサンブルForma Antiqvaのオリジナルメンバーとして活躍し、高い評価を受ける。フィリップ・ピエルロ率いるリチェルカーレ・コンソートのメンバーとしてラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンに参加、また北とぴあ国際音楽祭などでも来日。スペイン・サラゴサの高等音楽院などで教鞭を執る。

  • ©Ellen Schmauss

    ペレ・オリヴェ(パーカッション)

    Pere Olivé (Historical and Traditional Percussion)

    カタルーニャ高等音楽院にてペドロ・エステヴァンに師事し、歴史的な打楽器とカタルーニャ伝統音楽についての学位を取得。クラシックから現代音楽、ジャズまで多様な音楽家に師事する。ル・ポエム・アルモニークのメンバーとして来日実績があるほか、ムシカ・テンプラーナ、コレギウム1704など世界的なアンサンブルともコラボレーションを行う。伝統音楽や古楽から現代音楽まで20のCDをリリース。

Column & Interviewコラム&インタビュー

  • 2020.11.17

    曖昧であることの自由

    副島綾(舞台芸術アドバイザー)

    曖昧であることの自由

    副島綾(舞台芸術アドバイザー)

     ここ数年はソロ活動を展開し、カウンター・テナーの歌唱方法もマスターしたフランソワ・シェニョー。歴史研究家でもある彼は作品ごとに文献を読み漁り、新たなテクニックを学び、消化し、観客が息を飲む世界を創り出す。そして彼は、ジェンダーを自由に行き来できる稀有なアーティストでもある。日常でもスカートを履いていたり、化粧をしていたりすることがあるが、声色を変えているわけでも人工的なしなを作るわけでもなく、自分のありのままの姿を彼は生きている。舞台に立つと変幻自在に踊り、目眩のするようなオーラを放って我々を釘付けにする。観客たちは「次の作品が踊り寄りであれ、音楽寄りであれ、シェニョーが出ていれば見逃すわけにはいかない」と熱狂する。かつてダンス界がみたことのない風雲児が誕生したのである。
     15年前だったか、フィリップ・ドゥクフレが「とんでもない新人が登場した!」と興奮して話してくれた。それがフランソワ・シェニョーだった。セシリア・ベンゴレアと作ったデビュー作『ひな菊』は、身体に異物を挿入し、体内の皮膚感覚がダンスに与える影響・歪みを取り上げた作品だった。以来二人は、身体、そして表現者としての精神状態をぎりぎりまで追い込む実験的な作品でダンス界の注目を浴びるようになったのだ。
     例えば、ダンサーにとって支えとなる床との接触をあえて取り除いた作品。この空中でのパフォーマンスでは、観客全員床に横たわって鑑賞するものだった。ヴォーギング、トゥワークといったストリート・カルチャーをコンテンポラリーの舞台に取り込んで、公共劇場がNYのアンダーグラウンド・クラブのような興奮に包まれたこともあった。かと思えば、文化的束縛から解放し、自然に回帰することを目的としたフリーダンスの後継者に弟子入りし、ポンピドゥー・センターの舞台上に羊を持ち込んで踊ったこともある。他に、ラテックスの袋に全身を包んで踊るものや、ジャマイカン・ダブの大音響のなか、バレエのトゥシューズでアンバランスな体勢を取る作品などを発表してきた。


    神秘的な魔力、特別な開放感
     特に今回の『不確かなロマンス』は、彼の名が広く世界に知られるきっかけとなった傑作である。ツアーを経るごとに噂が噂を呼び、アヴィニョン演劇祭・国立シャイヨー劇場ではソールドアウトとなったこの作品は、アーティストで音楽家のニノ・レネと4年の歳月を掛けてリサーチし、共同演出した作品だ。三場構成の舞踊音楽劇なのだが、登場するのは男装して戦場に出た少女戦士、ガルシア・ロルカの詩でも知られるサン・ミゲル(聖ミカエル)、そしてアンダルシアのジプシー、タララ。数世紀に渡って音楽・文学で扱われて来たこの三人物の共通点は、その性的両義性である。
     本作、副題に「もう一人のオーランドー」とある。ジェンダー研究でも参照されるヴァージニア・ウルフのオーランドーは、目覚めるたびに時代や性別が変わる。場面をつなぐ演奏でオーランドーの睡眠を象徴し、三場それぞれのキャラクターが実は一人の人物だと表わしているのだ。ロマンス(吟遊詩)を奏で歌うことによって、シェニョーは性別を変えながら数世紀に渡る旅に私たちを誘ってくれる。少女戦士では、男性に扮する女性を演じることにより、まるで合わせた鏡を覗き込むような深遠さと強度を体現した。また、彼はこの作品のためにフラメンコを習得したのだが、上半身の形とあえて異なる足遣いを用い、フラメンコでは決して目にしないピンヒールを履いていて、独創的な演出が光っている。我々は、その緊張関係の中でこそ生まれる美しさを目の当たりにする。常に不安定な体勢に自分を置くシェニョーのストイックな姿。彼を通してこれらの登場人物をみると、自分の目指すもののために性別を超えて来た人間の強い意志を感じてしまう。
     シェニョーは身体そのものが実験場であると捉えるが、その実験は危険も伴いながらも、自由と可能性にあふれている。そして客席にいる私たちは、決してショーの傍観者ではなく、彼の身体にシンクロしてその自由を体感するのだ。それがフランソワ・シェニョーの神秘的な魔力であり、その場にいるからこそ体験できる特別な開放感なのである。

    埼玉アーツシアター通信88号より転載

    • 副島綾(そえじま・あや)

      舞台芸術アドバイザー。2000年に渡仏。アヴィニョン演劇祭の事務局、国立シャイヨー劇場、フィリップ・ドゥクフレー・カンパニー、梶本音楽事務所パリ・オフィスで制作勤務。現在はフリーランスとして、主にパリ日本文化会館でプログラミングのアドバイス・広報、他劇場やフェスティバルとのタイアップ、国内外のディレクターへの情報提供など行っている。

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  • 2020.11.19

    黄金の闇

    麿赤兒(大駱駝艦主宰・舞踏家・俳優)

    黄金の闇

    麿赤兒(大駱駝艦主宰・舞踏家・俳優)

    フランソワ・シェニョ―、貴方は創造する破壊者として、
    常に鋭いエッジに立つことを運命づけられた貴公子だ!
    その危うい立ち姿に手を差し伸べようとすれば、その手を振り払い冷たい眼光が光る。
    貴方を刑場に追い立てる群衆をゆるりと見渡し、
    貴方は静かな微笑みを浮かべる。

    踏み出す裸足の足先には蹄鉄が嵌め込まれ、荒野の石を砕く駿馬の足に、
    そして天空に掲げた手は怪鳥の翼に変容する。
    汗で濡れた全身の生毛が陽光に反射して、黄金の縁取りが出来ると同時に、貴方の肉体は暗闇そのモノになる。
    暗闇である貴方が行う秘儀は群衆に不穏な謎を仕掛けているのだ。


    黄金の縁取りにのみ目を奪われてはいけない。
    その謎を解くための苦痛と快楽が、群衆の一人である私の恍惚なのである。

    • 麿赤兒(まろ・あかじ)

      大駱駝艦主宰・舞踏家・俳優。1943年生まれ。奈良県出身。1965年、唐十郎の劇団「状況劇場」に参画。唐の「特権的肉体論」を具現化する役者として、1960~70年代の演劇界に大きな変革の嵐を起こし、多大な影響を及ぼす。1966年、役者として活動しながら舞踏の創始者である土方巽に師事。
      1972年、大駱駝艦を旗揚げし、舞踏に大仕掛けを用いた圧倒的スペクタクル性の強い様式を導入。“天賦典式”(てんぷてんしき:この世に生まれ入ったことこそ大いなる才能とする)と名付けたその様式は、国内外で大きな話題となり、「Butoh」を世界に浸透させる。精力的に新作を発表し続けているほか、舞踏手育成にも力を注ぎ、多彩な舞踏グループ・舞踏手を輩出。また、映画・TV・舞台等においても独特の存在感を放ち、ジャンルを越境し先駆的な地位を確立している。2020年10月には、フランソワ・シェニョーとのコラボレーション『Gold Shower』を発表。
      2020年秋には、フランソワ・シェニョーとのコラボレーション『Gold Shower』をフランスにて発表。

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  • 2020.11.19

    フランソワ・シェニョー&ニノ・レネ:インタビュー

    アンドロジニーをめぐるダンスと音楽
    絢爛な時間の旅

    聞き手/岡見さえ(舞踊評論家・共立女子大学准教授)

    フランソワ・シェニョー&ニノ・レネ:インタビュー

    アンドロジニーをめぐるダンスと音楽
    絢爛な時間の旅

    聞き手/岡見さえ(舞踊評論家・共立女子大学准教授)

    ──作品は、どのようにして生まれたのですか?
    シェニョー:私のソロ『Dumy Moyi』を観に来たニノと知り合ったのが、はじまりです。以前からダンスと音楽の関係性を模索していた私と、美術とギターを学び、歴史や廃れゆく文化的実践に着想するアーティストのニノは、すぐに意気投合しました。
    レネ:そのころ私が進めていた、スペインの詩や音楽、郷土の祭礼で何世紀も伝えられた性的少数者のリサーチも、フランソワの関心と一致しました。ジェンダーを自分の願望に従って再創造した彼/彼女たちは、現代において示唆に富む存在であり、私とフランソワにはまるで別の時代を生きた兄弟姉妹のように感じられた。そしてまず二人で、曖昧なセクシュアリティで人々を魅惑してきたアンダルシアのジプシー、ラ・タララの複数の伝承に基づく短い作品を創作し、2014年にスペインのアラゴンで初演しました。その終演後には、二人でこの探求を続けるのは明白でした。

    ──シェニョーさんはラ・タララの他にも、男装の少女戦士やサン・ミゲル(聖ミカエル)の化身となって踊り、同時にスペイン語で歌います。声楽も学んだのですか?
    シェニョー:ダンスはパリのコンセルヴァトワール(国立高等音楽・舞踊学校)で学びましたが、オペラ歌手とコラボレーションした際、身体的で本能的、有機的な彼らの表現に嫉妬を感じました。以来、歌に強い関心を持ち続けていますが、習った経験はわずかです。私は歌いながら身体を動かしたり、声を変えたりするので、声楽の先生に注意されてしまう……。だからほぼ独学で、この作品では共演のミュージシャンに音の装飾技法やフレージングを教わりました。

    ── この作品では、レネさんが既存の楽曲をアレンジした音楽を、3人の古楽器奏者と1人のバンドネオン奏者が舞台の上、シェニョーさんの傍らで演奏します。
    レネ:音楽は、スペイン音楽の400年にわたる歴史を包み込もうと考えました。アレンジは時代に伴う変化を反映し、スペイン系ユダヤ人の音楽やフラメンコ、オペレッタ、バロック・サルスエラを想起させる音の装飾もあります。歌詞も異なる時代の詩の積み重ねなので、楽器も歴史上は出会わなかった音色を共生させたかったのです。
    バンドネオンは、パイプオルガンに似た響きと教会音楽との関係も面白いですね。西欧諸国の音楽、バロック音楽、民俗音楽、タンゴといった多様な専門を持つ、素晴らしい演奏者が揃いました。すごくフィジカルな演奏をする曲もあり、彼らの身体のテクスチュアがダンスの強度と結びついて見えるでしょう。

    ──宮廷舞踊からバレエ、竹馬を履いての民族舞踊、フラメンコまで多彩なダンスが引用されていますが、振付はどのように進めましたか?
    シェニョー:スペインのバロックダンス、フラメンコ、民俗舞踊のホタを短期間で集中的に学び、変容させ、混合しました。腕と上半身は古典舞踊、足はホタという具合で、さらに竹馬やハイヒールといった敢えてバランスを崩す要素も導入しました。ハイヒールで踊ることで、フラメンコは正統性の概念から切り離され、多様なリファレンス(引用)を含んだリアルなダンスになりました。音楽同様、ダンスも再創造された一種のフィクションなのです。

    ──振付と音楽の関係性は?
    シェニョー:振付は音楽の構造と深く結び付いています。振付は極めて音楽的ですが、逆に私のリズムが音楽に影響を与えることもある。ニノが言うように、ダンスと音楽の関係は平等かつ相互的です。
    レネ:音楽とダンスのヒエラルキーを破壊することも、私たちの目標でした。一方が他方に従属するのではなく、各アーティストがソリストであるコレクティヴを夢想したのです。この考え方は、動きが歌を生み、歌が動きを生むフランソワの探求にも通じますね。

    ──シェニョーさんの身体は男性らしさと女性らしさの表象を往来し、変容していきますが、ダンス史におけるジェンダーの問題をどう捉えていますか?
    シェニョー:保守的な人は、ジェンダーの問題は近頃の若者が騒いでいるだけだと言います。でも両性的なアイデンティティを持つ人は、遥か昔から存在していました。
    だから男装の少女戦士やサン・ミゲル、ラ・タララに、両性的なニノも私も親近感を抱くのです。私はこの作品で、“女装”や“演技”をしてはいません。高音と低音の両方で歌いますが、どちらもが私の声。男性的なもの女性的なもの、自分の中にあるすべてを使っているだけです。ジェンダーの問題は研究や臨床の分野で語られがちですが、それと異なる詩的な方法で提示することを私たちは試みました。そしてこの方法は、保守的な人々に対しても、非常に有効なのです。

    埼玉アーツシアター通信89号より転載

    • 岡見さえ(おかみさえ)

      舞踊評論家、共立女子大学文芸学部准教授。2003年より『ダンスマガジン』(新書館)、産経新聞、朝日新聞、読売新聞等に舞踊公演評を執筆。JaDaFo(日本ダンスフォーラム)メンバー、2017年より横浜ダンスコレクションコンペティションⅠ審査員を務める。

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  • 2020.12.9

    フランソワ・シェニョー&ニノ・レネ:インタビュー 続編

    アンドロジニーをめぐるダンスと音楽
    絢爛な時間の旅

    聞き手/岡見さえ(舞踊評論家・共立女子大学准教授)

    フランソワ・シェニョー&ニノ・レネ:インタビュー 続編

    アンドロジニーをめぐるダンスと音楽
    絢爛な時間の旅

    聞き手/岡見さえ(舞踊評論家・共立女子大学准教授)

    —— 前回はダンスと音楽の関係性、そして舞台上のパフォーマーと4人の演奏家の関係性についても話していただきました。舞台上のもう一つの要素、レネさんの担当した美術についても教えてください。スクリーンを立て、タペストリーの映像を投影していますね。
    レネ:使用したのはスペインのタペストリーですが、同じものは存在しません。時代の異なる複数のタペストリーを集め、パースペクティヴを操作して再構成し、異なる時代の表象を一つの画面に共存させたのです。タペストリーの中の動植物が、フランソワが踊る人物と関係することも試みました。たとえば少女戦士が川の流れにのみ込まれていく場面では、タペストリーの鹿たちも跳ね回る。ラ・タララの場面では、動物たちは息をひそめて暗闇から彼女を見つめるのです。

    ―― シェニョーさんは時代も個性も異なる3人のアンドロジニーな人物になり代わり、特殊な形状の竹馬、バレエのトゥシューズ、ハイヒールを履いて踊り、休む間もなく(時には同時に!)高音域から低音域までを操り歌います。なぜこれほどハードな選択をしたのですか?
    シェニョー:実際、極めてアスレティックな作品です! 非常な努力が要求されますが、ニノも私も、この努力を舞台に載せることに興味がありました。バレエや、おそらく日本の舞踊でも、踊りの努力が完全に消し去られ易々と行われている印象を観客は持つ。ダンスは精神性や優雅さの探求も行いますが、その物質的側面、肉体の鍛錬の側面も、私にはとても重要なのです。

    ―― 「普通は見せない努力を敢えて見せる」という話から、2018年のKYOTO EXPERIMENTであなたが上演した『DUB LOVE』を思い出しました。この作品でも、ダンサーは信じがたいほど長い時間、トゥシューズで立っていました。
    シェニョー:ええ、似ています。バレエのポワント技術は無重力の軽やかさの表象ですが、『DUB LOVE』ではこの技術が要求する物理的努力を見せました。精神性の表現に到達するには、物理的、肉体的な努力が必要なのです。

    ―― シェニョーさんは2014年にも『TWERK』で来日し、東京、京都、高知で公演しています。『DUV LOVE』も『TWERK』もセシリア・ベンゴレアとのプロジェクトですが、レネさんとのコラボレーションと違いがありますか?
    シェニョー:セシリアとは10数年間で多くの作品を作りましたが、自分の世界に対する理解や芸術的欲求は拡大を続けています。ニノとは、前からやりたかった音楽・歌・ダンスを同じ地平に置く作品の探求ができるのがすごく嬉しいです。また、セシリアとの仕事では全員がパフォーマーでしたが、ニノは舞台に立たないので演出や美学に細かく配慮できるようになりました。でも優劣があるわけではないし、自分にとって重要なのは、独りで全部決定するデミウルゴス的な芸術家神話から脱すること。作品はコラボレーションから生まれます。能動性も受動性も大切で、複数の人の無意識の反映や受容も作品の一部を成すのです。

    ――『不確かなロマンス』を観て、スペイン舞踊のモチーフや男性が女性を装うことから、舞踏、特に大野一雄の『ラ・アルヘンチーナ』を想起する人もいるかもしれません。9月末にシェニョーさんは、大駱駝艦を主宰する舞踏家、麿赤兒さんとのコラボレーションによる『Gold Shower』をパリで初演されていますね。
    シェニョー:麿さんとの仕事を通して、舞踏の第一世代からの流れ、スペイン舞踊への強い興味を知り得たのはとても幸運でした。実は9月末から、もう一つ、バレエ・リュスのニジンスカが振り付けたラヴェルの『ボレロ』に基づいた新作の準備に入っています。ニジンスカはこの楽曲を初めて振り付け、スペイン風のダンスにしましたが、彼女は同時代の人々と同じく、当時一世を風靡した舞踊手、ラ・アルヘンチーナに衝撃を受けていました。そしてこのラ・アルヘンチーナが、大野や舞踏第一世代に影響を与えた…。新作の『ボレロ』は、”エスパニョラード”(フランス芸術のスペイン風創作)の記憶を掘り起こし当時の有名ダンサーを取り上げますが、この重層的な記憶に大野一雄のラ・アルヘンチーナの再解釈も加えたいと考えています。ラ・アルヘンチーナという一人のダンサーが、大野一雄を、ニジンスカを、そして間接的に私も感動させた、というわけです。そして『不確かなロマンス』は、『ボレロ』や『カルメン』といった“エスパニョラード”の振付や音楽の系譜に繋がる作品でもあるので、意図せず、『ボレロ』の創作、『不確かなロマンス』の再演、麿さんとコラボレーションが同時期に重なり、繋がりが生まれました。自分の中ではさまざまな物語が交錯し、とても強い感慨に浸っています。

    • 岡見さえ(おかみさえ)

      舞踊評論家、共立女子大学文芸学部准教授。2003年より『ダンスマガジン』(新書館)、産経新聞、朝日新聞、読売新聞等に舞踊公演評を執筆。JaDaFo(日本ダンスフォーラム)メンバー、2017年より横浜ダンスコレクションコンペティションⅠ審査員を務める。

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  • 2020.12.18

    裸足の不自由と、ハイヒールの自由の果ての、変身叙情詩

    湯山玲子(著述家、プロデューサー)

    裸足の不自由と、ハイヒールの自由の果ての、変身叙情詩

    湯山玲子(著述家、プロデューサー)

     長いお家時間の中で、ハマったコンテンツのひとつに、『ル・ポールのドラアグレース』がある。
    男性の女装家たちの勝ち抜きレースショウの当初は「分かりやすい女らしさ」だったものが、途中から、もはや男女の性別を越え、しいては人間そのものを越えるような”美しい異形”の女装が場面場面に登場し始める。まるでアニメの少女のように隈取られた大きい目、ペガサスや昆虫などなど。それらはまるで、仮面や装束を使って自分を超越しようとした、いにしえの人々の有り様のようなのだ。クィーン達のクリエイティヴな情熱は、文化の枠組みとしてガチガチに決められてしまっている「人間の条件」に対しての異議申し立てにも思え、それをまた、多くの大衆が支持するのも今という時代なのだろう。また、その時代性は、バージニア・ウルフの小説に描かれた、世紀を超えた異なる環境に性別を超えて転生する主人公、オーランドをモチーフにした本作にも色濃く表れ、歴史の中で社会や文化の決め事からこぼれ落ちる人間の情感や本能が、古楽や民族楽器の響きとともにしみじみと心に迫ってくる。

     「性の超越をいかに表現していくのか?」という演出上のアイディアは、この作品においては「足と声」にそれらを集約させた。
    中国の纏足に明らかなように、女の行動の自由を奪う「履き物」は、現代でもハイヒールというファッションアイテムに残り、#ku too運動を生んだことは記憶に新しい。第1幕の少女戦士は裸足。ということは、自由である喜びを闊達に表していいようなものなのに、彼女は顔を帽子で隠し、苦悩を表すかのように身をよじる。それは使命感から男装したものの、自分の女性的アイデンティティーとの折り合いに戸惑う少女の心のようだ。しかし、一転して第2幕のスカート姿のサン・ミゲルは、先の尖った17世紀起源の竹馬に乗って、その異形ぶりと刺激的な旋回舞踊で周囲を魅了していく。「前掛けの下は、焼け付くような地獄。私は聖人だからやけどすることはない」と歌われるガルシア・ロルカの扇情的な詩句とともに、彼女(彼)は「竹馬に拘束された不自由な足」のメタファーである「女の文化的コード」を乗りこなすことで、自由にかつセンシュアルにふるまう。それはまるで「不自由や苦痛があった方が、人は生き生きする」という、私たちにも身に覚えがある社会通念を目撃しているがごとくなのだ。第三幕のジプシータララに至っては、竹馬は極限まで高さを出したハイヒールと化し、彼女(彼)は、その足でもって、フラメンコのサパテアードを踏む。メイクした顔、ハイヒールの足、しかし、その上半身は男らしい裸の胸板であり、その男と女の個別の”強さ”が、キメラのような融合した姿態は、日本でも歌舞伎の『道成寺』などに描かれる、情念の物狂いの果てに女から鬼に変化する異界のパワーそのものだ。

     ダンサーは男性のフランソワ・シェニョー。彼はなんと踊りながら、カウンターテナーからバリトンまでの声域を使い、バロックからピアソラまでの楽曲を、ジェンダーを攪乱する声域でもって歌い、そして踊る。歌い踊る表現者は、ポップスの分野では、マイケル・ジャクソンやレディ・ガガを始めとして珍しいことではないのに、それがクラシック音楽やダンス表現においては追求されてこなかったという意外な事実にも気づかされてしまう。「男でも女でもなく私たちは人間だ」という、人間という概念ありきの近代スローガンではなく、「男でも女でも、ましてや人間でもない私たち」という、神話や中世の自己認識や感覚にシンクロさせてくれる、刺激的な作品だ。

    • 湯山玲子(著述家、プロデューサー)

      著作に『女ひとり寿司』 ( 幻冬舍文庫 ) 、『クラブカルチャー ! 』( 毎日新聞出版局 ) 『女装する女』 ( 新潮新書) 、『四十路越え ! 』( 角川文庫 ) 、上野千鶴子との対談集「快楽上等 ! 」 ( 幻冬舎) 。『男をこじらせる前に』(角川書店)等。テレビコメンテーターとして、NHK「ごごナマ」等のレギュラー、TBS「新情報7days ニュースキャスター」等に出演。クラシック音楽の新しい聴き方を提案する、「爆クラ」主宰。DJジェフ・ミルズ×東京フィルハーモニー交響楽団の公演、名古屋愛岐トンネル群を使ったコンサート等をプロデュース。ショップチャンネルのファッションブランドOJOU(オジョウ)のデザイナーとしても活動中。

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Schedule & Tickets & Access日程&チケット&アクセス

埼玉公演

日時:2020年12月19日(土)19:00開演
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
■当日券あり。当日券販売については彩の国さいたま芸術劇場HPをご確認ください。

全席指定
一般:S席 5,000円 / A席 4,000円
メンバーズ:S席 4,500円 / A席 3,600円
U-25*:S席 3,000円 / A席 2,000円

*U-25は公演時、25歳以下の方が対象です。入場時に身分証明をご提示ください。
※A席(サイドバルコニー・2階席の一部)は舞台の一部が見えない場合がございます。予めご了承ください。
※税込
※未就学児入場不可、演出の都合により、開場時間に遅れますとお席のご案内ができない場合がございます。予めご了承ください。

[チケット取扱い]

SAFチケットセンター
https://www.ticket.ne.jp/saf/(24時間購入可)
Tel. 0570-064-939(休館日を除く10:00-19:00)

彩の国さいたま芸術劇場(窓口・電話)
Tel. 0570-064-939(休館日を除く10:00-19:00)

埼玉会館
(窓口のみ/休館日を除く10:00-19:00)

チケットぴあ
Tel. 0570-02-9999[Pコード:503-880]
http://t.pia.jp

イープラス
http://eplus.jp

[お問い合せ]
SAFチケットセンター Tel. 0570-064-939(休館日を除く10:00-19:00)
https://www.saf.or.jp/
彩の国さいたま芸術劇場へのアクセスはこちら

■ご来場前に、彩の国さいたま芸術劇場公式ウェブサイトにて「新型コロナウイルス感染症対策とご来場の皆さまへのお願い」を必ずご確認ください。

WORKSHOP

12月18日(金)19:00~20:30

フランソワ・シェニョーによるワークショップを行います。

京都公演

日時:2020年12月21日(月)19:00開演 / 18:15開場
会場:ロームシアター京都 サウスホール
■当日券あり。当日券販売についてはロームシアター京都WEBをご確認ください。

【完売】全席指定(税込):
一般:4,000円、ユース(25歳以下):2,500円、18歳以下:1,000円

前売券完売につき、2階見切れ席の販売をいたします。
一部、演出が見えづらいお席につき、見切れ席料金での販売となります。

【販売中】2階見切れ席 全席指定(税込):
一般3,000円 、ユース(25歳以下)2,000円 、18歳以下1,000円

※見切れ席は劇場の構造上、舞台が見えづらい可能性のあるお席になります。場面により、非常にご覧になりにくい場合もございますので、予めご了承いただいた上でお買い求めくださいますようお願いいたします。
※18歳以下チケットは前売り券と同料金となります。
※ユース(25歳以下)、18歳以下は公演時、該当年齢以下の方が対象です。入場時に身分証明をご提示ください。
※未就学児入場不可。
※演出の都合により、開場時間に遅れますと自席へのご案内ができない場合がございます。予めご了承ください。

[チケット取扱い]

ロームシアター京都 オンラインチケット
24時間購入可、要事前登録(無料)

ロームシアター京都 チケットカウンター
Tel. 075-746-3201(窓口・電話とも10:00‒19:00 / 年中無休 ※臨時休館日を除く)
※新型コロナウイルス感染症拡大防止のため短縮営業する場合あり

京都コンサートホール チケットカウンター
Tel. 075-711-3231(窓口・電話とも10:00‒17:00 / 第1・3月曜日 休館 ※休日の場合は翌日)

チケットぴあ(完売・2階席取り扱いなし)
Tel. 0570-02-9999[Pコード:503-821]
http://t.pia.jp

[託児サービス]
託児サービス(要事前予約)託児サービスがご利用いただけます。詳細はロームシアター京都までお問い合わせください。

[お問い合せ]
ロームシアター京都チケットカウンター Tel. 075-746-3201
https://rohmtheatrekyoto.jp/
ロームシアター京都へのアクセスはこちら

■ご来場前に、ロームシアター京都ウェブサイトにて「ロームシアター京都主催事業公演実施時のご来場に際して」(新型コロナウイルス感染予防の対策について)を必ずご確認ください

WORK SHOP&LECTURE

12月17日(木)19:00~21:00

フランソワ・シェニョーによるワークショップ&レクチャーを行います。

北九州公演

日時:2020年12月23日(水)19:00開演
会場:北九州芸術劇場 中劇場
■当日券あり。当日券販売については北九州芸術劇場WEBをご確認ください。

全席指定
一般:4,500円
ユース:2,500円(24歳以下・要身分証提示)
ペアチケット:7,000円(劇場にて前売のみ取扱)
高校生〔的〕チケット:1,500円(枚数限定・劇場窓口にて前売のみ取扱・要学生証提示)

※税込
※未就学児入場不可
※演出の都合により、開演時間に遅れますとお席のご案内ができない場合がございます。予めご了承ください。

[チケット取扱い]

北九州芸術劇場
オンラインチケット https://www.e-get.jp/kimfes/pt/
窓口 http://q-geki.jp/tickets/
電話 Tel.093-562-8435(10:00~18:00/土日祝除く)

チケットぴあ
Tel. 0570-02-9999[Pコード:502-135]
https://t.pia.jp/

ローソンチケット
https://l-tike.com/[Lコード:89530]

[託児サービス]
託児サービス実施あり:公演初日7日前までに要予約。詳細はこちらをご確認ください。

[お問い合せ]
北九州芸術劇場 Tel. 093-562-2655(10:00~18:00)
http://q-geki.jp/
北九州芸術劇場へのアクセスはこちら

■ご来場前に、北九州芸術劇場公式ウェブサイトにて「新型コロナウイルス感染拡大予防に関するご案内」を必ずご確認ください。

WORKSHOP

12月22日(火)19:00~20:30

フランソワ・シェニョーによるワークショップを行います。

[ 埼玉公演 ] 主催・企画・制作:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(彩の国さいたま芸術劇場)
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、スペイン大使館 Embajada de España、インスティトゥト・セルバンテス東京
助成:(一社)全国モーターボート競走施行者協議会、(一財)地域創造、アンスティチュ・フランセパリ本部
文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会

[ 京都公演 ]
主催:ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)、京都市
助成:(一社)全国モーターボート競走施行者協議会、(一財)地域創造、アンスティチュ・フランセパリ本部
文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)| 独立行政法人日本芸術文化振興会
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、スペイン大使館 Embajada de España、インスティトゥト・セルバンテス東京

[ 北九州公演 ]
主催:(公財)北九州市芸術文化振興財団
共催:北九州市
後援:北九州市教育委員会、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、スペイン大使館 Embajada de España、インスティトゥト・セルバンテス東京
助成:(一社)全国モーターボート競走施行者協議会、(一財)地域創造、アンスティチュ・フランセパリ本部

画像:上から 1, 2, 4 ©Jose Caldeira 3,5,6 ©Nino Laisné

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